HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード35

「見事だ兵藤一誠」

 

「えへへ、そうかな」

 

「まさか、海を凍らせて進む方法なんて常識に捉えている者じゃ絶対に考えられない移動手段よ」

 

アルトルージュの言葉通り、海水を凍らせて人が通れるほどの穴を開け続け外に出ようと

言う一誠の考えに最初は誰もそんなことできるものか?と疑問を抱いたほどだ。

しかし、一誠はそれをやってのけている。透明度が高い氷のトンネルを魔力で

具現化しつつ海上へ出ようとしていく。海母と別れを告げ外へ出る一行についていく

ルクシャナから質問の言葉が投げられた。

 

「ねぇ、あなたたちはこれからどうするの?」

 

「家に帰るんだよ。アルトルージュたちは?」

 

太陽の日から守るため全身をすっぽり覆う白いローブを身に包むアルトルージュ、

リィゾ、フィナに問うた。

 

「帰るべき場所も家も無くなったからね。迷惑じゃなかったら一誠について行くわよ」

 

「ヴァレリーも?」

 

「私も世界を見てみたいの。だから一緒に行かせて?」

 

ヴァレリーも一誠について行くと願う。一誠は断る理由もない為、了承した。

そして、氷のトンネルはついに海上へと到達して海面を氷の大地に変えて一誠たちが現れた。

 

「出れたー!」

 

「本当に海が広がっているのね」

 

「後ろに水面から出ている岩が見えますね」

 

一誠たちを囲む大海原。ここから空で移動しようと一誠は金色のドラゴンに姿を変えた。

 

「わ、ドラゴンになった!」

 

『僕はドラゴンだからねー。ほら、乗って。キミの家に送るからさ』

 

「あら、そのまま私も蛮人の世界に連れて行って欲しいわ」

 

『ダーメ』

 

「ケチ」

 

ケチなの?と疑問を抱くものの、次々と空を飛べないルーラたちを背に乗せて青い空へと翼を羽ばたく。

 

 

 

 

一人の耳の長い若い男性は溜息を吐いていた。脳裏に浮かぶ少女がまたどこかへ

行って姿を暗ましていた。何度もお願いされ持って来てやった本と杖と共に無くなっているから

どこかで視線を感じない場所、誰にも見られない場所に行っているのだろう。

それに何度もいなくなることがあるからその内にまた戻ってくるだろうと慣れた

感じで思っていた矢先、

 

「おじさまー!」

 

ほら、聞き慣れた声が自分を呼んでいる。声がする方へ振り向くと・・・・・。

 

「・・・・・なに?」

 

金色のドラゴンが自分の目の前に舞い降りた。その背から顔を出す少女こそが

男性の頭の中で浮かんでいた少女であった。しかも、他にも誰かが一緒に乗っている。

敵ではないのだろうが男性は聞きださなければならない。同族が目を丸くして

唖然としている最中に自ら降りて来たドラゴンから降りた少女に開口一番。

 

「ルクシャナ、この者たちは誰だ」

 

「おじさま、蛮人の世界に行っていいかしら!」

 

話が噛み合わない。おじさまと呼ばれた男性はドラゴンの方へ視線を変える。

ドラゴンから降りてこない面々は警戒をしているのか分からないが

今はそうしている方が正しい選択かもしれない。最悪の想定に備えているだろう。

 

「私の質問に応えてくれたらキミの質問に答えよう。彼らは誰なんだ?」

 

「蛮人がやっている使い魔を召喚する召喚魔法をやったら蛮人たちがやってきたの」

 

「成功したと言うのか?」

 

「召喚したんだけど、あの人たち家に帰るって言うから私も蛮人の世界に行ってみたいわ。

ね、いいでしょ?」

 

ルクシャナが頼みこむ理由はそう言うことかと納得し、

男性はドラゴンに近づくとドラゴンがいきなりお辞儀をした。

 

『こんにちは』

 

「・・・・・喋れるのか。韻竜なのだな」

 

『いんりゅう?なにそれ?』

 

「お前みたいな喋るドラゴンのことだ」

 

『へー、そうなんだ』

 

子供か?確かに大きさは自分より高いが純粋な眼差しが向けられる。

男性は背に乗っている者たちに告げた。

 

「ドラゴンの背に乗っている者たち。悪いが早々にここから立ち去ってはくれないだろうか」

 

「えー!?」

 

背後から不満の声が聞こえてきたが尻目すらせず、真っ直ぐ前へ向けて述べる。

 

「私の姪を送り届けてくれたことに関しては感謝をするが、

この国はキミたちのような余所者を歓迎できないのだ。申し訳ない」

 

「別に気にしていないわ。どこの国でもそうでしょうし」

 

白いフードを被っている少女が気にしていない風に赤い双眸を男性に向ける。

ただの蛮人ではないなと思うが敵意を感じさせないからには

こちらも刺激を与える言動をしない。

 

「すまないな」

 

「いいわよ。私たちも彼女に助けられたからね。それじゃ行きましょうか」

 

『分かった。それじゃね』

 

「ちょっ!待て私も連れて行きなさーい!」

 

どこかへ行こうとするドラゴンの首に飛び出してしがみついた。

 

『え、ちょっ、離れてよっ』

 

「一日ぐらいでいいから私も蛮人の世界に生きたいわよっ」

 

『ダメだって!離れてよー!』

 

「いーやーよー!」

 

首にしがみ付くルクシャナをどうにかしてと男性に視線で訴える。

男性もこれ以上迷惑と騒ぎを起こしたくないが為、ルクシャナを首から剥がそうとする。

 

「何の騒ぎだ!」

 

ところが、わらわらと大勢の耳が長いヒトたちが騒ぎを嗅ぎつけてきた。

ドラゴンとドラゴンの背に乗っている者たちを見て同族ではないことが悟ると。

 

「侵入者か!捕まえろ!」

 

『え”』

 

何故か勘違いされてしまった。どうすればいいのかわからないまま、

床から手が伸び、四肢を掴まれた。その手が増えドラゴンの背中に乗っている者たちの

身体にまで絡め取る。

 

『う、動けないぃっ!』

 

「韻竜だと?」

 

ドラゴンが喋る=韻竜という認識なのだろう。叔父さまと呼ばれている男性がその男に弁解した。

 

「そうだ。彼女たちは私の姪を送り届けただけだ。決して敵ではない。

これから直ぐにでもここから立ち去ってくれるところだったのだ。だからあの拘束を解いてくれ」

 

「しかしですなビダーシャル殿。一度捉えた者たちを直ぐに解放などでは我々を舐められまする。

しかも相手は蛮人。この首都にどんな理由があっても一度この地を踏み入れたからには

それなりの―――」

 

話が平行線で続く様子をドラゴンの背に乗っている者たちは強硬手段を取った。

 

「一誠」

 

『ん?』

 

「逃げる準備だけはしていてね」

 

赤い双眸の少女がそう言った瞬間、自身の身体を蝙蝠に変えて拘束から逃れた敵に襲いかかる。

 

「な、なんだ!?」

 

「侵入者が暴れ出したぞぉー!」

 

たちまち騒ぎとなり、混乱が起きる。その混乱に乗じて他の者たちも拘束を強引に解き、

 

「眠って貰う」

 

次々と敵の意識を狩る。ドラゴンの身体に拘束する手も巨大な白い獣が

噛み千切りドラゴンを自由にしたところで。

 

「美少年飛び降りろ!」

 

『え?いいの?』

 

「早く!」

 

急かされたドラゴンは翼を羽ばたかせて空を飛んだ。

その際、敵と戦っていた者たちも飛び乗って無事に脱出した。

 

「・・・・・しまった。ルクシャナがしがみついていたままだった」

 

ビダーシャルは失念したとばかり、引き取る為に後を追いかける準備をする。

 

 

 

『結局、キミまで連れて逃げちゃったね』

 

「お前のせいで私たちは面倒な目に巻き込まれたがな」

 

「反省はしているけど後悔はしていないわ」

 

「血を吸い尽くして良いかしら・・・・・っ」

 

青い空の下で飛行する金色のドラゴン。国から追われる身となってしまった以上、

もう長居はできなくなった。目的であるあの場所へ帰ることを専念するが

招かざる客まで連れていく羽目になってしまった。

 

『下はどう見ても砂漠だけど、ここってどこなんだろうね。地図があったらいいんだけど』

 

「それ以前にこのエルフをどうする?あの国に置いていくにしても厳重な警戒が敷かれているはずだ」

 

「だから、私も蛮人の世界に連れて行ってってば」

 

「そこまで生きたいなら一人で行けばいいじゃない」

 

呆れるフードをから覗ける赤い双眸の少女の話にこう返したルクシャナ。

 

「私だってできたらそうしたいわよ。だけど勝手に蛮人の世界には行けれないし今しかない、

これしかないって思ったら私は行動をするのよね」

 

「後で自分はどうなってしまうのか考えないのですか?」

 

「そんなこと一度も考えないわよ。私、思い込んだら一直線で後のことなんて考えない方だから」

 

「前向きと言うよりは」

 

「何も考えない危なっかしいエルフだということか」

 

「何よー失礼しちゃうわねー」と頬を膨らますルクシャナ。

 

『ところで、ルクシャナが言う蛮人の世界がある場所ってこっちでいの?』

 

金色のドラゴンからの質問に「間違いない」とルクシャナは言い切った。

 

「叔父さまが言うことが正しければこの方角で進めばガリアって国につくはずよ。

その国だったらあなたたちが求めている物だって手に入るはず」

 

「そうか。未開の地に迷い込んだ私たちにとってありがたい情報だ。知っていることが

あれば教えて欲しい、兵藤一誠の家族のもとへ連れて帰るのが私の役目だからな」

 

『無事に帰れたらルーラから色々と教えて貰わなくちゃね』

 

「いっぱい教えてあげますよ一誠くん」

 

金色の鱗に手をつけながらそう言う彼女の目にある物が映り込んだ。

 

「ルクシャナさん。あの目の前に浮いている船はなんですか?」

 

ルーラの言葉を聞いた途端、焦心に駆られた様子で上半身だけ乗り出しては叫んだ。

 

「―――やばい、あれは哨戒艦よ!」

 

「もしかしなくても、私たちの敵ですか?」

 

「味方だったらとても心強いわね」

 

『じゃ、逃げるね』

 

グンと目の前の敵戦艦より上昇してそのまま飛行する。

そしてあっという間にすれ違って問題なく哨戒艦を通り越した。

 

「意外と呆気ないわね・・・・・と思ったらなんか船からドラゴンが出てきたわよ?」

 

『攻撃してきたらこっちも攻撃するだけだよ』

 

ガリアの国へと目指す一誠。背後から迫るドラゴンとドラゴンに乗っている

ルクシャナと同じ同族を無視して飛んでいると空気の渦が一誠の横を過ぎ去った。

 

『あぶなっ!』

 

「攻撃をするとしようか?」

 

クロウ・クルワッハは戦意を醸し出すが一誠は首を横に振った。

 

『僕たちの代わりに戦って貰うよ。だから―――お願いね』

 

意味深な一誠の言葉に呼応して三つの巨大な魔方陣が出現したと思えば、

その魔方陣から三匹のドラゴンが姿を現す。

 

『分かった。主は先に行ってくれ』

 

『直ぐに倒して追いつく』

 

『何の心配もしないで飛んでいろ』

 

三匹は踵返して迫りくる数多の敵に向かって―――蹂躙を始めた。

 

「あ、アレが一誠くんの中にいるドラゴン・・・・・」

 

「ネメシスとアジ・ダハーカ、久し振りに見たな」

 

「私たち、味方で良かったと思ったわ」

 

背後から悲鳴と轟音が聞こえてくるものの一誠は家族の言葉を真摯に受け真っ直ぐ飛んで行くのだった。

 

―――○●○―――

 

時間を掛け、一行は砂漠を越えたところで人が住んでいると思しき場所が見えてきた。

人目がある場所では降りることができない為、

人気のない場所で降りて堂々とガリアの王都リュティスに不法入国した。

 

「ここがガリアって国なんだねー」

 

「兵藤誠と兵藤一香がいたハルケギニアという全体の国の一部らしいが」

 

「その分厚い本にこの国のことが記されているの?」

 

「ああ、大まかなことだけ書かれているが・・・・・主にトリステインで過ごした

ことが多く書かれている」

 

分厚い本を開き何か手掛かりを探すクロウ・クルワッハの口からある場所を捉えて発せられた。

 

「それにあの巨大な白い塔のことも書かれている」

 

「あの塔ねぇ・・・・・」

 

無機質な白い塔は百メートル以上があった。

それがなんなのか、質問されたクロウ・クルワッハは答えた。

 

「どうやらあの塔は他の国にも存在するらしいな。ここガリアの他、トリステイン、

ゲルマニア、アルビオン、ロマリア連合皇国にも存在する。トリステインの塔は既に

兵藤誠と兵藤一香が四人の仲間と共に攻略済みで、塔の中に入ると攻略するまで二度と

外界には出られない。さらに塔の中は摩訶不思議な、ゲームで言えばステージが

攻略してくる者を待ち構えて牙を剥く。とそんな風に書かれている」

 

「他の国の塔に入らなかったのは?」

 

「その国の王が塔の攻略を許可しない限り入れないことも書かれているぞ。この日記は数十年前に記されたものだからまだ誰一人も攻略していないのだろう」

 

「一誠くんのご両親って・・・・・一体ここで何をしていたんでしょうか」

 

「・・・・・一言でいえば私みたいなことをしていたのだろうな」

 

クロウ・クルワッハが意味深なことを言いだす。

 

「と言うと?」

 

「色んな世界に赴きそこで見聞しつつ修行・・・・・そんなところだろう」

 

「クロウ・クルワッハは修行して強くなってそれからどうしたかったの?どうしたいの?」

 

一誠からの質問を青い空を見え上げて「そうだな」と漏らした。

 

「人間に退治されるドラゴンが行き着く先、それが滅びなのかそれとも共存、

はたまた違う道がるのかもしれないと思いながらただひたすらに強くなりたい

かもしれないな愚直なまでに。私は戦いと死を司る暗黒龍が故に

私は強くなって戦いを楽しみたい―――今はそんなところだろう」

 

「そうなんだ」

 

短い歩幅で前に歩く一誠が相槌する。クロウ・クルワッハの理由を聞いてドラゴンは

不思議だなと思ったが、

 

「兵藤一誠は強くなって何がしたい、どうしたい?」

 

同じ質問をされ、一誠は答えた。

 

「僕をイジメた皆に見返す。今はただそれだけだよ」

 

「ほう、ドラゴンにか?」

 

「違う、相手は人間だよ。僕、ドラゴンになる前は人間だったんだから」

 

『え?』

 

一誠のことをあまり知らない面々にとって初めて聞いた新事実。

 

「一誠くん、人間だったってどういうことです?」

 

「グレートレッドの身体とオーフィスの力で甦ったって言ってなかった?

僕、一度死んじゃっているんだよ」

 

「転生、したわけじゃないのね?」

 

転生という言葉を知らない一誠は怪訝に首を傾げる。

 

「転生?ううん、僕は兄ちゃんに包丁を刺されて死んじゃったんだよ」

 

『っ・・・・・』

 

「公園で倒れていたらオーフィスが来てグレートレッドと一緒に僕を助けたって聞いたよ」

 

一誠に兄がいることすら初めて聞き、しかもその兄に殺された。そんな過去があるとは

誰一人知らなかった事実。顔を曇らせ悲しい面持ちでヴァレリーは一誠に尋ねた。

 

「・・・・・一誠、お兄さんのこと、今どう思っている?」

 

「あの時は弱いってだけで僕を認めてくれなかったから正直寂しかったかな。

今は・・・・・わかんない」

 

「そう・・・・・」

 

「でも、僕は他にも家族や友達がいるからもう弟と認めてくれなくても良いけどね」

 

心の底からそう言っているのだと純粋な目が一緒に歩く面々に向けられる。

その後、人から情報を得て地図をある店からクロウ・クルワッハが竜の巣から

持ってきた金銀財宝で購入した。

 

「クロウ・クルワッハがお金を持っていたなんて驚いちゃった」

 

「これはお前の家族が溜めこんでいた金だがな」

 

「え、どこにあったの?」

 

「竜の巣にあった。別の洞窟でお前の家族の日記と同じ場所で見つけた。他にも様々な

人間の武器もあったが」

 

「嘘!?そんな場所があるなら教えて欲しかったわ!」

 

ルクシャナが頬を膨らませクロウ・クルワッハに「何で教えてくれなかったのよ」視線で訴えたが、

一蹴された。

 

「聞かれなかったからな。さて、そろそろ本題に入るとしようか」

 

どこかの建物の壁に魔力で購入した地図を広げ、ガリア王国の場所に指を差した。

 

「ここが今私たちがいる国だ」

 

「って、私たちがいるこの国とルーマニア、地図だけで見れば逆方向にあるじゃない」

 

「しかもハルケギニアってフランスの国に存在しているんだねー」

 

「それに私と一誠くんがいたイタリアと目と鼻の先です」

 

「なんだ、意外と早く美少年と少女が帰れるじゃないか」

 

「もっと遠い場所かと思ったがな」

 

帰る方角も分かった。なら今すぐにでも戻れば一誠とルーラは施設に帰ることができる。

が、そう問屋は卸さないのが現実なのだ。

 

「や、やっぱりだ・・・・・っ」

 

一誠たちに向けられる震えた声。

 

「た、大変だ!エルフがいるぞぉー!」

 

一人のガリア王国の民が周りに警告を発した。その言葉が呼応し、波紋が周囲に広がった。

 

「あ、しまった」

 

「ルクシャナ?」

 

額に手で当てて「あちゃー」と失念した様子を窺わせるルクシャナ。

 

「言い忘れていたことがあったわ。私たちエルフは蛮人と凄く仲が悪い上に蛮人が

エルフを凄く怖がっているのよね」

 

「・・・・・というと」

 

「うん、この国にこれ以上いるとかえって面倒なことになるわ。実際にホラ」

 

ルクシャナが指した方向へ顔を向けた面々の視界には、顔を強張らせ青ざめ、

恐怖で身体を震わし怯えている人たちがいた。

 

「ねっ」

 

「やれやれ、落ち着く暇もないと言うことか」

 

「あなたたちは強いでしょうから問題ないんじゃない?」

 

「それはそうだが、こうも注目を浴びるとお前の言う通り面倒なことになる」

 

実際に王都の警備隊らしき数名の人が一誠たちに駆け寄ってきている。

 

「さて、どうしたものか兵藤一誠」

 

「え、僕?」

 

「お前は私たちの中心みたいなものだ。だからお前が決めてみろ」

 

急にそう言われてもどうしようかと悩む。だが、とある龍の名前と同じ国に

行ってみたいと言う気持ちが湧きあがった。

 

「アルビオンって言う国に行ってから帰りたいな」

 

「え、一誠くん?」

 

「ごめん、ルーラ。もうちょっとだけ付き合ってくれない?」

 

一誠にそう言われてルーラはしばし無言になるが・・・・・息を一つ零した。

 

「しょうがないですね。いいですよ、私は一誠くんと一緒について行きます」

 

「ありがとう。それじゃ、行こうか」

 

アルトルージュたちも特に反対をしなかった。クロウ・クルワッハの言う通り、

一誠は自分たちの中心みたいな存在。ならば、ただついていくのみ。

龍化した一誠の背に跨り、また青い空へと飛びだった。

 

 

 

「なに、エルフがいたと?」

 

ガリア王国の宮殿ヴェルサルテイルにいる王への報告を兵士がしていた。

ハルケギニアにとってエルフは畏怖の念を本能的にも感じる存在。ハルケギニアの歴史の紐を解けば

エルフとハルケギニアの人間たちは約六千年も間、二つの種族は戦争をしていた。

その理由は何時か語られるであろう。

 

「はっ!ですがもうご安心を、エルフは尻尾巻いて逃げだしましたので」

 

「ならば報告は良い、下がれ。こちらは客人と大事な話をしているのだからな」

 

エルフが自国にいたという大事件なことより、客人との会話が重要であると述べた

青い髪と瞳の二十代後半の男性が兵を下がらせた。

 

「―――申し訳ない。久方ぶりに会えた貴殿らの会話に水を差してしまったね」

 

もう一人の青い髪と瞳の同じ年頃の男性が軽く謝罪を目の前にいる一組の男女に述べた。

 

「いいって、俺たちは気にしていない」

 

「そうか。それで、件の話の続きだが・・・・・本当にそんなことが現実になるのか?」

 

「この件の計画は既に実行されているの」

 

「もしも完成したら世界から注目されることは間違い無しだな」

 

と、楽しみだと口許を笑ます男性と女性。

 

「そうね。そしたら私たちの息子も楽しめるでしょうね」

 

「お前たちの息子は今どうしている?誠、一香よ」

 

その話を、質問をされて苦笑を浮かべた。誠は頭を掻き、一香は溜息を吐いた。

 

「あー、何でだか知らないが・・・・・吸血鬼に攫われているみたいなんだ」

 

「なんだと?大丈夫か?」

 

「ええ、何だか・・・・大丈夫そうね」

 

「・・・・・?どういうことだ?」

 

一香の言葉に疑問符が浮かぶ。

 

「感じたもの。あの子の魔力を。さっきエルフが現れたって言ったでしょ?

多分そのエルフと一緒にいるかもね」

 

「・・・・・今すぐ追いかけていけば会えるのではないか?」

 

「そうね、久しぶりに会おうかしら。この場で」

 

パチン、と指を弾いた瞬間にこの場に魔方陣が発現して―――。

 

『うわっ!?』

 

驚きの声と共に魔方陣から金色のドラゴンと大勢のヒトたちが出てきた。

冷たい床に不時着して呻くドラゴンに一香は声を掛けた。

 

「あら、なんかお友達もいるのね一誠」

 

『え、あっ、お母さんとお父さん!?』

 

「よー一誠。久しぶりだな。どうしてドラゴンの姿なんだ?」

 

『アルビオンって言う国に行こうかなって』

 

「あの国にか。なんでまた?」

 

『アルビオンだから』

 

まるで、そこに山があるからみたいな台詞だった。二人は金色のドラゴンに近づく。

 

「一誠、元の姿に戻りなさい」

 

『はーい』

 

ドラゴンが一瞬の閃光を発すると真紅の神に金色の双眸の子供が姿を現した途端に、

 

「「・・・・・」」

 

誠と一香に凝視される。

 

「えっと・・・・・どうしたの?」

 

「あなた、どう?」

 

「ドラゴンの血もとい兵藤家の血が・・・・・かなり少ない。

どうなっている?そのおかげで―――一香」

 

「ええ、解けたと思っていた封印はギリギリ保っていたようね。さて―――あなたたち」

 

『うっ・・・・・!』

 

「「色々と詳しく・・・・・聞かせてくれるかな?」」

 

闘気と魔力が激しく迸り、目が笑っていない笑みをアルトルージュたちに向けた。

 

「一誠を攫った吸血鬼って・・・・・あなたたちみたいだし?」

 

「俺たちの息子の血を随分と吸ったのだろう?ははは、なに、別に怒ってはいないぞ?ただなぁー」

 

「ええ・・・・・」

 

「「この落とし前をどう付けようかってことが重要だし覚悟はいい?」」

 

何時の間にか自分たちの方を掴んでいた誠と一香に反応できず、

心臓を直接鷲掴みされた気分だったと後に語ったアルトルージュ、リィゾ、フィナだった。

 

―――しばらくして―――

 

「怖い・・・・・怖い・・・・・怖い・・・・・怖い」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「・・・・・」

 

「だ、大丈夫ですか・・・・・?」

 

吸血鬼三人組が壊れたように身体を隅っこで身を寄せって震えていた。

 

「取り敢えず吸われたことは吸われたらしいな」

 

「まったく、吸血鬼ってろくでもない種族ね。しかもマリウス・ツェペシュ。

人の息子をなんだと思っているのよ。

太陽の光に直接当てさせるために強制転移でもしてやりましょうか」

 

「一誠、吸血鬼はどんな生き物なのかこれで分かっただろう。次は気をつけなさい」

 

「う、うん・・・・・分かった」

 

コクコクと何度も頷く一誠をルーラは思った。その顔は恐怖の色で染まり切っていて、

逆らったら自分もああなると本能で悟っているのだと。

 

「(一誠くん・・・・・色々と苦労しているんだね)」


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