HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード32

「「・・・・・」」

 

ツェペシュの城に連行され、王の間で一誠とツェペシュ王は無言で見つめあっていた。

 

「・・・・・お前がアルトルージュ・ブリュンスタッドの城にいる余所者か。

子供とは思いもしなかったな・・・・・」

 

「そう?大人だと思った?」

 

「少なくともな」

 

「ふーん」

 

緊張感のない返事。辺りを見回せば自分を見下し、人として見ていない目を、視線を向けてくる。

 

「ひとつ聞こう。お前が血を与えている者で間違いないな?」

 

「与えているというか、吸われている方なんだけど・・・・・」

 

「当然だ。吸血鬼は人間の血を糧として生きる闇の住人。人間を無くしては生きていけぬ吸血鬼だ」

 

「野菜とか肉とか食べたら良いじゃないの?」

 

「無論、人間のように食事はする。だがな、我々吸血鬼は人間の血を吸うことこそが本懐なのだ」

 

「血じゃなくてトマトジュースじゃダメ?」

 

とても子供とは思えない精神と態度。普通に男尊派の王と会話している。静観していれば、

一誠の言葉にツェペシュ王は顔を顰めた。

 

「あれは好きになれない」

 

「うん、僕もあまり好きじゃないや」

 

聞いておいてこの子供も自分と同じかと思った時、気まぐれであることを聞いた。

 

「・・・・・聞いていなかったな。お前の名は?」

 

「兵藤一誠だよ」

 

「兵藤・・・・・?」

 

極東の島国に存在する人間の一族の名前だったなと頭の中で思い浮かべる。はるばるこの国に、

この地にいるのはどうも不思議でならない。

 

「何故この地にいる」

 

「アルトルージュたちに誘拐されたから」

 

「前はどこに住んでいた」

 

「施設だよ。協会の」

 

と、質問をされ続けられては答えていく。

 

「・・・・・解らんな。お前のような子供を協会から連れ出すほどの者とは思えない」

 

「僕の血が美味しいからって連れ去られたんだよ」

 

「そうだ、それだ」

 

ツェペシュ王が指摘した。

 

「お前たち兵藤家の存在は知っている。だが、この吸血鬼の世界に兵藤家の人間が

踏み込んできたのはお前が初めてだ。兵藤家の血はそれほどまで吸血鬼の

力を高めるものなのか?」

 

「吸血鬼じゃないから分かんないよ。もしかして、王さまも飲みたいの?」

 

「吸わせてくれるならな」

 

「嫌だ。代わりにこれあげるよ」

 

ポケットから赤い液体が入った瓶を取り出してツェペシュ王へ思いっきり投げた。

弧を描いてソレは難なくツェペシュ王の片手に収まった。

 

「・・・・・これは?」

 

「僕の血だよ。フィナお兄ちゃんに襲われたくないからお守りとして自分で溜めていたんだ」

 

手の平サイズの瓶にある一誠の血をしばし興味深そうに見詰めたツェペシュ王は、

蓋を開けてワインのように匂いを嗅いだ。

 

「(・・・・・何だこの匂いは。人間の血ではない・・・・・?)」

 

生まれてこの方、人間の血の味と匂いを嫌というほど舌と鼻で感じ熟知した。

だから人間と他の生物の血の匂いの違いを嗅いだだけで理解できる自信がある。

怪訝な心情を抱いているツェペシュ王は側近からグラスを受け取り血をグラスの中に注ぐ。

 

『!』

 

すると、王の間にいる吸血鬼たちが一斉にグラスへ視線を注いだ。他の吸血鬼たちも

血の匂いを敏感に反応したのである。ツェペシュ王の感想をジッと待つとツェペシュ王は

静かに血を口に含み舌全体で味を感じた後にゴクリと喉を鳴らし胃の中へ送った直後。

 

ドクンッ・・・・・。

 

「っ!?」

 

自分の身体に異変が起きた。全身の血液が沸騰しているのかと思うぐらい熱くなる。

 

「おおおお・・・・・っ!」

 

思わずといった感じで立ち上がるツェペシュ王の全身からオーラが迸り、

力が増大しているのが窺える。

 

「これが、兵藤家の人間の血の・・・・・っ!今まで糧としていた血が酒と称するならば、

この血は至高のワインと称するほどの味と効果・・・・・!だが、疑問がまた一つ浮かんだ」

 

一誠を見据え、威厳のある立ち居振る舞いをした。

 

「この血の味は人間ではない。お前は一体、何者なのだ。

私の力を、吸血鬼の力を増大させるこの血の味を感じさせるお前は何者なのだ」

 

「んと、ドラゴンだよ」

 

「ドラゴン・・・・・?真か・・・・・?」

 

「本当だよ」

 

「ほら」と、ドラゴンの翼を生やす一誠。ツェペシュ王を含む吸血鬼たちは目を丸くし、

それでいて納得した。ツェペシュ王から感じる増大した力の源は兵藤家の血だけではなく

ドラゴンの血も含まれているのだと。

 

「・・・・・アルトルージュ・ブリュンスタッドから感じる力の正体はこれだったわけなのだな。

今ならお前のことを気に入っていると言う理由が分かった」

 

「じゃあ、帰って良い?」

 

「どこにだ?」

 

「アルトルージュの城にだよ」と答えた一誠。ここに長居はしたくないと暗に醸し出す。

だが、

 

「父上よ」

 

一人の若い吸血鬼が初めて声を掛けた。

 

「なんだマリウス」

 

「そろそろ食事の時間でございます。どうでしょうか、この子も交えて食事など」

 

「・・・・・」

 

マリウスと呼んだ吸血鬼の提案をツェペシュ王は悩む仕草をした後に頷いた。

 

「わかった。そうしよう。お前も良いな?」

 

「変な物入れない?あの人の目、暗いから何か企んでいるっぽいし」

 

「これはこれは・・・・・嫌われてしまいましたね」

 

肩を竦めるマリウスだがあまり気にしていない様子だった。

 

「安心しろ。食事に変な物は入れない。嫌いな食べ物はあるのか?」

 

「この国の料理は初めて食べるものが多いから分かんない。残したらごめんなさい」

 

「気にするな。ドラゴンの口に合うかそれ自体も分からないからな。・・・・・そうだな、

娘も交えさせるか」

 

「娘?」

 

「直に分かる」

 

それだけ言い、「ついてこい」とも言われ一誠はツェペシュ王と王座の間から退出した。

 

「ドラゴンの血を飲んで力が増大するとなると・・・・・これは面白くなりそうですねぇ」

 

マリウスの口元が歪み、一誠の言う通り何かを企んでいる様子だった。

 

―――しばらくして―――

 

「わぁ・・・・・っ」

 

一誠の前に、横長いテーブルに置かれた豪華絢爛、様々な料理が勢揃いしていた。

そんな食事を用意させたツェペシュ王と砂色の色合いが強いブロンドを一本に束ねた少女。

そしてマリウスと三人の若い吸血鬼がいた。

 

「凄い料理。まだ作れない料理が多いや」

 

「その歳で料理を作れるのか」

 

「簡単な料理しか作れないけどねー。目玉焼きとかオムライスとか」

 

「オムライス・・・・・なんだそれは?」

 

「作らせてくれるなら作ってあげるよ」

 

手を合わせて「いただきまーす」と述べた一誠は食べ始める。料理の味はどれも美味しく太鼓判を打つ。

 

「―――お前、いや兵藤一誠」

 

「んむ?」

 

「ご両親は元気にしているか?」

 

ツェペシュ王が一誠に尋ねた。パスタを食べ終えてから答えた。

 

「しばらく会っていないけど元気にしていると思うよ」

 

「ご両親はやはり兵藤家の者なのだな?」

 

「お母さんは式森家の人だって聞いたことがあるよ」

 

「そうなのか。それで兵藤一誠をヨーロッパに連れてきた理由はなんなのだ?」

 

「僕がもっと強くなりたいから施設に預けられているんだー。今はストラーダ先生と

クリスタルディ先生に色々と教わっているよ」

 

吸血鬼にとって忌まわしき教会の戦士の名だった。

 

「・・・・・施設に預けてご両親はどうしている?」

 

「うーん、多分色んな神さまと会っているんじゃないかな?」

 

「神さま?例えば?」

 

そこで一誠から爆弾発言が連発する。

 

「んと、神王のおじさんや、空の神さまとか海の神さま、北欧の主神っていうオー爺ちゃんや

冥府にいる骸骨のお爺ちゃん、ハーデスって言うんだって。

後々、帝釈天っておじさんも神さまだったかな?他には魔王のフォーベシイおじさんや

アザゼルのおじさんとかもお友達だよ」

 

「「「「「「・・・・・」」」」」」

 

有り得ない―――それがツェペシュ王の心境だった。ツェペシュ王は口元を引くつかせ、尋ねた。

 

「・・・・・今言った者たちと兵藤一誠は会ったことがあるのかな?」

 

「うん、あるよ。たまに家に遊びに来てくれるからね」

 

「そ、そうなのか・・・・・」

 

「そうそう、後ドラゴンにも友達がいるんだよ。オーフィスとかティアマットとかタンニーンとか」

 

―――――吸血鬼の世界の滅亡の日がすぐそこまでだったりして。

それからしばらく雑談をしつつ料理を食べ終えた。

 

「ごちそうさまでしたー。どれも美味しかったよ」

 

「口に合って何よりだ。兵藤一誠、自己紹介が遅れたな。

この者が私の娘のヴァレリー・ツェペシュだ」

 

「あ、兵藤一誠です」

 

椅子の上で正座になって深々と頭を下げた一誠にヴァレリー・ツェペシュと紹介された

少女も恭しく笑みを浮かべながら頭を下げた。

 

「よろしくお願いします。私のことはヴァレリーと呼んでくださいね」

 

「じゃあ、ヴァレリー。僕のことも一誠と呼んでよ」

 

「ええ、一誠。これからよろしくね」

 

「ヴァレリー、兵藤一誠を部屋に案内しなさい」

 

「わかりました。それじゃ一誠、私とお話をしましょ?外の世界のこと知りたいわ」

 

「いいよー」

 

あっさりヴァレリーと仲良くなった一誠は手を引かれながらヴァレリーと共に

ツェペシュ王たちから離れ出ていった。一拍して揃って息を吐いた。

 

「なんなのだあの者は・・・・・神話体系の神々と友達とは・・・・・」

 

「今時の人間は神々と簡単に出会えるものなのでしょうか」

 

「末恐ろしい・・・・・」

 

「ブリュンスタッドめ・・・・・とんでもない余所者を連れて来おって・・・・・」

 

「私としては実に興味深いですがね。特にドラゴンの血、

アレは研究のために是非とも採取したい」

 

様々な反応と感想をするツェペシュ一家。

 

「父上、あの者を長居させるのは危険ですぞ」

 

「爆弾を抱えているようなもの。帰させてはよろしいかと存じ上げます。それにマリウス、

研究のためにあのドラゴンを刺激すれば暴れ出しかねない。そんなことをするな」

 

「正式にお願いをして貰えば問題ないですよ兄上。それに見たでしょう?

我らが父上の力は飛躍的に増大したのを。アレを見てあの場にいた同士たちが

どう思っているのか分からないと言うわけではあるまい?」

 

マリウスの発言はツェペシュ王たちを沈黙させるの十分なものだった。

一誠の血を狙う吸血鬼が現れてもおかしくは無い。ドラゴンとはいえ幼い。

ならば捕獲することは容易いと野心を抱いている吸血鬼が少なくないだろう。

 

―――○●○―――

 

一誠はヴァレリーに色々な話をしていた。笑ったり驚いたり、時には好奇心を抱いたり

苦笑を浮かべて興味津々と一誠の話を聞き逃さず耳を傾けるヴァレリー。

 

「それでねー」

 

「まぁ」

 

楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。

 

「ねぇ、女の子の服を着てくれない?(キラキラ)」

 

「嫌だ!絶対に着ないよ!」

 

「いいじゃない、ね?」

 

「ううう、やっ!」

 

自分自身の身体を天使の翼で覆い、顔だけだした蓑虫状態になった。

これで女の子の服を着させることはできないと不敵に笑みを浮かべた一誠だがヴァレリーは

翼に意識を向けた。

 

「あら、綺麗な翼ね・・・・・そうだ」

 

「え?」

 

「コロコロ~♪」

 

蓑虫状態の一誠を、雪だるまを作る感じで転がしだした。

転がす当人は面白いが転がされる当人は驚き、目を回らされるので辛いのが心情。

―――そんな様子をツェペシュ王とマリウスが扉の隙間から覗いていた。

 

 

『目、目が、目が回るぅっ!やめてぇ~!』

 

『あははっ、楽しいっ!』

 

 

「なんだか、楽しそうですね我が妹は」

 

「とてもドラゴンとは思えない光景だ・・・・・人間味が醸し出している」

 

しばらくその様子を見ていれば完全に目が回った一誠を難なくフリルがたくさん付いた

ドレスを着せ替え出すヴァレリー。頃合いだと二人は侵入する。

 

「ヴァレリー」

 

「あら、お兄さま。見てください、こんなに可愛いくなりましたわよ?」

 

「ううう・・・・・恥ずかしいよぉ」

 

「中々可愛くなったじゃないか。さて、キミに話をしに来たんだ。頼み事を聞いてもらいにね」

 

マリウスが微笑みながら話しかけた途端に、一誠は警戒心を抱いた。

 

「・・・・・なに?」

 

「どうだろう、キミの血を私たちに提供してくれないかな?」

 

「提供・・・・・?」

 

「アルトルージュ・ブリュンスタッドたちのように私たちにも血を飲ませて欲しいと言うことだよ」

 

分かりやすく改めて説明したマリウス。訝しむ一誠は「どうしてなのさ」と質問すれば、

 

「私たち吸血鬼は人間より優れているのに弱点が多いことを知っているかな?

その弱点を克服し尚且つもっと強い吸血鬼になりたいんだ。

強くなりたいキミも分からない話じゃない」

 

「吸血鬼は人間を襲うって聞いているよ」

 

「それは世界の摂理・・・・・と言っても分からないだろうね。

生まれた吸血鬼にとってはそれが当たり前で生きるためにどうしても必要なことなのさ。

私たち吸血鬼だって好きで人間を襲い血を吸いたいわけではない。

生きたいからそうせざるを得ないのだ」

 

「・・・・・トマトジュース飲めばいいじゃん」

 

「それで生きながらえるのであれば吸血鬼は苦労しませんよ」

 

苦笑を浮かべたマリウスは深々と頭を下げた。

 

「この通り、どうかキミの血を分けて欲しい」

 

ここまで頼みこまれても一誠はマリウスを警戒している。

どうしても目の奥に覗ける黒いものがあって吸血鬼は悪い種族と相まって目の前の吸血鬼は

悪いことを考えていると一誠は思わずにはいられない。だが、

 

「一誠。お兄さまのお願いをどうか聞いてくれないかしら。私からもお願い」

 

「ヴァレリー・・・・・」

 

「ね?」

 

「ううう・・・・・」

 

マリウスは仲良くなった吸血鬼の家族である。せっかく仲良くなった吸血鬼と

仲が悪くなるのは嫌だと言う思いが湧きあがり、渋々といった感じで一誠は了承した。

 

「でも、僕はもう直ぐ帰るよ。だから今日アルトルージュの城に帰る。それでいいよね」

 

期限付きの条件を言われ、マリウスはしばし顎に手をやって悩む仕草をした。

 

「・・・・・」

 

そして、ニッコリと微笑んでこう答えた。

 

「わかりました。それで構いません」

 

「ありがとう、一誠」

 

嬉しそうに笑むヴァレリーを見てこれで良かったのかなと少し悩んだ。

 

「それでは―――」

 

「ん」

 

自然に慣れた感じで腕を突き出す一誠。それを見てマリウスは疑問符を浮かべるほど首を傾げた。

 

「飲みたいんでしょ?だから吸っていいよ」

 

「・・・・・」

 

「あっ、全部飲まないでね。死んじゃうのは嫌だから」

 

―――考えが甘かった。マリウスが頭の中で考えていたことよりも一誠が思っていたことと違い、

こんな単純なことで終わらせようとしている一誠に心の中で苦笑を浮かべた。

 

「ヴァレリー、最初はあなたから」

 

「え・・・・・私も?」

 

「そうです。さあ」

 

「・・・・・」

 

自分まで仲良くなったヒトの血を吸わなければならないなんて露にも思わず。

さっき一誠にお願いした手前、こんなことになるなんてと罪悪感が湧く。

 

「ごめんなさいお兄さま。私は友達の血を吸うことができません」

 

「じゃあ、お兄さんが飲んだら僕は帰るね?」

 

「ええ、出会ってすぐに別れるなんて寂しいけれど、一誠にも家族がいるからね」

 

「またいつか会いにくるよ」

 

朗らかに別れの挨拶をする一誠とヴァレリーを余所にマリウスは踵返して部屋からいなくなろうとした。

 

「あれ、飲まないの?」

 

「ええ、急用を思い出しましてね。私は行かなければなりません」

 

「ふーん・・・・・じゃ、僕は帰るね」

 

ヴァレリーと握手を交わし、ツェペシュ王に玄関はどこにあるのかと尋ね、案内してもらう形で

無事にアルトルージュの城に辿り着いたのであった。

あっさりと帰ってきた一誠に驚くものの心から歓迎をし、一晩過ごした―――。

が、次の日。一誠の姿はアルトルージュの城から陰も残さず消えていた。

 

 

 

「ここか、吸血鬼の根城は・・・・・兵藤一誠・・・・・探し出して必ず見つけてやる」

 

 

―――○●○―――

 

「姫、城の隅々をくまなく探しましたが兵藤一誠は見当たりません」

 

「そんなはずは・・・・・確かに帰って来ていたのよ。

なのになぜ・・・・・フィナ、襲った・・・・・?」

 

「いやいや!確かに寝込んでいるところを襲いたいなーと思いますけどしていませんからね!?」

 

「・・・・・一番確率のある予想も違うか」

 

「リィゾ。私には道徳という美徳な考えもあるんだが・・・・・」

 

「「「『・・・・・』」」」

 

「え、なんだい。その『お前が襲ったから美少年は夜逃げしてしまったんじゃないか』って視線は。

私はこの中で一番信用がなさすぎやしないか!?」

 

「「一誠(くん)に関しては当然」」

 

「だな」

 

『・・・・・(コクリ)』

 

「・・・・・(泣)」

 

四人と一匹の言動で静かに天を仰ぎ、目に光る何かがフィナの頬に流れる。

 

「しかし妙過ぎるわね・・・・・ねぇ、一緒に寝た?」

 

「はい、寝る時は何時も同じタイミングで寝ますので」

 

「・・・・・彼女だけ残して美少年だけいなくなるなんてまずは考えられないですな」

 

「―――もしや、誰かが眠っている隙に連れだしたのでは?」

 

リィゾの指摘に三人は目を丸くし、「まさか」と信じがたい面持ちで呟いた。

 

「あの子の血を知っている吸血鬼と言えば・・・・・」

 

「ですが、それは有り得ないでは・・・・・?」

 

「吸血鬼は様々、よ。可能性はあるわ」

 

「では・・・・・一誠くんは」

 

不安気なルーラの意図を察しアルトルージュは答えた。

 

「ええ、彼はツェペシュの城にいる可能性はあるわ。ドラゴンの血を独占する為に」

 

確信したとアルトルージュが発した―――その時だった。

 

「なるほど―――良いことを聞かせてもらった」

 

「「「「っ!?」」」」

 

この場にいる全員が知らない静かに発する女性の言葉が聞こえた。一誠に声がした方へ振り返ると、

黒と金が入り乱れた長髪、黒いコートを身に包む黒と金のオッドアイの女性が扉のところにいた。

 

「誰だ・・・・・」

 

「兵藤一誠の微弱な龍の波動がこの城から感じて

中に侵入してみれば・・・・・どうやら入る城を間違えたようだ」

 

「誰だと聞いているのか分からないのか」

 

リィゾが全身からオーラを迸ると女性は組んでいた腕を解いてこう答えた。

 

「私は兵藤一誠の家族に頼まれてな。兵藤一誠を連れ戻さなければならない」

 

「なんですって・・・・・!」

 

「ではな」

 

女性はそれだけ言って姿を暗ました。残った面々は―――。

 

「ただ者ではない・・・・・」

 

「美少年とどういう関係が・・・・・」

 

冷や汗を浮かばせ、目元を厳しく細めるリィゾとフィナ。プライミッツ・マーダーすら

全身の毛を逆立たせるほどの警戒させる相手だった。

 

「・・・・・行くわ」

 

「え・・・・・?」

 

「冗談じゃないわよ・・・・・いきなり私の城に入って来ては、

一誠を連れ戻しに来たなんて言って直ぐにいなくなるなんて・・・・・何様のつもりよ」

 

アルトルージュが黒いオーラに包まれる。すると身体がオーラに包まれながら大きくなり、

服装も変わって赤と黒のドレスへと成っていた。髪も腰まで伸び、出ているところは

出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる抜群なプロポーションの美しい女性へと

変貌したことでルーラは度肝を抜かれた。

 

「その姿は・・・・・」

 

「私の本気モードみたいなものよ。もう本当久々に本気を出そうじゃない。

このアルトルージュ・ブリュンスタッドの力を!」

 

勇ましく行動を起こそうとしている面々と一誠を求める謎の女性がツェペシュの城に

目指している同時刻、

 

「さぁ、皆さん。これを飲んでみてください」

 

マリウスが少年少女たちの前に置かれたグラスにある赤い液体を見せ付けて言う。

その中にはヴァレリーもいた。誰もがその液体はワインではない―――人間の血のような

ものであることは理解した。場所はどこかの研究所みたいな空間のところで

壁に幾つものの扉があり、様々な機材も鎮座していた。

 

「安心しなさい。これはただの血です。少々特別な血ですが身体に害はないですよ」

 

安心させる微笑みを浮かべて告げるマリウスの目の前にいる少年少女たちの

正体は―――人間と吸血鬼の間に生まれたハーフ。ヴァレリーもまたハーフなのだ。

自分たちを集めたマリウスにヴァレリーは疑問をぶつけた。

 

「お兄さま、急にどうしてこんなことを・・・・・?」

 

「なに、ちょっとしたパーティだよヴァレリー。純粋な吸血鬼が飲めば力は増大する

実証をしたからね。では、ハーフの者たちならばどうなる?という研究テーマなのさ」

 

「本当に害はないのですか?」

 

「勿論だ。ああ、美味しかったらお代りがあるから大丈夫だよ」

 

意味深に微笑むマリウスを誰もが追求せず、一人、また一人とグラスを手にした。

そして一人一人がグラスを手にして飲んだ瞬間。瞳が妖しく煌めき、

全身から力のオーラが迸る。そんな様子を見ているマリウスは興味深そうに見詰めているが、

瞳はどこか落胆の色が籠っていた。

 

―――ガゴンッ!

 

何かが衝突した音が聞こえてきた。誰もが辺りを見渡し、音の原因を確かめようと探っていると、

 

「今の音は気にしなくてもいいですよ。研究に失敗して爆発でもしたのでしょう」

 

と、マリウスがそう言った次の瞬間。一つの扉が吹っ飛び、白衣を着た若い男が吹っ飛んだ。

男が吹っ飛んだ光景を見て誰もが目を丸くして驚いていた矢先、

フラフラと一人の少年が全身にチューブを垂らし、チューブに流れる赤い液体を床に流して汚す。

 

「―――一誠?」

 

「・・・・・おや、もう目覚めたのですか」

 

ヴァレリーはその少年を見て唖然とし、マリウスは平然として少年に声を掛けた。

 

「寝ていてはダメじゃないですか。さぁ、中に戻って」

 

「お前・・・・・許さない・・・・・」

 

「何に対してでしょうか?私はあなたを保護しただけですよ」

 

「保護・・・・・?」と少年、一誠は敵意と怒りに満ちた瞳をマリウスに向けた。

 

「ええ、怖い吸血鬼の城から助けたのですよ。皆が寝静まり返っている中で危険を顧みずにね」

 

「―――嘘吐き。何が保護だよ。僕の身体中に動けない状態にして、

これを付けて血を抜き取っていたじゃないかっ」

 

チューブを強引に抜き取ってマリウスに投げつけた。

マリウスたちの目の前に落ちたチューブは赤い血液がまだ残っていて吸引していた証が

物語っている。

 

「帰させてもらうよ・・・・・アルトルージュの城にっ」

 

「それは困ります。あなたの血はまだまだこれから有効的に活用するのにとても必要なのです。

抜き取った三分の一程度の血では不十分―――」

 

刹那。巨大な魔力の砲撃がマリウスに目掛けて放たれたが、頬を掠め壁を外まで貫いた。

 

「ふざけるな・・・・・っ!僕の血だけ目当てで

自分の好き勝手にしたいだけじゃないか・・・・・!」

 

静かに激昂する一誠が魔力を迸る。狙いはただ一人、目の前にいる吸血鬼であるマリウス。

 

「・・・・・やれやれ、穏便に済ませれませんか。

丁度良い、キミたち。あのドラゴンを倒して来なさい。いい実戦になるでしょう」

 

血を飲んでパワーアップした少年少女たちに告げたマリウス。

ただ一人だけ除いてマリウスに懇願した。

 

「お兄さま一誠になんてことを・・・・・もうあの子を帰してやってください」

 

「私の研究に必要なのだよヴァレリー。あのドラゴンは私たち吸血鬼が独占するべき存在」

 

「こんな悲しいことお父さまやお兄さまたちが許すはずが・・・・・」

 

「ええ、これは私の独断です。だからヴァレリー、どうか内緒にしてくださいね」

 

醜悪な笑みを浮かべ、少年少女たちを促す。

気弱だったり気が小さいハーフの子供たちは一誠の血を飲んだことで

興奮状態で気持ちが高ぶり、吸血鬼の本能に従い、一誠に襲いかかった。

 

「キミたちもやっぱり吸血鬼なんだね・・・・・」

 

悲しげに漏らす一誠の周囲が、歪む空間から鎖が飛び出して

襲い掛かってくる吸血鬼たちを拘束して動きを封じる。

 

「がぁあああああああっ!」

 

一人の少女が叫んだ。ただそれだけで全てを薙ぎ払い、一誠さえも吹っ飛ばした。

 

「ほう・・・・・もしや神器(セイクリッド・ギア)を発動したのか?素晴らしい、

ドラゴンの血を飲むことで強制的に神器(セイクリッド・ギア)を扱えるようになれるようですね・・・・・」

 

釣り上がった口の端は何時までも下がらない。他に床を突き破って生える植物の蔓や、

無機質で構成された人型の巨人、氷の槍など具現化して―――。

 

「捕まえなさい」

 

終始、マリウスは笑みを絶やさず何時しか嬲られるであろう一誠を、

多勢に無勢の戦いに強いられる一誠を、数の暴力に逆らえなくなる一誠を見て、

吸血鬼たちに噛みつかれ血を吸われる一誠を見て、虫の息の状態の一誠を容易く捕まえてみせた。

 

「今回だけは神に感謝ですかねぇー。こんな貴重な実験材料を恵めてくれたのですから」

 

グッタリと身動き一つもしなくなった一誠を、今更ながら駆けつけてきた兵隊たちに告げた。

 

「このドラゴンを厳重に拘束して檻に閉じ込めてください―――」

 

「た、大変です!侵入者が―――!」

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

何か発しようとした兵隊の声を遮る轟音が兵隊たちさえその余波で吹っ飛ぶと同時に

マリウスたちのところまで轟いた。そして立ち込める扉の向こうの煙に人影のシルエットが浮かぶ。

 

「なんだ、ここにも吸血鬼がいたか」

 

「・・・・・誰ですか」

 

「お前が掴んでいるドラゴンと同じ存在と言おうか」

 

静かな足音が近づいてくる。やがて煙から出てきた人物の黒と金のオッドアイはジッと

一誠を捉えた。

 

「あの者たちにどう言えば良いだろうな。満身創痍の者を助けたのでは私が情けないと思われるか?」

 

女性は口の端を吊り上げて問うた。

 

「なぁ、久しい邪龍たちよ」

 

「何を言っているのですか・・・・・?」

 

怪訝に漏らすマリウスだったが、一誠の両手の甲に宝玉が浮かんで点滅しだした。

 

『まさか、お前がそっちから来るとは思いもしなかった』

 

『久し振りだなぁ!どうやら今まで退治、封印すらされずに生きていたようだなぁ?』

 

「冥界と人間界を修行と兼ねて見聞していたのでね。そんな目に合うことは一切なかった」

 

『相変わらず修行をしていたのか。だが、どうしてお前がここにいる?』

 

「兵藤一誠の家族、オーフィスと出会ってな。兵藤一誠を連れてくれば戦ってくれる約束をした。

そしてグレートレッドの肉体の一部とオーフィスの力で復活したドラゴンを

会いたい気持ちも有り、この吸血鬼の根城にやってきたのだ」

 

宝玉と交わす謎の女性。マリウスは目元を細め、口を開いた。

 

「何者ですか」

 

「言っただろう。兵藤一誠と同じドラゴンだ。

ただし『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハという暗黒龍と称されし最強の邪龍の名が付くがな」

 

「―――――っ!?」

 

「返してもらおうか。そのドラゴンを」

 

クロウ・クルワッハがマリウスに近づくが少年少女たちが

神器(セイクリッド・ギア)を駆使して襲いかかってきた。

 

「ふん」

 

躱し、薙ぎ払い、受け流し、相殺、防御と一瞬でやり通して幼い吸血鬼たちを一蹴して倒した。

 

「なっ・・・・・!」

 

「全てが不足だ」

 

残るはヴァレリーとマリウス。戦意がないヴァレリーを一瞥もせずマリウスに近づく。

 

「なるほどな。衰弱しているせいか力はあまり感じないがオーフィスの力を感じる。

それにグレートレッドの肉体か・・・・・実に興味深いドラゴンだ」

 

愉快そうに小さく口元を緩ませる。腕を伸ばし一誠を掴もうとした瞬間。

 

「待ちなさいっ!一誠を返しなさい!」

 

クロウ・クルワッハが破壊した扉の向こうからアルトルージュたちが現れた。

 

「―――許さない」

 

その時・・・・・。

 

「僕を騙して血を奪う・・・・・」

 

一誠の身体から黒い何かが包む・・・・・。

 

「吸血鬼を許さない・・・・・」

 

マリウスが反射的に一誠を床に落とす。本能がそうしないと自分がやられると警告するほどに。

 

「僕から奪うなら・・・・・今度は僕が奪ってやる・・・・・」

 

バキ・・・・・バキ・・・・・バキ・・・・・ッ

 

何かの日々が生じる音が鈍く聞こえてくる。床でも機材でもない。

何か壊してはいけないものに罅が入っている。

 

「命を・・・・・力を・・・・・血を・・・・・」

 

床に蹲る一誠がポツポツと呟く。周りから見守られている最中にゆっくりと立ち上がる。

地面にしっかりと足を付け、腰を上げて状態を起こして爛々と殺意が籠った双眸を

マリウスたちに向けた。

 

「―――全て、奪い取るっ!」

 

バギィンッ!

 

甲高い完全に何かが壊れた音共に黒い何かが膨張して天井を突き破り、

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

吸血鬼の世界に闇が誕生した。

 

『帰るんだ!あの場所にぃッ!』

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「どうした一香」

 

「・・・・・なんで・・・・・・どうして・・・・・」

 

「一香・・・・・?」

 

「封印が・・・・・あの子に施した封印が・・・・・壊れた」

 

 

 

 

 

「リーラ、あの黒い柱・・・・・」

 

「・・・・・ここからでも肌が突き刺さるようなこの感じは・・・・・」


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