HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード3

翌朝。リビングキッチンに手鏡を持って自分の顔を見る一誠がいた。

黒髪に黒目だったはずの、真紅の髪と垂直のスリット状の金色の瞳に変わっていることに

目をパチクリしていて、まじまじと前髪を触れたり自分の目玉を覗きこんだりと確認していた。

 

「一誠さま・・・・・どうですか?」

 

「目がライオンみたいになってるね」

 

「・・・・・」

 

特別、生まれ変わった自分に動揺や不安など感じていなかった一誠。

ただ単純に髪の色と目が違うねーという感覚であっさり受け入れたのだった。

リーラはそれを喜んでいいのか、もう少し危機感を抱いても良いのではと

複雑な気持ちで何とも言えなかった。

 

「それに・・・・・刺されたはずなのに何で治ったんだろう」

 

「っ・・・・・」

 

自分の腹に手を添える一誠をリーラは一瞬だけ顔を歪めた。

兄である誠輝は既にこの家にいない上に戻ってこれない。一誠に誠輝のことは触れていない。いや、触れていいものではない。肉親に殺される気持ちを

また思い出させるなどしたくないのだリーラは。

 

「リーラさん、兄ちゃんはどうしたの?」

 

「聞いて・・・・・どうするのですか?」

 

自分と同じ目に遭わせたいと言うなら尚更教えるわけにもいかない。一誠に尋ねたところ、

自分に目掛けて拳を突き出してきた。

 

「殴る」

 

「・・・・・はい?」

 

「一発殴りたい。いくらなんでもあれは酷かったし痛かったよ。だから思いっきりぶん殴りたい」

 

―――ただ殴る。それだけで兄を許そうとするのかとリーラは今度こそ信じられないと顔に浮かべた。

 

「それだけで、許すのですか一誠さまは」

 

「・・・・・弱いのはいけないことだって何度も教えられたしその通りだと思う。

だから僕はあんな目に遭った。なんでだろう。こういうことって凄く怒っても良いと

思うのに、身体の奥から溢れる何かが兄ちゃんを倒すことなんて容易いって

思わせるんだ。だから一先ず殴りたい」

 

小さな手を固く、強く握りしめた瞬間に赤いオーラを帯びた。

まるで一誠の怒りを表しているようなオーラだった。

 

「それで見返すんだ。どっちが弱いんだって。はは・・・・・ほんと、何で僕は

こんなことを言えるようになっているのか分からないや」

 

「・・・・・」

 

ドラゴンの力が一誠の性格や心、気持ちを変えているのかもしれない。

今の一誠はここまで好戦的じゃなかった。もっと大人しくて優しい子供―――。

 

「って、僕の手が何か光ってるよリーラさん!?」

 

―――これ、どうしたらいいの!?と慌てふためく一誠にリーラは、

 

「・・・・・ぷっ」

 

「え、どうしてそこで笑うの?」

 

今さらな反応に思わず噴いてしまった。変わっているところがあれば変わっていないところもある。

 

「大丈夫ですよ一誠さま」

 

跪き優しく手に帯びている赤いオーラを両手で包み、

 

「貴方は必ずや立派で強い男の子になります」

 

「兄ちゃんよりも?」

 

「ええ」

 

「僕を虐める皆よりも?」

 

「ええ。そうです」

 

勇気、自信を付けさせ安心させる笑みを浮かべるリーラに釣られて

「そっか」と一誠も子供らしく笑みを浮かべた。

 

「ですが、その為には一誠さま。修行をしないといけません」

 

「・・・・・何時も行くあそこでするんでしょう?」

 

若干声音を落とす一誠の気持ちを察し、リーラは首を横に振った。

 

「いえ、一誠さまの身の回りで少し事情が生じまして、神王のおじさんや魔王のおじさん、

それにオー爺ちゃん、一誠さまのたくさんのお友達のところで修行する事になりました」

 

「え・・・・・そうなの?」

 

「はい、そうです。それは一誠さまがもっと強くなりたいと望むのであれば修行を始めれます。

誠さまと一香さまもお許しをいただいて貰っております。後は一誠さまがこれからも

修行をしたい、もう修行を止めて普通の生活をしたいという二つを選ぶだけです」

 

真っ直ぐ一誠の目の前で人差しと中指を立てて告げた。

その二つの指を見据える一誠に言い続ける。

 

「一誠さま、あなたはどうしたいですか?」

 

「・・・・・」

 

リーラの質問にただただ無言でリーラの琥珀の瞳を見据える。頭の中でどう思っているのか

一誠の頭の中を覗きこむしか分からない展開に、

 

「・・・・・もうあんな思いはしたくない」

 

立てる二つの指ごとリーラの手を掴んだ。

 

「もう弱いままいたくない。もう苛められたくない。見返すんだ。

今度は僕があいつらに思い知らせるんだ。僕はお前らより強いんだって」

 

「一誠さま・・・・・」

 

「そして、皆を守りたい」

 

瞳に宿る強い意志。真剣な表情をリーラに向けて、

 

「リーラさんもだよ。僕の大切な人なんだからね」

 

発する一誠に、不覚にもドキッと胸が高鳴った。今まで見たことのない表情をする

一誠の顔から目が離せない。動悸が止まらない。胸の奥から湧き上がる熱い気持ち、

感情がリーラの瞳を潤わせて一誠を抱き締めさせる。

 

「ご期待してお待ちしております。我が主よ」

 

そして、一誠の額に唇を落としたのだった。

 

 

 

「我、忘れられている?」

 

モグモグと食事をしていたオーフィスの呟きは誰も返さなかった。

 

 

 

 

『そうか、一誠がそう言ったんだな?』

 

「あのようなことが遭ったのに・・・・・とても一誠さまは強いお方です」

 

『あいつは俺に似ているからな!』

 

嬉しそうに携帯越しから聞こえる誠の声。報告とリーラが連絡をしているのだった。

 

『だとするとさてはて・・・・・誰から鍛えてもらおうか』

 

「鍛えてもらうのは良いとして、

一誠さまには神器(セイクリッド・ギア)を宿されていないのでしょうか?」

 

『一誠自身のを調べてもらうには、それはヤハウェかアザゼルに調べてもらう他分からないな。

・・・・・よし、最初は冥界にするか』

 

「悪魔側ですか?それとも堕天使側ですか?」

 

リーラの携帯から届く声を誠は直ぐに答えた。

 

『堕天使側だな。あそこにあの子もいるし一誠には丁度良いだろう?』

 

「では」

 

『最初の一年は堕天使たちに鍛えてもらおうか』

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「えっ・・・・・どこか行っちゃうの?」

 

「うん・・・・・そうなんだ」

 

公園で一誠はイリナとヴァーリに別れを告げていた。

二人にとって衝撃的な話で悲しげに顔を曇らす。

 

「そう・・・・・なんだ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

一人の友人が遠い場所へ行って会えなくなる。だから寂しいあまりに涙ぐむのは当然の反応だ。

二人の涙を見て釣られ一誠自身も泣きそうになりイリナとヴァーリを抱き締めた。

 

「必ず、僕は必ずこの町に帰ってくるよ。だからその時まで待っててくれる?」

 

「うん・・・・・うん・・・・・絶対だよ?」

 

「・・・・・待ってる」

 

涙を流すイリナとヴァーリも抱きしめ返し抱擁を交わす。

 

「イッセーくん、絶対に帰って来てよねっ」

 

「そうだよ。・・・・・待ち続けているから」

 

「分かってる。絶対にこの町に帰る。また再会したら遊ぼうね」

 

「「うんっ」」

 

イリナとヴァーリに手を振り続けて公園を後にした一誠は家に戻ると

丁度玄関にリーラとオーフィスが現れた。もう行く時間だと一誠は思い、

 

「行きましょうか一誠さま」

 

「うん、けどこれからどこに行くの?」

 

「冥界です。そしてこれから一年間お世話になる場所には堕天使のおじさんがいます」

 

「堕天使のおじさん?」

 

「はい、あの方は戦闘経験が豊富できっと一誠さまを強くして貰えますでしょう。

その為には冥界に行かねばなりません」

 

「どうやって?」と一誠は問うた。一誠が冥界に言ったことは赤ん坊の頃だけで

一誠を会いにわざわざ遠いところから来てくれる人達が多い。

冥界や天界と別の世界の異空間に言ったことは今まで一度もないのだ。

 

「迎えが来るそうです。その人と一緒に私達は冥界に行きます」

 

リーラと話していると、一誠の視界の前に魔方陣が出現して光と共に現れる不審な男が

不機嫌な顔で現れた。一誠は嫌そうな顔を浮かべ、警戒する。

 

「お待ちしておりましたコカビエルさま」

 

リーラの言葉に振り返る男は、視線を下に向けた途端に狂喜の笑みを浮かべた。

 

「・・・・・ほう、本当にオーフィスがいるんだな。前は老人の姿をしていたと

聞いていたが今の姿は人間のか。で、あの二人の人間の子供というのが・・・・・お前か」

 

赤い目が一誠を捉え、愉快そうに喉の奥から笑う男を警戒している様子を分かると、

 

「くくくっ、凄まじい力を感じる。こうして立っているだけで肌に感じて仕方がない。

あの時の赤子がなんとまぁ、おかしい成長をしたものだな。

だがそれも一興。精々強くなって俺を楽しませるぐらいになれ」

 

絶えず笑みを浮かべ続けるコカビエル。

 

「一誠さまは貴方の欲求を満たす為に強くなろうとしているわけではございません」

 

「ふん、だったらあの人間達で満たすまでだ」

 

不意に、足元に展開した魔方陣。目を丸くする一誠を余所に魔方陣はより一層に光る

強さが増す。

 

 

―――しばらくして、光が治まり一誠の視界が回復した頃には別の世界が視界に飛び込んだ。

空は紫色で、辺りは薄暗い。更に眼前には聳え立つ大きな建物が見える。

 

「よう、待っていたぜ」

 

黒と金の髪の中年男性が手を挙げて一誠達を出迎えた。

コカビエルは目の前の建物とは反対方向へ歩きだした。

 

「おい、コカビエル。どこに行くんだって」

 

「俺の勝手だ。後はお前の好きにすればいい」

 

黒い十枚の翼を生やして空へ飛んで行ったのを中年男性は溜息を吐いて見送った。

 

「しゃーねーな。さて坊主」

 

「久し振り、おじさん」

 

「おう、久し振りだな」

 

「これからお世話になりますアザゼルさま」

 

おじさんと呼ばれた中年男性はアザゼル。リーラ達を建物内へ招き入れどんどん奥へ進む。

 

「最初にイッセーには健康診断もとい身体の検査をする。

オーフィスの魔力もあることだし、魔力の扱い方もマスターしないとな。

それと神器(セイクリッド・ギア)もだ」

 

神器(セイクリッド・ギア)・・・・・?」

 

「なんだ、知らないのか?神器(セイクリッド・ギア)ってのは簡単に言えば神さまが

人間、もしくは人間の血を流す異種族のみに与える摩訶不思議な能力のことだ。

能力は様々で、中にはドラゴンだったり獣だったりそう言った生物の魂が封じられいている

神器(セイクリッド・ギア)があるんだ」

 

アザゼルから教えられる専門用語。説明され、なるほどーと一誠は納得してこう言った。

 

「じゃあ、僕の中にいるドラゴンもその神器(セイクリッド・ギア)なんだね」

 

ピタッ

 

「・・・・・なんだと?」

 

「一誠さま、今なんとおっしゃいました?」

 

足を停め、一誠に振り向くアザゼルとリーラに再度発した。

 

「僕の中にいるドラゴンと言ったんだけど・・・・・」

 

「・・・・・おい、オーフィス。イッセーの中にいるドラゴンは本当か?」

 

何故かオーフィスに確認するアザゼルの尋ねにオーフィスはコクリと頷いて肯定した。

 

「本当、イッセーの中に邪龍がいる。他にもう二匹も」

 

「―――邪龍だと!?」

 

アザゼルの行動は早かった。一誠を瞬時で掴み、どこぞの治療室の寝台の上に

寝転がせて身動きが取れないように拘束した後に寝台を囲む機械を操作し始めた。

そして何か分かったのか呻きだす。

 

「・・・・・マジか、邪龍の筆頭格の一角『魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)』ネメシス。

しかも他のドラゴン共は有名なドラゴンじゃねぇか。何時の間に封印されていたんだ。

いや、そもそもどうしてイッセーの中に宿ったんだ?」

 

ブツブツと思考の海に潜ってしまったアザゼルを余所にようやく

追い付いてきたリーラが一誠の身を拘束する拘束具を解く。

 

「一誠さま、何時ドラゴンがいるとお気づきにならなれたのですか?」

 

「二週間ぐらい前だったかな・・・・・。急に話し掛けてくるようになって来たんだよ」

 

「どうしてそれを私達に申さなかったのですか?」

 

「・・・・・それどころじゃなかった。周りに苛められてあんな目に遭ったんだから」

 

そう言われ、物凄く申し訳なさそうに顔を曇らすリーラ。その中で異変を教えろと

言う方が無理があるかもしれない。

 

「おいイッセー」

 

思考の海から出てきたアザゼルに尋ねられた。身長的に一誠は見上げる形でアザゼルに

上目遣いで見るようになる。

 

「ネメシスはともかく、他の二匹のドラゴンがいることを説明してくれ」

 

「他のドラゴン?まだ僕の中にいたの?」

 

「・・・・・知らなかった?だが、一人の人間に一度で神器(セイクリッド・ギア)

複数宿る事例はない。あるとすれば後天的に他者から抜き取って

奪うしかないんだが・・・・・」

 

「一誠さまはそんなことしません」

 

「分かってる。だが、納得がいかないんだよ。

他にも神器(セイクリッド・ギア)があることも判明したしどうなってんだよこりゃ」

 

頭を引っ掻くアザゼル。しばらくしてアザゼルは息を一つ吐いて気を取り直す。

 

「何時までも分からないことに頭を悩ませても仕方がねぇ。

他の奴らにもこのことを報告するとして、

イッセーは神器(セイクリッド・ギア)を使った経験はあるか?」

 

「・・・・・ないよ。使い方もわからないし」

 

「ネメシスと会話できるぐらいなら発現できても当然なんだがな・・・・・。

いや、あんな家じゃ使えるもんも使えなくなるか」

 

「多分そうだと思います。一誠さまは本家でも全身に酷い傷を負い、

暗い森の中で寝ることも何度かありました」

 

「・・・・・お前、どんだけ酷い目に遭ってんだよ」

 

「弱いんだからしょうがないじゃん・・・・・。

大人も僕と同じ子に認められていないんだからさ」

 

不貞腐れ、寝台から降りてしまった一誠。「だったら」とアザゼルは一誠と目線が合うように跪く。

 

「お前は強くならなきゃならないな。この一年間、俺がお前を強くしてやる。

そんで見返してやれ」

 

「・・・・・お願いします」

 

深々と真紅の頭を垂らしお辞儀をする一誠に撫でるアザゼル。

 

「オーフィス、お前にもちょっとばっかし手伝ってもらうぜ」

 

「我、イッセーの手伝いをする。我、家族だから」

 

コクリと素直に頷いたオーフィスを顎に手をやって神妙そうに言うアザゼル。

 

「あの龍神がここまで言うとはねぇ。誠と一香、それにイッセーの魅力によるものか?」

 

「不思議な力に引き寄せられているのは間違いないでしょう。この私もその一人です」

 

「ははっ!そうかそうか。ま、俺もその中に入りそうだな。さて、イッセー。

多分今のお前ならネメシスの力を発現できると思うが試してみるか?

ネメシスは封印される前じゃあ、相手の動きや能力を封じる特殊な力を持っていたそうだ。

力こそはないが、その特殊な能力が故に例え神であろうと一時的に能力を封じることができた」

 

「へぇ、それって凄いの?」

 

「凄いぞー。なんたって自慢の攻撃が封印されたら攻撃ができなくなるし、

相手は無防備になるんだ。攻撃ができない相手に倒すことはどれだけ簡単だと思う?」

 

アザゼルの説明を聞き、感嘆の声を漏らす。攻撃=能力を封印する。そうすれば相手を

もっと簡単に倒すことができると頭の中で復唱していると、催促の声が掛かった。

 

「ほら、やってみろ」

 

「どうやって?」

 

神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いに応えてくれる規格外な力だ。

だからお前が強く何かをしたいと思えっていればお前の気持ちに応えてくれる」

 

「・・・・・」

 

「今出来なくても時間はたっぷりある。ゆっくり時間を賭けて―――」

 

ガチャッ

 

「アザゼル、例の子供は来たか―――(ジャラララッ!)ぁぁあああああああっ!?」

 

「あ、バラキエル」

 

「あ、できた」

 

「しかも亀甲縛りに鎖ですか・・・・・」

 

「イッセー、できた」

 

入って来た大男の身体は、空間が波紋のように歪みつつ光りながら

飛び出した鎖によって拘束された。最初は当惑していたが次第に恍惚の表情を浮かべ

「イイ・・・・・」と漏らす始末。

 

「一発でできたか。幸先がいいなこれは」

 

「これでいいの?」

 

「そうだ。良くできたなー。因みに聞くがどうして鎖なんだ?」

 

「動きを封じるって言ったから鎖が良いかなって思った」

 

「なるほどな。バラキエルには災難だったが・・・・・当のこいつは思わぬ快感を

得ちまったな」

 

一瞬で光の槍を具現化したアザゼルはあっさりと大男の身体に巻きついている鎖を斬り捨てる。

 

「おい、子供の前で何て顔をしてんだ。朱乃にバラすぞ」

 

「はっ!?」

 

意識を取り戻し、素早く立ち上がり気まずい雰囲気を感じる暇もなく一誠達に話しかけられた。

 

「お久しぶりでございますバラキエルさま」

 

「あ、ああ。誠と一香の従者だったな。そしてイッセーくん。久し振りだ」

 

「ごめんなさい、痛くなかった?」

 

「大丈夫だ。寧ろ―――いや、なんでもない」

 

「バラキエル、おかしい」

 

「元々こいつはそうなんだよオーフィス」

 

新たなアザゼルの仲間が現れたことでバラキエルという大男はアザゼルにあることを尋ねた。

 

「アザゼル、ここに来ているということはそう言うことでいいのだな」

 

「ああ、最初は俺たちが鍛える。こいつは世界で唯一真龍と龍神の力と肉体を持つドラゴンだ。

くくくっ、鍛え甲斐があるというやつだぜ。こんなドラゴンはもう

これから先現れないだろうからよ」

 

目を爛々と輝かせ一誠を見詰めるアザゼルにバラキエルはある提案を述べた。

 

「ならば寝泊りする場所も確保しなければなるまい。

アザゼル、朱璃と朱乃がいる俺の家に住まわせるがいいな?」

 

「別に構わないがいいのか?あいつらに断わりも無く勝手に決めてよ」

 

「説得するだけだ。それに朱乃に友達を接する幸せを与えたい」

 

「・・・・・そうか」

 

バラキエルの提案を特に否定もせず「念のためにこっちも用意しておく」と言うだけで

話はついた。

 

「では、来たそうそうで悪いが俺の家に来てもらおう」

 

「お世話になります」

 

感謝の意を籠めて頭を短く下げた途端に魔方陣が出現してアザゼルの目の前から姿を消した。

 

「兵藤一誠・・・・・か。あいつ将来とんでもねぇ化け物になりそうだ」

 

「帰った」

 

「ん?おー、帰って来たか」

 

「・・・・・誰かいたのか?」

 

「擦れ違ったな。ま、明日になれば会えるだろう」

 

「誰と?」

 

「それは明日になってからのお楽しみという奴だ」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

平屋建ての小さな家の前に一つの魔方陣が発現して光と共に一誠たちが現れた。

 

「ここが俺の家だ」

 

バラキエルはそれだけ言い、家の玄関の扉を開け放った。

その音に反応してかトタトタと軽い足音が近づいてきて、玄関に現れた。

 

「お父さま!」

 

「おお、朱乃。ただいま。良い子で待っていたか?」

 

「うん!あれ、この人たちは誰なの?」

 

背中まで伸びた黒い髪に紫の瞳の少女。バラキエルの娘、

朱乃の瞳は一誠たちに真っ直ぐ向いていた。バラキエルは「朱璃は?」と問い、

 

「お部屋にいるよ」

 

「そうか、朱乃も教えないといけないことがあるから一緒にいなさい」

 

「はーい」

 

返事をする朱乃。バラキエルは一誠たちを家の中へ招き入れ居間に案内した。

 

「朱璃、帰ったぞ」

 

「お帰りなさい。あら・・・・・この方たちは?」

 

「俺の友人の子供と従者だ。訳があってな、しばらく俺たちが預かることになったんだ。

朱璃、この家に一緒に住まわせてもらえないか?」

 

朱乃に似た女性が一誠たちを見詰め、バラキエルが頼み始めた。いきなり一緒に

住まわせて欲しいと言われて渋るか、悩むんじゃないかって一誠は思っていたが。

 

「ふふっ、わかりました。朱乃にお友達ができるわね」

 

「お友達?母さま、どういうこと?」

 

「朱乃、今日からこの人たちは私たちと一緒に暮らすことになったの。

あの男の子と女の子は朱乃のお友達になってくれるはずよ」

 

「友達・・・・・」

 

ジッと、朱乃は一誠とオーフィスを見詰め恐る恐ると言った。

 

「朱乃と、友達になってくれる?」

 

瞳に不安の色が浮かび、尋ねる朱乃に一誠はリーラを見た。

リーラは視線を向けてくる一誠に優しく言った。

 

「大丈夫です。仲良くなれますよ」

 

「・・・・・分かった」

 

ゆっくりと朱乃に手を伸ばす一誠。

 

「僕、兵藤一誠。よろしくね」

 

「っ!」

 

パァと顔を明るくし朱乃は一誠の手を掴んで、

 

「姫島朱乃だよ!よろしくね一誠!」

 

「我、オーフィス」

 

「よろしくねオーフィスちゃん!」

 

オーフィスの手も掴んで嬉しそうに笑みを浮かべた。

「お外で遊ぼうよ!」と朱乃に引っ張られる形で一誠とオーフィスは今からいなくなった。

 

「大変お喜びのようですね」

 

「ええ・・・・・やっぱり同年代の子供と遊ばせる喜びが感じることができて嬉しいようね」

 

「あの子には感謝しなければな。リーラ殿、狭く質素な家だが妻と娘をよろしく頼む」

 

「はい、朱璃さまと朱乃さまは私にお任せくださいませ」

 

三人同時に頭を下げ、一誠たちの新しい生活は今始まった。


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