HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード29

吸血鬼に襲われ一誠はしばらく寝込んでしまった。初めて本当に身の危険を感じ、

目が覚めても身体を震わすことが多く周りから心配の声が掛けられる。

ルーラも例外ではない。片時も離れず少しでも襲われたショックを紛らわせようと必死だった。

一誠の様子を見ていたストラーダ猊下とクリスタルディ猊下が揃って息を吐いた。

 

「相手が相手だった為にな・・・・・」

 

「同性の血しか吸わないという吸血鬼でしたな?」

 

「ドラゴンの血で通常よりも強くなっていた吸血鬼を逃してしまったことが失態だった。

血の味を覚えてまた襲いかかってこないと限らん」

 

「次の討伐の際には警護しないと・・・・・」

 

「クリスタルディ猊下。共に来てくれるか?」

 

「ドラゴンは力を呼び寄せる特徴がありますからな」

 

暗に共にするという発言だった。一誠を見守っているとシスターが近寄ってくる。

とても真剣な表情で口を開きだした。

 

「お話し中のところ申し訳ございません。事件が起きました」

 

「討伐か」

 

「はい。某所で全身の血が抜かれた死体を発見したと報告が」

 

顔を見合わせ頷いた。今回は最初から吸血鬼が絡んでいる事件であると。

 

「仕事だ、クリスタルディ猊下」

 

「主に代わって民を守り天罰を与えましょう」

 

全ては主の為にと心から誓って吸血鬼討伐に赴く二人であった。

 

その日の夜―――。

 

一誠は心を許した相手と共に寝ることでちょっとした不安は直ぐに無くなり安心して眠るようになる。

故に心配をしているルーラが夜も付きっきりで傍にいて一緒に寝ることもある。

共に夜を過ごす日が多くなり一誠もルーラも当然のように今夜も寄り添うようにベッドの中で寝ていた。

二人が寝る部屋は静寂に包まれ虫の鳴き声も聞こえない無の空間。月明かりが部屋に―――

 

ガチャッ。

 

『・・・・・』

 

器用に扉を開けた巨大な白い獣が照らした。獣は足音を立たせずそれでいて自然な動きで

ベッドに眠る一誠とルーラに近づく。だが、獣は若干どうすればいいだろうかと

当惑の色が目に浮かぶ。

 

『いい?赤い髪の人間を連れて来て頂戴』

 

目的の人間を見つけたのはいいが、予想外にも共に密着して寝ている存在がいた。

引き離そうにもどっちかが目を覚まし騒ぎとなるに違いないと獣は考えついた。

だったらどうする?自問自答をした結果。獣は上掛け布団を二人を纏めて包みこみ、咥えて、

来た道に踵返して戻った。その際、獣は一人のシスターと出くわすものの施設から

出ることが成功し、イタリアの夜の市街地へと駆けだす。

 

―――一時間後―――

 

「してやられた・・・・・っ!」

 

討伐から帰ってきたクリスタルディ猊下が目元を厳しく細めて上掛け布団がないベッドを見て

八つ当たり気味に壁へ拳を叩き付けた。事件があった場所に赴いて件の吸血鬼を探したが

発見できず、施設に戻ったところで白い獣と遭遇したシスターから

「一誠の部屋から巨大な獣が何かを咥えて去って行った」と説明を受けた。

 

「吸血鬼は紹介されたことのない建物には一切入れない。だとすれば魔物を使役して

連れ去ったか」

 

ストラーダ猊下も声音を低くして今まで無かった例外に自分の失態だと猛省していると

バタバタと駆け足の音が聞こえ、顔に汗を浮かんだシスターがやってきた。

 

「レティシアがおりません!」

 

「戦士一誠と寝ていたはずだ。だとすれば一緒に連れて行かれた可能性は大きい」

 

「吸血鬼の根城はルーマニアのどこか・・・・・それだけ分かっていますが

どこにあるのかだけは未だに・・・・・」

 

敵が向かう先は分かっているが、その場所は把握できていない状況ということで

これ以上ストラーダ猊下とクリスタルディ猊下がどうこうすることなどできない。

万事休すという思いが浮かぶが、

 

「・・・・・戦士一誠の家族に報告をする」

 

「・・・・・兵藤誠と兵藤一香の耳に伝われば・・・・・」

 

「我々より世界を見聞している。きっと吸血鬼の根城も把握しているだろう。

そう願って報告をせねばならない」

 

 

 

ストラーダ猊下が部屋から出て、一拍してクリスタルディ猊下も扉を閉めて後を追う。

そして、知らぬ間に連れ去られた一誠たちは建物の屋上にいる複数の影に視線を向けられていた。

ただ一人荒い息をして今にでも襲いかからんとばかり危険な状態だった。

 

「へぇ、寝顔が可愛いじゃない。なぜだか人間の女の子までいるけど」

 

『・・・・・』

 

「仕方なく連れて来たのでしょ?いいわ。この子も連れて行きましょう私たちの城に」

 

「この場で捨て置いた方が今後の為では?」

 

黒い騎士甲冑を身に包む男が後顧の憂いをなくすための発言をしたが少女は指を顎に

触れながら返事をした。

 

「確かにそうでしょうけど、後々になって面倒なことになりかねるかもしれないから

生かしておくわ。なにより感じるわ。この子から発する力を・・・・・」

 

少女は静かに口角を上げて一誠の頬を触れた。子供特有の肌の感触と弾力に笑みを零す。

 

「出会ったことは無いけど、天使でもなさそうね。聖なる力を感じないもの」

 

「では一体・・・・・」

 

「さぁ・・・・・起きたら聞きましょう、その方が早いわ」

 

獣は再び二人を咥えると少女が獣乗せに跨り、二人の男たちと共に屋上から飛び降りて

闇に消えた。

 

―――○●○―――

 

「んー・・・・・」

 

一誠は何時も通りの時間帯に起床した。目覚めたばかりで思考が鈍く甘い匂いと

心地いい温もりと手に感じるゴワゴワと硬い髪の毛のような白い塊―――。

 

「ん?」

 

本来感じない何かに疑問を抱き、一誠は振り向いた先には。

 

「・・・・・犬?」

 

巨大な白い獣が一誠とルーラーを寄り添って目を閉じ、規則正しい寝息を立てていた。

 

「何で犬がここに?」

 

改めて周囲を見回したところで一誠の目が大きく見開いた。自分が寝ていた自室ではなく、

 

「やぁ、おはよう美少年」

 

いつぞやの白い髪の男が至近距離で満面の笑みを浮かべて挨拶をしたところで、

 

「お」

 

「お?」

 

「襲われるぅうううっ!」

 

一誠が絶叫を上げては金色の翼を広げて神々しい光を放った。

 

「ちょっ、待ちたまえ―――!」

 

ドォンッ!

 

光の砲撃は男に当たらず壁に風穴を空けて冷気が入ってくる。

その結果、ルーラーと巨大な犬が目を覚ました。

 

「ど、どうしたの!?・・・・・え、ここは・・・・・?」

 

ルーラーも見慣れない空間に当惑したところで、暴れるなとばかり白い犬がその大きな

身体でのし掛かり押さえつけた。

 

「お、おもっ・・・・・!」

 

「一体全体なにが・・・・・っ」

 

「なんの騒ぎ・・・・・あら、起きたのね?」

 

一人の少女が目の前に現れた。後に黒い髪の男も現れたのだった。

 

「だ、誰?それにここはどこ?」

 

「質問に答えるから大人しくしてくれるかしら?」

 

「それよりも・・・・・重いんだけど・・・・・」

 

「プライミッツ・マーダ」

 

犬の名前なのだろう、巨大な犬が立ち上がって横にずれると一誠とルーラーを

監視すような視線を向け始めた。

敵意は無いことに二人は視線を目の前の少女に向けると少女が口を開いた。

 

「さて、お互い自己紹介をしましょうか。私はアルトルージュ・ブリュンスタッド。吸血鬼よ」

 

「吸血鬼・・・・・?」

 

「・・・・・っ」

 

小首を傾げる一誠に顔を強張らせるルーラ。アルトルージュは二人の反応の違いに

不思議そうに問うた。

 

「吸血鬼と会うのは始めてかしら?」

 

「話だけなら何度も聞いたけど、キミみたいなちっちゃい吸血鬼もいるんだね。僕と同じ年かな?」

 

「見た目で判断してはいけないってお父さんやお母さんに言われていないかしらね」

 

対して気にせず、寧ろ面白いと小さく口角を上げた。

 

「それで、あなたたちの名前はなんて言うのかしら?」

 

「僕は兵藤一誠だよ。こっちはレティシア・J・D・ルーラって娘なんだ」

 

「―――兵藤?」

 

風邪の噂で聞いたことがある名前だった。極東の島国の人間を統括している一族の名前である。

対してアルトルージュは他国の情報を気にせず生きていたが、

目の前に兵藤と名乗る子供、一誠が兵藤と名乗った。

 

「知ってる?」

 

「ええ、直接兵藤の人間と会うのは初めてだけどね」

 

「じゃあ、お父さんとお母さんと会ったことがないんだね」

 

「あら、ご両親も兵藤家なのね?」

 

「うん」と一誠は肯定した後、

 

「僕のお父さんとお母さんは色んな神さまとお友達なんだよ。

空の神さまとか海の神さまとか、北欧の主神っていうオー爺ちゃんとか、

帝釈天っていうおじさんや神王のおじさん―――いふぁい、いふぁいよ!」

 

「もう、神王さまにおじさんって言ってはダメって何度言えば分かるんですかー!」

 

「「・・・・・」」

 

度肝を抜かれているアルトルージュと黒い髪の男を余所に一誠とルーラは何時もの

光景を繰り広げたのだった。

 

「ねぇ・・・・・嘘、言っていると思う?」

 

「分かり兼ねます・・・・・ですが、嘘を言っているようには思えません」

 

「私たち・・・・・もしかしたらとんでもない子を連れて来ちゃったかしら・・・・・」

 

「・・・・・ゼウスにポセイドン、オーディンが攻め込まれてもおかしくないかと」

 

「その時、吸血鬼という種族が滅ぼされちゃったりして」

 

ありえると黒い髪の男がうっすらと冷や汗を流した。すると何か物足りないと感じた。

 

「フィナがいませんな」

 

「あら、そういえばそうね」

 

「ん?誰のこと?」

 

「白い髪の男の人知らない?」

 

「ん(壁の風穴に差す)」

 

一誠が指す方へ視線を向けた二人と一匹、今更ながらどうして壁に穴が

空いているのかと問うたところ、

 

「白い髪の男の人が襲ってきたから吹っ飛ばした」

 

「違うからね!?」

 

「ひぅっ!?」

 

どこからともなく現れた白い髪の男に一誠は身体を跳ね上がらせ、

犬の影に隠れた。だが、その犬に襟を咥えられて隠れさせてくてることは叶わなかった。

 

「フィナ、お前の原因で壁に穴が空いたのだな。後で直しておけ」

 

「私が!?ただ美少年の寝顔を見ていただけなのに!」

 

喚く男に無視して黒騎士は一誠に声を掛ける。

 

「少年、この男だけは手加減なしに、遠慮なしに攻撃して良いからな。

主に自分の身を守るための意味で」

 

「待てリィゾ!同じ姫を守る騎士仲間としてその発言はいかがだと思う!」

 

「お前の言動で姫の城を壊されかねないのだ。お前が自重すればいいだけの話ではないのか」

 

「私の目の前に今世紀最大の美少年がいるというのにそれは無理な話である!」

 

聞いていた吸血鬼の話とは違うなーと他人事のように言い合う二人を見た一誠とルーラ。

 

「怖く・・・・・ないのかな?」

 

「多分、この吸血鬼だけだと思います」

 

「まぁ、大体この二人はこんな感じだから賑やかなのよね」

 

と、アルトルージュが話に加わってきた。

 

「一誠って呼んでいいかしら?」

 

「うん、いいよ」

 

「それじゃ一誠くん。あの白い髪の吸血鬼、私の騎士フィナって吸血鬼だけどね?

一度、あなたの血を吸ったことで力が前より増大したの。それは今も変わっていないの」

 

私もそうだけどと付け加えて一誠にあることを尋ねた。

 

「一誠、あなたは何者?天使の翼も生やせるみたいだしね」

 

「僕は僕だよ?でも、人間じゃないけどね」

 

「というと?」

 

「皆が言うにはグレートレッドの肉体とオーフィスの力で復活したんだって。

だから今の僕はちっちゃいドラゴンなんだって」

 

「―――っ」

 

グレートレッド、オーフィス。どちらも聞いたことがあるドラゴンの名前だ。

その上極東の島国では有名な兵藤という一族の者の血を引いている。

 

「(だから力が増大したのね。これで納得できたわ)」

 

真龍と龍神の話は一先ずおいといて、一誠がドラゴンであることは確信した。

だが同時に一誠をこのまま野放しにできなくなった。他の吸血鬼たちが一誠の存在を知り、

血の味を知ってしまえば独占しようと躍起になるはずだ。

 

「(面倒な子を招いちゃったわけね。これもよくに駆られた私たちに対する自業自得、

罰なのかしら?でも、それ以上に興味深い子であることは確か)」

 

「ねね、この犬の名前は?」

 

「プライミッツ・マーダー。姫と我々だけしか―――」

 

「プライミッツ・マーダー、お手!」

 

『・・・・・(ガブッ)』

 

「ムグッ―――!?(バタバタッ)」

 

差し出されたてと一誠の発言を理解できるのか、物凄く不機嫌そうな面持ちで

プライミッツ・マーダーは大きく口を開けて頭から一誠を噛みついたのだった。

 

「ちょ、一誠くーん!?」

 

「言い忘れたが、プライミッツ・マーダーは犬扱いすると不機嫌になるからな」

 

「それを早く言ってくださいよ!って、一誠くんを外に放り投げないでー!」

 

「そのまま私がキャッチをして熱い抱擁をしようではないか!(バッ!)」

 

「お前が行くと余計に騒ぎになるからダメだ(ガシッ!)」

 

何だか何時も以上に賑やかとなってしまった。アルトルージュはクスクスと騒ぎの

中心である四人と一匹を見詰め楽しげに見詰めていた。

 

「(ま、なるようになるでしょう。時間が許されるまで楽しませてもらいましょうか)」

 

その後、壁に空いた穴は元通りに修復したことでアルトルージュとフィナ、リィゾは

自室に戻った。一誠たちと違って吸血鬼の活動は日中は休み、夜に活動する種族なので、

純血に近い吸血鬼ほどそんな生活習慣を送らければならない。だから昼間活動する

一誠とルーラは二人の監視役のプライミッツ・マーダーと部屋に取り残された。

 

「一誠くん、今なら脱出できるのでは?」

 

「そうだね、それじゃ」

 

廊下へ繋がる扉に近づこうとした一誠に反応したプライミッツ・マーダーが

あっという間に近づき、襟を咥えてズルズルとローラのところまで引き摺っては放置した。

 

「まだまだ!」

 

翼を生やして一気に窓のある方へ羽ばたいて突き破り脱出を試みようとした一誠を兆弾の如く、

凄まじい跳躍力で天井に跳び、そこから一気に一誠の背後から襲いかかって圧し掛かる。

 

「・・・・・ダメだ。この犬から逃げられそうにないよ」

 

「ドラゴンになったらどうでしょうか?」

 

ズルズルと再びルーラのところまで引き摺られる一誠に尋ねたら一誠は首を横に振った。

 

「大騒ぎになってアルトルージュたちが起きて捕まえられちゃいそうな予感がする」

 

「・・・・・完全に私たちは誘拐されたのですね」

 

落胆するルーラと一誠。諦めた雰囲気を感じ取りプライミッツ・マーダーは

楽な姿勢になって瞑目した。

そんなプライミッツ・マーダーを見て恐る恐る足音を立てないように歩いても

気配で察知し、逃げるなと籠った目が開いて睨まれる。

 

「ごめんね、ルーラ。僕のせいで・・・・・」

 

「気にしないでください。寧ろ一誠くんと連れ去られて良かったです」

 

「どうしてそんな事を言うの?」

 

「だって―――」

 

一誠の手を握って微笑んだ。

 

「心配するよりも一緒にいた方が心配もせずにいられて安心できますから」

 

「・・・・・」

 

「ほら、朝食と用意された果物でも食べましょう。食べないと空腹で何もできませんし」

 

元気づけようとルーラは現在の現状を受け入れようとしている。

一誠も申し訳なさそうにコクリと頷き、籠にある様々な果物に手をつけた。

 

 

―――一方、その頃リーラに事の詳細を告げていたストラーダ猊下とクリスタルディ猊下。

 

 

「・・・・・」

 

「「・・・・・(汗)」」

 

吸血鬼に連れ去られてしまった事件をリーラに報告をした瞬間に、

百戦錬磨であるストラーダ猊下が冷や汗を流す程、感情が無くなり琥珀の双眸から

何とも言えない冷たいものが帯び、怒りを通り越して冷静過ぎて

それが今のリーラの考えを分からさせない為逆に―――怖い。

 

「申し訳ない」

 

クリスタルディ猊下が話を、謝罪を切りだした。

何時までもこの無言の状態に堪え切れないと思ったが故に。

 

「いえ。こちらから頼んでいる身、お二人に咎める気はございません」

 

リーラは二人に怒りをぶつけようとしなかった。

 

「そ、そう言ってもらえるとありがたい・・・・・」

 

「ええ、一誠さまを連れ去った吸血鬼を見つけ次第―――この世から抹消しますので」

 

「「・・・・・」」

 

やっぱりこのメイドはどこか怖いと二人の猊下は思わずにはいられなかった。

 

「ところで、吸血鬼が住んでいる場所は把握しているのですか?」

 

「ルーマニアのどこか・・・・・としか今の協会はそれしか把握できていない。

何分、不思議な結界を張っているのか特定することができていないのだ」

 

「ルーマニアですか。わかりました」

 

腰を上げたリーラはストラーダ猊下とクリスタルディ猊下に言った。

 

「では行きましょうか」

 

「と・・・・・言うと?」

 

「ルーマニアへです。まさか私とオーフィスさまだけ行かせて自分たちだけ行かないと

申し上げるのですか?ああ、先ほど咎める気は無いと申し上げたのですが―――」

 

冷たい笑みを浮かべた。

 

「お二人には少なからず教会の施設に敵対している勢力から手は出されないと

天狗になっていた『監督責任』がありますので責任は果たしてもらいます」

 

「「・・・・・」」

 

二人は有無を言わさず、拒否も否定も拒絶もできずリーラの発言に

ただただ従う他なかったのであった。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・暇だね」

 

「・・・・・暇ですね」

 

プライミッツ・マーダーの横っ腹に寄り掛かる形で漏らす二人。

最初ルーラは警戒していたものの、今ではすっかり現状に馴染んでいた。

 

「窓の外でも見たいんだけど」

 

「何度もそうして離されますけどね」

 

苦笑を浮かべるルーラ。窓から何度も離される一誠と離すプライミッツ・マーダーの

光景が未だに頭から離れないでいるのだ。ある意味漫才のようだった。

 

「うー、この犬。なんなのさぁ・・・・・」

 

不貞腐れる一誠の言葉に呼応したのは、右手の甲に赤い宝玉が浮かんで光が点滅しながら声を発した。

 

『そいつは魔獣だ主』

 

「ゾラード?」

 

『だが、ただの魔物じゃなさそうだな。これはとても珍しい』

 

興味を示すゾラードだったが、一誠とルーラにとってはどういうことなのか分からないでいる。

 

『しかし、主は色々と苦労しているな。吸血鬼に好奇心を抱かれるとは』

 

喉の奥から漏らす笑い声に一誠は首を傾げる。

 

「そう言われても・・・・・そうだ。ね、ゾラード。ここどこだか分かる?」

 

『雪山に囲まれた場所としか分からない。それに強大な結界によって外と隔離している。

教会の者たちが吸血鬼の根城を発見できずにいるのは結界によるものだろうな』

 

「もしかして、僕がドラゴンになっても出られない?」

 

『それ以前に、この極寒の中でどの方角に戻ればいいのか分からないまま脱出するのは

良い選択ではない。ましてや主、人間の子供を庇いながら吸血鬼と戦うのは今の主では

無謀だ。今は主の家族がこの吸血鬼の根城を探り当て乗りこんでくることを願って

待つしか方法は無い』

 

「あう・・・・・僕が弱いからなんだね」

 

ズーンと落ち込む一誠を慰めるルーラ。

 

『それより、暇なのであれば修行でもすればいいのではないか?』

 

「んーそれもそうだね」

 

腕立ての態勢になるとルーラに顔を向けた。

 

「ルーラ、僕の背中に乗ってくれない?」

 

「え?でも・・・・・」

 

『重い物があればさらに鍛えられるのだ。ここは主の―――』

 

「わ、私は重くありません!」

 

声を張り上げるルーラが機嫌が斜めになって顔をそっぽ向いた。

すると、一誠の左の手の甲に緑の宝玉が浮かび上がって光が点滅した。

 

『ゾラード、人間の女性に重いなどと失礼なことを言ってはなりませんよ』

 

『なんだと?俺は別にそんな意味で言ったわけではないのだぞ』

 

『彼女がそう捉えた時点で、あなたは誤解を招く発言をしたのです』

 

『むぅ・・・・・』

 

ドラゴン同士の話を聞きながら「まだ・・・・・?」とルーラに視線を送る一誠。

 

「ルーラは重くないよ。だから乗ってくれない?」

 

「・・・・・本当ですか?」

 

「うん」

 

「・・・・・じゃあ、乗りますね」

 

そっと腰を一誠の背中に落とした。ルーラが背中に乗ってくれたことで一誠は

腕立て伏せを開始した。

 

 

―――数時間後―――

 

 

夕方になると外は薄暗くなり始め、吸血鬼たちが活動をし始める。

当然、眠りに入っていた者たちも起き上がって―――。

 

「おはよう、一誠とレティシア・・・・・退屈していなかったようね」

 

「ん?」

 

火の塊を両手でジャグリングしている一誠を見て苦笑を浮かべたアルトルージュ・ブリュンスタッド。

 

「ああ、これ?遊ぶ物もないし外にも行けないし、

窓から外を覗くこともできないから前習った魔力を炎に変えて遊んでいたんだよ。

ルーラは持てないから僕一人で」

 

「・・・・・」

 

ドラゴンが一人で魔力を別の属性に変えて遊んでいる。

こんな変な光景を見たのはきっと自分だけだろうと呆れを通り越して感嘆してしまう。

 

「さて、朝食にしましょうか」

 

「もう夕方だけど・・・・・」

 

「人間と一誠(ドラゴン)はそう思うけど私たち純血の吸血鬼は夜こそが朝みたいな感じなの。

ところで、吸血鬼が主な食事とは何か分かっているかしら?」

 

「「っ!?」」

 

ここに来て初めて二人は緊張の色を浮かび警戒を抱いた。

 

「ルーラには手を出さない!」

 

「元より私は一誠の血に興味があるの。ドラゴンの血ってどうやら吸血鬼の力を

増加させるみたいだしね?」

 

「・・・・・そうなの?」

 

「私も初めてだから本当のところどうだか分からないわ。けどね。

こんな言い方をしたくないけどあなたたち二人の命は私の手の中にあるの。

どういうことだかわかるかしら?」

 

一誠とルーラは無言でアルトルージュを見据えるだけで答えなかった。

その様子にアルトルージュは分からないのだと判断し説明した。

 

「今現在、あなたたち二人の存在を知る者は私とフィナ、リィゾ、

プライミッツ・マーダーだけ。私の城から出ればあなたたちにとって本当の敵の吸血鬼が大勢いる。

女であるあなたは慰みものとして男の吸血鬼に赤子を孕ませられ、

まだ子供のドラゴンである一誠はあなたの血を知ったら全身の血という血を吸い尽くされ

良くて眷属、最悪殺されちゃう可能性があるの。そんなこと絶対に嫌でしょ?」

 

「「・・・・・」」

 

「大丈夫。あなたたちがしばらくの間私の言うことを聞いてくれればあの教会の施設に

戻してあげる。約束するわ、このアルトルージュ・ブリュンスタットの名と誇りに懸けて」

 

自分の胸に手を添えながら真っ直ぐ一誠とルーラを見据えながら述べたアルトルージュ。

ルーラはより一層に警戒心を抱き「絶対に嘘だ」と頭で思い、一誠の服を掴みながら睨んだ。

対して一誠はジッとアルトルージュの赤い双眸を覗きこむ視線を送り続けていた。

嘘か本当かを判断以前に彼女が良い吸血鬼か悪い吸血鬼かその目で確かめ判断する為に。

 

「・・・・・本当に約束してくれるの?」

 

「ええ、勿論」

 

「もしも嘘ついたら、僕の中にいるドラゴンを外に出して暴れさせるからね」

 

「・・・・・ドラゴン?」とアルトルージュはどういうことなのかと小首を傾げた

ところ一誠が答えた。

 

「僕の中には四匹のドラゴンがいるんだ」

 

「・・・・・嘘でしょ?」

 

アルトルージュは信じられないとそう述べたが一誠の両手の甲に浮かぶ宝玉が肯定した。

 

『本当ですよ吸血鬼』

 

『我が主に嘘を付けば、主の願いを叶える為にこの吸血鬼の世界を滅ぼしてくれる。

主に主の中に宿っているもう二匹の邪龍がな』

 

「―――――っ!?」

 

ドラゴンがドラゴンを宿すなど聞いたことがない。だが、目の前の現実を

突き付けられては認めるしかない。大きく張った目を何時までも一誠から離れない。

 

「(兵藤一誠・・・・・あなたは一体何者だというの・・・・・)」

 

「ん」

 

唐突に肩腕をアルトルージュへ伸ばした。そんな一誠の意図が分からないルーラだった。

 

「ルーラの血は吸わないで。代わりに僕の血で我慢して」

 

「そんなっ、一誠くん・・・・・!」

 

自己犠牲な行動をしようとしている一誠に悲鳴染みた声と反応。ルーラに安心させる

笑みを浮かべて言いだした。

 

「大丈夫、アルトルージュは約束してくれるから僕のことを殺さないよ」

 

ある意味それは脅しみたいなものだ。アルトルージュは約束を守る気はあったが、少々

イメージダウンをしてしまった様子だ。だが、それが吸血鬼であるからしょうがないのだ。

一誠の腕を撫でるように添えて口に近づけた。

 

「誓うわ。あなたたちがこの城にいある間、一誠だけの血を吸わないことを。

彼女の身の安全を保証する事も」

 

「絶対だよ」

 

「約束するわよ。それじゃ―――」

 

アルトルージュの口から鋭い牙が覗き、ソレは一誠の腕に皮と肉を突き破った。

 

「んっ」

 

注射を刺された以上の感触と痛みに呻く一誠。

アルトルージュは朝食である新鮮なドラゴンの血を満足するまで吸い続けた。

 

「はぁ―――――」

 

程なくして、一誠の腕から口を離すと恍惚とした表情のまま熱の篭った吐息を零す。

今まで味わった血より熱く濃厚な血・・・・・。噛まれた腕を擦る一誠を見ながら

熱くなった全身を両腕で抱き絞められずにはいられなかった。

 

「(この血・・・・・病み付きになりそうだわ・・・・・)」

 

潤んだ瞳を一誠に向けて艶めかしい笑みを浮かべた。心の中で約束なんてしなければ

良かったと心底後悔したが既に後の祭りだ。一誠の血を呑んだことで約束は

交わされたと当然であるから。

 

「(・・・・・なら、私色に染めて私から離れないようにすればいいだけのことね)」

 

幸いアルトルージュは一誠とルーラを返す期日と時間を言っていない。それを有効活用して

自分好みに育て上げ、この美少年好きが見つけた至高の血を流す一誠を自分に

惚れこむことで帰る気を失わせればいい。ルーラは何時しか邪魔になるだろうが、

一誠が身を呈して守るほどの少女だからおいそれと手を下すことはできない。

 

「(ま、しばらくは一緒に可愛がってやりましょう)」

 

そう決めたアルトルージュは深い笑みを浮かべた。


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