HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

27 / 109
エピソード27

「一時はどうなるかと思ったが、俺たちの息子は急激な成長をしているな」

 

「もしかすると私たちを凌駕するほど強くなるんじゃないかしら」

 

「ははっ!そいつはいい、もしもその可能性が現れたなら直々に俺たちが稽古をしよう」

 

「楽しみがまた一つ増えたわねー」

 

―――ヨーロッパInイタリアの首都ローマ―――に一行は足を踏んでいた。世間では日本人

二人の子供、ドイツ人らしき女性が一人飛行機から落下して行方不明と

知れ渡っているが一誠たちは知らないでいる。誠と一香と合流を果たし、

一年間住むイタリア、ローマを観光気分で出歩いているのだから。

 

「ここの国の料理はパスタやパンが主食なのよね。一誠はスパゲッティが好きだから

本場のパスタ料理を作るここイタリアを好きになるはずだわ」

 

「本当?食べてみたいな!」

 

嬉しそうに顔を輝かせた一誠。それから五人はとある場所の前に立っていた。

 

「一誠、お前の修行と場となる教会と深い関係のカトリック教会の総本山、サン・ピエトロ大聖堂だ」

 

「おおー、大きいねー」

 

「だろう?」

 

外見は石造りで作られた建物。心なしか不思議な力を感じる一誠。中まで見学はできない為、

一行は次へと足を運んだ。人口2863322人のローマはどこにいても人がいて

当然のように擦れ違う。異国の人の顔を珍しそうに見詰め、聞こえてくる言葉と発音は

初めて訊く。歩いていると海が見えてきた。

 

「ここってたまに人魚の気配を感じるのよね」

 

「今は?」

 

「んー、残念だけどいないな」

 

「人魚さんと会いたいなー」

 

「近いうちに会えるわよ」

 

微笑む一香が一誠の手を掴んだまま歩く。そうして時間を費やしてローマの街を歩き続けて数時間たった頃、

一行はとある施設に足を運んだ。施設の前にはシスターが一人立っていて出迎えていた。

 

「お待ちしておりました。兵藤さま方ですね?」

 

物腰が柔らかく、柔和に声を掛けてくるシスター。誠と一香の二人は挨拶と握手を

交わした後に話を進める。

 

「―――では、そういうことでよろしいのですね?」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

「わかりました。では兵藤一誠くん。私と一緒に来てください」

 

「あれ、リーラさんとオーフィスは?」

 

何時も一緒に生活していた二人が呼ばれていない為不思議そうに首を傾げている。

どうしてなのかと誠と一香を見上げた。

 

「一誠、リーラとオーフィスと離れて修行しなくちゃいけないの」

 

「え、そうなの?」

 

不安な色が目に浮かび、寂しげな顔を浮かべた。今まで片時も離れて暮らしたことがなく、

心から安心できる家族と離れて暮らすのは今回が初めて。

 

「大丈夫だ。祝日の日になればリーラとオーフィスはお前のところに来るから心配するな」

 

「・・・・・一緒に暮らせるんだよね?」

 

「ええ、勿論よ」

 

優しく諭す一香にリーラとオーフィスを見詰めた。

 

「一誠さま、これを」

 

「ん?」

 

リーラから一つのペンダントを受け取った。開閉式のようで開けば一香と誠、リーラと

オーフィスの写真が収まっていた。

 

「肌身離さずこれを身に付けていれば私たちは一誠さまと繋がっています」

 

「繋がる?」

 

「はい、心が繋がります。どこにいても離れても私たちの心はあなたを想っております。

互いの心が互いを思いやることで繋がりを得ることができます」

 

優しく一誠を包むリーラは温かい言葉を送る。

 

「頑張ってください一誠さま。私たちはあなたを陰から見守っていますよ」

 

「じゃあ、見つけたら一緒にいてね?」

 

「ふふっ、簡単には見つかりませんよ?」

 

「絶対に見つけるもん」

 

プクーと頬を膨らます一誠を微笑ましくリーラは見詰め、一誠の額に唇を落とした。

 

「いってらっしゃいませ。私の愛しき御主人さま」

 

「うー、行ってきます」

 

納得がいかないと思いながらもシスターの手に引かれて施設の中へと連れて行かれる

光景を四人は見送る。

 

「寂しいわね」

 

「これも大切なこととはいえ、手元から無くなる感覚がハンパない」

 

「我、寂しい」

 

「祝日の日に迎えに行きますよ必ず」

 

「リーラとオーフィス、二人はどうするの?」

 

「ユーストマさまが用意して下さった家に滞在するつもりでございます。これからその家に向かいます」

 

「そう、それだったら私たちもついて行きましょう。ここも吸血鬼が出没するし

何かしらの魔方陣を張っておくわ」

 

「だな。俺たちも週に一度は顔を出すか」

 

「ありがとうございます」

 

―――○●○―――

 

「新しくこの施設に入ることになった兵藤一誠くんです。皆さん、温かく出迎えましょう。これも主のお導きであります。アーメン」

 

神父服を着込んだ一誠の隣にシスターが手を組んで祈りを捧げればそれに呼応して、

一誠の目の前にいる少年少女たちも手を組み「アーメン」と祈りを捧げた。

 

「・・・・・?」

 

一誠もすればいいのかと見よう見真似で手を組んだ。が、チンプンカンプンだった。

 

「シスターグリゼルダ」

 

「はい」

 

十代後半と思しき少女が返事をした。

 

「この子のお世話をして貰いますがよろしいですね?」

 

「これも主のお導きとあれば」

 

恭しく了承したシスターは一誠に向かって微笑んだ。

 

「では、兵藤一誠くんは・・・・・そうですねレシティア・J・D・ルーラの隣の席に」

 

「・・・・・?」

 

どこの誰の事?と疑問符を浮かべていると金髪にアメジストの少女が手を挙げて場所を示した。

一誠は少女が座る席に近づきチョコンと座った。

 

「初めまして、私はレティシア・J・D・ルーラです」

 

「兵藤一誠だよ。よろしくね」

 

軽く挨拶を交わす。後に一誠の前に教材と思う本が置かれた。が、

 

「・・・・・・・・・・・」

 

イタリア語で記された文字がびっしり。一誠は難しい面持ちに、困惑、当惑と異国の

苦労をすぐに思い知らされ、困難とぶつかった。そうしている間にもシスターが静かに

それでいて清んだ声であれこれと喋りだした。

 

―――一時間後―――

 

「・・・・・・・・・・」

 

魂が抜けて真っ白な一誠。シスターの話しを聞くばかりで本に書かれていることなど

一文字も理解できなかった。理解しようと必死にイタリア語を見たが、見たこともない

文字を見ただけでは解りもしない。ので、理解不能と頭が処理して屍状態

 

「だ、だいじょうぶですか・・・・・?」

 

「・・・・・(フルフル)」

 

レティシアの問いかけに否定した。

 

「次、解らなかったら聞いてくださいね?教えてあげますから」

 

「(ガバッ)ありがとう、キミは天使だよ!」

 

「えええっ!?」

 

レティシアは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに目を輝かせた一誠の言葉に驚きつつ

顔を朱に染め照れた。

 

「次は模擬戦だけど、場所は分からないですよね?一緒に行きましょう」

 

「模擬戦なら大丈夫かも」

 

「そうなのですか?」

 

「うん」

 

修練場に案内される。そこは剣を携える天使の像が広場を囲んで数人の老人、

中年男性がいてその目の前には集まりつつある神父服を身に包んでいる少年少女たち。

 

「ねね」

 

「はい?」

 

「あのおっきなお爺ちゃん。凄いね」

 

一誠が言うおっきなお爺ちゃんとは、その者は、しわくちゃの面貌だった。

顔だけ見れば、七十過ぎの老人だろう。しかし、顔の下がそれを否定する。有り得ない

ほどに太い首、分厚い胸板、巨木の幹ほどはある両腕、成人の人間の胴回りよりも幅が

あるだろう脚。何よりも背丈だ。二メートルはあるであろう不釣り合いなほどに見事な

若々しい肉体だった。レティシアが慌てふためく。

 

「だ、ダメですっ。ストラーダ猊下におっきなお爺ちゃんと言っては・・・・・!」

 

「ストラーダ猊下・・・・・?」

 

なにそれ?とばかり小首を傾げる一誠。レティシアは説明しようと口を開いたが、

一誠とレティシアに差し奥の声が投げ掛けられてしまって説明する事も出来ず列に並んだ。

それから中年男性が腰を下ろすように催促した。

 

「ね、これから模擬戦って何をするの?」

 

「悪魔や吸血鬼との戦い方を教えてくれます。私たちはそれを習うのですよ」

 

「吸血鬼はともかく、悪魔ならちょっとだけ戦ったことがあるよ?」

 

「兵藤くん、それはいくらなんでも嘘ですよね?嘘は言っちゃダメですよ」

 

「むー、本当だよ」

 

膝を抱えたまま不機嫌な面持ちで口を尖らす。

そんな一誠にとある中年男性と老人は見ていて声を殺して話し合っていた。

 

「一人だけ、異質な者がいますな」

 

「ユーストマさまから聞いた者に間違いないだろう」

 

「人間にしては本来有していないはずの力を感じますが?」

 

「一年間とあるものを鍛えてくれと頼まれたからには指導者たる我々はその通りにするだけだ」

 

「それはそうでありますが・・・・・ストラーダ猊下、少し試させては貰えませんでしょうかね?」

 

「気になるか?クリスタルディ猊下よ」

 

中年男性は柔和に笑みを浮かべながら頷いた。

ストラーダ猊下は何も言わず目で訴えれば、

クリスタルディ猊下という中年男性は足を動かし始めた。そして一誠の横に立つと

一緒に来るようにと引き連れてどこかへ行った。

 

「この辺でいいだろう」

 

レティシアたちと離れたが姿が肉眼で捉えれる範囲の、広場の隅っこにまで移動した二人。

 

「キミ、名前はなんていう?」

 

「兵藤一誠です」

 

「兵藤・・・・・なるほど、ユーストマさまとミカエルさまから直々に

頼まれるほどの事であることは間違いないか」

 

「神王のおじさんを知ってるの?」

 

「知っているとも。教会にいる人は全員、神さまの名前や存在を把握しているのだからね」

 

にこやかに語るクリスタルディ猊下の耳にとんでもない発言が聞こえてきた。

 

「じゃあ、海の神さまと空の神さま。あと、北欧の神さまのオー爺ちゃんと

冥府ってところにいる骸骨の神さまや帝釈天って言う人と孫悟空ってお爺ちゃんも

知ってるんだね?あとあと、神さまじゃないけどアザゼルおじさんとか魔王のおじさん、

フォーベシイって言うけど知ってる?僕会ったことがあるんだけどさ」

 

「・・・・・」

 

クリスタルディ猊下が岩のように固まった。

 

「(この子は一体何者なんだろうか・・・・・とても嘘を言っているような眼じゃない)」

 

「ねぇ?」

 

「あ、ああ知っているとも。流石に会ったことは無いがキミは会ったことがあるんだね?」

 

「父さんと母さんが友達だから僕も会うんだー」

 

「因みにご両親の名前は?」

 

「兵藤誠と兵藤一香って言うの」

 

「(―――あの者たちの子供!?)」

 

愕然とし、また固まったクリスタルディ猊下だった。怪訝な視線が向けられて来るのを

気付き、気を取り直して話を進めた。

 

「キミをここに連れてきたのはちょっとお話と腕試しをしようと思ってね。いいかな?」

 

「うん、いいよー」

 

「じゃあ、まずは腕試しだ。武器は―――」

 

「あるよ」

 

カードを取り出して、対ドラゴン用の意匠と装飾が凝った神々しい大剣を発現して、手にした。

 

「・・・・・それは」

 

「えっと、僕専用の武器だって。僕しか持てないらしいから」

 

「本当かい?」

 

「持ってみる?」

 

「よいしょっと」と大剣を地面に突き刺した。クリスタルディ猊下はあっさりと

その柄を掴んで手に力を籠めて持ち上げようとしたがピクリとも大剣は

持ち上がることは敵わなかった。両手でしても地面から持ち上がることは無かった為、

クリスタルディ猊下は当惑の色を目に浮かべた。

 

「剣が持ち主を選んでいるというのか・・・・・?」

 

「わかんない」

 

一誠が柄を持つと軽々と動いた。呆然と見入るクリスタルディ猊下だが、

手首に巻きつけていた紐に手を翳すと、紐は意志を持っているかのように動き始め、

形が変わり日本刀のような刀にへと変貌した。

 

「わ、なにそれ?」

 

「これは聖なる剣と書いて聖剣と言うんだ」

 

「聖剣・・・・・格好良い・・・・・」

 

「褒めてくれてありがとう。さて、ちょっとした模擬戦を始めようか」

 

「よろしくお願いします」

 

ペコリとお辞儀をして大剣を前に構えた。クリスタルディ猊下は自然とした態度で

一誠の行動の様子を見守ると、子供とは思えないほどの凄い速度で懐に潜り込み

下斜めからの斬撃を繰り出した。それを難なく受け流すクリスタルディ猊下。

 

「速い、そして重いな。だが、攻撃にムラがあり雑な降り方だ」

 

「うー、武器で戦うのは今回で三回目なんだよー」

 

「・・・・・色々と驚かせてくれる」

 

苦笑を浮かべ、軽く武器を振るう。垂直のスリット状の金色の双眸はソレを捉え、さばく。

が、刀身が鞭のようにしなってあらぬ方向から襲いかかってきた。

 

「うわっ!?」

 

「ほう、避けるとは」

 

「なにそれ!」

 

「この聖剣は形を自由に変えることができる特性を持っていてね。持ち運びにも便利なのだよ」

 

「いいなー!」と言いながら一誠は四方八方から来る突きと斬撃を躱し、弾き返したりする。

 

「(戦い慣れている・・・・・わけでもないな。また発展途上中というところか。

あの方々が一年間鍛えてくれと申し上げてきたのは分かってきたぞ)」

 

「その刀を止めてやる!」

 

周囲の空間が歪み数多の鎖が飛びだして伸びる刀身を拘束した。

 

「―――神器(セイクリッド・ギア)かっ」

 

「正解っ!」

 

凄まじい速度で懐に潜ろうとした一誠。だが、クリスタルディ猊下が

もう一本帯剣していた得物を握りしめた瞬間に姿がブレて消失した。

 

「あれ?」

 

「私はここだ」

 

鎖が斬られ、拘束していた刀身が解放されクリスタルディ猊下の手に

二つの武器があった。

 

「なんか、急に速くなった?」

 

「良く分かった。こっちの聖剣は所有者の速度と攻撃速度を上げる特性があるのだよ」

 

「聖剣っていっぱいあるものなの?」

 

「それは今後の勉学で知ることだから敢えて教えないよ」

 

微笑めば先ほどの何倍の速度で刀身が伸びて一誠に斬りかかった。

鎖で拘束しようにも逆に無効化され、一誠は防戦一方になる。

 

「うー。こうなったら」

 

距離を置いた一誠はあることした。右手に魔力、左手に気の塊を具現化して

二つの塊を合わせ融合させれば摩訶不思議なオーラが一誠を包み始めた。

その状態を満足気に「よしっ」と発しては大剣を構えた。

 

「兵藤くん・・・・・今のは一体なんだい?」

 

「んーと、僕自身も分からないや。魔力と気を合わせたらできちゃったんだ」

 

「魔力と気の融合でその状態になれるというのか・・・・・」

 

驚嘆に値すると一誠の状態を見詰めていると、クリスタルディ猊下の目の前から消失した一誠。

次に現れたのは真後ろだった。

 

「おっと」

 

横薙ぎに払った大剣から背を一誠の方へ逸らしてかわしたまま一誠に問うた。

 

「急激に動きと攻撃の速度が上がったな。身体能力向上の恩恵があるのかな?」

 

「あっ、もうバレちゃった」

 

「相手に能力を看破されるとピンチに陥る。次は気をつけなさい」

 

何時の間にか一誠の胴体に刀身が縄のように巻きつけて浮いた状態でいさせられる。

それでも一誠は諦めていないのか、金色の翼を展開して空に飛ぼうとする。

が、しっかりと一誠を拘束している故に羽ばたかせるだけで決着がついた。

 

「と、飛べない・・・・・」

 

「キミは神器(セイクリッド・ギア)を所有しているというのだ・・・・・」

 

「えーと、ドラゴン系の神器(セイクリッド・ギア)は三つで、後もう一つはあるって聞いたよ」

 

「―――四つだと。これは驚いたな。今日はここまでだ」

 

一誠を地面に降ろして拘束を解いた。二つの得物を腰に差すクリスタルディ猊下を

見て一誠も大剣をカードの中に収納した。

 

「あの、お願いがあるんだけど」

 

「なにかな?」

 

「さっきの伸びる刀を触らして下さい」

 

「ふむ・・・・・まあ、いいだろう」

 

聖剣を扱える者は滅多にいない。一誠も扱えない一人だと思ったから

クリスタルディ猊下は聖剣を特別に触らした。渡された聖剣の感触を手の平で感じて

品定めする感じで見るが、一誠の思うようにはならなかった。

 

「うーん・・・・・形が変わんない」

 

「形を変えるイメージをすればいいのだよ」

 

「あっ、そうなの?」

 

扱い方を教えてもらった。後はその通りにするだけとばかり

一誠は―――大剣の形を念じたのか、聖剣が大剣の形になった。

 

「できたー!」

 

「・・・・・Sono stato sorpreso(おどろいた)

 

イタリア語で驚愕したクリスタルディ猊下。遠くからもストラーダ猊下の目にも

驚嘆の色が浮かんでいた。

 

「・・・・・天然の聖剣使いが目の前にいたか」

 

「ん?皆もできるんでしょ?」

 

「いや、そういうわけではないのだ。が、キミには色々と試したいことができたな。

今日から一年間。兵藤くん、キミを他の戦士たちと同様に鍛えよう。二倍も三倍にもね」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

こうして、一誠は協会に一年間鍛えられることになったのであった。

 

「クリスタルディ猊下。戦ってどうだった」

 

「ストラーダ猊下。あの子は中々の逸材です。今すぐにでも魔物討伐に出しても

問題ないかと思いますよ」

 

「今後の戦士育成に精が出るだろうな」

 

「もしかすれば、他の聖剣も扱えるのではないでしょうか」

 

「試してみる価値があるな。もしもあの聖剣を扱えるのであれば直々に鍛えてやるとしよう」

 

その日の夜、シスターグリゼルダに案内された個人部屋のベッドにゴロリと寝転がっていた。

 

「・・・・・暇」

 

傍らにいたリーラやオーフィスがいない虚無感に漏らした一言。辺りには遊具の一つも無く、

最低限必要な物しか置いていない、一緒に就寝する者もいない。

 

「うー、眠れないよ」

 

人肌が恋しいのか、他者からの温もりがないと落ち着いて眠れないようになっていた一誠は起き上がった。

そして、コッソリと扉を開けて暗い廊下へ顔を出し人の気配を感じなければ部屋から抜け出して

広場に向かった。

 

「ここなら大丈夫かも」

 

長い椅子を創造した上に金色の翼で自分自身を包み寝袋の状態でスヤスヤと寝始めた。

だが、翌朝。一誠がいないことに気付いたシスターたちが慌てて探し出して広場で

寝ている一誠を見つけては

 

「用意された部屋で寝るように!」

 

と叩き起こして厳しく注意したのであった。

 

―――○●○―――

 

「兵藤くん、外で寝たら風邪引きますよ」

 

「あの部屋だと眠れなかったんだよ・・・・・」

 

「じゃあ、どんな部屋なら寝れますか?」

 

「誰かと一緒に寝れるならいいかな」

 

椅子に座ってレティシアと話をしていた。

 

「今まで誰かと一緒に寝ていたから、急に一人で寝るようになったから寂しくて・・・・・」

 

「そうだったんですか」

 

「うん、今日も外で寝るつもりだよ」

 

「シスターに怒られたばかりじゃないですか」

 

「だって、外で寝ると夜空に輝く星が見えるんだよ?それを見ながら寝ると楽しいんだ」

 

ニコニコと笑みを浮かべた一誠。何を言っても外で寝るつもりなのだろうと

レティシアは呆れながらも、外で寝ると楽しいのか?という疑念を抱く。

 

「ねね、日程表とかないの?」

 

「決まった時間に決まった事をするんです」

 

「僕来たばかりだから分からないよ」

 

「毎日同じことをするからその内に把握できるようになりますよ」

 

微笑むレティシアが優しく答えた。そして、今日も一日一誠は教会の者として勉学を励む。

 

―――数時間後―――

 

「ううう・・・・・外国の言葉、イタリア語ってなんなのさぁ・・・・・」

 

「そ、そう言われても・・・・・」

 

一朝一夕、外国の文字を全て分かるわけでもない。相手の言葉が分かっても読み書きが

できなければコミュニケーションは完璧とは言えないのだから。

 

「レティシア先生。僕にこの国の読み書きを教えてください」

 

唯一無二の一誠が気を許せる少女に深々と椅子の上で器用に土下座をした。

最初は目を丸くしたレティシアだが、クスクスと一誠の言動に堪え切れず笑ってしまった。

 

「分かりました。私でよければ読み書きを教えます」

 

「お願いします!」

 

「では、時間までまず挨拶から教えますね」

 

休憩の合間、レティシア個人授業で一誠は知識を得ていくのであった。

そして次の授業の時間が迫った。移動して広場に赴くと祭服を身に包むクリスタルディ猊下、

ストラーダ猊下がいた。今日も悪魔と吸血鬼との戦いの授業をするのだろうかと

思いながら列に並んだ。

 

「集まったところで今日は魔獣が出没する地へと赴きコレを討伐をしに行く」

 

「魔獣?」

 

レティシアに問えば、魔の獣と書いて魔獣。人を襲う悪しき生物であり、

魔法使いの使い魔にもなる獣と教われ一誠は理解した。

 

「でも、魔獣ってどこにいるの?」

 

「森の中とか夜になると現れます。街にも現れることもあるので私たちは

魔獣から人を守る義務があるのです」

 

「へー、そうなんだ。魔獣って強いのかな?」

 

「強いですよ。でも、一緒に協力すれば絶対に勝てます」

 

「うん、頑張ろうね」

 

気合を入れる一誠と共に戦おうとレティシア。

クリスタルディ猊下から魔獣討伐の詳細の説明を聞き、その時を待つ。

 

 

―――そして、その時はようやく訪れた。とある場所で武器を持ったレティシアたちが

真剣な面持ちで歩き続けていた。集団ではなく、ツーマンセルで組んで警戒しつつ足を

運ぶ。一誠とレティシア、そしてストラーダ猊下。

 

「ねね、魔獣と戦ったことがあるんだよね?」

 

「え、えーと・・・・・実は今回が二回目なんです」

 

「ん?そうなの?」

 

「まだまだ若き信徒に日常茶飯事の如く戦闘を行わせるわけではないのだ。

教会と通じる者に手に負えない依頼が来れば我々が動き解決することが主なのだ」

 

ストラーダ猊下が説明をしたことで「へー」と相槌を打った一誠。

 

「じゃあ、吸血鬼と悪魔ってどうやって見つけるの?」

 

「悪魔は世界中にいるから同士たちの情報の元で発見し討伐する。

吸血鬼はここヨーロッパを中心に生息し夜間の間だけ活動する。

だからこうして動いている時でも遭遇する可能性は低くないのだ。

魔獣は吸血鬼が使役している時もあるのだからな」

 

「悪魔はともかく、吸血鬼って悪い人しかいないの?」

 

「なぜだ?」

 

「んー、いたら友達になりたいなって」

 

レティシアが目を丸くして驚き、ストラーダ猊下は首を横に振った。

 

「殆ど出会う吸血鬼は人の血を吸い、殺し、自分の眷属として増やす。

仮にいたとしても極一部しかいないだろう」

 

「そっか、残念」

 

「えっと、吸血鬼って危ないのですよ?会ったことがないですけど」

 

「喧嘩をすれば仲がよくなるって父さんが言うから僕もそうすればいいかなって

思っているんだけど?」

 

「ぼ、暴力で仲良くなることはあまりないかと・・・・・」

 

一誠の父親のことはクリスタルディ猊下から聞いているストラーダ猊下。

本人には言っていないが、かつて誠と戦ったことがある。

その子供の一誠が誠の血と才能を受け継いでいるというのであれば色々と納得ができる。

 

「(まだ11、12の歳でエクソシストと遜色のない実力を持つ子供。

この子供がこのまま教会の戦士と生きれば間違いなく異例の出世を目指せる。

今代の若い戦士より逸脱した戦士になるに違いない)」

 

内心そう思っていたストラーダ猊下。実力だけではなく、幅広い常識を覆す程の交流。

神王ユーストマを始めとする神話体系の神々と交流している。こんな子供がこの世に

存在しているとは思いもしなかったストラーダ猊下。

 

「ん?」

 

「どうしました?」

 

「・・・・・なんか、黒いのが来る」

 

「黒い・・・・・?」

 

「(ほう・・・・・)」

 

何かを察した一誠がジッと暗闇の向こうを見詰めた。

ストラーダ猊下が関心して様子を見守っていると、

複数の足音が聞こえてきた。足音の正体は―――。

 

 

ズンッと鈍い音を鳴らす体長三メートルの巨大な黒い獣だった。

 

 

「お、大きい・・・・・っ」

 

「おっきぃー」

 

「リーダー格の魔獣のようだな。よもや、私たちのところに現れるとは・・・・・」

 

思っていた魔獣と違ってレティシアは緊張と恐怖で身体を震わす一方、一誠は感嘆の一声。

 

「先生、これが魔獣?」

 

「そうだ。倒せそうにないかな?」

 

「倒せるもん!」

 

軽い挑発に直ぐに反応する一誠。若いと思うものの、

一誠はどうやって倒すのかお手並み拝見と姿勢でいることにした。

 

「レティシア、頑張って倒すよ!」

 

「は、はい」

 

すでに獣はこちらに食い殺さんと駆けて来ている。初撃の前足での振り払いを三人は避けた。

 

「捕まえる!」

 

獣の周囲の空間が歪み、数多の鎖が飛び出しては首と四肢に巻き付き動きを封じた。

相手の動きを止めた隙に神々しい大剣をカードから具現化してレティシアと共に攻撃を開始した。

が、獣は強引で鎖を引き千切り自分の身体に武器を突き刺していたレティシアに

向かって口を開け迫った。

 

「危ないっ!」

 

友達を庇い、逆に一誠は獣の口の中に。

 

「んぎぎぎぎっ!」

 

両手で必死に閉じかけられる上顎を支える。これは危ないかとストラーダ猊下が

動こうとしたが一誠から力を感じ始めた。一誠が眩い光を放ち、獣は背筋が凍る程の

プレッシャーを感じたのか一誠を解放した瞬間だった。身体の形を変えてグングンと

大きくなる。そして、一誠は金色の身体のドラゴンへと変わった。

 

『このっ!よくも僕を食べようとしてくれたなっ!』

 

獣と同じぐらい大きさのドラゴンが怒って迫っては殴った。

 

「・・・・・ドラゴンだと」

 

「綺麗・・・・・」

 

天使のような金色の翼に金色の輪っかがあるドラゴンをレティシアと

ストラーダ猊下の視界に飛び込む。ドラゴンと獣の戦いは圧巻と言えよう。

もはや一誠は人間ではなくドラゴンとして獣と戦うことにしたのだろう。

殴っては引っ掻かれ、頭突きをすれば鋭い歯に噛まれてと拮抗の戦いが繰り広げられた。

そして獣が奥の手とばかり一誠に向かって火炎を吐いた。

 

『あちっ!』

 

怯んだドラゴンに獣は金色の翼を生やす背へ乗るように跨っては首に噛みついた。

激痛に咆哮を上げるドラゴンに

レティシアはただただ呆然と見守ることしかできないでいた。

 

「戦士レティシアよ。お前は見ているだけか?」

 

「っ!?」

 

「戦士一誠は魔獣を倒そうとしている。お前は見ているだけか?このままでは戦士一誠は―――死ぬぞ」

 

ストラーダ猊下に指摘されレティシアは地にひれ伏される一誠を見た途端に駆けだした。

獣は一誠に夢中で背後から迫る小さな敵に気付かない。横を走り、獣の顔を捉えると

支給された武器を構えて飛びだし、血のように赤い眼を突き刺した。

 

グオオオオオオオオッ!

 

『この、やろう・・・・・!』

 

目を突き刺された際に生じる激痛に思わず噛みついていた一誠の首から離れてしまった。

だから、一誠は起き上がって逆に獣の咽喉に噛みついて力強くスイングして地面に叩き付けた。

脳天から鈍い音と咽喉から迸る獣の血液。獣の全身に力が無くなり再び起き上がることはなかった。

後に一誠も横に倒れ、元の人型の姿に戻った。

 

「ひょ、兵藤くんっ」

 

慌てて一誠に近づくレティシア。だが―――獣が最後の力とばかり顔を上げて二人に襲いかかった。

―――刹那。獣の首が宙を回った。

 

「愚かな。あのままでいれば助かっていたのかもしれないものを」

 

青と金色の剣を持ったストラーダ猊下が近づきながら漏らす。

そして唖然と見詰めてくるレティシアを余所に肩腕で一誠を抱きかかえた。

 

「魔獣討伐は終了した。帰還するぞ」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

自分が不甲斐ないばかりにと思っているのか、レティシアの表情は暗かった。

前を向いたまま歩くストラーダ猊下は自分を追うように歩くレティシアに一言。

 

「戦士レティシアのあの攻撃がなければ戦士一誠は助からなかっただろう」

 

「・・・・・っ!」

 

「最後は私の手で葬ったがよく戦ったと私は称賛に値すると思っている。

だから、意識が回復した戦士一誠と喜びを分かち合え。ではないと、戦士一誠はお前を心配するぞ」

 

返事は返ってこなかったが伝わっただろう。ストラーダ猊下は腕の中で意識を

失っている一誠に視線を落とした。

 

「(噂に聞く創造を司るドラゴンがこの子に宿っていたとは・・・・・)」

 

自分かクリスタルディ猊下でなければ騒ぎが発生にしていたに違いないと、

今後一誠の扱いとその対処について考案する必要があると思いながら集合場所に赴く。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。