HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード24

川神院の一角にて集めた落ち葉をアルミホイルで包んだ薩摩芋ごと焼き、

その時が来るのをワクワクしながら待っている面々がいた。

 

「焼けた?焼けた?」

 

「まだじゃぞぃ」

 

「じっくりと芋に熱を与えることが大事なんダ。あともう少しだから我慢ネ」

 

「田舎に帰郷した修行僧の奴が大量に薩摩芋を持って来やがったからな。

今年はその対処に困らなくて済みそうだ」

 

「一誠たちや亜巳たちがいるからな」

 

パチパチと枯れ葉を焼く音とその匂いが面々の鼻に刺激を与える。燃え盛る火を見続けていると、

二人の少女が駆け走ってきた。遅れて強面の大人に囲まれながら近づいてくる少女も。

一誠はその三人に挨拶をして出迎えた。

 

「そろそろ焼けたかのぉ」

 

「では、取り出すとしましょうカ」

 

薩摩芋を取り出し包んでいたアルミホイルを取ったルーは二つに割って具合を確かめた。

 

「うん、いい出来具合ダ。食べれるヨ」

 

「オッシャー!食うぜ!」

 

「いただきまーす」

 

「焼き芋なんて初めてだぜ」

 

「遠慮なく食べるよ」

 

待っていましたとばかり亜巳たちが食べ始めたことで一誠たちも続いて食べ始める。

そんな一時はあっという間に過ぎたとある日、川神院に揚羽と英雄が遊びに来ていた時だった。

 

「百代、一誠よ」

 

「なんだジジイ。今忙しいんだぞっ」

 

「ジェンガをやっておるお主を見れば楽しそうに遊んでおるしか見えんのじゃがな」

 

「因みに天と竜が一番負けているんだよねー」

 

「「うるせっ!」」と反論する当の二人は事実であるが為、顔中に墨でいたずら書きをされていた。

百代にも一つだけ書かれている。

 

「それでどうしたの?」

 

「うむ、二人とも出かける明日に備えて支度をしなさい」

 

「出掛ける?僕と百代だけ?」

 

「向こうは百代の強さを是非とも学ばせて欲しいと手紙に書かれておるのじゃがお主も

連れて行こうと思っての」

 

「どこにだ?」と百代が問うと鉄心は告げた。

 

「今回が初めてのケースじゃが、兵藤家で共に鍛練を行いたいと誘ってきた」

 

「・・・・・」

 

「兵藤家のところでか・・・・・」

 

一誠に視線を向けると、ジェンガをしていた時の表情とは一変して無表情になった。

過去、兵藤家でどんな目に遭っていたのか百代は知っている。だからこそ、百代は言った。

 

「ジジイ、一誠はダメだ」

 

「む?」

 

「兵藤家のところに一誠を連れて行きたくない。私も行きたくない」

 

「理由はなんじゃ?」

 

「一誠が嫌がるから私も嫌なだけだ」

 

否定の言葉と共に強い眼差しを鉄心に向けて固い意志を籠める。

鉄心は一誠と百代の顔を交互に見て白いヒゲを擦る。

 

「(よもや百代が誰かの為に庇うとはのぉ・・・・・それにこの子と

兵藤家の間になにがあるんじゃ?)」

 

「兵藤家で鍛練をか。我は是非とも参加してみたいものだ」

 

「姉上は学校があるではないですか」

 

「一日ぐらい休んでも今後に支障や影響を及ぶわけがなかろう」

 

揚羽は興味を抱き、参加の意思表示をする。鉄心はさらに補足する。

 

「うむ、合同鍛練は一日で終了する。一泊二日の強化合宿みたいなものじゃ」

 

「おお、そうなのか。それでは我も参加してもよろしいでしょうか?」

 

「それは、百代とこの子次第じゃな」

 

百代と一誠に視線を向け、答えを待つ。

 

「・・・・・(コクリ)」

 

「一誠・・・・・!?」

 

しばらく経った時、一誠は無言で頷いた。百代は理解しがたいと目を丸くし驚愕したが、

 

「・・・・・大丈夫、僕は一人じゃないから・・・・・」

 

安心させる笑みを浮かべた一誠に息を一つ吐いて徐に一誠の頭へ手を置いた。

 

「・・・・・分かった。お前は私が守ってやるからな」

 

「む、聞き捨てにならんな。我の命を救ってくれた一誠を今度は我が守ってやるのだ。何からなのか未だに理解しがたいが」

 

百代の発言にそう言うも首を傾げる揚羽。三人の言動に「決まりじゃな」と微笑ましく見て

優しい声で発した。

 

「では、明日の七時には出発する。それまで支度をするようにの」

 

 

―――翌日―――

 

 

鉄心、釈迦堂、ヒューム、百代、一誠、揚羽、オーフィス、リーラが

川神院から出発して兵藤家に赴いた。

 

「オーフィス。リーラさんを守ってね。お爺ちゃんや悠璃、楼羅、

おば・・・・・お姉ちゃん以外の人から」

 

「分かった。リーラを守る」

 

「一誠さま、私は大丈夫ですよ。私を狙う者など兵藤家にはおりません」

 

「・・・・・誰も近づけさせたくないんだよ」

 

「・・・・・一誠さま」

 

一誠の意図を気付き、口元を緩ますリーラだった。最強の龍に守られるメイド。

財宝を守るドラゴンは神話にも登場しており、一誠にとってリーラは宝そのものと等しく

触れさせたくない―――嫉妬をしたのだ。だが、一誠の頭の中では別の理由も浮かんでいるが

リーラはそのことには当然気付かない。

 

「ここに来るのも数十年振りじゃなぁ」

 

「俺はぁ始めてきたが、こいつは凄ぇな。壮大さがハンパねぇ」

 

鉄心と釈迦堂の話を聞きながら装飾と意匠が凝った巨大な門の両側に拳や足を

突き合いだしている人の像が鎮座している門の前に辿り着いた。

二人の門番が得物を手にして佇んでいる様子を見て鉄心が口を開いた。

 

「川神院の川神鉄心じゃ。兵藤家からの申し出を受けに馳せ参じてきたのじゃ」

 

「手紙を」

 

懐から鉄心は手紙を取り出して促した門番に手渡した。内容を確認し門番がもう一人の門番に頷いた。

 

「ようこそ兵藤家へ。兵藤家はあなた方を歓迎致します」

 

重たく鈍い音が聞こえず、門は左右にガラガラとスライドするように動き開いた。

 

「は?そっちかよ?」

 

思っていた展開にならず思わず突っ込んだ釈迦堂だった。

壮大な門がスーパーマーケットのガラス扉のように開いて、拍子抜けた。

 

「さ、お入りください。ご案内いたします」

 

「うむ、あの山の自然は相も変わらず豊かでいいの」

 

「ありがとうございます」

 

門を潜り兵藤家の敷地に侵入を果たすことが叶った。

始めてくる百代と揚羽は忙しなく顔と視線を周囲に向ける。

 

「凄いな。私の家より大きくて広いぞ」

 

「京都のような雰囲気を覚える。雅かな・・・・・」

 

案内する門番に続く。広々とした敷地で人口で作られた川を跨ぐ橋を渡れば古風で

巨大な建物に近づけた。釈迦堂も辺りを見渡しながら漏らす。

 

「山の麓によくとまぁこんな家を建てられたな」

 

「遥か昔、先々代の当主がこの地を兵藤家の聖地として造られたのです。

あの大きな山は我々兵藤家が修行をすることもあります」

 

「山を丸々使ってか。そいつは凄ぇな」

 

案内人の説明に感嘆を漏らす。それから歩いていると数百人の少年少女たちが

固まって集っている広場の一角に歩み寄った。すると、一誠の表情が険しくなった。

苦く辛い思いと記憶が湧きあがり―――。

 

「いっくぅんっ!」

 

「へ?」

 

 

ドンッ!

 

 

何かに襲われ一誠はゴロゴロと転がり数メートル先で止まった。

百代と揚羽が唖然と見ていると、一誠を覆い被さるように黒い長髪の少女がいたことに気付く。

 

「あ、あいつ・・・・・」

 

「知っておるのか?」

 

「ああ、確か兵藤悠璃ってやつだったな」

 

「いっくん」と何度も連呼して嬉しさを身体全体で伝える少女。

だが、いつまでもそうしていられなかった。

 

「悠璃。自分の列に戻れ」

 

子供たちの前で立っていた一人、源氏が厳しく催促した。

不満げな面持ちで源氏を見やるが、渋々と従い並んでいたところに戻ったところで

鉄心が話しかけた。

 

「源氏殿、今日はよろしくお頼みますぞ」

 

「感謝する鉄心殿。そなたの孫娘の強さを若き兵藤家の者たちの刺激になるだろう」

 

「ほっほっほっ。刺激が強過ぎてグロッキーにならんとよいがの」

 

朗らかに笑う鉄心から視線を外し、一誠たちに目元を細める源氏。

 

「何人か招かざる客がいるが・・・・・」

 

「なに刺激多いほど成長するじゃろ?ワシの孫娘のようにこの子らも強いぞー」

 

「・・・・・逆にこちらの刺激が強過ぎてどうなるかわからんぞ?」

 

「売られたケンカは孫娘が全て買う。それでよいじゃろ」

 

不敵に口角を上げて言う。兵藤家との稽古で一誠と百代はその強さを見せつけた。

だから何も心配は無いとばかり逆に挑発したのだ。

 

「ふん、特別に許してやる。―――さて、お前たち」

 

整列している少年少女たちに視線を向けながら山の方へと指を差した。

 

「一時間以内に山の頂上にある寺院から人数分置いている札をここに持ってくるがいい。

この場にいる者が全員ライバル。札をもって来た者から奪っても良し、攻撃しても構わない。

最初の鍛練は野戦。それが終えれば何時ものトレーニングと組み手だ」

 

『ハイッ!』

 

「では位置に付け」

 

ザッと何時も体験をしているのか無駄のない動きをして走る姿勢に構えた。

静寂と緊張に包まれたこの場で源氏は腕を組んだまま口を開いた。

 

「スタートだ」

 

 

ワァアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

一斉に山の方へと駆けだす少年少女たち。対して一誠たちは―――。

 

「一誠、勝負だ!」

 

「我とて負けん!」

 

「それじゃ、オーフィス。頼んだよー」

 

「いっくん、一緒に行こう?」

 

「お供します一誠さま」

 

三人から五人に増えて遅れながらも山へと向かった。

 

 

―――○●○―――

 

 

ザザザザッ!

 

「この辺りの木は太くて枝も丈夫だから上から移動した方が速いんだ」

 

「ほう、山の事を知り尽くしているんだな」

 

「・・・・・うん、まぁね。しょっちゅうこの山に来ているから」

 

木から木へと飛び移り、蹴って移動し続ける一誠たち。下では懸命に急斜面な山を登る子供たちがいて

一誠たちの存在に気付いていない。悠璃と楼羅も知っているかのように

軽々と一誠の動きに合わせている。

 

「だけど、寺院があるなんて知らなかったなぁ。二人は知ってた?」

 

「ううん、こないだまでは知らなかったよ」

 

「最近こんなことをするようになりましたので」

 

と、雑談をしながら登っていく。木から降りて地面を駆けたり他の子供たちを

通り越して行き続ければ古ぼけた外壁が見えてきた。一誠は後ろへ一瞥して前に向き歩き始めた。

 

「よう、遅かったな」

 

「・・・・・」

 

腕を組んで不敵に口角を上げて一誠を嘲笑うような仕草をする金髪に黒目の少年と取り巻きらしき複数の少年もいた。

 

「まさか、あんな弱虫が早く来るとはな。絶対に最後辺りでくるだろうと思ったのにな」

 

「・・・・・」

 

無言で話しかけてくる少年に見詰めると少年はニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「なんだ、ビビってるのか?女に囲まれてる貧弱なお前が俺たちに―――」

 

一誠は難しい顔で首を傾げ、話しかけて掛けてくる金髪の少年に指を突き付けた。

 

「お前、誰?」

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

一言で場の空気が静寂に包まれた。金髪の少年と取り巻きの少年たちもその言葉に

「え?」「は?」と呆然としていた。

 

「一誠、知らない奴だったのか?」

 

「金髪のあいつとは初めてだよ」

 

「そうか、それじゃ札を取るか」

 

スタスタと百代が動き始める。金髪の少年たちの背後の寺院の中に入れば大量の

木の札が番号を記していて百代はその札を自分のも含めて五枚を手にし、

寺院から出ると一誠たちに手渡した。

 

「これで終わりか。随分と呆気ない」

 

「いっくん。帰ろう?」

 

「後は戻るだけですからのんびりと行きましょう」

 

寺院の門を潜って外に出た瞬間。「ちょっと待てやおいっ!」と呼び止める声が

聞こえたが一誠たちは木の枝を伝って山から降りて行った。

 

「ただいまー」

 

一度も戦いで足止めされず、無事に五人は兵藤家に戻れて五つの札を源氏に渡した。

札を確認し一度頷く源氏は問うた。

 

「他の者たちは?」

 

「何度も擦れ違いました。既に到着していた男子がいましたがのんびりと寛いでいたので」

 

「・・・・・」

 

表情には出さないが内心嘆息していた源氏だった。しばらくして金髪の少年たちも戻ってきた。

 

「おい!本当に分からねぇのか!」

 

「誰だよ金髪」

 

「誠輝だ!誠輝!」

 

「・・・・・誠輝?・・・・・ああ、どうしたのその髪」

 

「お前にだけは言われたくない!先にイメチェンをしたのはお前なんだからな!

だから女にモテるようになったんだろうが!」

 

勘違いも良いところだと一誠は思った。好きでこの姿になったわけじゃないのだ。

それに、

 

「モテるってなにさ」

 

「・・・・・フザケているのかっ」

 

「・・・・・?」

 

純粋な眼差しで小首を傾げる一誠。本当に理解ができないとそう感じていると、

 

「お前は好きという気持ちすら分からないからな。モテるなんてどういうことなのか分からないだろ」

 

百代が優しくポンポンと一誠の頭を叩く。

 

「一誠、簡単に言うぞ。お前は男で私たちは女だよな?」

 

「ん?うん」

 

「んで、あっちには女が一人もいない」

 

「そうだね。で?」

 

「つまり、四人の女の私たちがお前と一緒にいるから

あいつはモテていると思っている。モテるということは

複数の女に話しかけられたり、一緒にいたり、遊んだりしている男女の様子の事を言うんだ。

分かったか?」

 

コクリと百代の説明を理解したのか首を縦に振って頷いた一誠。

 

「それって好きな人と一緒にいたいって気持ちに関係ある?」

 

「大有りだぞ一誠。現に私はお前のことが好きだぞ?」

 

「「なっ!」」

 

悠璃と楼羅が始めて目を丸くした。一誠に好意を寄せる敵が傍にいたとは

思いもしなかった故に行動も早かった。

 

「いっくんは私と楼羅が先に好きになったの!」

 

「一誠さまは渡しません!」

 

一誠の両腕を抱き付いて自分のものだとアピールしたのだ。だが、百代は態度を変える

どころか優越感を浸っていた。

 

「それだけで満足するならいいぞ。私は―――一誠と口づけをしたのだからな」

 

「「―――――っ!?」」

 

石のように固まった二人に始終笑みを絶やさない百代。揚羽は中立の立場で様子を見守っていた。

 

「・・・・・許さない」

 

「・・・・・一誠さまのファーストキスを・・・・・」

 

「あ、一誠の始めてを奪ったのは別の女だからな?私はセカンド・キスだ」

 

油に火を注ぐ百代。二人の怒りのボルテージがMAXを越え―――闇と影が生まれた。

 

「お、なんだ?」

 

「「殺す」」

 

闇と影が百代に襲いかかってきた。百代は驚きながらも

 

「ははは!なんだそれは、一誠と同じ力を持っているのか!」

 

ソレらを避け続けながらも面白そうに笑っていた。

 

「いかんな・・・・・」

 

源氏は険しい表情を浮かべ、怒りで我を忘れているのかもしれない愛娘の二人を見やる。

一度経験した闇と影を一瞥して一誠に声を掛けた。

 

「悠璃と楼羅を止めよ」

 

「え?僕が?」

 

「方法はお前に任せる」

 

そう言われ、頷くと歪んだ空間から鎖が飛び出して百代に襲いかかる闇と影を縛りあげた後に。

 

「えっと、ごめんね」

 

悠璃と楼羅の身体を縛った瞬間に闇と影が消失した。

 

「これでいいの?」

 

「ああ、すまぬな。しかし、それは能力を封印する類いのものだったか」

 

「まーねー」

 

縛られた二人は懇願する。

 

「これ解いて!今すぐあいつを殺す!」

 

「ダメだよ、百代に攻撃すると嫌いになるよ」

 

「そ、そんな殺生な・・・・・!」

 

恋する乙女は盲目ということか・・・・・。

源氏は思わず天を仰ぎ、この場を治められる人物を求めた。

 

「羅輝、羅輝!」

 

叫びだす源氏に呼応して縁からすっと現れた着物姿の女性。

 

「あらあら、なにか?」

 

「この二人を止めてやってくれ。暴走しそうだ」

 

「そうですの。あら、一誠ちゃん・・・・・ふふっ、丁度良いですわ。

一誠ちゃん、ちょっと協力してくれる?」

 

「なーに?」

 

縛られたままの悠璃と楼羅を掴み上げて一誠と共にどこかへいなくなった。

 

―――数分後―――。

 

「「・・・・・」」

 

耳まで真っ赤な二人の少女が戻ってきた。その後ろに羅輝と一誠もいて、

リーラが一誠に声を殺して聞いた。

 

「一誠さま、なにをなされたのですか?」

 

「おば・・・・・お姉ちゃんの言う通りにしただけだよ?」

 

「・・・・・羅輝さま」

 

「ほほほ、怖い顔をしたら一誠ちゃんに怖がられますよ?大丈夫、二人の特効薬という一誠ちゃんに

ちょっと大人の階段を一段、登らせただけですわ」

 

意味深な発言をする羅輝。リーラは一誠がなにをしたのか大体把握した。

そうこうしていると、山から次々と少年少女たちが降りてきた。中には戦って怪我や

汚れが目立つ子供が少なくなかった。その後、休憩をした後に数十分時間を掛けての

トレーニングが行われた。

 

「次は組み手だ。山から札を持ってきた数字で呼ぶ。

武器を使いたい者は用意した武器か自分の武器を使うがいい」

 

源氏の説明を聞き、一誠はリーラに話しかけた。

 

「リーラさん。あの剣を使っていい?」

 

「構いませんが大丈夫ですか?武器を扱ったことなどなかったはずです」

 

「何事もチャレンジだって父さんたちが言ってたから。それに負けるつもりは無いよ」

 

不敵に笑む一誠に了承したリーラは懐から一枚のカードを手渡した。

源氏が数字で二人を呼び始め、数百人の少年少女たちの前で組み手を始めだした。

組み手の様子をジッと一誠は一瞬も見逃さず組み手の一部始終を見ることしばらくして、

 

「二番と四十一番」

 

一誠がようやく呼ばれた。少年少女たちに円状で囲まれる中、一誠と相手が中央に。

相手は力が自慢なのか身の丈を超える質素な大剣を担いでいた。

 

「素手で武器を持っている俺と戦うのか?ま、手加減はしねぇけどな」

 

「別に手加減しなくて良いよ。それに僕も武器があるし」

 

「どこにだよ?」

 

「ここだよ」

 

リーラから貰ったカードが光と成って弾け

宇宙にいると思わせる程の常闇に星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、

刃の部分は白銀を輝かせ至る所に不思議な文様が浮かんでいる装飾と意匠が凝った

金色の大剣が一誠の目の前に現れた。

 

「な、なんだよそれ・・・・・」

 

「僕の武器だよ。まだこれで戦うのは慣れていないからちょうどいいや」

 

柄を掴み、前に構えた一誠に相手も構えた。審判を務める源氏が発した。

 

「始めっ!」

 

両者が地面を蹴り出して前へ大剣を振り下ろした。鈍く鋭い音が二人の戦いの合図と成り、

慣れない武器で戦う一誠の戦いは始まる。

 

「こんのぉっ!」

 

両手で横薙ぎに払う相手に対して一誠も上段から思いっきり振り下ろして受け止めた。

 

「この、バカ力が!」

 

「キミにだけは言われたくない!」

 

どちらも一歩譲らず、鍔迫り合いが続くかと思えば二人同時後退して再び斬りかかった。

振り下ろし合って刃と刃をぶつけ合い、手にまで伝わる震動と衝撃に握力の感覚がマヒをしかける

まで互いは相手を負かす勢いを籠めて武器を振るい続けた。

 

「―――ここだっ!」

 

「っ!」

 

一誠の大剣が相手に上へ弾かれてしまった。

 

「武器がないんじゃ、戦えないよな!」

 

肉薄する相手に武器を失った一誠は両手を合わせ腰にまで姿勢と共に落とした。

 

「僕の武器は一つだけじゃないよ」

 

両手の間に光る球体が集束した。空高く飛びあがって大剣を振り下ろす相手の顔には

勝利を確信した表情から一変をし、

 

「もう一つの武器は僕の身体なんだからね」

 

不敵に漏らす一誠が両手を前へ突き出して、集束した気を放った。

 

ドウッ!

 

と極太の気のエネルギー砲が相手を呑みこんだ。

誰もがその光景に開いた口が塞がらず目を大きく見開いていた。

突然起きた目の前の現象に息を呑み、思考が停止するほどだ。

 

「・・・・・ふぅ」

 

いい仕事したとばかり、溜息を吐いて上に弾かれて落ちてきた大剣をキャッチした後に言った。

 

「イェイ、勝ったよ!」

 

ドサッと落ちてきた相手に背を向け、リーラにピースサインをした一誠であった。

 

「(よもや・・・・・あの孫がここまで成長するとは・・・・・)」

 

源氏はあの頃の弱い一誠の姿形、影すら残っていないことに小さく口元を緩ました。

腹立たしいが、誠の行動も認めなければならんと心の中で思い、リーラに笑む一誠に

百代と揚羽が抱き付き、悠璃と楼羅が熱い視線を向ける光景を一瞥して組み手を進めた。

百代と揚羽も組み手を参加し、相手を負かす結果は必然的であった。


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