HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

20 / 109
エピソード20

とある日、用心棒の一件以来で一誠たちは直江大和、風間翔一、岡本一子、

島津岳人、師岡卓也と交流をするようになった。

エスデスも大人を同行させて共に遊ぶようになり、川神院にも訪れる日が多くなった。

 

「百代、次こそは決着をつけるぞ」

 

「何がなんでもこれだけは譲れないんだっ」

 

「「・・・・・」」

 

二人の間に緊張が包み、互いの顔と目は真剣味があり、一触即発の状態だった。

場所は川神院のとある和室。緊張感で張り詰めた空間の中で握りしめていた拳を―――。

 

「「―――さいしょはグー!ジャンケンポンッ!」」

 

フリフリと九つの尾を揺らす一誠の前で熱烈なジャンケン勝負を繰り広げていた。

 

 

 

「フワフワタイム♪フワフワタイム♪」

 

「・・・・・一誠・・・・・」

 

「百代は我慢をする時も必要だと思う。というか、夜になれば触らせてあげるから我慢してよ」

 

満面の笑みを浮かべるオーフィスの他にもエスデスは狐の尾の上に乗って布団のように

寝転がり堪能していた。

負けて悔しそうに羨望の眼差しをエスデスに向ける百代を呆れ窘める一誠。

 

「それで百代。用心棒の件、どうなったの?」

 

「ああ、破棄してきた」

 

「あっそうなの?」

 

「契約であろうが無かろうと頼まれば助けてやることにしたんだ。勿論、相手の話を聞いた上でだ」

 

そう言う百代の目は嘘偽りがなかった。ジィーと百代の目を覗きこむように見詰めている

一誠もコクリと頷いた。

 

「どうした?」

 

「ううん、今の百代。好印象的だなって思っただけだよ」

 

「ふふん、そうかそうか」

 

褒められては嬉しくないわけがない。百代は一誠の前に座って背中を一誠にも胸に預けた。

 

「お前の言う通り、今はこれで我慢する」

 

「ん、いい子いい子」

 

百代の頭を撫でる一誠の首に後ろから細い腕が回された。―――力強く。

 

「私を除け者にしないでほしいな」

 

「エ、エスデス?」

 

「私を構って貰わないと怒るぞ」

 

可愛らしく頬を膨らませ、面白くないと表現を窺わせるエスデスに尾で頭を撫でた。

 

「ごめんごめん。もう尻尾は良いの?」

 

「お前と話しをしたくなった」

 

ギュッと腕に力を籠めて一誠の頬に自分の頬をすり寄せる。まるで親猫に甘える子猫のようだった。

 

「んっ、くすぐったいよ」

 

「お前を気に入っているからな。聞けば歳は私の方が上だと言う」

 

「だから?」

 

「うむ、お前みたいな可愛い弟が欲しいと常に思っていた。―――ちょっと待っていろ」

 

エスデスが一誠から離れどこかに行ってしまった。

百代と「なんだ?」と首を傾げていると程なくして戻ってきた。二つの杯と酒瓶を持ってきた。

 

「よし飲むぞ」

 

「いやいや、それ酒だろ。私たち小学生が飲んではダメだ」

 

「僕は学校行っていないけどね」と訂正の言葉を発する一誠をスルーしながらエスデスは言う。

 

「共に盃を交わす仲だ。一回ぐらいは良いだろう」

 

「杯を交わす?なにをするつもりなの?」

 

「誓いだ」

 

トクトクと盃に酒を注ぎこむエスデスの言葉に二人は小首を傾げた。

そんな二人にエスデスは説明する。

 

「私の家ではな。血の繋がっていない者同士が兄弟になるとき酒が入った盃を交わして、共に飲むんだ」

 

「へぇー、何だか格好良いね」

 

「そう思うだろう?私も父さんがそうしていくのを見て来て何時か私もやってみたいと思ったんだ」

 

盃に酒を入れ終え、畳に置くとエスデスは杯を持った。

 

「この家には桜が無いのは残念だ。まあ、風景に目を瞑ろう」

 

「悪かったな。家に桜が無くて」

 

「だったら桜を植えてくれ」

 

そう言い合うエスデスと百代を余所に一誠は盃を手にした。

 

「じゃ、やろっか。僕もやってみたいし」

 

「決まりだ」

 

嬉しそうに笑むエスデスは手に持った盃を一誠に向かって伸ばそうとした。

 

「ちょっと待て!」

 

百代の待ったが掛けられ、キョトンとする一誠に不満そうな表情を浮かべる

エスデスが百代へ顔を向けた。

 

「なんだ?」

 

「どうして一誠だけその誓いをするつもりなんだ!私も交ぜろ!」

 

「まだするなよ!」と百代がエスデスのようにどこかへ行って程なくして盃を持って現れた。

 

「お前としたいとは思っていない」

 

「いいじゃん、二人より三人の方が何だか楽しいよ?」

 

「む、一誠がそう言うなら交ぜてやらんこともない」

 

「お前はどうして上から目線でその物言いをするんだ」

 

エスデスの発言に百代は不満げに漏らす。百代も盃に酒を入れ終えれば三人は高々に杯を持った手を掲げた。

そのままの状態でいると、

 

「これだけで兄弟になれるものなの?」

 

「なんだか味気が無いな」

 

「む・・・・・父さんたちがしてきた誓いとは違って確かに花が無いな・・・・・」

 

何とも言えない空気が三人を包む。だが、その空気を払うように一誠が提案の声を発した。

 

「じゃあさ、皆で何か言い合いながらしようよ」

 

「何て言えばいいんだ?」

 

「うーん、思い付きでいいんじゃない?無言でするよりはいいじゃない」

 

「恥ずかしい台詞を言わないようにすればいいか」

 

雰囲気的に一誠の提案に賛同した。まずは自分からとばかり一誠が口を開いた。

 

「僕たち三人、この場に以って兄弟姉妹の誓いを交わす!」

 

続いて百代が口を開く。

 

「生まれし日、時は違えども兄弟姉妹の契りを結ぶからには、心を同じくして助け合い」

 

最後にエスデスが杯を掲げながら発する。

 

「例え、違う道に生きようとも、私たち三人の心は何時も一つ!」

 

三人の盃が交じり合い、この瞬間を以って兵藤一誠、川神百代、エスデスは義理の兄弟姉妹となった。

 

「ところで、僕がお兄ちゃんだよね?」

 

期待に満ちた瞳で二人に尋ねる一誠だが、現実は残酷である。

 

「何を言っているんだ?お前は当然弟ポジションだ」

 

「え?」

 

「ふふふっ。可愛がってやるぞ兵藤・・・・・いや、一誠」

 

「え?」

 

 

ポンッ。

 

 

一誠の肩にオーフィスの手が置かれた。

 

「イッセーは我の弟」

 

「えええええええええええっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「ほほう・・・・・あやつら、まだまだ子供じゃと言うのに面白いことをしおって」

 

「三国志で言う桃園の誓い・・・・・ですか」

 

「本当にこの家にはが桜の木すら無いから桃園の誓いとはほど遠いがな」

 

ギャー!ギャー!と一誠が異議を言い、お兄ちゃんが良いの!と一誠の申し出に百代と

エスデスは笑みを浮かべながら却下する光景をリーラと鉄心、釈迦堂にルーが見守っていた。

 

「酒と杯を持って行ったと聞いテ、何をするかと思えばこの事でしたカ」

 

「実際に酒は飲んでおらんからの。まあ、今回だけは目を瞑ろうかの」

 

「器用に瓶の中に入れ戻していますね」

 

「証拠隠滅じゃねーの?」

 

楽しげに釈迦堂が言う。

 

「まだまだ幼い芽じゃが。これからあの子らの成長が楽しみでしょうがないのぉー」

 

「はい、真っ直ぐ成長してくれると嬉しい限りです」

 

「どいつもこいつも危なっかしいがな」

 

「それを正しく導くのが我らの役目だよ釈迦堂」

 

「うむ、ルーの言う通りじゃて」

 

―――○●○―――

 

季節は夏となった。一誠は数多くの友人を得て、力も増していく。そんなある日のこと、

 

「き、気持ち悪い・・・・・」

 

夏風邪を引いてしまった一誠であった。

 

「38.7・・・・・」

 

「こりゃ、念のために病院に連れていった方がよいじゃろう」

 

「ですネ」

 

鉄心たちはそうしたほうが良いと話し合うがリーラだけは難しい面持ちをする。

 

「どうしたんだ?」

 

「兵藤家の子供、その上ドラゴンである一誠さまを一般の病院に連れていくのは

正直不安なので反対なんです」

 

「ふむ、そう言われると確かにそうじゃが、今はそうもいかんじゃろう」

 

「そもそも人間とドラゴンの違いが、医者が解るものか?ま、俺が病院に連れていってやるよ。

その格好じゃ、目立つ上にかえって坊主はただ者じゃないって思われちまうからな」

 

「もしも、問題が起きた場合はハ我々に任せて欲しイ。九鬼家の方にも助力を求めル」

 

と、周りからの説得にリーラは未だに不安を胸に抱きつつも一誠は葵紋病院に連れて

行くことに決まった。百代は一誠の看護をしたいと言うが平日の為、

学校に行かなければならなかった。

 

 

―――葵紋病院―――

 

 

「夏風邪ですね」

 

「ああ、それはわかっているって先生よ。早く風邪に効く薬をくれねぇか?

この坊主を預かっている身だからもしも大変なことになったら偉い目に遇うんだよ」

 

「分かりました。では、薬を用意します。受付の方へとお戻りください」

 

医師からの指示に釈迦堂は従い、辛そうに全身で息をする一誠を待合室へ連れていく。

 

「おい坊主。大丈夫じゃないだろうが大丈夫か?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

「もうちっとだけ頑張れよ」

 

言葉で応援するしかない状態の釈迦堂は薬を用意してくれる医師を待つこと数分。

 

「お待たせしました」

 

釈迦堂に話しかける男性の声が聞こえた。ようやくかと思い立って顔を男性の方に向けると、

 

「兵藤くんの『入院』の手続きが完了しました。さぁ、ご一緒に来てください」

 

「あ?入院だと?」

 

薬を貰い受けに来ただけなのに入院とはどういうことだと内心怪訝に思いつつ、

眼鏡を掛けた物腰が柔らかそうな中年男性を見詰める。

 

「誰だアンタ」

 

「これは失礼、私は当病院の院長を務めております葵紋と申します」

 

「ああ、院長さんか。で、どういうことだ。俺は薬を貰いに来ただけなんだぜ」

 

「薬よりもここで入院して頂いた方が最も合理的かつ風邪を早く治せます」

 

「あー、確かにそうだろうけどな。だが―――」

 

「ここで私どもが口論をしても兵藤くんの病態が悪化するばかりです」

 

院長がパチンと指を弾くと数人の医師と車輪付きの寝台が現れた。

釈迦堂の有無を言わさず一誠を寝台に乗せてガラガラとどこかへ連れて行ってしまった。

 

「おいおい、勝手に家で預かっている坊主を連れていくんじゃねーよ。

何度も言うが俺は薬を貰いに来ただけだってのによ」

 

「いいえ、そうもまいりません。私はこの病院の院長であり一人の医師でもあります。

怪我や病気を治すのは我々医者の務めであり使命なのです。―――かの兵藤家のお子さんを

粗末な扱いなどできませんし、当病院に来てもらえるなどこれ以上のない光栄の

極まりなのですからね」

 

そこで釈迦堂は気付いた。この院長は兵藤家の人間を治療し、

兵藤家に感謝と自分の病院のPR、ゆくゆくは日本の天皇である兵藤家と

お近づきを得ようと考えているのかもしれないと。

 

「・・・・・あの坊主は治療する必要は無いぜ。ただの夏風邪だからな」

 

「精密な健診もし、当病院でゆっくりと回復してもらうことを望んでおります」

 

「そうかい、そいつはありがたいねぇ。でよ、坊主が運ばれた病室はどこなんだ?まさか、

川神院が預かっている兵藤家の坊主を横取り、独占して利益を得ようと考えちゃいねぇだろうな?」

 

野性味たっぷりな笑みを浮かべ、院長にあからさまに勘ぐる。院長は釈迦堂の物言いに苦笑を浮かべながら否定した。

 

「そんな誠に末恐ろしいことを私がするわけがございません。そのようなことをすれば

この病院は物理的に文字通り潰されてしまいます。そんなことになればこの病院を頼りに

している一般人の方々のご迷惑をおかけします」

 

「ま、それもそうわな。んじゃ、坊主の病室を教えてくれないか?

じゃないと坊主の両親に来てもらって分からないんじゃ困るだろうからな」

 

さらっと「1352号室です」と釈迦堂の申し出に応じた院長だった。

 

「その部屋だな?わかった、一旦家に戻らせてもらうぜ。また来るがよ」

 

「またの御来訪をお待ちにしております」

 

深々とお辞儀をする院長に背を向け、玄関の方へと歩き始める釈迦堂だったが、

 

「ああ、そうそう。一つだけ言い忘れていた」

 

院長に振り返り一言。

 

「あの坊主、九鬼家と交流をしているんだわ。また来る時、

九鬼家の坊ちゃんと嬢ちゃんを連れていくからそこんとこ覚えておいてくれや」

 

 

―――○●○―――

 

 

「で、あなたは薬どころか一誠さまを病院に置いて自分だけノコノコと帰って来やがったのですね?」

 

「あー・・・・・坊主のメイド?そのすげぇ力を感じる槍を突き付けないでくれないか?」

 

「自分で買って出て相手に言い包められて、一誠さまを病院に任せてしまった

貴方がどの口を言うんですか?」

 

「はい、本当に心から申し訳ございませんでした」

 

絶対零度を纏いしリーラが釈迦堂へレプリカのグンニグルを突き付ける。

冷や汗が止まらない釈迦堂は他人事のように今日は命日かなーと思いながら

乾いた笑みを浮かべることしかできないでいれば、リーラは嘆息した。

 

「だから私は反対したのです。兵藤家から離れた兵藤家の者はある意味格好の餌食なんです。

事情を知らない者たちからすれば、兵藤家に恩を売れば売るほど、

貸しを作れば作るほど自分に返ってくる利益は凄いのだと思う輩がごまんといるのです。

一誠さまはそのような無粋な者たちに近づけたくなかった」

 

「で、結局どうするのじゃ?」

 

「病院に入院してしまった以上は、手出しはできません。私はこれから一誠さまの

ご様子を見に行きます。オーフィスさま、ご一緒に」

 

歩き始めるリーラに続くオーフィス。一誠がいる病院へと赴く気満々なのが伝わり、

誰も止めようとはしなかったが、外から聞こえる騒音が二人の足を止めた。

 

 

『ふははははっ!九鬼揚羽、降臨である!』

 

『同じく九鬼英雄、参上である!』

 

 

高らかに名乗り上げる男女の声。この場にいる全員が知っている子供の名前であった。

 

「あいつがいないってのに、随分騒がしいガキ共が来たじゃないか」

 

「そうじゃのー」

 

全員が縁に現れると黒い執事姿の大人たちがずらりと立ち並んでいて、

上空には一機のヘリ。そしてたった今ヘリから降りて来たばかりの

二人の子供が威風堂々と立っていた。

 

「一誠はいるか?我らが遊びに来たぞ!」

 

「そして我らを助けてくれたお礼をしたく、プレゼントも用意してきた!」

 

大小様々な箱を執事たちが上に掲げて見せ付けた。だが、当人たちの求める人物はこの場にいない。

 

「申し訳ございませんが、一誠さまはいまこちらにはおりません」

 

「む?いないだと?どこかに遊びにでも行ったのか?」

 

「いえ、葵紋病院にいます。夏風邪を引きましてしばらく入院するかと思います」

 

一誠のいない事情を説明したリーラ。これからその病院に行くところだが

このタイミングで現れた九鬼姉弟を蔑ろにするわけにもいかなく教えなければならない。

例え、教えなくても説明しなくても九鬼家は様々な力と動員を行使して情報を集めだすだろう。

 

「なに、風邪だと!?」

 

「ドラゴンでも風邪を引くのだな・・・・・」

 

「あ、そう言えばそうだな?」

 

「そうじゃの。あの子は元人間とは言え、風邪を引くんじゃな」

 

「意外ですネ」

 

ドラゴンが体調を崩すと言う事実にドラゴンを見たことが無い鉄心たちにとって

興味を抱かないわけがないのだった。

 

「ならば我らもお見舞に行く。構わぬか?兵藤の従者よ」

 

「ええ、構いません。一誠さまもお喜びになるでしょう」

 

「クラウディオ、お前も付いて来い。プレゼントは一先ず中に入れさせてもらおう」

 

「はっ、かしこまりました」

 

恭しくお辞儀をするクラウディオに英雄は「それにしても」と呟いた。

 

「兵藤がトーマの父親の病院に入院するとはな」

 

「トーマとは?」

 

「うむ、葵冬馬。同じ学校にいる我が友の名前であり渾名だ」

 

「そうでしたか。それは知りませんでした。因みに英雄さま、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「なんだ?申すがいい」

 

「あなたさまは、一誠さまとはどういう関係ですか?」

 

何かを確かめる視線で英雄を見詰め、尋ねるリーラ。一誠と交流をしているとはいえ、

それはただのお付き合いで共にしているのか、

それとも友人として交流しているのか・・・・・。

 

「ふはははっ、決まっておる。兵藤とは、あやつとは―――」

 

英雄の発した答えは・・・・・リーラを小さく笑みを浮かばせるものだった。

 

 

―――葵紋病院―――

 

 

再び病院に戻った釈迦堂の他にもリーラたちが訪れた。一誠がいる1352号室に赴く。

 

「お、ここだ」

 

見つけたと釈迦堂が漏らし、面談拒絶というプレートを眼中無しとばかり扉を開け放った。

 

「・・・・・なんだぁ?」

 

病室の中は美人なナースが数人ベッドに取り囲み、

ベッドの中で目を開けている一誠を世話している。まるで王さまのような扱いで

お持て成しされていて一誠は寝るにも寝れない状態でいた。

そんな様子を見ていると釈迦堂たちが戦慄するほどの一瞬のプレッシャーを感じたと

同時にナースたちが急に崩れ落ち、床に倒れ込んだ。

 

「・・・・いまの、お前か?」

 

「なんのことでしょうか」

 

釈迦堂の問いにリーラはしれっとした態度で返事をする。

 

「ただの威圧で他者の意識を落とすとは・・・・・流石は兵藤家の従者ですな」

 

「何のことだか分かりませんが、訂正してください。元従者でございます。

私は一誠様専属のメイドなのですから」

 

「これはこれは申し訳ございませんでした」

 

微笑みながら謝罪の言葉を発するが、それでもクラウディオは言葉を変えようとは思わない。

一誠の傍に近寄り、そっと顔を近づけたリーラ。

 

「一誠さま、ご気分はいかがですか・・・・・?」

 

「・・・・・寝かしてくれないから、困っていた」

 

「今ならばゆっくりと眠れますよ」

 

安心させる笑顔を浮かべ、そっと一誠の頬を撫でる。

リーラのひんやりとした手が一誠の心を穏やかにさせ落ち着かせる不思議で一誠が好きな手だ。

撫でられ、嬉しそうに目を細めると

 

「うん、ありがとう。あ、九鬼くんたち来たんだ」

 

英雄たちの存在に気付き目を向ける。英雄と揚羽は一誠の傍により口を開いた。

 

「大丈夫であるか?」

 

「ん、なんとか」

 

「お前が風を引くとは思わなかったぞ」

 

「ドラゴンでも風邪引くんだね。僕もそう思ったよ。

ね、リーラさん。ドラゴンでも大人が作った薬が効くのかな?」

 

「申し訳ございません。私でも分かり兼ねます。後にアザゼルさまにお伺いしたしますので」

 

リーラの返答に「わかった」と返事をする。

 

「ところで僕、この病院で寝なきゃいけないの?」

 

「ああ、そういうことになるだろうな。どうした?メイドと寝れなくなるから嫌か?」

 

「ううん、嫌だから」

 

「嫌?」何に対して一誠は嫌がっているのかこの場にいる全員が小首を傾げる。

 

「おい坊主、何が嫌なんだ?」

 

「院長って人、目の奥が黒いんだもん。あの目、僕を苛める人と同じだよ。

優しく話しかけてくるけどさ、きっと後で僕を何かするつもりだよ。だから嫌なんだよ」

 

「「「・・・・・」」」

 

リーラと釈迦堂、クラウディオはオーフィスと英雄、揚羽を残して部屋から出た。

 

「おいメイド。坊主が言っていることはどう思う?」

 

「一誠さまがふざけて言う御方ではございません。

まだ孤独だった時に一誠さまが得た人の善し悪しを見極める才能・・・・・によるものでしょう」

 

長念一誠の傍にいたリーラだからこそ知る一誠の過去。

皮肉にもその才能がここで発揮するとは複雑極まりない。

そして、もしも一誠の言葉が本当ならば周りからの評価が高く、評判も良いこの病院に

闇を抱えているのかもしれない。

 

「ふむ、少し九鬼家が探りを入れましょうか」

 

「あ?急に何言いだすんだ?」

 

「いえいえ、まだ先のことですが九鬼家にとっても重要な事を実施します。ですので、

街の闇を事前に排除しなければならないのです。まぁ、それも遅かれ早かれしないと

いけないことですがね」

 

クラウディオは意味深な事を言う。リーラと釈迦堂は勿論その意図も理由も理解に苦しむ。

 

「兵藤さまはまだ子供だと言うのに慧眼の持ち主ですな。九鬼家の為に働いてもらえると

よき従者になるでしょう。序列もきっと一桁に昇り詰める潜在能力がございます」

 

「九鬼家に働かせるほど一誠さまは安くないです」

 

バッサリと切り捨てるリーラ。クラウディオは大して気にせず微笑むだけ。

 

「ですが、そのようなことをしてよいのですか?」

 

「大丈夫でございます。しばらく入念な調査をする為お時間は掛かりますでしょうが

問題はございません」

 

「九鬼家が動くと企業の裏とか闇が裸にされるなこりゃ、おー怖い怖い」

 

大袈裟な反応を示す釈迦堂。だが、後に九鬼家は葵紋病院を徹底的に入念な調査の結果。

葵院長は黒だと断定し九鬼家による制裁が行われたのだったが、

警察沙汰にはならず密かに一つの闇は摘まれた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。