HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード18

悠璃と楼羅を宥める為、兵藤家に居着くようになって早三日。一誠が清涼剤としての役目が

発揮し、爆発寸前であった二人を押さえる効果が出て一部の兵藤家の者は安堵で胸を撫で下ろす。

そして今日も一誠と言う存在がいるだけで物事は順調に進む。

 

「え?僕も海外に?」

 

昼食時間中に源氏から発せられた海外の同伴。源氏は頷き言い続ける。

 

「選り抜きされた兵藤家の女性が舞を海外のとある会場で披露する。

世界各地に存在する会社や企業といったトップの人間たちが兵藤家の舞を観に集まる

行事が明後日行われるのだ」

 

「じゃあ、悠璃や楼羅も舞をするんだね?」

 

「その通りだ。だが、明日の為に舞を練習しないとダメだったのだが・・・・・」

 

「もしかすると一誠さまを呼び寄せたのは、舞を成功させたい為に悠璃さまと楼羅さまの

やる気を出す為だったのですか?」

 

リーラの指摘にまた頷く。

 

「兵藤家の舞は大切な行事の一つだ。世界に舞を見てもらえば次は二日後、

日本の神々にご披露せねばならないのだ。そんな大事な日に娘たちが本格的の踊りの

練習を怠ったままイザナギさまやイザナミさま、アマテラスさまやスサノオさまと

言った日本中に存在する神々に舞を観させるわけにはいかぬのだ」

 

「・・・・・なるほど、側近の方も必死になるわけです」

 

「今回、悠璃と楼羅は初めて人前で舞を披露する。その為に一誠。お前と言う存在が

二人の緊張を解す役割になってもらいたいのだ。頼めるか?」

 

「うん、いいよー。僕も観てみたいし二人の頑張って踊ってるところさ」

 

あっさりと了承した一誠。悠璃と楼羅に顔を向け笑顔で応援した。

 

「悠璃、楼羅。頑張って踊ってね?僕も応援するから」

 

「うん、いっぱい応援してくれたら舞を成功させるね」

 

「観ていてください一誠さま。私たちの舞を」

 

二人もやる気が満ち溢れていることに源氏は満足気に頷いた。

 

「と、すれば・・・・・誠さまも観に来そうですね。元当主であった方なので

この時を把握しているのではないでしょうか?」

 

「来たら来たで追い返してやるわ」

 

腕を組んでそんな物言いを言う源氏だった。だがしかし、誰もが気付かない。

その日はとんでもないことが起きるとは一人とて思ってなどいなかった。

 

―――○●○―――

 

 

某国のとある場所で敷かれたレッドカーペットに豪華絢爛と宝石を身に付け衣装の姿で

歩く男性と女性に数多のカメラのフラッシュが浴びせられる。その中には九鬼財閥の

一家も姿を現し後にメインとばかり最後に現れた兵藤家。

 

「やっぱり、キミたちも来たんだねー」

 

「フハハハッ。当然であろう。我が九鬼財閥も参加せな場ならぬ大イベントでもあるからな」

 

「母上も楽しんでおるほどだ。我らも見たいからな」

 

まだ人が集まっていないまばらな会場のホール、最前席で腰を下ろして待機している

一誠、英雄、揚羽が雑談する。リーラは表で誰かを出迎えるためこの場にいない。

オーフィスも一緒である。扇子状に席が設けられ、

 

「キミたちの両親は?」

 

「舞が始まる時間はまだあるからな。パーティ会場で他の企業のトップの者たちと

交流をしている。我らはここで待っておることにしたのだ。丁度お主もおるし」

 

英雄の言う言葉に一誠は「そっか」と返して赤い幕で隠されているステージを見詰める。

源氏もまたパーティ会場におり、周りから話しかけられているだろうと頭の中で思いながら悟る。

 

「ところで、執事さんは?銀髪の」

 

「陰ながら我らを見守っておるはずだ」

 

「ふーん、見当たらないけどどこかにいるんだ」

 

「クラウディオほどの者は姿を隠すぐらい造作もないのだ」

 

「おおー、凄いね。忍者みたいなこともできるのかな?」

 

「きっとできる。今度頼んでみよう」

 

三人の子供の会話は舞が始まるその時まで絶えなく雑談して待っていたと、

遠くから監視していたクラウディオの視界に入っていたのだった。

 

 

 

 

 

「久し振りだな。リーラとオーフィス。一誠は中か?」

 

「はい、お友達もおりますので会場の席にてお待ちしております」

 

「あらそうなの。一誠も段々友達が増えていくわね」

 

待ち人が正装の状態で現れた。リーラは誠と一香を出迎え会話の花を咲かせる。

 

「悠璃と楼羅、舞の方はどうだ?」

 

「一誠さまが見ている手前、お見事な舞をご披露してくれます」

 

「恋する乙女の力は絶大ね。さて、私たちも入りましょうか。先に現当主に顔を出しましょ?」

 

にこやかにほほ笑む一香の発言にここ一番嫌そうな顔を浮かべ出した誠が

 

「一香、それは別にいいだろ」

 

「ダメよ(ガシッ!)」

 

「ちょっ、一香?どうしてそんな力強くこういう時だけ俺の意思を無視するんだっ!?」

 

一香に襟を掴まれ、ズルズルとどこかへ連れて行かれる姿をリーラやオーフィス、

カメラマンに捉えられていた。

 

「・・・・・」

 

その時、誠が真剣な表情を浮かべた。

 

「一香、放してくれ」

 

「ダメよ。一誠のところに逃げるんでしょ?」

 

「そうじゃない。気になるものがあるんだ」

 

「気になるもの?」

 

そう言われ襟を解放した一香。誠はリーラに問うた。

 

「ここの警備の配置は分かるか?」

 

「建物中には九鬼財閥の従者や警備員、この周囲の建物の中や屋上にはスナイパーが

配備されていますがなにか?」

 

「ん」

 

誠がある場所へ指を差した方へ視線を向ければ、何かを包んでいる物を抱き抱えて

何かを待っているように微動だにしないフードを深く被っている子供がいた。

 

「あの抱きかかえている物が気になってな。まるで誰かに奪われさせないような抱え方だ」

 

「言われてみれば・・・・・もしかして、何かの売買?」

 

「それだったら何もこんな重要人物たちが集まる場所、この厳重に警戒している

空間にいるわけがない。尚もここに留まる理由は限られる。―――自爆テロとかな」

 

一香とリーラが息を呑む。―――その時、上空から爆発音が聞こえた。

誰もがその音の原因を知ろうと、見ようとして視線を意識して上へ向けた直後。とある高層ビルの建物が黒煙を燃え盛る炎と共に発生していた。

 

「やっぱりテロかっ!」

 

「―――見て、航空機が!」

 

明らかに様子がおかしい飛行機が真っ直ぐ火災が発生している建物に向かって―――自ら突っ込んで

再び大爆発が起きた。その建物は最悪にも兵藤源氏たちがいる建物だった。

 

「ヤバいなっ。親父はしぶといから生きるだろうから放っておいても問題ないが、

他の人間はそうじゃない」

 

「誠、助けに行きましょう」

 

「分かってる。リーラ、お前は一誠のところに戻って外に避難していろ」

 

「分かりました。オーフィスさま」

 

「ん」

 

誠と一香が会場から離れた様子を一瞥してオーフィスとリーラは一誠のところへ戻ろうとした。

だが―――何かを包んだものを抱き抱えた複数の子供が何時の間にかリーラたちよりも

早く動いていて会場の出入り口に入って言った瞬間。眩い閃光と共に凄まじい衝撃と

熱風がリーラとオーフィスを襲った。

 

―――○●○―――

 

「ん?何か揺れたような」

 

「我は感じないが、姉上は?」

 

「我もだ」

 

「んー、気のせいだったのかな?」

 

一瞬感じた震動。だが、会場は完全防音に耐震動で設けられた施設である。外で起きている事件など

子供である一誠たちは知る由もないし露にも思わない。加えて携帯や無線の使用を

由緒ある踊りをする兵藤家の前にそれは無粋で愚行な行為だと許されずジャミングが完璧に施されている。

クラウディオが外部からの連絡も伝わらない。ただし、機械での伝達のみであればそうだったろう。

一誠たちを遠くから監視していたクラウディオに九鬼家従者部隊の一人が焦った表情で駆け寄り耳打ちした。

 

「テロですっ。この会場を狙ったテロリストによる攻撃が行われております。

玄関ホールは爆発によって塞がれ外へ出ることができません」

 

「わかりました。では、非常口に会場の皆様を誘導しましょう。

他の者たちにもこの事を伝え警戒するように」

 

「はっ!」

 

最悪な展開が起こった。予想をしていたことだが実際に起こるとはクラウディオに

とっても起きて欲しくない現実である。そう―――目の前で天井が崩落し、

観客席に落ちるその光景さえもだ。

 

「まさか・・・・・ここまでしてくるとは・・・・・!」

 

今回のテロリストにしてはあまりにも用意周到でこの会場を狙ったその手際に舌を巻く。

会場は瓦礫によって煙が充満し視界が遮られ状況が把握できない。

その頃、誠はどうしているのかと言うと―――。

 

「この穴の中にくぐれば外に出られる!慌てずこの穴の中に!」

 

誠が空間を歪ませて開けた穴の向こうは会場の外の光景が見えて誘導する誠の言葉に

我先と取り残されている人々が穴の中へ殺到する様子を見守ると、

直ぐに上階へ昇っては同じように非難を誘導させる。何度もして階段に昇って行くと、

 

「親父!」

 

「誠か!」

 

パーティ会場と思しきフロアに到着した。テーブルや料理が散乱していて、

下へ降りようと避難する人たちと声が見聞する。

 

「何が起きている。分かっていることを説明しろ」

 

「どうやらテロのようだぜ」

 

「テロ・・・・・だと」

 

「いま一香はこの建物の外を見張っている。航空機が二機も直撃して来やがったんだ。

また来るかもしれない。しかも、一誠がいる会場にも自爆テロが起きて凄惨としか

言えようがない事態になってる」

 

状況を説明した誠の服に小さな手が四つ引っ張る。

 

「いっくんは?いっくんは大丈夫なの!?」

 

「大丈夫ですよね?一誠さまは・・・・・大丈夫ですよね!?」

 

着物の姿の悠璃と楼羅が不安の色を顔に浮かばせて問う。誠は一瞬悩むが二人の視線と

合うように跪きポンと頭に手を乗せた。

 

「大丈夫だ。あいつは俺の息子だ。絶対に無事にいるはずだ」

 

安心させる笑みを浮かべ、誠は立ち上がる。

 

「親父、取り敢えずアンタらも非難しておけ。兵藤家の現当主がここで怪我なんてだけ

でも大騒ぎなんだからな」

 

「ふん、もう既に大騒ぎになっておるわ」

 

空間に穴を広げ、外に繋げながら誠は源氏に声を掛けた。

 

「ここにこれを設置しておく。じゃあな」

 

あっという間に源氏たちから離れて上階へ向かった。

 

「お父さん・・・・・」

 

「大丈夫だ。さあ、外に出よう」

 

既にパーティ会場には人っ子一人もいない。源氏と悠璃、楼羅だけとなっていて

三人は誠が作ってくれた穴の中へ潜って建物の外へと脱出に成功したのだった。

そして、一誠たちがいる会場では・・・・・。

 

「だ、大丈夫・・・・・?」

 

天井から落下してきた瓦礫を波紋のように揺らがせながら空間から伸びる幾多の鎖が

宙で瓦礫を受け止めていて押し潰されずに済んでいた。揚羽と英雄も無事であったが

一誠は辛そうな表情を浮かべている。頭から血を流し、顔は血で濡れ汚れていて

首から下までが瓦礫で挟まれている状態で意識だけが鎖を保ち続けている。

 

「ひょ、兵藤・・・・・っ」

 

「先・・・・・謝っておくね。押し潰されて死んじゃったら言えなくなるし」

 

「バカなことを申すな!きっとクラウディオやヒュームが助けに来てくれる!それまで

意識を保っていろ!」

 

「簡単に言ってくれるけど・・・・・息がし辛くて結構きつい状態なんだよ」

 

肺に圧迫している瓦礫が血管さえ多大な負担を掛けている。ドラゴンの身体とはいえ、

負荷が掛かる影響は人体に及ぼすことは変わりない。長時間全身を圧迫すれば血液の流動が

少しずつ遅くなり、心臓や肺といった臓器に送れずやがて最悪死亡する。

 

「英雄、この瓦礫をどかすぞ」

 

「うむ!」

 

揚羽と英雄が動き始め、瓦礫を協力してどかし始める。

 

「兵藤、死ぬなよっ」

 

「お前が死ねば我らも死んでしまうのだからなっ」

 

どかしながら語りかける。一誠の意識を保たせる為に絶えず言葉を投げかける。

しかし、そんな二人の頑張りを嘲笑うかのようにどかした瓦礫によってさらに

積み重なっていたところが崩れやすくなってしまいガラガラと大量に落ちてくる。

揚羽と英雄はその光景を唖然と見ていることしかできなく

空間から出てきた鎖に落ちてくる瓦礫を防いでくれたおかげでピンチは免れた。

 

「瓦礫をどかすなら・・・・・慎重にどかさないと・・・・・」

 

「兵藤・・・・・!」

 

「今のでもう限界・・・・・瓦礫を支えるのも苦労するんだからね」

 

絶え絶えに言葉を発する一誠。鎖もギシギシと軋み一誠の言う通り

支えが不安定になっていることが分かる。

気を抜けば大質量の瓦礫が一気に振って来て今度こそ三人の子供を押し潰すだろう。

揚羽と英雄は瓦礫をどかすのを止めて静かに一誠へ話しかけるだけに専念した。

 

「すまぬ、我らが役立たずで・・・・・」

 

「ううん。その気持ちだけも嬉しいよ」

 

「ヒュームやクラウディオはまだか・・・・・っ。

このままでは兵藤の命が危うい・・・・・!」

 

「携帯の電波が繋がっていてくれるとありがたいが」

 

携帯を取り出して確認しようとする英雄。

 

「生憎、我らは携帯など持っておらん」

 

―――取り出す仕草をした英雄に揚羽が溜息を吐く。携帯があると思わせた英雄に一誠がツッコンだ。

 

「・・・・・ジョークだよ九鬼くん」

 

「ふはははっ。無事に生還したら父上に頼んで携帯を用意してもらおう。その時は兵藤、

お前の分も用意してやろう」

 

「・・・・・使う機会が無いと思うからいいよ」

 

「遠慮するではない。いずれ世界を統べる我が言うのだ。貰っておいて損は無いぞ」

 

「・・・・・兵藤家に喧嘩するんだ」

 

「い、いや・・・・・そうではない」

 

じゃあ、どうなんだよと内心思う一誠に危険な状況が続く。

ふと、視界の端に小さい影が映った。黒い長髪に黒い瞳、まるで人形のような女の子がいた。

 

「キミ、大丈夫?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

「む、我らと同じく生き埋めになっていた者がいたとは」

 

「こちらに来い。そんなところよりこちらの方が安全だ。今はな」

 

九鬼姉弟の催促に少女は近づく。死ぬ恐怖故に言葉が喋れないのかジッと

純粋な目が一誠に向けられる。

 

「・・・・・こんな時になんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「二人って仲良いよね」

 

ポツリと呟いた一誠の言葉を揚羽と英雄は顔を見合わせた。

 

「姉弟であるからな。当然であろう?」

 

「当然・・・・・か」

 

「なんだ、兵藤はもう一人兄弟はおるのか?」

 

「・・・・・いたね・・・・。そんな人が」

 

いた・・・・・?英雄が漏らした呟きに一誠は肯定した。

 

「うん。仲が良い二人を見ていると何だか羨ましいと思う。

僕なんて・・・・・兄弟じゃないって散々否定されてきたから・・・・・」

 

「「っ!?」」

 

「でも、兄弟がいなくても幸せだよ。友達だっているし、大好きな家族も傍にいてくれるからね」

 

そこで一息吐き、そのまま無言になる。

 

「お、おい・・・・・?」

 

「なに?」

 

無言になった一誠が直ぐに返事をした事で英雄と揚羽が安堵で胸を撫で下ろした。

 

「無言になるな。心配するだろう」

 

「ああ・・・・・ごめん、けど話すのも疲れてきたから無言になっているよ」

 

「無言になるな。死んでしまったのかと思うのだ」

 

「目を覗きこんでくれれば死んだかどうかわかるでしょ・・・・・」

 

溜息混じりの息を吐き無言になっていると揚羽が一誠の目を覗きこみ始めた。

 

「「・・・・・」」

 

何とも言えない空間に一誠は堪え切れず揚羽の視線から逃れるように顔を背けたら、

 

「見えない、背けるな」

 

顔を両手で掴まれて元の位置に修正された。その状態のまま一誠の垂直のスリット状の

金色の双眸は揚羽の目に覗きこまれる。

 

「・・・・・ふむ」

 

「な、なに・・・・・?」

 

「兵藤、お前の目を改めて見たが中々どうして・・・・・」

 

揚羽の意図を掴めない一誠。自分の目を見てれば分かると言ったものの、

やはり凝視されては緊張や羞恥で顔を動かし揚羽からの視線を逃れたいと必死になる。

 

「こら、動かすな」

 

「やっぱり止めて。恥ずかしい・・・・・」

 

「男のくせに何を恥ずかしがる。お前が言いだしたことであろう。さあ、我に見させろ」

 

「ううう・・・・・」

 

「ふふふっ、初々しい反応をするお前を見ておると弄りたくなるではないか。ほれほれ」

 

「姉上、あまり兵藤をからかうではありませんぞ」

 

「よいではないかよいではないか」

 

「それ、時代劇に出てくる悪い殿さまの台詞っぽいよ」

 

こんな危険な状態と状況の中でいるからか、楽しげな雰囲気が包まれ始める。

 

 

ビシッ!

 

 

瓦礫を支えている鎖に罅が入るまでは。

 

「・・・・・本当に止めて、気が散って支えることができなくなるから」

 

「・・・・・すまぬ」

 

一気に緊張感が一誠たちを包みこみ、静まり返った。

 

「悠璃と楼羅・・・・・大丈夫かな・・・・・」

 

「誰だ?その者は」

 

「僕の友達だよ。今日、舞を踊る予定だったんだ」

 

「そうなのか・・・・・」

 

「うん、頑張っている姿を見たかった・・・・・」

 

遠い目で語る一誠の視界に罅が生じた鎖。そろそろ限界が近いと感じた時に他の鎖にも

罅が生じ始めた。

 

「ごめん・・・・・限界かも」

 

「いや、お前はよくやった」

 

「そうだ。死ぬ時は一緒である」

 

「・・・・・」

 

揚羽と英雄は一誠を責めず笑みを浮かべる。死期を悟り、

死を受け入れる年齢にしてはまだまだ早過ぎる。

あまりにも早過ぎる死、あまりにも大人びいている三人についに―――鎖が支えきれず

甲高い音と共に引き千切れ、大質量の瓦礫が押し寄せてきた。

 

「(・・・・・ごめん、皆)」

 

その光景を他人事のように見詰め、心の中で謝罪をした瞬間。

 

―――このまま死ぬつもりですか。

 

一誠に話しかける存在がこの時になって現れた。

 

―――守れる力を有している貴方がこのまま死ぬつもりですか。

 

「(キミは・・・・・)」

 

―――あなたはまだ死ぬべきではありません。さあ、最後の力を振り絞り限界を超えて

この窮地から脱してください。

 

「(力を・・・・・貸してくれるの?まだ―――わからないっていうのに・・・・・)」

 

―――これから分かってもらえばそれでいいんです。

 

弾む声。声の主は微笑んでいるような気がして一誠は迫りくる瓦礫を目にしながらも

口角を上げた。

 

―――力強く想ってください。あなたが守りたいと心から想う力が人々を救える力が

発揮できます我が主よ!

 

声の主の言う通り心から強く想った次の瞬間。一誠たちは瓦礫に呑みこまれた。

 

―――○●○―――

 

外では阿鼻叫喚が崩れた会場の光景に広がっていた。中にいるだろう大勢の人間が

生き埋めされて―――、

 

「くそったれがぁっ!」

 

「まさか、ここまでも狙われていただなんてっ」

 

「一誠さまッ!」

 

一香が魔法で瓦礫を大量に浮かせてはどかし、リーラと誠は手で瓦礫をどかす。

他の人々も果敢に瓦礫をどかす作業をしていた。

 

「一誠、また死ぬなんてことになったら閻魔に出会って脅してでもお前を連れて帰るからなぁっ!」

 

「天国だったら私たちも天国に行って迎えにいくわよ!」

 

色々と常識ではあり得ないことを口にする二人。

日本語で喋っているから通訳の必要な人からしてみれば、必死に生き埋め状態でも生き延びて

いるであろう人々を助けようとしている光景しか見えないだろう。

言葉が解らずとも、二人のその必死な行動を見れば誰もがそう思ってしまう。

 

「・・・・・」

 

黙々と瓦礫をどかしていたオーフィスの手が停まった。

ジッとある一点に視線を向けたまま微動だにしないでいると、

 

「オーフィスさま?」

 

「リーラ、ここから離れる」

 

「え?」

 

―――ゴゴゴゴゴッ!

 

リーラを瓦礫の山から連れ出した時だった。突然、瓦礫の山が震え始めた。誰もが地震か!?

と縦に揺れる瓦礫の山を見る野次馬や救助を試みている人々がそう思ってしばらくすると、

崩れた瓦礫の山の隙間から神々しい光を放ち始めた。場に似合わぬ光をリーラや誠、

一香や他の野次馬が「なんだこれは」と愕然していると瓦礫の山がさらに激しく震え、

 

ゴッ!

 

巨大な金色の光の柱が瓦礫の山から生え斜め上から天に向かって伸びた。

 

「・・・・・まさか」

 

その様子を見つめていると瓦礫を掻き分けるように巨大なトカゲみたいな顔をした生物が出てきた。

顔を出せば、首が、四肢の胴体が、尾が瓦礫の山から現れその全貌を晒した。

全身から神々しい光を放つ金色の巨大な生物が目の前に姿を現したのだ。

その背に三人の子供がチョコンと乗っていた。

 

「メリア、なのか?」

 

誠が信じられないと漏らした次の瞬間。金色の巨大な生物が傾き始め倒れた。

 

「お、おいっ!?」

 

誠はいてもたってもいられなく、金色の巨大な生物のもとへと跳躍して近づいた。

そして生物の顔に近寄った。

 

『や、やっとでれたぁ・・・・・』

 

と、生物が人語を発した。その声は・・・・・と誠は信じがたい目で見る。

 

「おおっ、人だ!そこの者よ、こいつを助けてくれ!」

 

「我らを助けてくれた恩人なのだ!いや、ドラゴンなのだっ!」

 

必死に救いを求める子供たちに誠は唖然とする。

力を使い果たしたのかグッタリしている。

 

「このドラゴンはどうしたんだ?」

 

「信じてもらえないだろうが、このドラゴンは人間だったのだ」

 

「・・・・・いや、それだけ聞けば信じれる」

 

このドラゴンは誠がよく知っている。一香やオーフィス、リーラも金色のドラゴンを

触れて安否を確かめている。だが、思わしくない状況なのは変わりない。

どこぞのメディアやカメラマンが瓦礫の山にいるドラゴンに向けリアル生中継をし始めたのだ。

 

「誠、これは・・・・・」

 

「あまり良くない兆候だな」

 

難しい面持ちで顔をしかめる。

 

「これはこれは・・・・・」

 

「ん?あ、九鬼家の・・・・・」

 

「クラウディオでございます。この生物のお陰で我々も外に出られました」

 

恭しくお辞儀するクラウディオが出てきたであろう巨大な穴から大勢の人々が出てきた。

負傷者もいるが、九鬼家従者部隊の者たちに支えられながら歩いて

 

「クラウディオ、無事であったか!」

 

「誠に申し訳ございません。私の力及ばすお二人に危険を晒してしまいました」

 

「そんなことはどうでもよい!今はこのドラゴンを、兵藤をなんとか助けるのだ!」

 

「はっ、ただちに」

 

しかし、事態は悪い方へと進む。警察が大勢やってきて拳銃をドラゴンに向けて構えたのだ。

誠たちをドラゴンから強引に離そうとする。

 

「ちょっ、待て!」

 

「なにするのよ!?」

 

「キケンデス!ハナレテ!」

 

「ふざけるな!あのドラゴンは―――!」

 

誠は激昂し、一誠は俺の息子だと言い張ろうとしたが咽喉につっかえて言えなくなった。

ドラゴンなど、現世の人間たちにとっては存在しないと思いこんでいる。

していると言えば謎の巨大生物、UMAとしか認識していない。

一誠自身も人型ドラゴンであり、人間だと言い切れることはできない。

 

『父さん・・・・・?』

 

ドラゴンが、一誠がゆっくりと体を起こし誠に近づけば野次馬たちも必然的に下がる。

身体が美しい金色でも未知の生物が近づいてくるそのプレッシャーは凄まじい。

 

「一誠、身体は何ともないか?」

 

『うん、何だか小さくなったねー?』

 

「いや、それはお前が大きいからだろう。で、元の姿に戻れそうか?」

 

『わかんない。ところで、今どんな状況?あ、そういえば』

 

鎌首を下にいる九鬼姉弟と黒髪の少女に向けて声を掛けた。

 

『大丈夫?』

 

「お前のおかげでな。凄いではないか、ドラゴンになるなど」

 

『僕も驚いているけどねー』

 

朗らかに会話をすると黒髪の少女がペタペタと金色の鱗を触れる。

 

「・・・・・綺麗」

 

『そう?』

 

「・・・・・うん」

 

黒髪の少女が一誠に微笑み一誠も釣られて笑った。

 

「(さて、これはどうしたものか)」

 

「(そうね。幸い、一誠の正体を知っている人は極一部)」

 

誠と一香はこの状況をどう打破するか頭の中で策を考える。上空にヘリが飛び交って一誠の姿を

お茶の間に放送しているだろう。一誠を連れ出すことは容易だが、

一誠を元の姿に戻す方法が分からない二人は悩んだ時だった。

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 

どこからともなく大きな獣のような咆哮が聞こえる。誠たちは聞こえた声の場所を探すと、

太陽をバックにしてこっちに飛んでくる全長五メートルの飛行生物の群れをオーフィスが見つけた。

 

「あれ、ドラゴン」

 

「なんだとっ!?何でドラゴンがこんな場所に現れるんだよしかもあんな数で!」

 

誰もが上空から現れたドラゴンの群れに恐れを成して我先へと安全な場所と

思える場所に逃げる矢先、地面が激しく縦に揺れ土煙と噴煙と共に盛り上がった。

同時に巨大な鋭い二本角が特徴のモンスターが二匹飛び出してきて、

尾にある巨大なコブでパトカーやトラックを横薙ぎに叩きつけて吹っ飛ばした。

ヘリもドラゴンに追い立てられる。

 

「なっ、なにがどうなっていやがる!?」

 

「この急展開はあまり良い方じゃないわね!」

 

「ですが、一誠さまを囲むように現れましたね」

 

「イッセーを守っている・・・・・?」

 

揚羽たちもクラウディオの手によって避難された。あの黒髪の少女も。

誠たちは一誠の傍にいたおかげかドラゴンたちに被害は無かった。

 

「・・・・・このドラゴンたちの意図は分かりませんが、一誠さまを助けに来たって考えでいいのでしょうか」

 

「今はそう思いましょう」

 

しばらくして一誠たちがいた場所から人がいなくなった。建物の中にも人がいるものの、

ドラゴンたちは建物まで襲うことは無いようで一誠を囲み警戒して建物の屋上にもドラゴンたちが

降りて警戒している。―――すると上空の空間に大きな裂け目が生まれ、凶暴で獰猛そうな

ドラゴンの顔が覗けた。

 

『なっ!?』

 

その驚愕の声は当然漏れ出した。空間の裂け目から巨大な手が飛び出してきて

一誠を掴み上げた。

 

『父さん!母さん!これなに!?』

 

避け目に引きずり込まれる一誠は困惑して抜け出そうにも力強く掴まれている。

逃げることは不可能と判断した誠と一香はリーラとオーフィスを引き連れて追いかける。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・えーと、ここはどこだ?」

 

「そして、目の前にいる巨人より大きい生物はなにかしらね」

 

「「・・・・・」」

 

『・・・・・』

 

薄暗い巨大な空間に入り込んだ誠たちの目の前には全長二百メートルはあろう、

人型のドラゴンが金色のドラゴンと共々手に乗っている誠たちを凝視している。

 

「私たち、これからどうなるのでしょうか?」

 

「分からない。この者、天龍よりちょっと下だけど強い」

 

「二天龍以下ってことは変わりないのね」

 

「しっかしでっかいなぁー。グレートレッドより大きいんじゃないか?」

 

今の状況を把握しつつあるが、この四人は冷静でいる。

 

『なんだ、このチビどもは』

 

「おっ、喋れるのか」

 

『喋れるとも。ここは監獄。主に邪龍や反省をさせるドラゴンの為の異空間だ』

 

「監獄か。と言うとお前は監獄長ってところか?」

 

『その通りだ。分かったら人間界に帰れ。俺はこのドラゴンを原始龍さまのところへ

お連れせねばならぬのだ』

 

原始龍。監獄長のドラゴンが敬語で言うほどの者が金色のドラゴンを捕まえるように

指示を出した張本人であることを四人は理解し、

 

「悪いが、俺たちもその原始龍って所に連れて行ってくれるか?」

 

「この子は私たちの子供なの。親である私たちも連れて行きなさい」

 

「さもなくば、私たちはここで暴れます」

 

「我も」

 

金色のドラゴンに寄り添いながら戦意を滾らせる。監獄長は眉間にしわを寄せる。

与えられた使命を問題なくこなせたが余計なものまで入り込んできたことや、

親らしき人間にそう言われ、自分の一存では決められない事実に難しい顔をする。

が、監獄長の目の前に魔方陣が出現してしばらくした後に消失した。

 

『・・・・・感謝しろ。原始龍さまがお前たちも一緒に連れて来いとお達しだ』

 

「話が分かる長だ。助かる」

 

『可笑しな真似はするなよ。さもなくばこの世界に住むドラゴンが人間界を襲撃し、

人間を滅ぼす』

 

「この世界に住む・・・・・ドラゴン?」

 

『これから外に出る。そうすれば分かるだろう』

 

監獄長がズンズンとどこかへ進む。その中で素通りする檻の中には凶暴で獰猛そうな

ドラゴンたちが敵意や殺意を剥き出しに睨んでくる。そのドラゴンたちを見て一誠は感嘆に近い言葉を漏らす。

 

『わー!ドラゴンがいっぱい!』

 

『人間界が平和でいられるのは俺が邪龍を捕まえているからだ。

まぁ、他にも有り得ない力を持った人間たちが同胞を封印、または退治しているらしいがな』

 

「それでも生きているドラゴンたちはいるわ」

 

話し合っているうちに監獄長は監獄の外に出た。誠たちが見た光景は、視界に入る風景は―――。

 

「はははっ・・・・・まだ、こんな世界が存在していただなんてな・・・・・!」

 

笑みを浮かべた誠はバッと両手を広げた。

 

「だから俺は―――心躍るこの光景を、世界を見て回りたいから冒険をしたいんだよぉっ!

あのクソ親父がぁあああああっ!」

 

我が物顔で空を力強く翼を羽ばたかせ、自由に飛行する姿形が様々なドラゴンたちがいた。

 

「こんなにドラゴンがいる。我、初めて見た」

 

「ドラゴンが住んでいる世界・・・・・」

 

「・・・・・冥界や天界のような異次元空間なのでしょうかこの世界は」

 

他の三人も目を丸くしてドラゴンたちを見据えていると目の前に巨大な魔方陣が出現した。

 

龍門(ドラゴン・ゲート)と言う。知っているか知らないが知らないが、

この中に潜れば原始龍さまのところに着く。失礼のない態度でいろ』

 

誠たちの返事を聞かずその魔方陣に潜った監獄長。視界が真っ白に染まり、何も見えなくなった。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

視界が回復した頃には、

円状な空間で壁一面にはキラキラと星屑が下に落ち続ける神秘的な現象が絶え間なく起きている。

床は四匹の龍が太陽を囲むような姿勢が描かれているのに対して、

天井は満月を囲む四匹の龍の彫刻が施されている。

そして、この空間の奥に天井にまで伸びた背もたれの椅子に座る女性がいた。

緑色の髪から突き出る翡翠の二つの角。身に包んでいる衣服は、緑と青を基調とした着物だった。

 

『お連れしました、原始龍さま』

 

監獄長が恭しく跪き、一誠たちをそっと床に置いた。

 

「ご苦労さまです。何時も頼んでばかり申し訳ございません。

今日はゆっくりとお休みになっていてください」

 

『はっ、ありがたき言葉です。では・・・・・』

 

誠たちを睨むように一瞥して、足元に展開した魔方陣の光に包まれながら姿を消した。

最後に睨んできたのは失礼のない態度で会話しろと籠っていたかもしれない。

 

「―――ようこそ、この子のご両親方」

 

椅子に座っている女性が声を掛けてきた。誠たちは自然体で佇み、

女性に目を向けたまま耳を傾ける。

 

「私は原始龍。世界が生んだ龍を生み出すシステムみたいなものです。以御お見知りおきを」

 

「龍を生み出す、世界が生んだシステム?」

 

「この世に存在する全てのドラゴンは様々な形で生まれています。

それは私と言うシステムが現存しているからこそ誕生しているのです。

次元の狭間に生まれたグレートレッドやオーフィスもまたそうです。ですが――」

 

腕をゆっくりと前方、誠たちに伸ばすと『え?』と一誠が浮き始め女性のところまで連れて行かれる。

 

「グレートレッドの肉体の一部とオーフィスの力を有する元人間であるこの人型ドラゴン、

私やこの世界でも予想もしなかったイレギュラーなドラゴン。実に興味深いです」

 

優しく一誠の顔を触れれば誠たちの視界から見れば、一誠が光に包まれ見る見るうちに

小さくなり小さな真紅の髪を持つ子供へと戻っていった。

 

「・・・・・あれだけの動作で、一誠を元の姿に戻すとは」

 

「さっきの話、嘘じゃないみたいね」

 

小さく漏らす誠と一香。未だに子供、一誠を腕の中に収めて頬や髪を撫で続けている原始龍に、

 

「「で、いつまでそうしている?返してくれない?」」

 

「話が終わるまでダメでしょうか?」

 

指摘したら可愛く小首を傾げる原始龍。誠たちはまた一人魅了したのかと内心呆れを

通り越して感嘆を漏らす。

 

「しょうがない。だが、質問に答えてくれるよな?」

 

「なんなりと」

 

「それじゃ、一誠を助けたのはなぜだ?あんなドラゴンたちを差し向けて今頃世界は

大騒ぎになっているだろうに」

 

誠の質問に原始龍はただ頷いた。

 

「私は人間界や冥界といった様々な世界に存在するドラゴンたちを見守る義務があります。

人間界がどうなろうが私には一切関係のないこと」

 

人差し指を何もない空間にトンと何かを叩く感じで動かすとこの空間に

数多のモニターらしき映像が浮かびあがり、その映像に様々なドラゴンが映っている。

中には人もいる。

 

「これ・・・・・全部ドラゴン?」

 

「人の形でいるドラゴンもいますがそうです。

これが人間界、冥界と言った異世界に生存しているドラゴンたちです。

私は瞬きをするように存在しているドラゴンたちの意場所さえわかるのです」

 

「我も?」

 

「ええ、オーフィスの行動も見守っていました」

 

微笑む原始龍にマジマジとオーフィスは原始龍というシステムを見やる。

 

「質問の答えを続けますね。龍化したままのこの子を人間から遠ざける為、

保護をする為に事を起こしました」

 

「保護ですって?」

 

「ドラゴンは皆、私から生まれた。ですから邪龍でさえも見守る義務がある私にとって

人間たちの手に渡るようなことは避けたかった。現代の人間たちの科学や知識はバカに

したものではない。人間たちにドラゴンの生態や秘密を暴くことでさえ容易いでしょうから」

 

「・・・・・まさかだと思うが、人間を恐れているのか?」

 

「ええ、恐れています。強いて言えば人間に秘められた潜在能力に」

 

あっさりと肯定した。誠たちは何度もドラゴンたちと出会い戦ったこともある。

そのドラゴンたちは牙を剥き喰い殺さんと襲ってきた。どのドラゴンも誠や一香を

恐れていなかったが、原始龍は人間を恐れている。

 

「俺が言っちゃあ何だが、人間は対して強くは無いぞ?」

 

「太古から英雄、勇者といった人間たちがドラゴンと戦い勝利してきたのです。

今世代の人間たちもまた、ドラゴンを封印、退治する力を有している。

聖書の神が作りだした『神のシステム』によって生み出された神器(セイクリッド・ギア)というもので」

 

「「「・・・・・」」」

 

神器(セイクリッド・ギア)。それを所有している誠と一香もまた原始龍にとって恐れている

人間の一人に対象されているのだと知った。原始龍にとっても摩訶不思議な能力を

宿すことができる人間たちに警戒心を抱かざるを得ないのだろう。

原始龍は一誠を一香のところまで浮かせた。

 

「その子をこの世界に連れてきたのは龍化を解く為です。

人間であれば気を失っていると龍化は解かれますが、ドラゴンに転生したその子の身体は

ドラゴンそのもの。自分の意思で解かなければ姿は変わらないのです」

 

「そうか、礼を言う」

 

「それと、私からプレゼントです」

 

一瞬の閃光が弾け、原始龍の前に浮かぶそれは宇宙にいると思わせる程の常闇に

星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、刃の部分は白銀を輝かせ

至るところに不思議な文様が浮かんでいる装飾と意匠が凝った金色の大剣。

 

「その大剣は・・・・・」

 

「これがその子に授ける剣、『封龍剣「神滅龍一門」』です」

 

「封龍剣『神滅龍一門』・・・・・」

 

「あなた方の子供はドラゴンの世界でも無視できない存在で狙われる可能性もあります。

私はその子の生きざまを何時までも見てみたい。だから私はこの世界で二本しかない

封龍剣を授け与えます」

 

「なにせ」と原始龍は苦笑を浮かべた。

 

「邪龍と会いたいと申すぐらいの子です。戦闘に発展する可能性は非常に高いですから

生き残って欲しい。封龍剣はドラゴンを封印、滅ぼす事が可能な効果を持っております。

私自身が創りだしたこの世界に存在する一対の封龍剣ですのでどうかその子に使かって欲しいです」

 

大剣は誠の方まで浮く。それを手にした誠が、

 

「っ!?」

 

凄まじい重力に逆らえないと思わせるほど床に落ちた大剣に目を丸くした。

 

「お、重っ・・・・・!?」

 

「その大剣は私が認めたドラゴンしか使いこなせません。兵藤一誠、あなたが持って下さい」

 

催促され、一誠は誠と変わって大剣を軽々しく持った。その光景を見て誠はジト目で原始龍に問うた。

 

「・・・・・おい、それを知ってて俺に渡すってどういう了見だ?」

 

「ちょっとしたお茶目です」

 

「さらっと言うわね」

 

涼しい顔で言う原始龍は笑みを浮かべていた。

 

「では、やることを終えましたのであなた方を人間界に送り返します」

 

誠たちの足元に翡翠色の魔方陣が出現して光が包みこもうとする。

 

「また、この世界に来れるか?」

 

「この世界はドラゴンだけでしかこれることはできません。

容易にこの世界へ人間だけでなく異種族すら侵入を拒みます」

 

「ドラゴンを守る為か?」

 

原始龍はその問いに答えず無言で光に包まれた誠たちが弾けて消失した。

 

「兵藤一誠・・・・・あなたの成長を見守っています。このドラゴンの祖である原始龍が」


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