HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード12

川神院の朝は、稽古から始まりそれから朝食、さらにそれから掃除を終えれば大人と

子供は自由時間で一日が終わる。

 

「初めての稽古なのに一誠、課せられた稽古のノルマを達成するなんてな」

 

「ドラゴンと毎日鬼ごっこしたり勝負したりすれば強くなるもんだよ」

 

「ドラゴン?」

 

「うん、ドラゴン」

 

道着を身に包む一誠と百代は拳を交わし合ってから翌日。あっという間に仲良くなり

今現在も軽く模擬戦をしていた。

 

「一誠、お前は強いけど戦い方が何か慣れていない感じがするな」

 

「稽古自体は兵藤家で慣れているけど、戦ったことはあまりないんだよ」

 

「それで強いってお前は凄いじゃないか。だったらこの家にいる間にもっと強くなれ」

 

「勿論だよ!」

 

「ははっ、お前みたいな奴といると俄然楽しくなるな!ほら、ギアを上げるぞ!」

 

もはや模擬戦ではなく勝負になった。それから三十分もすれば、両者はダウン。

 

「女の子なのに、どれだけ体力があるってのさ・・・・・」

 

「何度も攻撃が当たってるってのに体が頑丈過ぎだろう・・・・・」

 

疲労困憊と全身に汗が浮かんでいて、地面に寝転がる二人の頭に影が生まれた。

 

「お主ら、まだまだ一日は長いと言うのにここで体力を使いきってどうするのじゃ」

 

二人の顔を覗きこむ鉄心。呆れ顔で起きるように催促して

「稽古の時間になる前に汗を流してこんかい」と伝えると家の中に入って行った。

 

「稽古ってどんなことするの?朝とは違うのって感じはするけど」

 

「私たちの師匠から武術を習うんだ。だけど一誠は川神の人間じゃないから

川神流の技は教えれない」

 

「それは分かってるよ。でも、気の扱い方は教えて欲しいかな」

 

「うん、それだったら師匠やルー師範代も教えてくれるはずだ。とにかく風呂に入ろう」

 

その後の一誠と百代は風呂に入り、さっぱりしたらそれぞれの師匠の指導のもとで

武術を学んだのだった。

 

「フム、型は完全に文句の付けようはないネ。兵藤家でも朝の稽古と似たようなことを

していたのだろウ」

 

「うん、それだけはできていたよ」

 

「ならバ、戦い方を教えようカ」

 

「気の扱い方を教えてくれないの?」

 

「それはまだ早イ。もう少しキミが武術に関する基本と心得を学んでから遅くはないヨ。いいネ?」

 

「ん、分かった」

 

素直に言う事を聞き、ルーからの指導を受けた一誠であった。

 

「いいかネ?勝負事ハ、何事も相手に対して礼儀を持たなければならなイ。

でなけれバ、相手に対して失礼だからネ」

 

「悪い人にも?」

 

「ウーン。悪い人にも清い心があればそうするべきだと思うヨ」

 

「うん、分かった」

 

「そして、キミが拳に何を籠めるのかそれは何の為か教えてもらおうカ」

 

そう言われ、直ぐに答えた。

 

「僕をバカにする皆を見返す為、大切な人を守る為」

 

「ホウ、大切な人とは誰のことかネ?」

 

「僕の家族!」

 

間も置かず言い切った一誠に綻ぶルー。

 

「(・・・・・力に溺れズ、真っ直ぐ目的に進むこの子ハ誤った道に進まないだろウ。

私ガ心配する必要もないネ)」

 

自分の話を聞く姿勢のままジッと見つめてくる一誠にルーは心得を学ばせることに意識する。

 

「(願わくバ、危なっかしい百代の清涼剤となって欲しいネ)」

 

そしてその日の夜。一誠とリーラ、オーフィスは寝る準備をしていた。

黒歌と白音はグレモリーの食客故に川神院に寝泊まることができず、人間界にも自由に

行き来できない為、冥界へ移住した朱乃の他にもヴァーリ、リアス、ネリネ、リコリス

ですら同じ状態である。

 

「一誠さま、今日はどうでしたか?」

 

「兵藤家よりこっちの方が断然良いや。大人の人たちも優しいし、百代も強くて楽しくて」

 

「そうですか。それはなによりです」

 

一誠の感想に心から嬉しく思うリーラは安堵する。

これから一年間この川神院に暮らし、一誠にとってプラスな事が多くあるはずだと願うほど。

 

「・・・・・」

 

ふと、オーフィスが外に繋がる戸へ顔を向けた。そして一言。

 

「前に感じた強い者が来る」

 

「っ!?」

 

リーラは即時行動した。レプリカのグンニグルを手にして臨戦態勢を構えた瞬間、

目の前の戸が一気に開いた。暗闇の向こうから三人の男女が姿を現す。

 

「よう、久し振りだな」

 

「万事屋『九十九』・・・・・」

 

「やっぱ、気付いていたか。こっちも同じだがな」

 

戦意を感じない。だが、油断はできず一誠ですら警戒する。相手は肩を竦め話しかけてきた。

 

「兵藤誠と兵藤一香の息子の兵藤一誠にその従者のリーラ・シャルンホルスト、

そしてオーフィス。お前らの情報を調べさせてもらった。

この間は知らずとはいえ攻撃して悪かったな。仕事に私情を挟まないのがモットーなんでな」

 

「・・・・・それだけ言いに来たのですか」

 

「いやー、何て言うかアレだ。また依頼が入ってよ。―――兵藤一誠を抹消しろって依頼がな」

 

「「っ!?」」

 

隠す必要もないぐらいアッサリと目的を告げた男、オーフィスにやられた大将。

オーフィスが一誠の前に立ち、攻撃しようとする様子に大将が両手で横を振った。

 

「待て待て!話を聞け、まだ話の途中だから!」

 

「・・・・・オーフィスさま」

 

「・・・・・分かった」

 

攻撃態勢を崩しても一誠の前に立ち続ける。大将はホッと安堵で胸を撫で下ろし、言い続ける。

 

「こっちとしても、烏間を退けたあの二人の子供や最強のドラゴンと事を起こしたくない。

もう前回でお前らと関わり合うとこっちが危なっかしいと分かったからよ。

だから、今回の依頼を破棄しに来た事実とお前らを狙わないと言う話しを教えに来たんだ」

 

「口約束としか思えません」

 

「分かってる。別に信用しろなんて言わない。取り敢えず、

俺たちの気持ちを伝えに来ただけだ。それとちょっとした情報をお前らに提供したい」

 

「・・・・・提供ですか」

 

警戒するリーラに「そうだ」と大将は頷く。

 

「お前らは白い天龍と知り合いだろう?ああ、どうして知ったのかは企業秘密だからな。ここからが重要だ。もう一匹の天龍、『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』ドライグを宿す人物を知っている。そいつを知りたくないか?」

 

大将から発せられたもう一匹の天龍の宿主を一誠とリーラは目を丸くした。

 

「別に知りたくないよ」

 

「なんでだ?ドラゴンと会いたいんだろう?って、そこのメイド。携帯を取り出してどこに繋げている?」

 

「警察にです。ここまでプライベートな情報を持っているなど人権に侵害ものですから」

 

「待て待て!俺らの仕事上そうせざるを得ないんだからしょうがないだろうが!」

 

慌てだす大将に口を冷たく開いた。

 

「なら、あなたたちのプロフィールも寄こしてくださいますよね?」

 

「は?」

 

「―――オーフィスさま」

 

「ん」

 

濃密な魔力のオーラを手に集めたオーフィスから三人は風の如く逃げ去った。

その逃げっぷりに一誠は恐る恐るリーラに問うた。どうして?と視線に込めて。

 

「リ、リーラさん?」

 

「大丈夫です。少しばかりからかっただけですので。オーフィスさまもありがとうございます」

 

 

 

 

 

「やっぱ、あいつらには関わりたくない」

 

「じゃな。こっちの命が危うい一方じゃ」

 

「だが、また関わるだろう。とにかく若がいる家に帰ろうか」

 

―――○●○―――

 

 

「よーし、坊主。今度は俺がお前を鍛えてやるぜ」

 

「お願いします」

 

「一誠と鍛練は初めてだ」

 

翌日、一誠と百代はもう一人の師範代の前に立っていた。質素な服装で目つきが鋭い男。

 

「釈迦堂さん。一誠は強いぞ」

 

「わーってるって。こいつは磨けばお前同様凄い男になるぜ」

 

「おーそうなのか」

 

「さーて、話はここまでだ。まずは軽く体力づくりだ。腕立て、腹筋、スクワットその他諸々な」

 

「「はい」」

 

時間を費やし、課せられたトレーニングメニューをこなした。そして次に一休憩した後は模擬戦。

 

「てやっ!」

 

「おほっ、一撃一撃がすげー重いな!だが、まだまだ脇とか腰とかあめーぞ」

 

軽く釈迦堂に弄ばれ、頬を膨らます一誠。

 

「バカにして!」

 

「一朝一夕、ンな簡単に強くなれるほど世の中は甘くないってもんだ」

 

「むー、全力で戦えばアッと驚かせれるのに」

 

「へぇ?んじゃ、その全力とやらを俺に見せてみろよ」

 

「ん?良いの?」

 

釈迦堂はいやらしい笑みを浮かべながら頷いた。

百代とリングで戦った姿の一誠を見ていた釈迦堂。

ただの人間ではないことは重々承知しているし、

一誠はどれだけ強さを秘めているのか確かめたくてしょうがないでいた。

あわよくば自分の色に染めるのも悪くはない。

何せ力を求めている一誠と釈迦堂は似ているからだ。

 

「それじゃあ・・・・・」

 

一誠は釈迦堂に対する攻撃態勢の構えをする。全力、一誠から闘気とは違う力が滲みでてきた。

 

「(っ、おいおい・・・・・こいつはとんでもねぇ化けもんじゃねぇか・・・・・)」

 

「驚いた?」

 

問いかけてきた一誠に、「ああ」と素直に答えた。こっちも全力で戦えば

なんとかという可能性で勝利するだろう。だが、相手は化け物クラスになろうとしている存在。

これから激しい戦いが始まるかと思い、釈迦堂の口角は上がった時、

 

「じゃあ、いいや」

 

「あ?」

 

あの異質な力が、一誠から感じる戦意が風船から空気が抜けるようになくなった。

 

「どうした?」

 

「だって、ここでやったら家が壊れちゃうもん。

それにそうならなくてもリーラさんから人間相手に全力はしてはならないと約束したし」

 

あの従者かと脳裏に銀髪のメイド服を身に包む女性を浮かべ、舌打ちをした。

 

「ちっ、つまらねぇな。男なら約束の一つぐらい破れ」

 

「やだよ。嫌われたくないし。それよりも稽古お願い」

 

「そうだぞ師匠」

 

二人にそう言われ、頭をガシガシと掻きしょうがないとばかり溜息を吐いた。

 

「坊主、俺の稽古は厳しいぜ」

 

「大丈夫。ドラゴンと勝負したことがあるから平気だよ」

 

「・・・・・お前、ここに来る前に一体どこで何をしてたんだ?」

 

「冥界でドラゴンと追いかけっこ」

 

「その歳でお前はどんな経験をしてんだよ・・・・・」

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

稽古の時間は終わり、百代に催促され川原へ向かった。

 

「なぁ、一誠。お前の親ってどんな人なんだ?」

 

「殆ど仕事で家にいないことが多いや。でも、父さんと母さんの友達が僕に

会いに来てくれるから別に寂しくはないんだー」

 

「そっか。それは良かったな。私もジジイや川神院にいる皆がいるから寂しくはないが、

遊び相手がいないから何時も修行修行でストレスが溜まる」

 

「友達いないの?」

 

「学校には当然行っているが、私と釣り合う友達がいないんだ。今は違うけどな」

 

百代は一誠に笑みを浮かべた。対して一誠はポツリと呟いた。

 

「学校・・・・・か」

 

「どうした?」

 

「うん、僕・・・・・学校通ったことが無いなって思い出したんだ」

 

「え”?」と百代は驚いて目を丸くした。自分と同じ年ぐらいの子供が学校に行ったことが

無いなんて有り得ないと思ったらしく、

 

「なんだ、お前は友達はいないのか?」

 

「いや、それはいるよ。でも、学校には行ったことが無いんだ。

僕自身も行きたいなんて思ったことが一度もなかったし、

リーラさんや兵藤家が勉強を教えてくれるから・・・・・」

 

どういう家庭に生まれたんだと百代は突っ込みたくなるのを、

 

「おまえん家、変わってるな」

 

「ん?そう?」

 

我慢できなかった。

 

「ま、いいや。それより一誠。川原に来たんだがなにしようか」

 

「遊び道具もないのに遊べることって限られてるよ」

 

オーフィスはリーラと共に買い物へ行っている。なので一誠と百代の二人だけだ。

二人だけで遊戯は限られる。

 

「ボールぐらい持ってくればよかったか」

 

「だねー」

 

川原の原っぱに二人はただただ呆然と流れる川を眺める。特に何もすることはなく、

川を見詰めていると

 

「「暇だ・・・・・」」

 

退屈そうに溜息を吐いた。そして顔を向けあう。

 

「鍛練しよっか」

 

「私たちにはそれが性に合っていそうだな」

 

そうと決まればと二人は川原に向かって正拳突きをし始めた。

 

「そう言えば、お前の父親は蹴って空を飛んでいたよな」

 

「そうだねー。僕も何時かあんな移動をしてみたいな」

 

「お前の父親は武術を習っていたのか?」

 

「分かんない。でも、父さんも兵藤家の人間だったみたいだよ」

 

他愛のない話しを鍛練しながらする。

 

「私の両親はルー師範代に負けて世界中へ武者修行の旅に出ているんだ」

 

「じゃあ、きっとどこかで僕たちの父さんと母さんが会っていたりしたりして」

 

「そうだといいな。―――よし、型の鍛練はこの辺で良いだろう。一誠、今度は模擬戦―――」

 

と、百代が言いながら一誠に目を向けた瞬間に言葉が出なかった。

何時の間にか一誠の真後ろに刀を振り下ろそうとしている覆面の存在を見たからだ。

 

「一誠、後!」

 

「え?」

 

百代の必死な叫び声に当惑した一誠。後ろに何が?と思った面持ちで背後へ顔を向けた

途端に銀の一筋が

 

「死ね」

 

一誠に襲った。

 

 

ガキンッ!

 

 

「ギ、ギリギリ・・・・・ッ!」

 

斬られたかと思った百代の眼前で歪む空間から出る鎖で刀を受け止めて、

首の皮一枚免れた一誠であった。

 

『主、今のは危なかったぞ』

 

一誠の手の甲に赤い宝玉が浮かび、そう語ったのはゾラード。

確かにその通りだと内心肯定する一誠に対して、

 

「ちっ!」

 

襲撃者は一誠から距離を置いて再び斬りかかった。狙われる理由は毛頭もない一誠に

とって傍迷惑に等しく、周囲の空間を歪ませ、数多の鎖を展開させ防御態勢にはいる。

 

「だ、誰!?どうして僕を狙うんだよ!」

 

激しく刀を振り続ける襲撃者に問いだたすが、返事は一誠を斬らんとする斬撃だけ。

全身黒ずくめで顔は仮面で隠して正体をバレさせない変装をしている。

鎖で斬撃を防ぐが、相手は離れては近づいて、一誠を囲むように移動しつつ斬りかかる攻撃パターンを繰り返すも一誠から攻撃はしない。

 

「ううう・・・・・人間に攻撃しちゃいけない・・・・・」

 

『主、今はそれどころではないぞ』

 

「分かっているけれど・・・・・」

 

『川神百代がいる。あの敵は何時でも川神百代を攻撃する事ができる。主が守らないで

誰が守るのだ』

 

リーラとの約束を忠実に守ろうとするがゾラードの言葉で

「ごめんなさい」と心の中で謝罪の念をし、

 

「百代を守る」

 

一誠の瞳に戦意の炎が宿った。そして、周囲に展開した鎖が甲高い音と共に消失した。

襲撃者は一誠の意図に気付かず疑問を浮かべるが、それが好機だと認識して

無防備になった標的(一誠)の懐に飛び込もうと飛び掛かる。

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

静かに何かの発動キーを発した刹那、一誠を覆う禍々しい黒と紫が入り乱れた魔力のオーラ。

振った刀の刀身がその魔力に削られ、消失した。

魔力は次第に一誠の全身を鎧と化となって包みこみ、紫と黒が入り乱れた、

龍を象った全身鎧を装着した。

 

「・・・・・まだ、くる?」

 

「こ、この・・・化け物がっ!」

 

畏怖の念を抱き、震える声を発しながらも異質な力を見せ付けた一誠に襲撃者は罵倒を言いつつ

無手の状態で飛び掛かった。一誠は周囲に魔力球を具現化し襲撃者に攻撃しようと思った矢先に、

 

「坊主に手を出すんじゃねぇやあっ!」

 

 

ドッゴオオオオオオオオオオンッ!

 

 

「「・・・・・」」

 

和服を身に包んだ中年男性が襲撃者の胸に向けて自身の腕を叩きつけて吹っ飛ばした。

その光景に一誠だけじゃなく百代も目を丸くし開いた口が塞がらないでいる。

 

「よう、坊主。良く頑張ったな」

 

「し、神王の・・・・・おじさん?」

 

「ああ、ちょっとばっかしここで待っててくれ。いまあのバカのお仕置きをしてくるからよ」

 

神王はぐったりと動かない襲撃者に向かって大股で近づく。

その様子を見ていると「一誠さま!」と呼ぶ女性の声が聞こえた。

 

「リーラさん」

 

鎧を解いて、自分を呼ぶ女性に振り返った途端に抱き絞められた。

 

―――川神院―――

 

「尋問したらあいつは・・・・・いや、坊主の前で言えるもんじゃねぇな。

それよりも無事で何よりだぜ」

 

「神王のおじさん。どうしてここに?」

 

「勿論、坊主に会いに来たんだぜ?それに人間界だったら俺の娘にも会わせれるからよ」

 

「ですが、一誠さまと百代さまが度とに外出している為、

ユーストマさまと一緒に探しに来たのですよ」

 

ニカッ!と笑う一誠が言う神王のおじさんことユーストマ。

その隣に小豆色の髪に円らな瞳の小さな女の子が座っていた。

 

「坊主、俺の娘のリシアンサスって言うんだ。仲良くしてくれや」

 

「リシアンサスです!言いづらかったらシアって呼んでね?」

 

「分かった。僕は兵藤一誠だよ」

 

「じゃあ、一誠くんだね。よろしくね」

 

小さな手同士が握手を交わすことで二人は繋がったようになった。

一誠とシアの様子を満足気に見ていたがユーストマは眉を顰める。

 

「しっかし、さっきの奴はふてぇ輩だ。まだ子供の坊主に襲うなんてよ」

 

「ユーストマさま、一誠さまを守っていただき誠にありがとうございました」

 

リーラが深々と頭を下げ感謝の念を伝えるが、首を横に振りだすユーストマ。

 

「いんや、俺が手を出さずとも坊主が勝っていただろうな。

さっきの鎧、あれは消滅の力が具現化したものだからよ。

逆にあのまま何もしないでいたら間違いなく坊主を襲った襲撃者は触れただけで

身体の何パーセントか削られていたはずだ。良くて重傷、最悪の場合は死んでいた」

 

「・・・・・そこまでの威力なんですか」

 

「ヤハウェさますら容易に近づきたくないドラゴンらしい。

そんなドラゴンが封印されているなんて知らなかったぜ。だからな坊主」

 

真剣な面持ちで一誠に忠告した。

 

「あの力は使うなとは言わない。ただし鎧を装着する時だけは約束してくれ。

周りに誰もいない状態か絶対に勝てないと思った敵にだけして鎧を纏え。

坊主が宿しているゾラードの力は簡単に関係のないものまで消してしまい、

人の命を奪ってしまう危険性がある。

それは勿論、坊主がゾラードの力を制御できていなければの話だがな」

 

「・・・・・」

 

「いいな?男と男の約束だ」

 

ユーストマが拳を突き出す。その意図を察し、

コクリと頷いて一誠も小さな拳をユーストマの大きな拳に突き出した。

 

「わかった。守る」

 

「おし、いい子だぜ坊主!」

 

ワシャワシャと一誠の髪をグシャグシャにする勢いで撫でまわす。

 

「ユーストマさま、人間界には何時頃まで滞在になされるおつもりで?」

 

「夕方には帰るぜ。その間にこの家の長と将棋でもしながら話をしている」

 

「お父さん、一誠くんと遊んでいい?」

 

「おう、いっぱい遊んでこい。坊主、シアと遊んでくれよ」

 

ユーストマからのお願いを受け入れ頷いた一誠はシアに催促された。

 

「一誠くん、遊ぶッス!」

 

「百代、四人だったら遊べれるね」

 

「だな。よし、ボールを持ってくるから玄関に待っててくれ」

 

「分かった、オーフィス行こう」

 

「ん」

 

幼少組(うち二人はドラゴン)は立ち上がって居間からいなくなる。

 

「・・・・・ユーストマさま、襲撃者は・・・・・」

 

「軽く殴ったら喋ったぜ。―――兵藤家の奴だ」

 

「・・・・・っ」

 

「もう一発殴って理由を吐かせたらよ。くだらねぇ理由だったぜ。

『追放された兵藤の者の弱者が調子に乗ったからだ』―――くだらねえだろ」

 

「ええ・・・・・誠にそうですね」

 

リーラから怒気のオーラが静かに発した。

腹の中は激しく煮え繰り返っているだろうなとユーストマは内心察して話題を変えず言い続ける。

 

「だからな、できる限り坊主を一人にしない方がいいだろう。

いつどこでまた襲撃されるかわかったもんじゃない」

 

「・・・・・以後そうします」

 

『リーラさん!一緒にあそぼー!』

 

遠くから一誠の声がリーラを呼ぶ。主が待っているとばかりユーストマへ

お辞儀をして一誠のもとへ赴くリーラ。

 

「・・・・・まー坊に出遅れた分、俺もどんどん攻めさせてもらうぜぇ?」

 

そして残ったユーストマの顔は何かを企んでいるような怪しい顔つきになった。

「ふっふっふっ」と、とても天使を束ね、

神を支える熾天使とは別の役割を持つ王とは思えないほどであった。


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