HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード59

ユウキと恋姫のクラスにレイヴェル・フェニックスが編入してきた。

恋姫はハーフ悪魔としてレイヴェルの緊張を和らげ、初めての人間界の教室に馴染ませようと

臨んだ結果。教室には何人かの悪魔もいたこともあってか居心地悪くならず笑みを

浮かべたのはそう時間も掛からなかった。

 

「ありがとうございます恋姫さん。何かなら何までお世話になりましたわ」

 

「気にしないでください。私はちょっとお節介な方なんで」

 

「とてもお節介とは思えないのですが、とても感謝しているのは本当です」

 

「キミのお兄さんと先輩のゲーム以来だね。チラッと見た程度だけど」

 

「そうですわね。あの後、改めてゲームの映像を見て、皆さんの事を知りましたわ。今後ともよろしくお願い致します」

 

礼儀正しくお辞儀をし、二人と仲良くなりたいと思ったレイヴェル。

 

「ところで、あの方の教室はどこなのですか?」

 

「二階の一番端っこ・・・・・いや、ここは直接道案内した方がいいね」

 

「なら、私もご一緒に」

 

昼休みの時間。三人は一誠が通っていた教室に足を運ぼうとしたその時だった。ガラッと扉が開き、1-C組の教室に自然と入ってきた人物。―――誰もがその人物に息を呑んで、言葉を呑んで、目を丸くして絶句した。

 

「フェニックス、いた」

 

「「「―――っ!?」」」

 

真紅の髪を揺らしながら三人の前、正確にはレイヴェルの前に立ちはだかってジーと見詰める一誠が堂々と駒王学園に侵入をしていた。

 

「「せ、先輩っ!?」」

 

「・・・・・誰?」

 

自分の事を言ったのだろうと反応した一誠は知らない少女に首を捻った。

だが、直ぐにレイヴェルに視線を戻して凝視。

 

「・・・・・私に何か用ですの」

 

「お前を見張る」

 

「私を見張るですって・・・・・?」

 

コクリと首を縦に振って応じる一誠。すると、轟くほどの地響きが。それは徐々にここまで近づいてくるのがハッキリと分かり、ついには―――。

 

「いっせぇええええええええええっ!」

 

百代を始め、シオリ、エスデスが教室になだれ込んで百代が率先して一誠に拳を突き出した。

拳は見事に巨を突かれた一誠にHIT、窓ガラスを割って外にまで吹っ飛ばされた。

しかし、体勢を立て直した矢先に一誠が氷に、同時に氷の表面に魔方陣が展開してそのまま閉じ込められてしまった。

 

「・・・・・修業の成果がここまで発揮したなんて自分でも驚きだわ。あの修行のおかげ・・・・・」

 

「あの地獄の修行は私でも本当に堪えたぞ。川神院の鍛練や修行の方が可愛過ぎる・・・・・っ!」

 

「もう二度としたくない。なんであのドラゴンは嬉々として・・・・・」

 

ぶつぶつと呟きだす三人。騒ぎを駆けつけた大勢の者たちが顔を出して様子を見守っていればアザゼルたちが現れた。

 

「お前ら、これは一体・・・・・」

 

「一誠が現れたんだ。問答無用に封じ込めて今に至る」

 

「あの一誠が・・・・・?」

 

氷の中にいる一誠を見た。時間が停止したように微動だにせず、完全に氷の中にいる一誠の姿をアザゼルたちは捉えた。その中でトコトコとオーフィスが近づき、氷をペチペチト叩く。

 

「この者、イッセーじゃない」

 

「なんだと?」

 

「イッセーの中にいるアジ・ダハーカたちを感じない。これ偽物」

 

「ああ、確かにあいつらの波動を感じない。魔法で作った分身体の類だろう。じゃなきゃ、あの男がこんなあっさりと―――」

 

オーフィスに続き、クロウ・クルワッハも同意と言葉を繋げた。

 

ピシッ!

 

氷の表面に罅が生じ、一気に魔方陣ごと氷が崩壊して一誠が封印から脱したのだった。

 

「分身体でも強さは変わらないようだな」

 

「このチートめっ!」

 

悪態をつくアザゼル。エスデスとシオリの封印コンボを難なく突破したのが魔法による分身体なのだから

まだまだ本物の一誠には足元にも及ばないということだろう。

 

「・・・・・」

 

一誠は自分を囲む面々を見渡す。そしてポツリと零した。

 

「不思議だ。どうして皆強くなってる?」

 

「ほう、流石に分かるか」

 

「ハッキリ言って。曹操たちより強い。今度会ったらこっちが負けるだろうな。俺は負ける気ないけど」

 

「・・・・・それで、お前は何をしにここにやってきた。久々に通学でもしに来たのか?」

 

話を変えて本題に入る。アザゼルの話に怪訝そうな面持ちで首を傾げるが、違うと暗に発した。

 

「フェニックスに用がある」

 

「―――こいつも攫おうとするのか」

 

レイヴェルを庇うように動き、警戒する面々に対して首を横に振った一誠。

 

「見張るだけ」

 

「・・・・・見張るだと?」

 

「見張っていれば分かるかもしれない。そう思ってフェニックスの近くにいて見張ることにした」

 

ただそれだけだと述べ、戦意すら窺わせない一誠に誰もが拍子抜け、なんだそれはと心底呆れた。

 

「お前、俺たちの事覚えてないんだな?」

 

「なんのことだ?でも・・・・・何故かこの言葉だけが心に残ってる」

 

堕天使のブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード総督―――と言った瞬間。

 

「なんじゃそりゃああああああああああああああっ!」

 

アザゼルが吠えた。自分たちの事を忘れているのにアザゼルにとって黒歴史な渾名だけ覚えているなんて

どうなってるんだと羞恥で耳まで真っ赤に染まった顔で叫んだのであった。知る者と知らない者の反応は二手に分かれている余所にリアスが尋ねた。

 

「イッセー、彼女を見張って何が分かると言うの」

 

「ん、それは言えない」

 

「・・・・・危害を加えようってわけじゃないのよね?」

 

「うん」

 

純粋に頷く。傍にいてその時まで待っていれば何か分かるかもしれない、そう一誠は考えついてレイヴェルの傍で待つことにした。

 

「だから、邪魔しないでね」

 

『・・・・・』

 

これは・・・・・どうするべきだろうか。アザゼルたちは一誠の扱いに悩みだす。分身体の一誠なので神器(セイクリッド・ギア)を振るえることはできないだろう。だが、それでも最大に警戒する相手。

 

「それって・・・・・ずっと彼女の傍にいると言うことなのね?」

 

「ん、そう」

 

「授業中も?」

 

「ん(コクリ)」

 

影のように付きまとう。授業中でも後ろに立って視線を送ってくる現実味をレイヴェルは容易く思い浮かべることができた。

 

「迷惑です。あなたはテロリストなのですからテロリストらしく気配を殺しているか、姿を隠す、もしくは姿を変えて私を見張っているべきですわ」

 

傍迷惑だとハッキリ述べるレイヴェル。ある意味ストーカーの如くする一誠に眉根を寄せる程、嫌悪感を覚えた。

レイヴェルが言った言葉を聞き、最初はキョトンとした顔で―――次にポンとその手があったかと納得したのだった。

 

「わかった。そうする」

 

「え?」

 

何を理解したのか、間抜けな声を発した誰かを特定する前に一誠は光に包まれた。段々と光は小さくなり、姿も変え、光が消失した時には一誠が九つの尾を生やす小さな狐となった。

 

「これで気にしない」

 

そうでしょう?と言わんばかり期待に満ちたキラキラと輝かす金色の双眸、フリフリと動かす九本の尾にレイヴェルを「か、可愛い」と漏らせるのには十分だった。

 

「・・・・・で、結局これからどうするんだ?」

 

「様子を見守るしかないでしょう。危害を加えないのであればその間、彼から少しでも情報を吐いてもらうしか」

 

「だよなー・・・・・」

 

本当に扱いに困らせてくれる―――アザゼルは溜息と共にそう零した。

 

―――○●○―――

 

新たな高みへと目指す一行は新たな力の調整を没頭していた。一誠と分身体が曹操たちの鎧と化となっていて、

曹操たちは一誠の力を自分の力としてマスターしようと試む。それぞれの特性と戦闘スタイルが違う為、

特訓方法は異なるのは必然的だった。それでも曹操たちは自分なりに力を高め、次の戦いに備えるある日―――。

 

駒王学園が魔法使いの襲撃に遭った―――。

 

一誠のその報せが曹操たちの耳に入り、レイヴェルも攫われたことも把握した。

 

「ゲオルク、同じ魔法使いとしてはぐれ魔法使いたちの行動はどう思う?」

 

「分からないな。ただ、自分の力を試したい術者は当然のようにいて度が過ぎた行動をした者は教会を追放される。対テロ組織混成チームが勢揃いしているあの学園に襲撃すればただじゃ済まないだろうに」

 

肩を竦めはぐれ魔法使いたちの行動を呆れの含みがある言葉を発する。

 

「攫われたフェニックスを救出するだろうね。私たちには関係ないが」

 

「放っておこう。僕たちはこれから忙しくなるんだからさ」

 

「ああ、吸血鬼と一戦―――そろそろおっぱじめよう。調整が完了次第にね」

 

目の前の目的に集中する曹操たちに一誠とリースがどこかへ行こうとする。

それを察知してジークフリートが尋ねた。

 

「どこに行くの?」

 

「フェニックスのところ」

 

「フェニックス?助けに行こうとするのか?」

 

疑問をぶつければ首を横に振った。

 

「黒幕が誘ってきたから」

 

「黒幕?はぐれ魔法使いたちを動かしている者のことか」

 

そいつは誰なんだ?と問いだたしたら一誠の口から出た言葉はこれだ。

 

「リゼヴィムと関わりある今回の黒幕の悪魔が分身体を介して来てくれと言われた」

 

足元に魔方陣を展開して、そう言い残して誰も制止の呼びかけをする暇も無く―――滑りこんだセカンド・オーフィスと共にどこかへ転移した。

 

「曹操・・・・・どうする?」

 

「黒幕の悪魔か。リアス・グレモリーたちに何をするのか興味がある。少しの間だけ遊ばせておこう」

 

「このまま帰ってこないというケースもあるが?」

 

「セカンド・オーフィスが一緒だ。帰ってくるさ」

 

口の端を吊り上げ、自信満々に発する曹操。ここで終われば済んだ話なのだが、

 

「そのまま外であの二人だけで兵藤一誠を襲ったりしてもか?」

 

ゲオルクの余計な一言で曹操をさっきの言葉とは真逆の行動をするのは知る由も無かった。

 

 

―――深夜。グレモリー眷属とシトリー眷属は最寄り駅に来ていた。レイヴェルを攫った魔法使いたちからの指示で、

 

『レイヴェル・フェニックスを返して欲しければ、グレモリー眷属、シトリー眷属のみで地下のホームに来い』

 

 

地下のホーム。それはこの駅の地下にある冥界行きの列車がある悪魔専用の空間。この光陽町にはその空間がいくつもあり人間界を行き来する悪魔たちにとっては欠かせない移動手段であった。夏期休暇時にリアスたちが利用した場所でもある。この場所に来いと指名され、指名されたメンバーは意外そうな顔を浮かべる。

その最中でソーナが駅のエレベーター前で呟く。

 

「ここを指定されるとは思いもしませんでしたね。他の悪魔専用の地下空間は既にスタッフの方が調査していますが・・・・・いくつかの魔法の痕跡はあったようです。一時的な潜伏先として利用されていた気配があります」

 

「地面を潜って来て地下から侵入したってことですか?それとも冥界側―――列車のルートから侵入した?次元の狭間を通って・・・・・」

 

一成がそう訊くがソーナは首を横に振る。

 

「いえ、どちらも違うでしょう。やはり、誰かが知らない間に利用された・・・・・?」

 

裏切りによって侵入を許したとは思えませんが・・・・・。とソーナは難しい顔で深く思慮している様子で呟く。

それを聞いて一成は尋ねた。

 

「あいつ、兵藤一誠の場合は?普通に学校に現れましたよね」

 

光陽町は三大勢力の数多くのスタッフが存在しており、学園を中心に町全体に強力な結界が張られ、怪しい者が足を踏み入れると直ぐに誰かが察知できるようになっている。一誠が単独で分身体でも楽に侵入できるのは?とソーナに尋ねたところ。

 

「彼は兵藤誠さんと兵藤一香さんの息子です。彼らがこの町に出入りすることもあるので、同質の力を持つイッセーくんは結界に引っ掛からず容易くこの町に侵入できるのです」

 

「神隠しのように姿をくらませたと思えば、神出鬼没に現れるのだからこれ以上に無い厄介なドラゴンね」

 

ソーナに続きリアスも一誠という存在に改めて噛みしめるように言う。

 

「でも、今の私たちで彼に届くかどうかは分からないのだけれど、これだけは言えるわ。―――皆で掛かれば彼を止められる可能性は格段に上がった。この場にいる全員が異世界のイッセーたちに鍛えられ自分でも驚くほどの強さを得たのだから一矢報いることは不可能じゃないはずよ」

 

リアスの言葉に―――殆どのメンバーがブルリと身体を震わせた。それから座り込んだり、頭を抱えたりして壊れたオルゴールのようにブツブツと独白し出す者も出る。

 

「じゃ、邪龍たちに追いかけ回されるっ・・・・・」

 

「聖なる光に身を焦がされながらの修行はもう嫌ぁっ・・・・・」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・」

 

リアスたちは凄まじいパワーアップを果たしたと同時に一生消えない、拭い払えないトラウマを植え付けられ、抱き、抱えた。

 

「・・・・・恨んでしまいそうです。彼らには」

 

「精神力を鍛える為に―――と全裸で修行をさせられた時には死にたい思いだったわっ」

 

一成と匙は全裸だらけの主や眷属悪魔の美女、美少女たちの身体を見ては鼻血をアーチ状に噴き、海まで吹っ飛んだほどだった。

 

「・・・・・絶対に責任を取って貰うわよ私は」

 

「・・・・・彼ではないのに?」

 

「彼だからこそよ!こんなことになったのはイッセーの所為なんだから!」

 

自分たちの裸を見ているのに普通の態度で接してくるどころか笑いながら魔力弾を放ってくる精神と性格がおかしい異世界の兵藤一誠を脳裏に思い浮かべた。

 

「ところでソーナ。話は変わるけれど新しい眷属の方はどうなの?」

 

「ええ、まだ見つからない段階です。彼の言う通りの眷属にしようかと思うのですが」

 

「強制じゃないから無理せず成ってくれる者を見つけなさいよ?」

 

親友に応援するリアス。リアス自身もまだ騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)の駒を持っている。

自分の回りには素晴らしい人材がゴロゴロいるのだが、眷属にしないのは遠慮しているからである。

明らかに悪魔に転生しようとは思わない者もいれば、事情によって転生して貰えない者もいるわけで

リアスはただただ、目の前に置かれている御馳走に物欲しそうに眺めることしかできない状況下にいる。

それはソーナも同じことなのだが、異世界の兵藤一誠に言われた新たな眷属にしようかどうか悩んでいる最中。

 

「話はここまでにしてそろそろ行きましょう」

 

「そうですね。では―――」

 

地下に降りるエレベーター。シトリー、グレモリーと分かれて乗る事を決め合った二人に―――第三者の集団が待ったを掛けた。

 

「待ちやがれ」

 

「え?―――っ」

 

「てめぇら、ここで何をしてる?」

 

第三者の集団。リアスが顔を強張らせ、ソーナは厳しい目つきで尋ねてくる少年に向ける。

 

「赤龍帝。それと兵藤家・・・・・」

 

「答えろ。ここで何をしようとしていた?」

 

再度問う赤龍帝兵藤誠輝。その応対にリアスが応じた。

 

「質問を質問で答えるのは悪いけれど、この時間帯で外に出歩いているあなたたちも何をしているのかしら」

 

「えっと、当主から直々に申されまして。私たち兵藤家は夜間の間、警備をすることになったんです」

 

少女の話に神妙な顔つきとなるリアス。

 

「警備?今まで兵藤家はそんなことしていなかったわよね」

 

「ええ、そうなんですがここのところ立て続けに起きた襲撃、全て許し逃してしまいました。その事実に当主は大変遺憾に思い、式森と共に町を徘徊して警備をする事となったのです。・・・・・まだ若い世代で力のある私たちまで」

 

眠たそうな顔で溜息を吐きだした少女に視線で労うリアス。少女は言い続ける。

 

「で、町中歩き回ってそろそろ帰ろうとしていたら彼がいきなりここまで寄ったんですよ」

 

自分たちの気配を感じて来た・・・・・?リアスとソーナは顔を見合わせ誠輝に視線を送れば今度は自分の質問人答えろと凄みのある睨みで訴えられた。説明をしない限り、納得もこの場から離れてはくれないだろうとソーナは告白した。

 

「私たちは今朝、襲撃してきた魔法使いたちから私たちだけでこの駅の地下のホームに来いと指示されています」

 

「んだと?」

 

「攫われたフェニックス家の後輩を救出するべくこの場にいるのです」

 

御理解いただけましたか。と言いたげな視線を送るソーナに兵藤家の一人が口を開いた。

 

「どうして兵藤家と式森家に報告しないんだ?」

 

「それも指示に含まれていたからです。それに私たちだけでも大勢だと言うのにこれ以上の戦力で赴けば相手は何を仕出かすのか分かりません」

 

「ふーん、じゃあ、俺たちの力はいらないってことでOK?」

 

軽い調子で言う兵藤の少年に無言で頷いた。早く帰って寝たい思いから出た言葉かもしれない。

現に町を徘徊して何一つ起きず平和に終わった。なら、早く帰ろうという思いを抱いていたはずだ。

 

「んじゃ、俺たちは帰ろうぜ」

 

と一人の兵藤が我先にとばかり踵返して帰ろうと足を前に動かそうとした時に―――目を疑うような者がいた。

 

「お、お前ッ!?」

 

『っ!?』

 

焦りと悲鳴が混じった声がリアスたちを敏感に反応させる。そして―――。

 

「ここで何をしてる?」

 

誠輝と似たような尋ねをする英雄派の兵藤一誠と傍にリースとセカンド・オーフィスが佇んでいた。

 

「イッセー!?」

 

「てめぇっ!」

 

驚愕と敵意。兵藤家は警戒して一誠たちを取り囲む。

 

「犯罪者に成り下がった化け物が。よくとまぁ、俺たちの前に現れたもんだな。舐めているのか」

 

「悪いけどさー大人しく俺らに倒されてくれない?」

 

「こいつを捕まえたら俺たち有名になるよな」

 

「まぁ、今までの汚名と功績は返上されるのは間違いないな」

 

「悠璃さまと楼羅さまのために」

 

「あなたを捕縛します。例え、身体の一部が失わせてしまっても」

 

そう言う者たちに一誠はぐるりと見渡して一言。

 

「邪魔」

 

一誠の足元の影が誠輝たちの影に伸び、繋がった瞬間。底なし沼のようにズブズブと誠輝たちが影の中へ沈んでいくのだった。誠輝は赤い魔力弾を放つものの、セカンド・オーフィスによって弾き返されて自分の攻撃に直撃した。そして、誠輝たち兵藤家は影の中に消えてしまった。

 

「・・・・・アレを見たらさっきの言葉を取り消したくなっちゃうわ」

 

「―――お前たちも」

 

『えっ?』

 

一誠の影はリアスたちにまで伸びては繋がり、誠輝のように影の中へ沈まれていく―――。

 

そして、仕事が終わったとばかり一誠はリースとセカンド・オーフィスを引き連れて地下に続くエレベーターに近づき乗り込んだのだった。

 

―――○●○―――

 

地下に降りた三人は、冥界行きの列車用に建設されたホームを進んでいく。広い空間を抜けて、右に左に進んでいくと―――途端に不穏な気配を察知する。三人がいま歩いている通路を抜けた先に敵が待ち構えているのだろう。

リースは警戒し、一誠とセカンド・オーフィスは自然体のまま通路を抜けていく―――。そこは一誠でも始めて足を踏み入れる地下の開けた空間だった。その空間に入った三人の前方には魔法使いの集団が出迎えてくれた。とローブの種類は様々だが、

魔術師用のローブを一人残らず着込んでいた。一人の魔法使いが怪訝に

「あれ、グレモリーとシトリー眷属は?」首を捻りだす。その疑問を一誠がサラッと答えた。

 

「邪魔だからどこかに転送した」

 

『空気を読めよ!このKYがっ!』

 

いきなり怒られた。

 

「おいおい、どーすんの?あいつ、英雄派に所属しているイレギュラーなドラゴン、

兵藤一誠だぞ」

 

「うーん、相手にとっては不足ないんだがなぁ・・・・・」

 

「盛り上がんねぇー!」

 

「決まった結果を察しながらも戦うのはねぇ。

いっそのこと、リーダーのところまで素通りさせる?」

 

しかも何か話が段々と進められて結果―――。人の道ができてその奥には転移用らしき

魔方陣が出現した。

 

「お前らはいいや。さっさとリーダーのところに行けよ」

 

一誠に尋ねた魔法使いが顎で催促した。それには不愉快と綺麗な顔を顰めたリース。

 

「随分と生意気に、それでいてあっさりと通してくれるのね」

 

「俺たちはグレモリー眷属とシトリー眷属の悪魔と戦いたいんだよ。俺たちにとってお前らはお呼びじゃないんだ。分かる?」

 

「・・・・・行きましょう」

 

話すのも無駄だと悟り、一誠を促す。足を動かし、転移型の魔方陣に進む一誠が徐に指を弾いた時だった。

通路に繋がっている入り口前の空間に穴が開き、どこかに転送されてしまった面々が続々と落ちてきた。

 

「そいつらの相手、よろしく」

 

それだけ言い残して一誠はリースとセカンド・オーフィスと共に転移用の魔方陣の光に

包まれどこかに転移した。三人は『リーダー』と呼ばれる者のもとに行く。

そして、一誠たちが術者たちの用意した魔方陣で、転移した先に広がっていたのは―――。

何もない、だだっ広い白い空間だった。ただ白いだけの空間。上下左右も白い四角い場所だ。天井はかなり高い方で、そこそこ無茶ができそうなぐらいには広大だった。

 

「ようこそ、誘いに応じてくれてありがとうございました」

 

突然の第三者の声。そちらに視線を送れば・・・・・。先ほど、空間を見渡した時には

見当たらなかった人影がそこにあった。一誠たちと距離を置いたところに装飾残った

銀色のローブに身を包む銀髪の青年がいた。

 

「私はルキフグス。ユーグリット・ルキフグスでございます」

 

「リゼヴィムはどこにいる?ここにくれば会えると聞いたぞ」

 

お前の事はどうでもいいと雰囲気で醸し出し、探し求める人物の名を出すとユーグリットは淡々と述べた。

 

「そうですね。そのはずでしたがあの方は『ごめんねー坊ちゃん!僕ちゃんって今絶賛忙しいからまた今度会おうぜぃ☆』と私に伝言を―――」

 

言い掛けた言葉は、一誠の魔力弾で掻き消された。ユーグリットの背後に着弾し、爆発する。

 

「ここにいないならお前を捕まえて居場所を吐かせる。それだけだ」

 

「その通りね」

 

ブリューナクを構えるリース。一誠と同じリゼヴィムに復讐を誓う者。そのリゼヴィムと関わりのある悪魔が目の前にいるのだから居場所も知っているはずだ。ユーグリットは態度を変えず表情も動揺や恐怖の色を浮かべずにただ朗らかに口を開いた。

 

「では、少しの間だけ協力してもらえればあの方の事を話してあげましょう」

 

「協力・・・・・?」

 

「―――ええ、あなたをここに誘ったのはあなたのような強者と戦いたいと願う者がいるので、

お相手をしてもらえませんか?実はそれが目的でした」

 

そう言うユーグリットが一誠たちとの間に巨大な陣形を作り出していく。光が床を走り、

円を描いて、輝きだした。一誠はそれを見て漏らす。

 

「―――龍門?」

 

龍門。とある魔方陣の一種、龍門は力のあるドラゴンを招く門。

龍門の輝きは呼ぶ側のドラゴンのカラーを発しながらそのドラゴンを招く。

ユーグリットが展開しただろう龍門の輝きは―――深い緑、深緑だ。

 

 

―――そして、深緑の龍門の魔方陣が輝きを一層に深くしてついに弾ける!

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!

 

白い空間全てを震わせるほどの声量―――鳴き声とも言える咆哮が、そのものの大きな口から

発せられた。三人の眼前に出現したのは、浅黒い鱗をした二本足で立つ巨大なドラゴン。

太い手足、鋭い爪と牙と角、スケールが違い過ぎる両翼を広げ、長く大きい尾をしている―――巨人型のドラゴン。

 

「―――伝説のドラゴン、『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル」

 

巨大なドラゴンは牙の並ぶ口を開く。その銀色に輝く双眸と眼光は鋭く、

ギラギラと戦意と殺気に満ちていた。

 

『グハハハハハ。久方ぶりに龍門なんてものを潜ったぞ!

さーて、俺の相手はどいつだ?いるんだろう?俺好みのクソ強ぇ野郎がよぉっ!』

 

大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデルの登場に一誠ろリースは目を丸くして驚きつつ神経を集中する。何時でも戦闘に入れるようにする為だ。身に纏うオーラは禍々しい相手に警戒しないでいられない。見ているだけで邪悪さがうかがえるほどにドス黒いオーラをしていた。

一誠の身体中に宝玉が浮かび発光しながら声が発生する。

 

『なんだ、お前か。何時振りだ?久し振りだな』

 

『よう暴れん坊。人間に完膚なきまで滅ぼされたと聞いたんだがな』

 

邪龍のアジ・ダハーカとネメシスが久し振りに再会した旧友のように話しかけた。

 

『グレンデル・・・・・久しくまた邪龍と出会ったな。これも主の特有の力か』

 

一誠とセカンド・オーフィスに視線を配らせるグレンデル。

 

『縛り野郎に・・・・・アジ・ダハーカの旦那かっ!ゾラードまでいやがる!しかもなんだ?変なドラゴンどもがいるな?』

 

興味深そうに目を細めるグレンデル。過去に出会ったことがあるドラゴンと再び相対した喜びと同時に見覚えのない、感じた事のないドラゴンの波動を発する一誠とセカンド・オーフィスにユーグリットが説明した。

 

「グレンデル。真紅の髪のドラゴン、兵藤一誠はオーフィスとグレートレッドの力によって復活した真龍と龍神の肉体と力を有するとても希少で極めてイレギュラーなドラゴンなのです。そしてその隣にいる者もまたイレギュラーで、兵藤一誠から抽出した力によって再構築、具現化したことで誕生した第二のオーフィス、もしくは兵藤一誠の分身と言えます。なので、グレートレッドの力も有しておりますよ」

 

ユーグリットの話を聞いて哄笑を上げたグレンデル。

 

『グハハハハッ!こいつはいいっ!目覚めの運動には良い相手じゃねぇかっ!』

 

グレンデルはひとしきり笑ったあとに両翼を大きく広げて、体勢を低くする。

 

『兵藤一誠とだったか?アジ・ダハーカの旦那をそんな風にさせたその強さを今度は俺にもぶつけてくれやぁっ!』

 

「・・・・・オーフィス、リースを守って」

 

一誠が急に全身を真紅に光輝かせる。一誠の使用としていることを察知し、リースを引き連れて離れだした直後、

膨れ上がり、人の形を崩して変貌するドラゴンと化した一誠がグレンデルと対峙する。

 

『こいつは・・・・・俺がやる』

 

本来ならばグレンデルより全長が大きいはずだが、この空間の高さが一誠の大きさを制限した。グレンデルと同じぐらいの大きさになってグレートレッドと酷似した姿となった。

 

『うほっ!テンションが上がるじゃねぇかよ!そうそう、ドラゴンとドラゴンの殺し合いはそうじゃなくちゃなぁっ!』

 

狂気の笑みを浮かべ、嬉々として一誠に飛び掛かった。巨大な拳を突き出したが一誠に手の平で防がれ、逆に掴まれると今度は仕返しとばかり一誠が拳を突き出せばグレンデルが同じように一誠の拳を掴んで防げば

力の根競べが行われる。

 

『グハハハハハッ!こんな風にヤリ合うのは久し振りだぁっ!』

 

その状態で腹部を何度も膨らませた。

 

「イッセー、火炎球がくる」

 

セカンド・オーフィスが背後からグレンデルの攻撃の動作に気付いて説明した。一誠も口の端から真紅の光を迸らせ至近距離でのグレンデルと一誠の攻撃が炸裂して大爆破と凄まじい衝撃が起こったのだった。

 

『おもしれぇ、おもしれよぉっ!』

 

衝撃で一誠から吹っ飛んだグレンデルに大きなダメージを受けた様子は無かった。一誠も同様だった。

態勢を整えだせば直ぐにどちらからでもなく引き連れられるように接近した。

 

『今度は殴り合いといこうじゃねぇかっ!ええおい、兵藤一誠ぇっ!』

 

『―――来い。全力でお前を潰すっ!』

 

『上等だァっ!』

 

―――○●○―――

 

「これが兵藤家の力だ、思い知ったか魔法使い共が!」

 

「・・・・作戦も何もない戦いでしたね」

 

一誠の影によって呑みこまれていたはずだったのだが、何時の間にかはぐれ魔法使いの集団の前に落とされ、分からないまま戦いを始めた。戦後、兵藤家とソーナたちの態度が明らかに違っていた。

 

「会長。二度と兵藤家の連中と組みたくないっす。あそこまで傍若無人な動きをされてはやり辛いっすよ」

 

「俺たちも戦ったってのになんか自分たちだけ戦った言い方だな」

 

匙と一成が誠輝たちに対して良い感情的ではなかった。しかし、しょうがないと仕方がないと半ば諦めて片付けてはぐれ魔法使いたちに尋ねた。

 

「攫ったフェニックスはどこですか?」

 

「ああ・・・・・『工場』にいるぜ」

 

「工場・・・・・?」

 

「この場所とは別んとこにある。上級悪魔のフェニックスのクローンを大量に作り出して、カプセルの中で『フェニックスの涙』を産み出しているんだ』

 

―――っ。

 

何ともおぞましい話だとソーナは眉間に皺を寄せた。

 

「俺たちだけでやっていたんだが、本場の『フェニックスの涙』の効果はほど遠くてよ。限界を感じて本物に近い涙の精度を向上する為に最後の手段としてフェニックス家の悪魔を攫い、直接情報を聞きだすことにしたんだ」

 

「・・・・・その工場はどこにありますか」

 

怒りを押し殺し、冷淡に場所を追求した。ソーナの言葉に嫌みたっぷりな笑みを浮かべ出すはぐれ魔法使いの一人、

 

「いま行くの止めた方が良いぜ。リーダーがイレギュラーなドラゴンにドラゴンをぶつけたがっていたからよ」

 

「イレギュラーなドラゴンにドラゴンを・・・・・?」

 

「それでも行きたいなら勝手にしろ」

 

離れた場所に魔方陣が出現した。あの魔方陣で行けば一誠がいる工場に行ける。ソーナはリアスに顔を向ける。

 

「私とリアス、それ以外に五名ほどの眷属だけを行かせて上にいるスタッフたちを呼んでここにいる魔法使いたちを全員捕えます」

 

「そうね・・・・・って」

 

リアスが何かを見て丸くした。ソーナはリアスの視線を追えば―――誠輝たちが工場に繋がる魔方陣の光に包まれ先に行ってしまった光景を目の当たりにした。

 

「ああもう、どうして兵藤家は自分勝手で身勝手な人たちばかりなのですか!?嫌になるわまったく!」

 

ソーナがキレた。シトリー眷属やグレモリー眷属はそんなソーナを見たことが無いと驚愕して、自分の親友に恐る恐るとリアスは訊いた。

 

「・・・・・そこにイッセーも含まれている?」

 

「あなたの判断に任せます」

 

ふぅ・・・と息を整えるように自分を落ち着かせ、いつもの冷静沈着な自分を取り戻す。

 

「私の方から匙、椿姫、リアスから成神くん、朱乃さん、白音さんの五人でよろしいですか?」

 

「ええ、構わないわ。三人とも、いい?」

 

「二人もいいですか?」

 

二人の主から尋ねられ、当然のように返事をする眷属悪魔たち。先に行ってしまった兵藤家を追いかけるように

魔方陣で工場に移動した―――。

 

 

先に向かった誠輝たちが目の当たりにした光景。真紅のドラゴンと浅黒いドラゴンの死闘。

壮大で凄まじい戦いぶりに人間の誠輝たちは唖然と見守ることしかできないでいる。

 

「なんだよ、これ・・・・・」

 

「俺たちが割り込む隙なんてないじゃないか・・・・・?」

 

「てか、乱入した瞬間・・・・・攻撃の矛先がこっちに向きそうだよね」

 

『あ―――?誰だテメェら』

 

グレンデルが誠輝たちに気付いた途端、口角を吊り上げた。

 

『グハハハッ!天龍、赤いのか!なんだその姿は?』

 

「っ!?」

 

自分の事だと分かり、誠輝は驚くと左の手甲に緑の宝玉が浮かんだ。

 

『―――グレンデルだと・・・・・?どうなっている。こいつは俺よりも大分前に滅ぼされたはずだ』

 

「なんだと?」

 

誠輝が反応する。ドライグの話が本当だとすれば目の前のドラゴンは死んでいた。しかし、何らかの理由で復活を遂げた。

 

「グレンデル、二天龍は既に滅ぼされていますよ」

 

ユーグリットの言葉を聞いてグレンデルは哄笑を上げた。

 

『グハハハハハッ!んだよ、おめぇらもやられたのか!ざまぁねぇな!ざまぁねぇよ!

なーにが、天龍だ!滅びやがってよっ!それによ、んな細けぇことどーでもいいじゃねーか。ようは強ぇ俺がいて強ぇお前がいる。おいイレギュラー』

 

『なんだ』

 

一誠に話しかけたグレンデルは笑みを浮かべ、誠輝たちに指した。

 

『てめーとの殺し合いも楽しいが、ドライグとも殺し合いてぇんだがよ。あいつらも交ぜて良いよな?』

 

グレンデルの話を聞いて誠輝以外の兵藤家たちは顔を青ざめた。二匹のドラゴンに絡まれるなんてこっちから勘弁してほしいと思うほどに。

 

『・・・・・邪魔する奴は薙ぎ払うだけだ』

 

『んじゃ、決まりだな』

 

二匹のドラゴンは誠輝たちに向け、攻撃態勢になった。

 

「お、おい誠輝っ。お前、天龍なんだからあいつらを倒せるだろうっ」

 

「アホ言え!あんな化け物二体も同時に相手にできるか!」

 

「何時も自分が最強だって言ってたでしょうが!」

 

「アレは人間限定的な意味だ!」

 

 

ギャーギャー!

 

 

『んだ?仲間割れか?まっどうでもいいがな!』

 

口を開けてグレンデルが巨大な火炎球を誠輝たちに向けて放った。言い合いをしている誠輝たちは自分に迫る太陽を彷彿させる火炎球に気付いて散らばって逃げようとした次の瞬間。巨大な鏡が虚空から出現して火炎球を受け止めた後に砕け散ると、真っ直ぐグレンデルと一誠に跳ね返って直撃した。

 

「戦う意思がなければここから退いてください」

 

黒い長髪を靡かせ、真剣な表情で腕を突き出した状態で言う真羅椿姫。続いて匙、一成、朱乃、白音が魔方陣から現れた。

 

「て、テメェら!?」

 

「もう一度言います。戦う意思がないのであればここから立ち去ってください。―――邪魔です」

 

椿姫を筆頭に二匹のドラゴンと立ち向かう意志を醸し出す五人。その中で匙の足元の影から真っ黒な人間サイズの蛇が出てきた。その蛇がヴリトラで目の輝きを濁らせながら、驚きに包まれた声音を漏らす。

 

『・・・・・ッ!グレンデル・・・・・ッ!?・・・・・あり得ぬ。

奴は暴虐の果てに初代英雄ベオウルフによって完膚なきまでに滅ぼされた筈だ』

 

『おほっ!ヴリトラかよ!ドライグにヴリトラまで来やがるなんてますます面白くなったじゃねぇかっ!』

 

狂気の笑みを浮かべ、ヴリトラにも戦いを臨もうとするグレンデルであった。そして、

 

「一誠・・・・・っ!」

 

龍化した巨大な真紅のドラゴンの一誠を目の当たりにし、五人は臨戦態勢になる。

 

『お前らに用は無い』

 

一誠はそんな五人に興味など持っておらず、視線から逸らした。

 

「お前が無くても俺たちにはあるんだ!いい加減に―――」

 

一成の発言を遮るように一誠の極太の尾の先が光り輝きだす。光は剣のように形を変え、封龍剣の刀身と化したその直後。ピッと剣を振るうと白い床に一筋の線が一瞬で刻まれた。

 

『死にたいやつがいるならそこから出て来い』

 

首から三つの頭部、鎌首が生え出し、一成たちを睨むように見据えた。

 

「・・・・・死ぬつもりでここから出るわけじゃありません」

 

椿姫が一歩、線を超える。

 

「生きてあなたを取り戻してあの時の日常に引きずり戻すだけです」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

一成たちも線を超えて戦いを臨む。そんな五人に始めて戦意の炎を瞳に宿した。

 

『そこの赤龍帝よりマシ・・・・・か』

 

『グッハハハハハッ!臆病な宿主の中に宿って笑っちまうぜドライグちゃんよォッ!』

 

二匹は攻撃の矛先を五人に向け始めた。グレンデルの嘲笑いと共に発した侮蔑に誠輝はカッと顔を耳まで真っ赤になった。

 

『んじゃ、そろそろ再開しようぜ!まだまだ暴れ足りねーよ!』

 

『お前を倒せばリゼヴィムの情報を聞き出せるからな』

 

敵意と殺意が孕んだ瞳を向けあい。攻撃を仕掛けようとした矢先、この場に霧が発生し出した。

 

「待て一誠」

 

霧から英雄派、曹操たちが出現する。

 

「・・・・・ドラゴンだと?」

 

一誠と対峙するグレンデルに怪訝な面持で視界に入れる。

 

「これはこれは、英雄派の・・・・・この場に来たのはどういう用件で?」

 

ユーグリットが曹操に尋ねる。まさかの事態なのだが興味深く話しかけた。曹操は黒幕のユーグリットに向き、質問に応える。

 

「なに、一誠たちを迎えに来ただけさ。邪魔はしないでくれよ?」

 

「そうですか・・・・・。なら、こちらも退きましょう。そろそろ潮時ですしね」

 

二人の言葉に不満を顔や口から出す。

 

『ユーグリットからリゼヴィムの情報を聞いていない。こいつを倒せばそれが叶うと言うのに』

 

『そうだぜっ!止めんなよ止めんなよッ!こっから最高で最高のハイな殺し合いができそうだってのに!潰し合いをやらせてくれよッ!』

 

それぞれの思いは違うが、対象を倒したい気持ちは一致していた。それでも曹操とユーグリットは許さなかった。

 

「一誠、そいつを倒さなくても私たちの次の計画にリゼヴィムと必ず関わり合う。いや、絶対にそうなる。だから私を信じて戻ろう」

 

「―――また、骸と化したいのですか?あなたはまだ調整段階なのです。これ以上無理をすれば・・・・・」

 

『『・・・・・』』

 

それを聞いた途端にグレンデルは舌打ちし、一誠は曹操を睨むように金色の双眸を向けて、どちらも振り上げていた拳を下ろす。

 

『・・・・・チッ、ったく、敵わねぇな。それを盾にされたらよ。止めるしかあんめぇよ』

 

『・・・・・わかった。信用する』

 

そして、グレンデルと一誠は話し合う。

 

『おい、今度はぜってーお前を殺すよ。次に会う時まで、その時まで誰かにやられんじゃねーぞ』

 

『この続きはまた今度だ』

 

『グハハハハッ!ああ―――テメーみてーなドラゴンがいるなんて最高の現世だぜ!』

 

龍門(ドラゴン・ゲート)が開き、人が深緑色の発光を出しながら、グレンデルを包みこんでいく。光が止むと―――そこには巨大なドラゴンの姿は無かった。それを確認するように一誠は元の姿に戻ってセカンド・オーフィスとリースと共に曹操へ歩み寄る。

 

「せっかくリゼヴィムの情報を・・・・・」

 

「分かってる。だからすねないでくれ」

 

不貞腐れる一誠に苦笑を浮かべながら頭を撫でると霧に包まれだした。一成たちはただ見守るだけで次こそは・・・・・と強い決意を胸に抱いたのであった。

 

―――○●○―――

 

その後、レイヴェル・フェニックスは無事に確保された。分身体の一誠は一成たちの登場に役目は終わったとばかりに消え去り、一応レイヴェルを守った。

 

「今のイッセー・・・・・分からないわ。敵になっても誰かを救ったり守ったりしている」

 

「あいつは自分の目的と関わりある事以外は優しい方なんだろうよ。テロリストになったのはあくまでリゼヴィムに復讐。英雄派に属しているのはそっちの方が動きやすい。心底から英雄派の味方になっているわけじゃないんだろうよ」

 

「私たちと一緒じゃあ、ダメなの?」

 

「正義より悪の方が何時も巨大な力を有している。それに行動も早い。一誠はそれを魅力に感じているのかもなぁ」

 

オカルト研究部にてアザゼルと話し合うリアスがいた。

 

「しかし次の計画にリゼヴィムと必ず関わり合うか・・・・・気になる事を言っていたんだな?」

 

「ええ、曹操が確かにそう言ったわ」

 

顎に手をやってアザゼルはある仮説を述べた。

 

「もしかすんと、あいつらも吸血鬼に乗り込むつもりでいるんじゃないか?」

 

「まさかっ。でも、どうして?」

 

「人間の敵を倒す。吸血鬼に戦いを仕掛けるのに実にシンプルな理由じゃないか?」

 

超常の相手を倒し続け人間としての強さを極めつける曹操たち。そう考えると納得できるアザゼルだった。

 

「もしも、吸血鬼の世界でイッセーと会うことになれば・・・・・」

 

「ああ、この次は無いと思うし、今度は何時出会えるのか分からない。気張るぞ」

 

「ええ、勿論よ」

 

 

―――dragon×hero―――

 

 

「曹操、次の計画って何」

 

「吸血鬼の世界に乗り込んで人間の敵を倒すのさ」

 

「ドラゴンも人間の敵だよね」

 

「キミとリース、オーフィスは私たちにとって特別だよ」

 

本部に戻った曹操に尋ねると頬を撫でられながら告げられ、心地良さそうに目を細め曹操の手の温もりを感じつつ耳を傾ける一誠に笑みを浮かべた。

 

「吸血鬼の世界にリゼヴィムがいるんだ。キミたちにとってリゼヴィムがいれば一緒に来てくれるだろう?

リゼヴィムに関する情報は私たちが集める。その間キミは他の皆を強くして欲しい。復讐を邪魔する者たちが数多く存在しているのだから」

 

「・・・・・分かった。・・・・・曹操」

 

「うん?」

 

「夜・・・・・寝かせない」

 

「それは・・・・・たまらないな」

 

 

―――devil×devil―――

 

 

「ただ今戻りました」

 

「おー、お帰りー。どうだった?グレンデルくんの調子ー」

 

「ええ、良好でした。彼の聖杯はオリジナルの聖杯より高い能力のようですね」

 

「うひゃひゃっ!まーさか、聖杯がこの世に二つも存在する事になるなんてさっすが坊ちゃん!坊ちゃんがすることはイレギュラーな事ばかりだぜっ!」

 

「近いうちに英雄派がここに来るような事を言っておられましたがどうしますか?」

 

銀髪の初老の男性に問うユーグリットに、笑みを浮かべこう言った。

 

「曹操のガキんちょたちがここにかー。そうだねー。それとなく吸血鬼たちに教えてやればいいんじゃん?美味しい血が向こうからやってくるよって」

 

「分かりました。それでそちらは順調ですか?」

 

「んーふふふっ!マリウスくんが協力的でさ、やることなすこと全て思い通りに順調なのさ」

 

片手にワインが入ったグラスを揺らしながら今の状況を心底愉快そうにしているリゼヴィム。

 

「対テロ組織混成チームだっけ?別に大したことなさそうだから俺っちたちの相手って英雄派になりそうじゃない?」

 

「赤龍帝も?」

 

「だね!あ―――そうだ。ちょっくら出掛けてくるわ」

 

いきなりそう言うので首を捻るユーグリット。

 

「どこに行かれるのですか?」

 

「もっちろん、赤龍帝ちゃんのところだよん。なんだか、虐め甲斐がありそうだし、からかう甲斐があるよあいつ」

 

「では、お伴をしましょうか」

 

「いやいや、ユーグリットくんは休んでちょーよ。ただお話をしに行くだけだからさ」


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