HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード10

『さて、リーラ。そろそろ一年経つが一誠はどうだ?』

 

「一誠さまは心身共に強くなりました。友を作り、仲間も増えました。

もうあの頃の一誠さまは影の形もございません」

 

『・・・・・そうか』

 

「どうかなさいました?」

 

『いやな、親父が一誠と会わせろとうるさいんだ。主な理由は娘が

「一誠と会わしてくれないとおじさんと呼ぶ」って脅されているそうでな』

 

「・・・・・」

 

『・・・・・だんまりしないでくれるか?』

 

「いえ、情けない父親で苦労しますね誠さま」

 

『本人には言うなよ?』

 

「わかっております。個人的にもあの家には二度と行きたくも一誠さまを連れて

行かせたくないのですが、仕方がありませんね」

 

『ありがとう。だが、兵藤家に連れて行かなくて良いんだ。川神院に連れて行って欲しい』

 

「川神院・・・・・ですか?」

 

『連れて来て欲しい日に丁度兵藤家と川神家の共同稽古が行うんだ。覚えているだろう?』

 

「・・・・・もしかして、次の一年間を過ごす場所は」

 

『ああ―――一誠の心を鍛える意味で川神院に過ごしてもらう。総代とも話はついている』

 

―――○●○―――

 

「「行っちゃやだぁっー!」」

 

「お兄さま行かないで!」

 

「一誠・・・・・いなくなるの?」

 

「にゃー、ペットを置いていくなんてしないわよね?」

 

朱乃、リアス、白音、ヴァーリ、黒歌に囲まれ一誠は困惑状態に陥っていた。人間界に

一年間過ごすという事実を一誠が伝えたら離れたくないと一心で一誠を引き留める。

 

「ま、また会いに来るから・・・・・ね?」

 

「「いやっ!」」

 

一誠を行かせまいと抱きつく朱乃とリアス。ヴァーリと白音はジッと意味深な視線を送り、

黒歌はその様子を見守る。

 

「一誠、どうして人間界に行っちゃうの?冥界で暮らせばいいじゃない」

 

「僕、強くなるために色んなところで修行するんだ。だから、冥界で強くなったら

今度は別の場所に行くんだ」

 

「ここじゃダメなの・・・・・?」

 

「うん」と一誠が申し訳なさそうに頷いた時、リーラがアザゼルとバラキエル、

サーゼクスとフォーベシイにリコリスとネリネを引き連れてきた。

 

「リーラさん、助けて・・・・・」

 

「くくく、そのぐらいのことで根を上げたら強くなれないぜ?」

 

底意地の悪い笑みを浮かべ、一誠に対してそう言うと頬を膨らませて

「強くなるもん!」と抗議した。

 

「アザゼル、イッセーくんに意地悪なことを言わないものだぞ」

 

「そうだぞ。彼のタブーはもう分かり切っているのだからな」

 

「それで逆切れして縛られたのはどこの誰ですか?」

 

「うぐっ・・・・・」

 

呻くアザゼルから離れ、一誠に近づくリーラ。

 

「一誠さま。これから一誠さまは悪口を言われても決して怒らないと私と約束してください」

 

「うん、分かった」

 

「「本当に素直だな」」

 

アザゼルとバラキエルが異口同音で言うほど、あっさり言う事を聞く一誠あ頷いた。

 

「一誠さまは約束は必ず守る良い子です。ですから約束を破ったことは一度もございません」

 

微笑むリーラは一誠の頭を撫でる。心底信頼しているリーラに撫でられ目を細め撫でる

その手の温もりを感じる一誠の目に、

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

少女たちがつまらなさそうに、怒っているような顔で見ていたのが視界に入った。

そして何故か顔を突き出し合いながら喋り出したのだった。

 

『一誠・・・・・リーラさんみたいな美人な人がいいのかしら』

 

『リアス、私たちはまだ子供だから一誠は・・・・・』

 

『お兄さま・・・・・私もなのに・・・・・』

 

『絶対にこっちに振り向かせるんだからね・・・・・』

 

『が、頑張ります・・・・・』

 

『もう少し成長したら女の魅力も分からせてあげるにゃん・・・・・』

 

何やら女性陣が不穏な空気を漂わせている。そんな中、サーゼクスが魔方陣を展開した。

 

「それじゃ人間界に行くとしようか」

 

赤い魔方陣の光に包まれ、一誠たちは一瞬で人間界へ転移した―――。

 

―――人間界―――

 

とある場所で発現し、一誠たちが魔方陣の光と共に出現した。

晴天だが肌に突き刺す冷気に一言。

 

「寒いっ!?」

 

「そういや12月の人間界は冬真っ直中だったな。どうりで寒いわけだ」

 

「冥界は冬なんて季節は無いからね。すっかり忘れていた」

 

軽装な服装で人間界に来た一誠たちには厳しい環境の中だった。雪は積もっていて辺り

一面雪景色。でも、一誠たちは銀世界の風景を見て、感嘆を心から漏らしていた。

だがやはり、寒いものは寒いのだ。

 

「一誠、寒いわ」

 

「それ、僕や他の皆も同じだから我慢しようね」

 

「コタツに入りたいにゃー」

 

寒さに身体を振るわせつつ、一行は目的の場所に赴く。

 

「・・・・・あ」

 

大きな門が見えたところで、二人の男女が佇んでいる様子を一誠は発見した。

一誠にとって一年近い再会だ。

 

「お父さん!お母さん!」

 

雪道を駆けだし、一誠は凄い勢いで男性、誠に飛び付いた。

 

「おーっととと!久し振りだなぁ一誠!元気にしてたか?」

 

「うん!僕、頑張って強くなったよ!」

 

「見ない間に凛々しくなっちゃって。お母さん、嬉しい半面ちょっと寂しいわ。近くで

成長する一誠が見れなかったもの」

 

一誠の頭を撫でる一香にも抱きつき、互いの温もりを堪能する。

 

「よーう、誠と一香。久し振りだな」

 

「アザゼル。世話になったな」

 

「いーや、寧ろこっちが楽しい思いをさせてもらったぜ。できる事ならもうしばらく

預からせてくれるか?」

 

「はははっ、この子を預ける場所はもう予約済みなんだ」

 

「次はここらしいな?ま、俺が勝手に来るだけだがな。

まだまだイッセーに教えることはヴァーリ同様山ほどある」

 

リーラたちも合流を果たし、しばし雑談する。

 

「彼には助かったこともある。この子を預からせてくれたお前たちになんと例を言えば良いのか」

 

「バラキエル。もうそのことは気にするな。おかげで一誠も強くなったんだ」

 

「そのおかげで朱乃は一誠くんがいなくなるのは嫌だと駄々をこねてしょうがないがな」

 

「ふふっ。一誠のこと気に入っちゃったのね。さて、中に入りましょう?待たせているから」

 

一香の催促に全員は門を潜り川神院に侵入する。するとどこからともなく

気合が入った声が断続的に聞こえる。誰かが何かをしているようだが生憎

その声の場所にはいかず誠と一香の後に着いてくと建物の中に入った途端。

 

「お待ちしておりました。総代がこちらでお待ちしております」

 

坊主頭の道着を身に包んだ男性が待ち構えていてさらに一行を中へ案内した。

木造でできた床と壁に天井から一切冷たい空気を感じさせないのが不思議でしょうがない一誠は

忙しなく辺りに視線を向けていると、

 

「どうしたの?」

 

「寒くないなって。それになんだか、変な力を感じる」

 

「変な力?」

 

「温かいけどなんか強い。うーん・・・・・コタツみたいな?」

 

曖昧な表現に幼少組のリアスたちは何を言っているのか分からない様子で首を傾げているが、

 

「へぇ・・・・・イッセー。気を感じれるんだねー」

 

「黒歌さま、何か教えたのですか?」

 

「んにゃ。人の身体に流れている気ってことを教えただけ。本格的に仙人しか扱えない

仙術は教えていないにゃん。イッセーはなんとなくそれを感じ取っているのよ」

 

黒歌は一誠が言いたいことを察して感心していた。そこへ誠も割り込んできた。

 

「仙術か。俺たちも闘戦勝仏から学んだぜ。この仙術は気の扱いが長けた奴にとって

最大の武器になる」

 

淡い光が手に帯びさせる誠。一香も仙術を学んだようで「そうね」と肯定したほどだ。

 

「・・・・・イッセーの両親だけあってもう何でもアリなのね」

 

「別に不死身ってわけじゃないからな?」

 

「もしもそうだったら、神クラスの連中しか渡り合えないわよ」

 

「シヴァが一番強過ぎだって。唯一、俺と一香が全力でやって引き分け何だからな」

 

アザゼル、バラキエル、サーゼクスは大いに驚いた。インド神話の神と戦って互角の勝負。

そしてその子供が一誠と・・・・・誠輝なのだ。

 

「化ける。イッセーは絶対に化けるぞ」

 

「末恐ろしいね。彼が悪魔に転生したら魔王候補として輩出されるかもしれない」

 

「彼の人生はまだまだ・・・・・か」

 

「―――こちらです。どうぞお入りください」

 

案内人がとある扉の前に立ち止まり。一行から離れて行ってしまう。

そして、誠がガラッ!と開け放った。

 

「お邪魔するぜ」

 

「「・・・・・」」

 

誠が開け放った一室の中には白い袴姿に白いヒゲを長く伸ばした老人に、

厳つい中年男性が正座して座りこんでいた。その厳つい中年男性の左右に小さな少女が二人いた。

 

「相変わらず礼儀のない入り方をする。このバカ息子めが」

 

「生憎、兵藤家から長い間追放された身でね。礼儀なんて作法はすっかり忘れたよクソ親父」

 

「ならば、もう一度兵藤家に戻って一から作法を叩きこんでやろうか」

 

「やだね。今の生活の方が充実しているんだよ。アンタみたいな頑固者に

他の神話体系の神々と打ち解けれるか?―――無理だね」

 

刹那。二人から凄まじい力が迸ってこの場で戦闘をしてもおかしくないぐらい緊迫した

空気が包まれた。

 

「碌に子供の世話もできない父親がどの口を言う」

 

「最近落ち目な兵藤家の現当主に言われる筋合いなんてねぇよ」

 

「「やるか・・・・・?」」

 

いがみ合う二人。だが次の瞬間。

 

「いっくんだっ!」

 

「一誠さま!」

 

座っていた二人の少女が一誠に抱きついた。いきなり抱きつかれたが少女が誰なのか察

すると、笑みを浮かべた。

 

「悠璃に楼羅!久し振り!」

 

「久し振り、じゃないよっ。ずっとずっといっくんが来なくなって寂しかったんだから!」

 

「そうです。いままでどこでなにをしていたんですかっ」

 

「あう・・・・・ごめん・・・・・」

 

シュンと落ち込み、頭を垂らす一誠だったが、

二人の少女の黒髪で赤と紫のオッドアイの悠璃に長い黒髪を一つに結い上げた

赤い双眸の楼羅は強く抱く力を増して。

 

「でも・・・・・いっくんが元気で良かった。ね、楼羅」

 

「何時も無口で、話しかけても元気がなかったですから・・・・・それに何だか、格好良いです」

 

「うん、髪と目の色が違うね。どうしたの?でも、直ぐにいっくんだって分かったよ」

 

「私もです。後でお父さまに感謝しないと」

 

「あう・・・・・二人ともちょっと苦しいよ」

 

ベタベタと一誠に密着する悠璃と楼羅に、厳つい中年男性の目にキラリと光った。

 

「・・・・・やっと、お父さまと呼んでくれた・・・・・っ!」

 

「お父さーん!」

 

「貴様に呼ばれると反吐が出るわ!」

 

「・・・・・この父親、絶対にぶん殴るっ」

 

怒りで拳を握る誠。他は苦笑いを浮かべ、広い畳の床に座り始め老人と対峙した。

 

「ごほん。ようやく皆が来たところで名乗ろうかの。

ワシはこの川神院の総師範代を務めておる川神鉄心じゃ」

 

「俺は堕天使の総督アザゼルだ」

 

「私はサーゼクス・グレモリー。悪魔です。以御お見知りおきを」

 

「堕天使に悪魔か。実際にこの目にしたのは初めてじゃ。

この町には悪魔や堕天使、ましてや天使などおらんからの」

 

初めて会う異種族に臆さない川神鉄心。一誠はじーっと悠璃と楼羅に

抱き絞められながら見詰めていると、

 

「ふむ。尋常じゃない力を感じるの。闘気とは全く別物じゃ」

 

「闘気?」

 

「生物が皆、持っておる生命エネルギーのことじゃ。お主もそれを持っておる」

 

「ふーん、仙術みたいな感じだね」と一誠は心の中で思い、視線を感じると厳つい中年

男性がこちらを見ていた。

 

「・・・・・あの時の子供が、見ない間に随分と異質な力を身に付けたようだな」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ふん」

 

厳つい男性が徐に一誠の頭へ伸ばして撫でた。

 

「・・・・・?」

 

「自分の人生だ。お前はお前の道へ自信を持って進むがいい。我が孫よ」

 

「お爺ちゃん?」と自分に孫という厳つい中年男性の顔が若干緩んだ。

 

「うむ、そう―――」

 

「いや違うぞ一誠。このおっさんは頑固ジジイって言うんだわかったな?」

 

厳つい中年男性の言葉を遮って一誠に教え込む誠だった。

そして誠の言動やその意図を察して―――。

 

「貴様・・・・・表に出ろ!せっかくお爺ちゃんと呼んでくれたのに

横から余計なことを言いおってからに!」

 

「お前みたいな頑固親父にはそう言われた方がピッタリなんだよ!」

 

「なんだとっ。そう言うお前には兵藤家の教えを再び叩きこんでやる!覚悟しろ!」

 

「はっ!殻に閉じこもって世界を見ない一族の長に、世界中を見て回ってきた

俺に勝てるかってーの!」

 

急に展開した親子ゲンカ。部屋から縁へ、雪が積もった外へ出ると

二人は拳を突き出し合い、蹴り合い、時にはエネルギー砲を放ったりし出した。

 

「母さん、お爺ちゃんでいいの?頑固ジジイでいいの?」

 

「お爺ちゃんでいいのよ一誠」

 

「ほっほっほっ。相変わらずじゃなぁー」

 

「どっちも子供みたいじゃないか?」

 

「ああいう親子のコミュニケーションもあると言うことだよアザゼル」

 

―――程なくして、親子ゲンカも終えた二人は川神院の修行僧に手当をされながらも一誠を

この家に預ける話は進んでいく。

 

「この子に川神院の教えを学ばせたい」

 

「うむ、構わぬぞい。一年間でいいのじゃな?」

 

「ええ、この子をウチにも預からせて欲しいと色んなところから願われているから」

 

「ほっほっほっ。人気者じゃな」

 

「一誠は人を引き寄せる魅力があるらしく。それを活かして幸せになって欲しいんだ」

 

別の部屋で、見えるところで遊んでいる一誠たちを尻目で見る一香と誠。

 

「川神院の流派は教えれんが、それでも良いなら喜んで引き取ろう」

 

「お願いします。できる限りあの子には人としての幸せを得ることを望んでいるので」

 

「分かった。ワシの孫娘もおるし、退屈な生活は送らんじゃろう。

じゃが、兵藤家の共同稽古は明日じゃと言うのに一日早く来たの?」

 

「ちょっと、家の事情がありまして・・・・・」

 

「ふむ・・・・・まあ良かろう。お主らにも事情があるのならワシも力を貸すぞい」

 

「ありがとうございます」と頭を下げる一香。

 

「して、今夜はこの家に泊まるかの?」

 

「泊まっても良いんですか?」

 

「よいよい。久し振りの親子水入らず、あの子はまだ子供で親に甘えたい年頃じゃ。

遠慮せんで泊まるが良い」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

話は決まり、誠と一香は川神院に寝泊まることになった。

 

「一誠!今日はお父さんと風呂を入ろうか!」

 

「入るー!」

 

「いっくんが入るなら私も入る!」

 

「私も!」

 

誠の言葉を嬉しそうに賛同する一誠に続き、私も!私も!と女性陣までもが一誠と

入ることを望んだが、

 

「混浴は俺が許さん!男は男、女は女と別々に入ればいいのだ!」

 

「まったくお主はケチじゃのぉ。ワシも孫娘と一緒に入りたい気持ちはあるのじゃぞ」

 

「これが頑固の由来なんだよ。もっとおおらかな性格でいればいいのに」

 

「うむうむ。お主の言う通りじゃ。これでは女の裸を覗き―――」

 

「俺の女の裸を見させないからな?」

 

「同感だ。悠璃と楼羅の裸を見たい犯罪者を見張るか」

 

「ぬぅっ!?そこでなに息ピッタリ合わす必要があるのじゃっ!お主ら、仲が悪いと言うに!」

 

「「大切な家族をエロジジイから守る為だ!」」

 

一部の男性陣がこれからお世話になる老人に飛び掛かった。そしてその日の夜。

男と女は別々で風呂に入ることなり、一部の女性陣は不満を漏らしつつも風呂に入り、

寝るまでずっと片時から一誠と離れずにいたのであった。

 

「一誠と一緒に寝れるなんて久し振りね」

 

「そうだなー」

 

「僕、嬉しいよ?」

 

「私も一緒とは・・・・・嬉しいです」

 

「我も」

 

 

―――○●○―――

 

 

「ホワァァァアアアアアアッ!」

 

緑のジャージを着込んだ男性が気合の一声。全身から溢れる力=気で

瞬く間に雪を蒸発させ、融かしていった。

 

「うわぁ・・・・・・」

 

その様子を一誠は目を輝かせて見ていた。

 

「へぇー、仙術とはいかないまでも気を扱える人間がいるなんて世界は広いにゃー」

 

「ワタシハ、長い間に特訓を積み重ねてきたからネ。これぐらいできないト、

師範代にはなれないのサ」

 

「師範代って?」

 

疑問を浮かべた一誠に師範に代わって学問・技芸などを教える人と黒歌は簡潔に説明した。

 

「じゃあ、強いんだねあの人」

 

「ワタシの名前はルーだヨ」

 

「僕は兵藤一誠。よろしくお願いします」

 

「ほう、兵藤・・・・・ム?もしやキミ、この川神院に来たことあるかネ?」

 

「・・・・・一度だけ」

 

何か思い出したのか暗い表情を浮かべた。黒歌はそんな一誠を抱きかかえて、

どこかへ連れて行ってしまった。

 

「去年きた兵藤家の中で周りから侮蔑さレ、一人だけ仲間外れのような扱い方を

されていた子カ・・・・・」

 

遠い目で去って行った一誠を見るルーは再び作業に取り掛かった。

 

―――一時間後―――

 

闘技場に設けられたリングと客席。既に大人と子供が客席の殆ど座ってこれから

行う行事を開催されるその瞬間まで待っていた。そしてその時がいよいよ迫った。

 

『これより、兵藤家と川神家の共同稽古を始めます!』

 

共同稽古とは言っても実際は試合みたいなもので、切磋琢磨と互いを競い合い、

自分自身を磨き上げるための稽古試合に等しい行事である。

大人の部と子供の部と試合は分けられており、最初は大人の部から始まる。

 

「そんじゃ、張り切って倒しまくりに行くかな」

 

「え、お父さん。参加するの?」

 

「この行事は部外者も参加して良いことになっているんだ。

ただし、魔法使いの参加は禁止させられている。己の身体だけで戦うルールの試合からだ。

だから一誠、お前も魔力を使うのは禁止だ。勿論神器(セイクリッド・ギア)の使用もな」

 

「って、僕・・・・・参加する気ないんだけど」

 

「おいおい、一誠」

 

誠がピラッと参加用紙を見せ付けた。

 

「そうは問屋が卸せない。お前の参加エントリーは俺が済ませた」

 

「えええっ!僕の意思は完全無視なの!?お父さん酷い!」

 

望まぬ戦いに一誠は誠に非難する。だが、誠の顔に真面目な表情になった。

 

「いや、お前は戦うべきだ。もうお前は昔のお前じゃない」

 

「父さん・・・・・」

 

「お前の為に冥界の奴らが協力してくれたから強くなったんだろう?お前が強くなったことを

ここで証明し、感謝を籠めて勝ってみろ。優勝を目指せとは言わない。お前をバカにした

奴らに見返してやれ。お前らと違う方法でよ分かった俺はここまで強くなったんだ!ってよ」

 

それだけ言い残し、誠はリングに上がった。相手は兵藤家の参加者。

 

 

 

「・・・・・追放された兵藤家の当主の息子が相手とはな」

 

「誰かと思えば・・・・・誰だっけ?」

 

「その飄々とした態度も、相変わらずのようだな貴様は」

 

「はははっ、外の世界は刺激が満ち溢れていてお前ら兵藤家のことなんてすっかり忘れていたぜ」

 

「兵藤家は全人類の頂点に立つ栄光ある一族だ。世界をどれだけ回っても

我らが兵藤家に敵う人間はいない!」

 

「『人間』限定だけどな?だけどよ、人間じゃない異種族の奴らだったらお前ら勝てるかなー?」

 

試合開始のゴングが鳴りだし、相手は刀を前に構え闘気を全身に纏う。

 

「戯言を!」

 

一瞬で誠の背後に回った相手は無防備な背後からの斬撃を放った。

 

「(もらったっ!)」

 

刀は吸い込まれるように誠を一刀両断した。―――しかし、

 

ガシッ

 

「―――おせぇ」

 

斬った誠は残像でしかなく、本物の誠は更に相手の背後に回っていて、

 

「な―――!」

 

「おらよっ!」

 

相手の首を掴んだまま横に回しながら上へ放り投げた。そして、爆発的な脚力で空を蹴り、

空中を移動するその技法に観客は誰もが目を丸くし口が閉じないでいた。

 

「おらおらおらおらっ!」

 

高速で動きつつ打撃を与える誠。ただし、誠の姿は一部の者以外見えないでいて、

相手が勝手にあっちにこっちに吹っ飛ばされているしか目に映らないでいる。

そして誠はトドメに相手の腹部に思いっきり踵落としを食らわせリング外に叩き付けた。

勝敗は当然、兵藤誠である。

 

「うわ、弱いなー。子供時代の俺を指導してくれた先生、お前ぐらいの歳の人だったが

あの人の方がよっぽど強かったぞ。当然だけど移動する速度や剣技もだ」

 

敗者に無様と言葉を投げ掛ける誠。返ってこない返事を期待していない様子でさっさと

リングから降り立った。―――その後、大人の部の試合は圧倒的な実力を持った誠の勝利に収まった。

 

「父さん・・・・・あんなに強かったの?」

 

「そうだぜ?なんせ、三大勢力のトップを相手にして生き残るほどだ。

しかも俺たちを苦戦に強いるほどにな」

 

「ああ、急に思い出したぞ。あの時の戦争を」

 

「ふふっ、懐かしいわねー♪」

 

「一番敵に回したくないものとは人だと思い知らされた。

だからこそ我々は休戦ではなく和平を結んだのだ」

 

大人しか知らない戦争の真相とやらを一香たちは懐かしげに語った。

 

「ねぇ、誠」

 

「なんだ一香」

 

「一誠がもう少し成長したらあの封印・・・・・解かない?」

 

「・・・・・一誠が全ての修行を終えたらそうしよう」

 

「大丈夫、あの子なら絶対に・・・・・ね」


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