HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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修行編
エピソード1


『何故お前はそんなにも弱い、お前より年下の子に負けるとは情けない!』

 

『この家の恥晒しが、どうしてお前はそんなに弱いのだ。我が―――のでお前が一番弱い』

 

『無能が・・・・・』

 

『それではあのお方の力にすらなれぬ。せいぜい他の者たちの練習台ぐらいにしかなれぬだろう』

 

 

 

『見て、可哀想に・・・・・顔どころか体中痣だらけよ』

 

『あの子だけですって、子供の中で一番弱い子って。息子から良く聞くわ。無能がいるって』

 

『あらま、そうなのぉ?』

 

『この家に生まれた者として情けないわね』

 

 

 

 

『なぁ!また俺達の練習台になれよ!』

 

『それしか役に立たないって師範代も言っていたから良いよな?』

 

『俺、関節技を試してみたい!』

 

『んじゃ、俺は最近学んだ剣術な!』

 

 

 

『おい、この無能な弟。俺の目に映る所にいるんじゃねぇよ』

 

『・・・・・兄ちゃん』

 

『誰が兄ちゃんだゴラッ!お前みたいな力のない弱い兄弟なんて必要ないんだよ!お前は俺の弟じゃねぇっ!』

 

『・・・・・っ』

 

『さっさと俺の目の前から失せろ!お前みたいな弱い弟を持つと俺の評判が悪くなるんだよっ!たくっ、どうして俺の身内にこんな弱い奴が・・・・・父さんと母さん、何でこいつまで産んだんだよ。俺だけで充分だろって産んでいいのはさ』

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

山の深奥にある滝が怒濤に溜まっている水へ流れ落ちる。その様子を体中傷だらけで

瞳に生気が宿っていない

子供が無表情で眺めていた後に大きな木へ対峙して、無言の正拳突きを何度も何度もした。

皮膚が破れ、血が流れ、木の表面に赤く染まろうとも子供は拳を繰り出す。

 

「・・・・・同じ人間なのに」

 

ドッ・・・ドッ・・・ドッ・・・。

 

「・・・・・才能、身体能力・・・・・」

 

ドッ・・・ドッ・・・ドッ・・・。

 

「僕に何が足りないと言うんだ・・・・・」

 

しばらくして木に殴ることを止めた。腹の虫が鳴りだし、子供は辺りを見渡す。

 

「・・・・・」

 

滝の流れている場所に木の実があることを分かり、険しい崖と成っている場所に近づき

見上げる。高さは数メートル。足場となる場所はあまりないがそれでも子供は木の実を

採ろうとしてよじ登り始めた。しかし、腕や腹に力が入らず背中から落ちて強打する。

 

「・・・・・」

 

身体を起こしてそのまま丸める。もう何もかも絶望したとそんな態度や雰囲気をする子供は

どこまでも暗い顔で埋めていると、茂みがガサガサと動き出した。

子供は無反応でいるが茂みからひょこっと二つの幼い子供の顔が出てきた。

 

「・・・・・やっぱり、ここにいた」

 

「探しましたよ」

 

二人の女の子。茂みから出ると両手に抱えている飲み物とたくさんの果物を子供の前に置いた。

 

「はい、一緒に食べよう?」

 

「お昼、まだですよね?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

子供にとって心の拠り所である二人の女の子の気使いに感謝を籠めて

 

「・・・・・ありがとう」

 

「「どう致しまして」」

 

そう発した。三人は寄り添うように果物を食べ、時折喋ったりして時が過ぎていくのを

感じていると第三者が現れた。

 

「悠璃さま、楼羅さま」

 

「そろそろお戻りの時間です」

 

「源氏さまもご心配しておりますぞ」

 

「「・・・・・分かりました」」

 

迎えが来た。残念そうに女の子達は子供に一瞥して去って行った。

そして残った子供は・・・・・。

 

ドガッ!バキッ!ドスッ!

 

二人の大人によって理不尽な暴力に遭う。

 

「―――お前たち、この子に何をしている」

 

「「っ!?」」

 

「お前たちにこの子がなにをしたというのですか?無力な子供に大人のあなたたちを」

 

鋭利な刃物を暴力を振るっている大人の首元に、突き付ける銀髪のメイド服を身に包む

女性が絶対零度の双眸で睨んでいた。

 

「貴様・・・・・っ」

 

「証拠も私の手元にあります。源氏さまにご報告を致しましょうか?そうすれば如何に

あなたたちとは言え処罰が下されますでしょう」

 

「くっ・・・・・!」

 

「早々に立ち去ってください」

 

メイドの冷たい言葉に二人の大人は首元から離れた刃物を見てすぐさま

この場から逃げるようにしていなくなる。

そして、子供とメイドだけが残りメイドは子供を抱きしめた。

 

「一誠さま・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「また、なのですね・・・・・」

 

子供の身に起きている事実を察し、悲痛な面持ちで強く、それでいて優しく抱き締める。

この場所は子供にとっては地獄そのもの。唯一の救いは接してくれる者がいること。

 

「・・・・・帰りましょう」

 

「・・・・・いやだ」

 

「一誠さま・・・・・」

 

「家に帰たって、僕の居場所はここと同じでないよ」

 

「居場所は有ります。あなたの優しいお父さまとお母さまがいるではありませんか」

 

「・・・・・仕事で殆どいない。兄ちゃんに酷いことをされるだけの家なんて

帰ってもこことは変わらないよ」

 

「・・・・・っ」

 

子供の指摘にメイドは歯を食いしばり、子供の心と精神が崩れかかっている事実に心底

悔いを抱いていた。

 

「・・・・・リーラさん、兄ちゃんと一緒に寝ていることが多いよね」

 

「それは・・・・・」

 

「いいよ、僕のことは気にしないで兄ちゃんと一緒に寝て?僕はこの森で寝ているからさ」

 

「一誠さま・・・・・っ!?」

 

メイドの腕の中から抜け出して子供はさらに森の奥へと消えてしまった。

追いかけようにも子供の兄を待たせている。

どっちを優先すべきかとメイドは葛藤し―――踵返したのだった。

 

 

 

 

『・・・・・辛い思いをさせているな』

 

「いえ・・・・・大丈夫です」

 

『・・・・・ごめんなさい、直ぐに仕事を終わらせて家に戻るわ。

その時は・・・・・』

 

「はい、解っております。誠さま、一香さま」

 

通信状態の携帯を切り、車に乗り出すメイド。

 

「お父さんとお母さん何だって?」

 

「はい、今日も仕事で遅くなるようです」

 

「ふーん。じゃあ、俺とリーラさんしかいないんだね」

 

後部座席に踏ん反り返って座っている男がメイドにそう言うが、違うとメイドは言い返す。

 

「一誠さまも後に帰りますよ」

 

「いいよあんな奴。俺の弟じゃないから家に入れなくても」

 

「そんなこと申してはいけません。あの方も貴方様の御家族なんですよ」

 

「俺に弱い家族なんていらない。それよりもさリーラさん、今夜も一緒に寝ていい?」

 

後ろから身を乗り出してメイドの頬に手を触れた。

 

「俺、夜一人で寝るの怖いんだよ。ね、いいでしょう?」

 

その手はそのまま首筋をなぞるように動き、鎖骨に触れそうになると。

 

「いけません」

 

軽くあしらい、アクセルを踏んで車を前進させる。

 

「誠輝さまはもう暗闇を怖がるような歳でも精神でもございません。

そろそろ一人で寝るようにならなければ立派な男性になれませんよ」

 

「・・・・・チェッ、いいじゃん。俺とリーラさんは恋人じゃんか」

 

「私は誠輝さまと一誠さまのお世話をする一介のメイドです」

 

「そのメイドさんがあの弱い弟を置き去りにして俺だけ家に送っているのに?」

 

子供の言葉にメイドは無表情を貫く。心の中は穏やかではないが

それを悟らせるわけにはいかないと隠して運転に集中する。

 

「ねぇ、俺とアイツどっちが好き?」

 

「ノーコメントでございます」

 

「俺のこと好きでいてくれたらリーラさんを幸せにするのに。ね、俺のこと好きになってよ」

 

「男を磨いて出直してください自惚れ野郎」

 

「・・・・・たまに毒舌だよねリーラさんって」

 

「なんのことでしょうか」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「・・・・・」

 

陽は完全に落ちて一人暗闇の森の中で寝転がっている子供は身体を丸めて意識が落ちる

その時まで待っていた。そんな子供に話しかける人物など―――。

 

『相も変わらず、人間のすることは反吐が出るとは思わないか?』

 

存在した。子供の頭の中に直接話しかける何者かがいた。

 

『俺のこと気付いているだろう。いい加減に返事をしたらどうだ』

 

催促する者。子供はこの声が止まない限り眠れないことを溜息を吐き、

 

―――今日も話しかけてくるお前は誰なの?

 

と、返した。

 

『ようやく返してくれたか。お前の答えに応えれば俺はお前の中に宿るドラゴンだ』

 

―――ドラゴン、

 

『驚かないのだな?』

 

―――見たことあるから対して驚かない。

 

『愚問な質問だったな』

 

喉の奥で笑う者は何故か嬉しさが言葉に籠っていた。

 

『お前には力がある。知りたくないか?』

 

―――うん。

 

『素直な人間だな。それはこの私ドラゴンの力だ』

 

―――・・・・・。

 

『無反応だな』

 

―――力あっても使い方が分からないんじゃ意味ないよ。それに僕は僕自身の身体で

  勝たないと意味がない。

 

『ふむ・・・・・今まで見てきたが確かに武術が主な訓練をしているな。

だがそれだけで強くなれるとは限らん』

 

―――何が言いたいの。

 

『見返したいとは思わんか?』

 

と問う者の言葉に子供は沈黙した。

 

『私なら、お前の力ならそれが可能だ。お前の中に宿るだけではつまらん。

俺の力を振るってみたいとは思わないか?』

 

―――それ以前にどうやって振るえば良いんだよ。

 

『お前の心次第だ。感情がそれを左右する』

 

―――僕の心次第、か。

 

『何時か振るえる時が必ず来る。その時まで強くあれ』

 

それが最後に子供を話しかける声は止んだ。これでようやく寝れるかと

思いきや・・・・・。

 

「・・・・・」

 

厳格な中年の男性が音も無く気の枝の上に現れた。

しばらくその目は下にいる子供に見降ろすとザッと地面に降り立った。

 

「子供がこんなところで寝るなぞ十年早い。寝るなら自分の家で寝ろ」

 

「・・・・・誰」

 

「誰でもいいだろう。自分の足で戻れるな?」

 

「・・・・・家に帰りたくない」

 

「・・・・・」

 

「家に帰っても僕の居場所はない。・・・・・この森だけ僕の居場所なんだ」

 

子供は頑になってこの場から動こうとしない。厳格な中年男性はそんな子供に腕を

伸ばそうとした時だった、この場に幾何学的な魔方陣が出現して

美しい亜麻色の髪をウェーブに伸ばす女性が光と共に現れた。

 

「・・・・・何をしに来た」

 

「息子を、迎えに来ました」

 

「お前たちがなにをしているが知らんが、少々自分の息子達をあのメイドに

任せ過ぎではないかと思うか」

 

「・・・・・返す言葉もありません」

 

「もうお前のこの子供は深く心に傷を作り過ぎている。ちょっとやそっとでは治らん」

 

女性は目を閉じ、子供の傍によって抱き抱えた。

 

「お前の長男だけここに連れてくるがいい。もうその子供は連れてくるな。地獄を見るだけだ」

 

「・・・・・この子は会いたがっている」

 

「・・・・・月に二度ぐらいはお前達がいる家に送ってやる。羅輝がな」

 

「ありがとうございます・・・・・」

 

中年男性は踵を返す。

 

「去れ、ここは兵藤家の領土。理由もなく式森家に追放された者ですら

入ってはならぬ場所だ。俺が見ていない間に行け」

 

「・・・・・はい」

 

女性は子供を抱きかかえたまま出現する魔方陣の光と共に姿を消した。

 

「・・・・・弱さは罪である。強い者は正義。この意味を最近の者共は気付かぬようだな」

 

静かに、深い溜息を吐く中年男性もあっという間に姿を消したのだった。

 

 

 

 

「連れてきたか」

 

「ええ・・・・・もうこんなにボロボロになるまで・・・・・」

 

「すまない、すまない一誠っ・・・・・」

 

「どうしてこの子だけこんな酷い目にっ・・・・・」

 

「明日はこの子を―――が会いに来る」

 

「その時も私達は傍にいないわね・・・・・」

 

「誠輝もなぜ自分の弟をここまで否定的になるんだ。そんな育て方をしていなかったはずだ」

 

「私達があまりにもこの子達から離れて過ぎたからせいだわ」

 

「だよなぁ・・・・・リーラには本当苦労を掛ける・・・・・」

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「ん・・・・・」

 

 

朝日の日差しが子供の目を照らし、眠りから覚まさせた。そして体を起こすと

負っていた傷が綺麗に一つも残さず治っていた。辺りを見渡せば見慣れた子供の自室。

質素であまり子供らしい部屋とは思えないほど必要な家具しかなかった。

娯楽な物は一つもない。部屋から出て一階のリビングキッチンに足を運ぶと、

 

「おはようございます」

 

安心させる笑みを浮かべるメイドが子供を出迎えた。子供は辺りを見渡し十一時の時計を見たら、

 

「兄ちゃんは?」

 

「学校のご友人と遊びに行かれました」

 

「・・・・・」

 

メイドの言葉に子供は何も言わず椅子に座ると湯気が立つ料理が目の前にあった。

すると、メイドは子供にあることを告げた。

 

「一誠さま、12時には一誠さまをお会いにいらっしゃるお客様がいます。

食べ終えたら支度をしてください」

 

「今日は誰?」

 

「オー爺ちゃんですよ」

 

「っ!」

 

一誠と言う子供が目を輝かせて笑みを浮かべた。メイドが知る一誠の笑みを浮かべる

瞬間は来客が来る時、数少ない友達と遊ぶ時だけ。久し振りに見る一誠の笑みにメイド、

リーラは嬉しく微笑む。

 

「じゃあ、早く食べなきゃ。いただきますっ」

 

「はい、ゆっくり食べてくださいね?」

 

「はーいっ」

 

 

―――一時間後―――

 

 

「ふぉっほっほっ、孫よ。オー爺ちゃんが遊びに来たぞ―い」

 

「わーい!オー爺ちゃんだぁ!」

 

「お久しぶりでございますオーディンさま」

 

「うむうむ、お主も相変わらず綺麗じゃのぉ。どうじゃ、ワシのヴァルキリーにならんかの?」

 

「私は生涯、メイドとしているつもりでございます」

 

古ぼけた帽子を被った隻眼の老人。白いヒゲを生やしており、床につきそうなぐらい長い。

服装も豪華絢爛というよりは質素なローブ。杖をしているが、一誠の両脇に手を差し込んで

持ち上げるほどなので腰を痛めているわけではない。

 

「今日はお連れの方を連れていないのですか?」

 

「まいてやったのじゃ」

 

親指を立ててお茶目にウィンクを舌を出すオーディンに深い溜息を吐いたリーラであった。

 

「貴方というお人は・・・・・帰ったら叱られますよ?何の為のヴァルキリーですかって」

 

「今時ワシを狙う輩なぞおらんじゃろうて」

 

「オー爺ちゃんを狙う人は僕が倒してやる!」

 

「嬉しいのう嬉しいのう。じゃが、もう少し成長して強くなったら改めて

ワシを守って欲しいのじゃ」

 

「分かった。絶対に強くなる」

 

一誠の純粋な気持ちをリーラとオーディンは微笑ましく笑う。

 

「ところでリーラよ。今日はワシだけかの?」

 

「予定ではそのはずですがなにか?」

 

「ふむ、あいつらのことじゃ。ワシのようにお忍びで来ておると思ったがまあいい」

 

オーディンはリーラを見詰める。

 

「誠と一香は?」

 

「はい、今日もです」

 

「ふむ・・・・・他の神話体系から依頼される仕事が長引いておるのかの」

 

「オーディンさまもご依頼なされたことがありますよね」

 

「勿論じゃ。あの二人だけじゃからのぉ、この世界に存在する神々と交流を持っとる者は。

じゃからパイプ役にも適しておる」

 

「色んな神様がいて面白いね!またイノシシの上に乗りたい!」

 

「フレイヤも孫と会いたがっておる。―――将来が楽しみじゃと言うほどにの」

 

意味深なオーディンの言葉に「?」と疑問符を浮かべる一誠に、リーラは静かに息を吐いた。

 

「そういえば、リーラよ。ほれ、ワシからのお土産じゃ」

 

ローブから大きな槍が出てきた。それを見てリーラは目を丸くした。

 

「オーディンさま、それはまさか・・・・・」

 

「レプリカじゃよ。本物ではないが威力はオリジナルと遜色ない」

 

「ですが、まさかと思いますがそれは・・・・・」

 

「いや、リーラに託そうと思っておる。いずれ必要な時が来るはずじゃ」

 

オーディンから槍を受け取ったリーラ。槍は光に包まれ小さくなっていき、

やがてキーホルダーみたいな大きさになった。

 

「・・・・・ありがとうございます」

 

「なに、お主らには楽しい思いをさせてもらっておるからの」

 

一誠の頭を撫でて微笑むオーディン。何の事だかわからないが、

取り敢えずオーディンが撫でる手の平を堪能している一誠が扉の方に向いた。

 

「どうしました?」

 

「なんか、来る」

 

「ほう・・・・・孫が気付くとはの」

 

何かを察した一誠に安心したオーディンも扉に振り向いた瞬間に

 

ドドドドドドドッ!

 

地震が発生したかのような地鳴りが轟き、どんどん音が近づいてくる。

 

『坊主ぅぅぅ!遊びに来たぞぉおおおおおおおっ!』

 

『デハハハハ!』

 

『ガハハハハ!』

 

『一誠ちゃぁんっ!』

 

野太い声と笑い声と共に。

 

「・・・・・あの方たちはまったく・・・・・」

 

額に手を当てて呻くリーラに、

 

「やはり来おったのぉ」

 

白いヒゲを触りながら予想していたとばかり漏らすオーディン、

 

「今の声、神王のおじさんと魔王のおじさん、海と空の神さまの声だよね?」

 

目をキラキラと輝かす一誠。その日、来訪して来たオーディンたちが帰るまで

家は騒々しかったのは別の話。

 

 

―――☆☆☆―――

 

その日の夜。インターホンが鳴りだした。いち早く一誠が玄関に向かって扉を開け放った。

扉の向こうはすっかり暗く、玄関の明かりだけが来訪者の姿を照らす。

 

「よぉー、一誠ただいま」

 

「帰ったわよー」

 

「父さんと母さん!」

 

「と、この子たちもだぞ」

 

二人の若い男性と女性が笑みを浮かべながら家の中に入る。兵藤誠、兵藤一香。

一誠と誠輝の両親で世界中を飛び回る仕事をしているとしか一誠は知らない。

誠は誰かを通すように道を開け招いた。

 

「あっ!」

 

「こんばんわ、一誠くん!」

 

「こんばんわ、今日も泊まりに来た」

 

活発そうな茶髪の子供とダークカラーが強い銀髪の子供が一誠の目の前に現れながら挨拶をした。

 

「イリナとヴァーリじゃないか!でも、電話してこなかったね?」

 

「あれ、知らない?リーラさんに伝えたんだけど」

 

「僕、聞いてないんだけど」

 

「んじゃ、リーラが一誠を驚かそうと思って内緒にしていたんだろう。今日の夕飯は何だ?」

 

「カレー!」

 

「これはもう確定ね。大勢で食べれる夕飯にしたんだから」

 

一誠の両親と友達が揃ってリビングキッチンに足を運んだ。イリナとヴァーリという

子供の手には鞄が持っていて泊まりに来ると言うのは本当らしく一誠に話しかけた。

 

「今日も一誠くんと一緒に寝るね」

 

「よろしく」

 

「いいよー。また三人で寝ようね」

 

五人がリビングキッチンに入った時、大きなテーブルに複数の皿に盛られたカレーが

用意されていて、リーラが入って来たと同時にお辞儀をした。テレビの前に設置された

ソファには誠輝が笑いながら座っていた。

 

「お帰りなさいませ。そしてイリナさま、ヴァーリさまようこそ」

 

「「ただいま」」

 

「「お邪魔します」」

 

軽く挨拶を終えて、互いが向かい合うように座りだす。後に誠輝もテレビから離れ座る。

 

「父さんと母さん、仕事はもういいの?」

 

「お前らに会いたくて父さん達は早く終わらせてきたんだ」

 

「今回の仕事はちょっと大変だったけど楽しかったわね。

あなたも仕事先でまた喧嘩するんですもの」

 

「向こうから吹っかけてきたんだぞ?俺が喧嘩っ早いんじゃないからな?」

 

「それで父さんは勝ったの?」

 

「勿論だ」

 

友人を交えて家族団欒の食事。放送される面白い番組より、一誠と誠輝は誠と一香の

仕事の話を聞いた方が面白いと食べながら尋ねる。

 

「リーラさんの料理、わた―――僕のお母さんより美味しいっ」

 

「イリナさまのお母さまの手料理も美味しいですよ」

 

「・・・・・でも、美味しい」

 

太鼓判を打つイリナとヴァーリに一誠も肯定と頷いた。

 

「僕もリーラさんから料理の作り方を学んでるけど、まだまだ勝てないや」

 

一香は急に顔を曇らす。

 

「一誠、あの腕で勝てないなんて言わないでちょうだい。

お母さん、一誠の料理にプライドがもう粉々なのよ・・・・・」

 

「はははっ、一誠の料理もお母さんに劣らず美味しいもんな」

 

「うん、目標はお母さんを超えることだもん。その後はリーラさんだ」

 

「―――リーラ、一誠に料理を作らせないでちょうだい。お願いだから」

 

「一香さま・・・・・」

 

懇願する一香を思わず苦笑いを浮かべるリーラだった。

しばらくしてカレーを完食したイリナが羨望の眼差しを一誠に送った。

 

「将来、一誠くんのお嫁さんになる人はいいなー」

 

「あら、どうして?」

 

「だって美味しいんでしょ?だったら毎日美味しいご飯が食べれるし幸せだよ」

 

「ふふっ、だったらキミがイッセーとずっと傍にいたらそれが毎日できるじゃないか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「勿論、ヴァーリもだよ?」

 

「・・・・・」

 

笑みを浮かべたまま意味深に言う誠の言葉に顔を赤く染めた。

「そうなの?」と一誠は小首を傾げ、イリナとヴァーリを交互に見詰める。

そんな時、誠が一誠に話しかける。

 

「一誠、もっと成長して大人になったら二人に毎日美味しい料理を作ってやりなさい」

 

「ん?別にいいけど」

 

アッサリと答えたらイリナとヴァーリはもっと赤くなった。

 

「あらあらあなた。何も分からない一誠に誘導はいけないわよ?

それは一誠たちの問題なんだから」

 

「おっと、俺は別にそんなつもりで言ったわけじゃないぜ?なぁ、誠輝」

 

「・・・・・俺知らない」

 

フンとつまらなさそうにそっぽ向いた誠輝。それには苦笑いを浮かべた誠は何か

思い出した仕草をして一誠と誠輝を交互に見て言った。

 

「仕事先で貰ったり、買ってきた土産があるんだ。後で二人に渡そう」

 

「本当!?」

 

直ぐに誠輝が反応した。お土産だやった!と大はしゃぎする誠輝と対して

一誠は笑みを浮かべ感謝の言葉を発する。

 

「イッセーくん、後で見せてね?」

 

「うん、いいよ」

 

「一誠のお父さんたちのお土産は面白い物ばかりだからね。今度はどんなお土産だろう?」

 

「箱を開けたらグローブが飛び出すビックリ箱はもう勘弁だよ・・・・・」

 

「それが面白くて良いじゃない」

 

和気藹々と話し合う余所に、

 

「リーラ、今夜は寝かせないわよ?」

 

「久々に大人三人で話し合おうか」

 

「お手柔らかに」

 

「なになに?俺も一緒に話を聞きたいよ」

 

「良い子は寝なきゃだめだぞ誠輝。大人の時間に子供が参加するのは十年早い」

 

「俺は子供じゃない!もう立派な大人だ!なんたって纏めて五人を倒す程だからね!」

 

「おー、そうかそうか。因みにお父さんはたったの一撃で山を壊す程だが?」

 

「・・・・・マジで?」

 

誠達も賑やかに喋っていたのだった。

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

「お父さんとお母さん、本当にどんな仕事をしたらこんな珍しいのを貰ってくるんだろう?」

 

「これ、異国の玩具よね?」

 

「お菓子もある。美味しそう」

 

「夜はお菓子食べちゃいけないって言われているから明日の朝に食べよう」

 

一誠の寝室に集って誠と一香から貰ったお土産を広げて好奇心に一つ一つ触れていく。

 

「この箱・・・・・まさかだよね?」

 

「一誠くん。もう大丈夫よきっと」

 

「今まで見てきた箱より何だか古いけど中身は何だろうな?」

 

六つの目、三人の視線を集中させる一つの箱。一誠にとっては最大に警戒するべき箱。

 

「絶対にビックリ箱」

 

「もう、一誠くんは警戒し過ぎだよ」

 

「・・・・・開けてみようか?」

 

買って出たヴァーリ。その申し出に助かると思うも、

なんだか情けなく思い始めヴァーリの提案を断わった。

 

「僕が開ける」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

「イリナ、楽しんでいない?」

 

「なんのことかしら?」

 

イリナとヴァーリが見守る中で箱の蓋に触れた。

ゴクリと緊張の面持ちでゆっくりと箱を開けた―――。

 

バッ!

 

開けた瞬間、一誠は壁際にまで下がった。次に起こるでろうビックリに備えるためにだ。

が、何時まで経っても何も起きらない。離れた一誠の代わりにイリナとヴァーリが

箱の中身を覗きこんだ。

 

「ビックリ箱じゃないみたいだね」

 

「なんか入っているけどね」

 

「・・・・・なにそれ?」

 

「これよ」

 

ヒョイっと箱から取り出したイリナの手には大きな紫の玉だった。

次の瞬間、扉が開け放たれる。

 

「おい、そっちのお土産はなんだったんだ?」

 

誠輝が我が物顔で入り込んで一誠の部屋に広がったお土産を品定めする目つきで見渡す。

 

「へぇ、俺のお土産と違ってこっちは別なんだな」

 

「・・・・・兄ちゃんのはなんだったのさ」

 

「へっ、お前と違って俺は良いお土産ばっかりだぜ。羨ましいだろう?」

 

「・・・・・実際に見てないから羨ましくないよ」

 

ガサガサと広げたお土産を袋に入れ始める。その様子を最後まで見た誠輝が取った行動は。

 

「おい、交換しようぜ」

 

「・・・・・交換ってなんだよ急に」

 

「いらないお土産があってよ。この格好良くて優しい俺が弱虫のお前にそう言ってんだ。

ありがたく思え」

 

ポイと一誠達の目の前で放り投げた。それは黄色の玉だった。

 

「なんかの宝石かと思ったんだけどよ。それ、ただの石なんだぜ?父さんたち、

こんなのまでお土産にするなんて俺たちを驚かそうとしたんだろうな。

だけど俺はそんな驚かし方には通用しないからいらないんだ」

 

誠輝は一誠のお土産が詰まった袋を強引に一誠から奪った。

当然のようにこれと交換だとばかり笑みを浮かべ、

 

「ちょっと!一誠くんのお土産なんだよ!それを奪っちゃダメ!」

 

「交換だって言っただろうが。文句あるかよ」

 

「大有りよ!この玉一つで一誠くんのお土産の殆どと交換なんて割り合わないじゃない!」

 

「弱者は強者に負ける。弱者の持っている全てのものは強者の物。

だからその弱い奴の物は全部俺の物なんだ。分かったか」

 

捨て台詞に等しい言葉を言い放ち、袋を肩に担いで部屋から出ようとする誠輝の背に

ヴァーリは立ち上がって言い放った。

 

「・・・・・キミは嫌な奴だね」

 

「んだと?」

 

眉根を寄せ、苛立ちを覚えた誠輝はヴァーリに振り返り、

ヴァーリは睨まれても尚言い続ける。

 

「強いからって何でも許されるなんて思ったら大間違いだよ。

それだったらキミのお父さんだって強いからキミから何でも奪っていいことになるじゃないか。

違うかい?」

 

「・・・・・」

 

「何も答えれないなら、その通りなんだと言うことだ。

何も言い返さず、自分が一番偉いなんて思っているキミみたいな男、一番嫌いだ」

 

次の瞬間。誠輝の拳がヴァーリの顔面に突き刺さった―――と思ったが、

 

「・・・・・っ」

 

間一髪、一誠がヴァーリを庇い、誠輝の拳を額で受け止めた。

頭とを通り越して脳に衝撃が伝わって意識を失いそうになる。

しかし、一誠は必死に堪え逆に額を誠輝の拳を押し付ける。

 

「どけよ」

 

「僕の友達に手を出すなっ・・・・・」

 

「―――はっ、弱い者同士が庇い合ってみっともないったらありゃしねぇな!」

 

思いっきり一誠の腹に拳を突き刺し、

 

「所詮弱者ができることといえば誰かと身代わりになるだけだよな!」

 

顔を殴り、殴られて床に倒れ込む一誠。

 

「二度と俺に逆らうんじゃねぇよ雑魚。お前は俺の命令を従うだけの弱い奴なんだからな」

 

嘲笑する誠輝は袋を掴んで笑いながら出て行った。その後、イリナとヴァーリは一誠に寄った。

 

「い、一誠くん!」

 

「・・・・・大丈夫だよ」

 

「どうして・・・・・どうしてあんなことをしたんだ・・・・・!」

 

二人に身体を起こされつつ一誠はヴァーリを見詰める。

 

「目の前で殴られる友達を何もしないなんてできない。僕のせいで友達が殴られる

ぐらいなら僕が殴られた方がいい」

 

「そこまで・・・・・そこまでしなくていいんだよっ。

もっと自分を大切にして欲しい・・・・・!」

 

「殴られるの、慣れているんだ。だから痛くも痒くも・・・・・」

 

「ていっ」

 

ズビシッ!

 

「っ!?」

 

イリナが一誠の頭を手刀で叩き込んだ。

いきなり叩かれ、叩かれた頭を押さえながら困惑した表情をイリナに向ける。

 

「な、何を・・・・・」

 

「一誠くん。そんなこと言わないの」

 

「え・・・・・?」

 

「ほら、もう寝ましょうよ。九時過ぎちゃってるし」

 

有無を言わせない。扉を閉め、明りを消した。暗闇の部屋の中で三つの影が揃って

一誠のベッドの中に潜り込んだ。

 

「ちょっ、イリナ・・・・・」

 

「寝るの」

 

「でも」

 

「寝るの!」

 

頬を膨らませ、自分を「怒っているんだよ」と睨んでくるイリナから顔を逸らして

ヴァーリに助けを求めたが、

 

「イリナの言うことを聞いた方がいいよ一誠」

 

小さく短い一誠の腕を抱き枕のように両腕で絡めるヴァーリから諦めろとばかり返された。

 

「・・・・・おやすみ」

 

「「おやすみ」」

 

 

 

 

 

寝静まる三人の子供の様子を紫と黄色の玉が見ていた。

 

『・・・・・とても良い人間の子供ですね』

 

『ふん、隙を突かれあの人間共と神々に封印されたと思えばこの人間に

力を貸し与えろと言うことか』

 

『聖書の神でさえ、―――と同様に手を出せない貴方が封印されようとは驚きですね』

 

その声音に含む笑いは紫の玉を不貞腐れるのに十分だった。

 

『その聖書の神と他の神話体系の神々がこぞって人間達と襲撃して来たんだ。

いくら俺でも多勢に無勢だ』

 

『ふふっ、そういうことでしたか』

 

『お前はどうなのだ』

 

『私は自らこのようになることを望みました』

 

と、簡潔に述べた黄色の玉に対し紫の玉は底意地の悪い言葉を発した。

 

『だが、あの人間の子供はお前を捨てたがな』

 

『・・・・・そうですね。私とあなたが封印された理由はこの人間の兄弟にそれぞれ宿し、

兄弟共に協力し合って生きて欲しかったようですが、生憎あの人間はそれを気付かず

目の前の欲望に目を眩んだ』

 

『人間という生き物は皆そう言うものだ』

 

『ただし、目の前の子どもはそうではなさそうですがね』

 

黄色の玉は浮遊してベッドに眠る一誠の真上に漂う。

 

『この純粋な子供なら、喜んで受け入れましょう』

 

ゆったりと降下し、一誠の頭に溶け込んだ。しばらくして紫の玉も浮きだして、

 

『この人間が俺の力を使いこなせる以前の問題、相応しいか見届けようか』

 

一誠の頭の中に溶け込む紫の玉。

 

 

―――――誰だお前ら!?

 

―――――おや、先客がいたようですね。

 

―――――話し相手がまだいたか。これからよろしく頼むぞ。

 

 

とある日、一誠は公園にいた。祝日である為、

友人と遊ぶ約束をしていてここで集まることになっていた。

一人でブランコに乗って待ち人を待っている一誠の耳に

 

「イッセーく~ん!」

 

と発する声が聞こえ、声がした方へ振り向くと活発的な印象を与える茶髪の子供と、

ダークカラーが強い銀髪の子供が駆けよって来た。

 

「待った?」

 

「ん、ちょっとだけ」

 

「そっか、じゃあ遊ぼう!ね、ヴァーリ」

 

「うん・・・・・」

 

「今日もイリナと一緒に来たんだね」

 

ヴァーリと呼ばれた子供の頭を撫でる一誠に「家が近いからね」とイリナと

呼ばれた茶髪の子供がそう言うのだった。

 

「ね、新しいお家の人達はどう?」

 

「・・・・・ぶたれない」

 

「その返事はどうかと思うけど、良かった」

 

一誠と茶髪の子供、ダークカラーが強い銀髪の子供たちは時間が許す限り公園を

駆使して遊んだ、二人は笑い合い楽しんだ。

 

その最中、休憩とブランコに乗ってゆったりと漕いでいる茶髪の子供が一誠に問うた。

 

「ね、ねぇ、一誠くん」

 

「なに?」

 

「わた―――僕達、まだ子供だけどさ一誠くん、好きな人とか・・・・・いる?」

 

「好きな人・・・・・?」

 

コクリとイリナが頷く。ヴァーリもイリナと同様に心なしか瞳に不安な色が

浮かんでいるが一誠は気付く訳でもなく悩みに悩んでこう答えた。

 

「お父さんとお母さん、それにリーラさんかな?」

 

「それって家族としての意味で?」

 

「あれ、違うの?」

 

「う、ううん。いいの、それで合ってるの」

 

訊きたかった答えとは違うのか、少し残念そうに顔を曇らす。だがイリナの胸の内は―――。

 

「(もしかしたら、一誠くんは好きな人がいない・・・・・これってチャンスだよね)」

 

疑問符を浮かべている一誠の余所にイリナは片手でガッツポーズをした。

 

「どうしたの?」

 

「なーんでもなーいよ」

 

はぐらかすイリナはぴょんとブランコから降りて一誠に手を伸ばす。

 

「ほら、もっと遊ぼうよ!」

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

家に帰る時間と成り、イリナとヴァーリと分かれ真っ直ぐ家に帰った一誠。

楽しい気分が一誠を笑わせ、今日のことをリーラに教えようと早足で戻った。

 

「ただいまー!」

 

大声で言いながら玄関のドアノブを掴んだ。だが、開く気配が無く小首を傾げながら

何度もドアノブを動かすも扉は開かない。

 

「リーラさん、お買い物に行ったのかな?」

 

家にいるはずのリーラがどこかに行った。兄は友達と遊びに行くと分かっている。

そう認識した一誠は玄関の前で待つことにした。リーラが帰ってくるその時まで。

だが・・・・・いくら待っても、夜になってもリーラや兄が帰ってこない。

 

それどころか家に明かりがついて誰かいると分かってドアを叩き、

インターホンを鳴らしても玄関の扉が開く他、外で洗濯物を干す場所へ出入りする

ガラス窓にも叩いてもカーテンで完全に閉められて中を覗くことができないでいる。

 

「・・・・・何で開けてくれないんだ」

 

一誠は自棄気味になって扉を叩いた。すると、

 

『さっきからうるせぇぞ!』

 

「っ!」

 

中から兄の声が聞こえてきた。いるなら開けて欲しいと必死に言う。

 

「兄ちゃん!いるなら開けてよ!僕、入れないよ!」

 

『この家は俺と父さんと母さん、リーラさんしか入ってはいけない決まりがあるんだよ。

お前みたいな弱い奴は外で寝ていればいいんだ』

 

「そんなの誰が決めたんだよ!」

 

『父さんと母さんに決まっているだろう?

言っていたぞ、お前みたいな弱い奴は父さんたちの子供じゃないってさ!』

 

兄から告げたれた話を一誠は悲痛な面持ちで否定した。

「嘘だ!」と叫んで扉の向こうにいる兄に言うが無視したのか返事が返ってこなくなった。

家に入れない寂しさと不安に駆られ、一誠は扉を何度も叩いた。

 

ガチャッ。

 

すると、玄関の扉が開いた。兄が開けてくれたと一誠は喜んだ。

 

「うるせぇって言ってんだろうが!」

 

突き出された拳が一誠の顔面に突き刺さり、後ろへ転がった。

気持ちが一変して、悲しみと怒りが混ざった表情で兄を見詰める。

 

「どうして、どうして兄ちゃんは何時も僕を意地悪するんだよっ」

 

「意地悪?なんのことだ」

 

「え・・・・・?」

 

「弱い奴は強い奴に苛められるのが当たり前なんだよ。

道場の先生は『強い者こそが正義であり、弱い者は―――』」

 

鈍く光る何かが一誠の兄の手にあり、ソレを躊躇なく一誠の腹部に突き刺した。

 

「『罪である』つまり、お前が弱いのはお前が悪いんだって言ってたぜ」

 

「・・・・・」

 

お腹から感じる鈍痛に一誠は下に視線を落とす。そこに映る物は見慣れた包丁だった。

リーラがよく使用している包丁であった。

 

「それ、くれてやるよ。リーラさんは俺がもらうがな」

 

「にい・・・・・ちゃん・・・・・」

 

「さっさとどっかに行けよ。二度とこの家に帰ってくんな無能な弟」

 

無慈悲な兄の言葉に一誠はフラリと家から離れた。突き刺さった包丁の間から血が流れ、

コンクリートで敷き詰められた路面に点々と落とし、歩き続ける。

 

「・・・・・寒い・・・・・」

 

歩く歩幅も短くなり、

 

―――――お前の兄、心底クズだな。

 

宿るドラゴンが話しかけるも、一誠の意識は既に朦朧としていてなぜここに来たのか

分からない公園に足を踏み入れた。

 

「イリナ・・・・・ヴァーリ・・・・・」

 

―――――しっかりしろっ!ここで死んだらお前の親が悲しむぞ!

 

「・・・・・ごめん、だけど眠たいんだよ・・・・・」

 

ついに力尽きたのか、地面に倒れた。

仰向けで倒れる一誠の眼に映る夜空はキラキラと輝く星。

憎いほど瀕死の重体の一誠を観させる。まるで最期の手向けとばかりに。

 

―――――クソが・・・・・もうお別れか。

 

「ごめん・・・・・ね?」

 

―――――謝る位なら根性で気を保っていろ。あのメイドが気付いてここに来るまでぐらいにな。

 

「・・・・・それ・・・・・もう、無理。だけど・・・・・」

 

―――――なんだ?

 

「・・・・・お前の名前、まだ知らない」

 

ドラゴンは沈黙した。今まで一方的に話しかけたばかりでようやく最近、

会話という会話らしくなってきたところでこの様だ。宿主である一誠に

 

―――――『魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)』ネメシス。

 

と、最期に名乗った。ドラゴンの名前を最期に訊けて小さく笑んだ一誠は。

 

「また・・・・・会えたらいいな、ネメシス」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

暗闇の夜の公園に死に逝きそうになっていた一誠は気付いていなかった。

黒いワンピースを身に着け、細い四肢を覗かせている腰まである黒髪の小柄な少女が

ジッと一誠を見詰めていたことを。

 

「・・・・・この者、懐かしい匂いをする」

 

既に虫の息である一誠に顔を寄せて匂いを嗅ぐ少女は何かに吸い寄せられるように

この公園に来た。理由も分からない。ただのきまぐれか、それともドラゴンの波動が

気になったのか、少女は自問自答しても小首を傾げると少女に話しかける存在がいた。

 

―――――なぜ、お前がここにいる。

 

「我も分からない。この者から懐かしい匂いがする」

 

―――――そうか、お前の考えには理解できないが一つ頼まれてくれ。

   この子供を助けてはくれないか?

 

「我、治癒はできない」

 

一誠の中に宿るドラゴンが少女と会話。だが、藁に縋る思いは絶えた。

 

―――――無限の体現者でもできないことがあるか。

 

「我は無限。ただそれだけ」

 

―――――ちっ、今度別の宿主に頼むか。兵藤家を根絶やしにして欲しいと。

 

ピクリと少女は反応した。「兵藤家」と。

 

「・・・・・この者、兵藤の者?」

 

確認するように尋ねた少女にドラゴンは意外そうに返した。

 

―――――知っていたのか?お前という者がな。

 

「我、兵藤誠と兵藤一香と友達」

 

―――――なるほど、それなら好都合だ。聞け、この子供はその二人の人間の子供だ。

 

「・・・・・誠と一香の子供?」

 

―――――あの二人が一誠の死を知ればさぞかし悲しむことだろう。

   どうにかしてこの人間を助けてくれ。

 

「・・・・・」

 

少女はドラゴンの願いを聞く。もしもそれが本当ならば助けてやりたい。

だが、どうすればいい?自分は治癒の能力なんて無い。だから故に素朴な質問をした。

 

「我、どうすればいい?」

 

―――――・・・・・そう言えば、この人間はグレートレッドと会った過去がある。

    あの真龍と協力して蘇生をできやしないか?この人間の魂は俺がどうにか抑えておく。

 

ドラゴンの言葉に、少女は「意外」と漏らしつつ肯定と頷いた。

一誠を抱えて公園から姿を消した。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「誠輝さま、どういうことかご説明をして貰います」

 

「リーラさん、どうしてそんな怖い顔をするの?

というかその銃を突き付けないで欲しいんですけど」

 

「私の顔の事よりご説明を願います。そして私の下着を散らかして変態な

行動をしている貴方様にお仕置きをしようとしているだけです」

 

「お仕置きどころかそれは完全にDEADだよね!?」

 

リーラが帰宅して異変を感じた。一誠の両親の仕事の手伝いで遅くなり、

急いで家に戻れば点々とどこかに続く赤い血が。

頭の中でまさかと嫌なビジョンが過ぎってしまい、

 

家の中をくまなく探し人を探すがその際、気になる点を見つけた。

包丁が一つ無くなっているのだ。リーラは自分の部屋で下着が入っているタンスを開けて

床に散らばせて寝転がっている誠輝に銃弾を放ってから冒頭が始まっていたのであった。

 

「どうして私が使用している包丁が一つなくなり、

一誠さまがまだ帰っていないのか誠輝さまならご存知のはずです」

 

「俺は知らないよ?それよりもリーラさん、今晩の夕飯は何?」

 

ガチャリッ。

 

「私は誠輝さまと一誠さまのお世話を任されているメイドでございます。

私の質問を先にお答えしてくれれば直ぐに夕飯を作ってあげます」

 

「だから俺は知らないってリーラさん。信じてよ」

 

「・・・・・そうですか」

 

銃を下ろして誠輝を見降ろす。明らかに知っているはずだが敢えて告げようとせず

のらりくらりと話を平行線にしようとしている。

 

「リーラさん」

 

誠輝は徐にリーラへ抱きついた。

 

「もう、あんな奴なんか放っておいて俺と一緒に暮らそうよ?

俺、本当にリーラさんのことが好きなんだ」

 

バッ!とリーラを押し倒して覆い、彼女の顔を挟んで自分の唇を押し付けた。

そしてそのまま欲望の赴くままリーラのメイド服を剥いで何時も揉んでみたいと思っていた

胸を飽きるまで触って、自分の子供を産ませる。

そんな脳裏でイメージをしていた誠輝。誠輝は

イメージ通りに押し倒そうとしたが・・・・・。

 

「へ?」

 

何時の間にかリーラが目の前にいなくなっていた。

誠輝はキョトンとしたが一階に下りてリーラを探してみたが姿形がないどころか、

 

 

ポツンと割り箸と湯気を出しているカップ麺が机の上にあった。

 

 

「一誠さまっ!」

 

点々と続く血痕を辿って行けば公園に着き、辺りを見渡しても一誠の姿が見当たらない。

だが、明らかに血が一定量に溜まっている個所があり、倒れていた事実が確認したものの

一誠がいないとすれば・・・・・。

 

「誰かが一誠さまを連れて行った・・・・・?」

 

焦心を駆られた心は冷静に落ち着きを取り戻し携帯を取り出してどこかに繋げた。

 

『リーラ、どうしたんだ?』

 

「・・・・・誠さま、申し訳ございません」

 

『何が遭った』

 

一誠の父親に連絡をし開口一番に謝罪の言葉を言うリーラに真剣な声音が聞こえてくる。

 

「一誠さまが誰かに連れ去られたようです」

 

『・・・・・なんだとっ!?』

 

「その上、大量の血が公園で発見しました。一誠さまは重傷の状態で何者かに

連れて行かれたもようです」

 

『・・・・・なんで一誠がこんな時間に外へ出歩く。まさか・・・・・・誠輝なのか?』

 

その問いをしばし躊躇して肯定の言葉を放った。

 

「私が使っている包丁が一つ無くなっております。

誠輝さまは知らないと申しますが・・・・・」

 

『・・・・・』

 

誠の返事がない。夜中の公園に佇むリーラの周りは静寂が包み相手の返答を待つこと数分。

 

『三大勢力のトップに頼んで欲しい。できるか?』

 

「・・・・・誠に申し訳ございません」

 

『いや・・・・・俺達が悪いんだ。子供を放ったからしにして仕事に集中していた俺達が』

 

「お二人はとてもご立派に仕事を成されておるのです。ですから、自分を責めないでください」

 

『・・・・・それはこっちの台詞だリーラ。お前もな』

 

通信が切れ、携帯を懐に仕舞いこんだリーラは天を仰いだ。

 

「一誠さま・・・・・っ」


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