三好夏凜は勇者である   作:シャリ

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5話:誕生会

「あれ? あんた達……」

「夏凜、何度も電話したのになんで電源オフにしてるのよー」

 

 電話を間違えて切ったことをどう説明して謝ったらいいか分からなかったから、電源を落としてそれらを先延ばしにした。なんて言えないので、風の言葉には答えずにこちらから聞き返す。

 

「そ、それより何で来たのよ?」

「夏凜ちゃんが来ないから、もしかして倒れてたりしてるんじゃないかって心配して来たんだよ。体、大丈夫?」

「えぇまぁ……」

 

 心配? 怒りに来たわけじゃないの?

 

「それじゃ夏凜、上がらせて貰うわねー」

「あ、ちょっと……」

 

 怒っている様子がないことに困惑している私をよそに、風達がぞろぞろと部屋に入っていく。リビングまで行くとテーブルに沢山のお菓子やジュースを広げて置き、自分たちは座りこむ。立ったままの私を風が手招きして座る様に促す。訳が分からないまま私も友奈の隣に座り、疑問を口に出す。

 

「で、一体なんだってのよ!?」

 

 心配して来たというなら無事を確認した時点で用は済んでいる筈。

 

「あのね、夏凜ちゃん」

 

 友奈がいつの間にやら、ピンク色のパーティ帽を被っていた。

 

「何よ?」

「はっぴぃばーすでー!」

 

 その言葉と共に苺のホールケーキを取り出す。

 

「夏凜ちゃん、お誕生日おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとうございます」

「おめでとー」

 

 予想外のことで固まっていると、友奈に続いてみんなも祝いの言葉を言ってきた。確かに今日は誕生日だけど。

 

「な、なんで誕生日を知ってるのよ?」

「これよ、これ」

 

 風が取り出したのは入部届けの紙。そこには私の生年月日が書かれている。

 

「友奈ちゃんが見つけたのよね」

「えへへ〜。あ! って思っちゃった。これは誕生日会しないとねって」

「夏凜さんの歓迎会も一緒にできるねって話してたんです」

「本当は子供達と一緒に児童館でやろうと思ってたの」

「でも当のアンタが来なくて焦ったわー。迎えに行こうにも子供達がヒートアップして離してくれないし」

 

 そうだったんだ。なのに私は──。

 

「……ごめん」

「え? 何が?」

「行かなくて悪かったって言ってるのよ! 集合場所を間違えたうえに焦って電話も切っちゃうしでどうしたらいいのか分からなくなって……だから、ごめん」

「わかったから別に気にしなくていいわよ。ほらほら〜、アンタも座りなさいよ。主役なんだから」

「ん、ありがと。けど誕生会なんてしたことないから何をすればいいのか分からないんだけど」

 

 私がそう言うと、みんなはお互いの顔を見合って微笑み、それぞれパーティ帽を被る。

 

「はい、夏凜ちゃんも!」

 

 友奈から赤いパーティ帽を渡されたので、被ってみる。

 

「これでいい?」

「うん、バッチリ」

 

 友奈とのやり取りを終えたタイミングで、風がジュースの入ったコップを掲げる。

 

「よぉし、そんじゃま乾杯するわよー。分からないも何も誕生会ってのは駄弁って食べて飲んでいればいいってもんよ」

 

 そういうものなんだ……。とりあえず風に合わせてコップを掲げているみんなに私も合わせる。

 

「それでは──」

『乾杯!』

 

 乾杯した後はみんなと話をした。中身がなく他愛のない話。だけど、そんなことが楽しくていつの間にか一緒に笑っていた。

 

 

「この日と、こことー、この日もっ!」

 

 なんだろう? と思ったら友奈が私のカレンダーに次々と赤丸印をつけていた。

 

「えーと、友奈? 何勝手につけているのそれ」

「勇者部の予定!」

「全部の日につけてあるけどそんなに部活ってあるの?」

「土日は予定で一杯だからねー。それに五人揃ったから文化祭でする演劇のこと考えなきゃいけないから平日も忙しくなるよ!」

 

 へぇ演劇するんだ、と感心していたら風のツッコミが入る。

 

「演劇? そんな話したっけ?」

「あれ、違いましたっけ? 前にみんなで演劇したかったけどできなくなって悲しかったような気もするんですけど……夢とごっちゃになってたかも。うーん、失敗失敗」

「いや、いいじゃない演劇! 人形劇以上に自由が効くしきっと受けるわね。ククク、台本を書きたいという意欲で今からアタシの魔手が疼いて来るわ!」

 

 その後も風が一人で過剰な盛り上がりを見せてはいたが、東郷も樹も静かながら演劇をすることには賛成していた。

 あとはトランプ等で遊んだり、テレビ台に置いていた折紙を見られて風たちにニヤニヤされたりする内に時間はあっと言う前に過ぎていき──。

 

「いい時間になったしアタシ達帰るねー」

「またね、夏凜ちゃん」

「また明日」

「夏凜さん、お邪魔しました」

 

 帰り支度を済ませて、玄関から出ていこうとするみんなを一度呼び止める。

 

「ま、待って」

 

 友奈達が「どうしたの?」というような顔をする。まだちょっと恥ずかしいけど、ここは素直に気持ちを伝えておこう。

 

「あの……今日はありがとう。こんな風にお祝いされて本当に嬉しかったから感謝してるわ」

「うん、どういたしまして!」

 

 ニコやかな笑顔をして答えた友奈に続いて、風がからかってくる。

 

「うんうん。にしてもアンタ、耳が真っ赤になってるわよ」

「うっさい! 帰れ帰れ!」

 

 友奈達がいなくなった後にゴミの片付けをしていると、携帯からメールの着信音が流れてきた。確認すると友奈からのようだ。本文には「ようこそ勇者部チャットへ!」の言葉と共にアドレスを書かれていた。アドレスをタップすると、画面がNARUKOへと切り替わりチャットルームが表示される。

 参加ボタンを押して部屋に入る……が何も書き込みがない。まだ誰も書き込んでいないのだろう。ひとまずスマホはそのまま置いておき、片付け等のやるべきことに取り掛かる。

 

 一通り終えて寝床であるベッドに潜り込む。そういえば、とスマホを取り先程のチャットルームを開く。すると次は他の四人による書き込みがあった。それぞれ表現は違うが「これからよろしく」といった内容だ。気の利いた言い回しなんて思いつかないので「了解」とだけ返しておく。返したそばから皆が次々とチャットを飛ばしてくる。

 

「早すぎるでしょ……」

 

 どう答えるかモタつきながら送り返していると、友奈から新たなチャットが飛んでくる。

 

『これから全部が楽しくなるよ!』

 

 その言葉と共に、誕生会の時にみんなで撮った写真が送られてきた。それを見てついフフッと小さく笑ってしまう。

 どうも誕生会の時から頬が緩くなっているようだ。でも悪い気分ではない。むしろ心地よい気分だ。私は世界を守る勇者だから普通の子になる必要なんてない。だけどみんなと楽しんでいくこと位は良いかもしれない。……自分でも心変わりが早いような気はするがそのことは気にしないでおく。

 みんなとひとしきりチャットを飛ばし終えた後、送られてきた写真をしっかりと保存する。「今夜はよく眠れそうだ」と思いながら、写真を眺め続けた。

 


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