三好夏凜は勇者である   作:シャリ

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4話:勇者部

 学校に来てから二日目、放課後の勇者部室。私はそこで勇者としての認識が甘い四人の為に説明を行っていた。

 まずバーテックスが約二十日間という周期に一体ずつ襲来すると予想されていたこと。その予想は外れて三体が纏めて襲来した前々回に、四人が戦闘を行ったことから今後も不測の事態が発生する危険性を話す。

 次の説明に入る前に、部室のドアに鍵がかかっていることと周りに人がいないことを確認してから勇者姿に変身。

 

「勇者には満開と呼ばれるシステムが存在するの。戦闘で経験値を積み満開ゲージを貯めることで使える圧倒的な力、その満開ゲージは勇者服のどこかについているわ」

 

 左腕にある満開ゲージを見せつつ説明を続ける。

 

「言わなくてもなんとなくわかってるだろうけど、光っている花びらの枚数が溜まっている分のゲージってわけ。そして満開を繰り返すことでレベルが上がり、勇者はより強力になる」

 

 ここで変身を解除して制服姿に戻る。

 

「へぇー、すっごいなぁ」

 

 説明を聞いた友奈が感心しながらメモを取る。ホヘーっと抜けてるように見えるが案外抜け目がないらしい。

 

「夏凜ちゃんは満開の経験はあるの?」

 

 東郷から質問されたが少し痛い質問だ。

 

「いや……まだだけど……」

 

 モゴモゴとした答えをしていると風が呆れた口調で話してくる。

 

「なーんだ、あんたもレベル1ならアタシ達と変わりないじゃない。それならアタシが勇者を極めてレベル99の最強になっちゃおうかしら」

「き、基礎戦闘力が桁違いに違うんだから一緒にしないで貰える! あとそんなレベルになれるほどバーテックスは残ってないでしょうが」

「話を纏めると結局強くなるには頑張るしかないってわけねー」

 

 それから四人は朝練しようだの、起きれないからムリだの、というようなやり取りを笑いながら繰り広げる。

 

「こんな感じで大丈夫なのかな……」

 

 と四人を見て呆れていると、

 

「なせば大抵なんとかなる!」

 

 急に大きな声がした方を見ると、友奈が真っ直ぐに私を見つめていた。

 

「今の言葉って……」

「勇者部五か条だよ! 大丈夫、皆で力を合わせれば大抵なんとかなるよ」

 

 その言葉と共に友奈がビシッと指を差す。その差した方向には貼り紙があり、その五か条とやらが書かれていた。

 

【勇者部五か条】

一、挨拶はきちんと

一、なるべく諦めない

一、よく寝て、よく食べる

一、悩んだら相談!

一、なせば大抵なんとかなる

 

「なるべくとか大抵とか、なんかフワッとしたスローガンね」

 

 そのツッコミには風が反応してきた。

 

「それはほら! 固過ぎると色々となんか負担になりそうだから気楽にできそうな位がいいのよ」

「一理あるような、ないような」

「はいはい、深く考えすぎない。こういうのは、考えるんじゃなくて感じるのよ!」

「絶対、てきとうに言ってるでしょそれ」

 

 なんだかこの四人と話していると調子を崩されるような気がする。

 

「ハイ、それじゃ勇者の話はこの辺にして次の議題いくわよー。樹、紙を配ってあげて」

 

 プリントを渡されそのままみんなで樹の説明を聞く。

 

「今度の日曜日に子ども会のお手伝いでレクリエーションを行います。具体的には折り紙の折り方を教えてあげたり一緒に遊んだりとやることは沢山あります」

「楽しそうだね!」

「夏凜にはそうねぇ、暴れたりない子の面倒でも見てもらおうかしら」

 

 風の言葉が引っかかる。

 

「ちょっと待って。これ、私も参加するの?」

 

 私が疑問を出すと風が一枚の紙を突きつけてくる。私が書いた入部届けだ。

 

「ここに入ったからには部の方針に従って貰うわよー」

「確かに入部したけど……」

 

 要領を得ない反応をしていたら友奈がグッと近寄り聞いてきた。いちいち近い。

 

「夏凜ちゃん日曜日になんか用があるの?」

「な、ないわよ」

「じゃあ参加できるね!」

「なんでそうなるのよ」

「……嫌なの?」

 

 少し悲しそうな顔をされる。

 

「うっ……いいわよ。私も参加する。だからそんな顔をしないで。友奈の悲しい顔、もう見たくはないから」

「もう?」

「え? あぁなんでもないわよ。とにかく日曜日にはちゃんと行くから」

 

 今なにを口走ったのだろう。友奈とは出会ったばかりだというのに『もう見たくはない』というのも可笑しな話だ。もしかしたら疲れで思考が鈍っているのかもしれない。

 

「そっか。日曜日が楽しみだね!」

 

 それから四人に巻き込まれるような形で話に加わることになるのであった。

 その後、帰宅してから昨日と同じように特訓等を行った。違ったことがあるとしたら、帰り道に折り紙と折り紙の折り方が書かれた本を買ったこととカレンダーの十二日に印をつけたこと位だ。

 

「世界を守る勇者がレクリエーションなんてバカバカしい」

 

 そんなことをつい口に出してしまったが、本を見ながら折り紙の練習を行う。参加すると言ったからにはキチンとできるようにしておきたいからだ。そうして数回失敗した後に、しっかり作ることができた幾つかの折り紙を眺める。

 

「意外と簡単じゃない」

 

 折り紙なんてした経験がないから難しそうだと思ったが、そうでもなかったようだ。問題があるとすれば。

 

「どう子供に教えるか……よね」

 

 自分ができるだけじゃ今回のレクリエーションは成功しない。しかし子供への折り紙の教え方なんてものは本に載ってはいない。当然のことだ。友奈たちのやり方を見る、もしくはそれを教えてもらうしかないか。

 もう一度それぞれの折り紙を折ってみた後は昨日と同じように一日を終えた。

 

 

 

 6月12日の日曜日。

 

「来てあげたわよ」

 

 勇者部部室のドアを開けながら言い放ったが──。

 

「誰もいない?」

 

 時間を確認すると現在の時刻は九時時四十五分。集合時間は十時丁度だったはず。

 

「早すぎたかな」

 

 とりあえず座ってみんなを待つことにする。それから十時になっても十時半になっても友奈たちは現れなかった。もしかして……。

 少し嫌な予感を感じながら肩掛けバックからプリントを取り出し、確認してみるとそこには『十時に現地集合』と書かれていた。

 

「しまった……私が間違えてたんだ。電話とかした方が良いわよね」

 

 スマホを取り出したタイミングで着信音が鳴り響く。

 

「この番号は結城友奈!? アッチからかかって来た! あっ、えっと、うぅ……あ!」

 

 突然のことでどうしたらいいのか分からず、つい切ってしまった。

 

「き、切っちゃった。こういう時って掛け直した方がいいわよね? でも何て言えば、えっと……はぁ」

 

 段々と頭が冷えて思考が落ち着いてくる。

 

「関係ない。別に部活なんて行きたかったわけじゃないし」

 

 そうだ、こんな浮かれた真似をする必要なんてないんだ。あんな奴らとは違う。私は真に選ばれた勇者なんだから。

 

「帰ろう」

 

 帰路につきそのまま帰宅すると、着替えていつもの場所でいつもの特訓を始める。

 あいつらはたまたま選ばれただけの普通の女の子達。けれど、私は違う。世界の未来を背負わされている。活躍を期待されている。だからあの子たちみたいな普通の子になるべきじゃない。

 特訓を終え帰宅する。過ごし方は変わらない。でも、これでいい。

 ルームランナーを使っていたら、家のチャイムが鳴り響いた。

 

「誰?」

 

 誰かが来る予定なんてなかったはず、と考えていたら呼び出しベルが連打されてるのかチャイムが連続で鳴る。

 

「ふぇ!? うぅ……」

 

 このマンションは勇者である私に大赦が用意したもの。この階と上下の階には誰も住んでいない(だからルームランナーを気にせず使える)から近所の人が訪ねてきた可能性は存在しない。そうなると暴漢や強盗の類いかもしれない。

 何なのか分からなくて少し……少しだけ、本当に少しだけ怖いけれど立ち向かうしかない。いざとなれば先手を打って撃退してしまえばいい。

 木刀を一本だけ携え玄関に近づく。誰だか知らないがやってやる。

 

 そしてドアを勢いよく開けて「誰よ!」と言いながら木刀を突き出すとそこには、

 

『うひゃああああっ!?』

 

 私の行為で驚く、友奈たち四人がいた。

 


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