三好夏凜は勇者である   作:シャリ

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3話:一日目

 6月9日、私は市立讃州中学校のとある教室に来ていた。

 

「はい、いいですか。今日から皆さんのクラスメイトになる三好夏凜さんです」

「三好夏凜です。よろしくお願いします。」

「夏凜ちゃーん!」

 

 先生の言葉に続いてみんなの前で自己紹介をする私に向けて、友奈が手を振ってアピールしてきたが……目を向けるだけで、手を振る等の反応らしい反応はしないでおく。

 友奈、東郷と同じクラスに入ったが教室内で勇者やバーテックスの話をするわけにはいかない。それにクラス内で交流する必要は特にないはず。放課後になるまでは大人しくしておこう。

 そして、放課後の勇者部室。

 

「なるほど、そう来たか」

 

 私が転校生としてやってきたことを聴いてフムフムと納得する風をよそに、東郷が質問を行う。

 

「なぜ、このタイミングで? どうしてもっと早くから来てくれなかったの?」

 

 当然の疑問ではある。彼女たち二回目の戦闘から一ヶ月が経過し、敵が三回目の襲来をしたタイミングでやって来たのだから。

 その質問に対しては、私も早くから来たかったのだが勇者システムの調整等で遅くなった、といった説明で納得させた。

 説明を終えると友奈が近づいて来て、笑顔で話しかけてきた。

 

「そっか。これからよろしくね、夏凜ちゃん」

「さっき教室でもそうだったけどいきなり下の名前呼び?」

「あっ、えぇと……嫌だった?」

 

 友奈が少し不安そうな顔をして尋ねてくる。そういう顔をされるのは、あまり良い気分にはならない。

 

「いいわ。名前くらい友奈以外も私のことは好きに呼びなさい」

 

 その答えを聞くとニカッと笑い、言った。

 

「ようこそ、勇者部へ!」

 

 一瞬、彼女の言う意味がわからなくて反応が遅れる。

 

「……誰が?」

「誰ってもちろん、夏凜ちゃんだよ」

「勇者部に入る、なんて一言も言ってないわ」

「あれ? 違うの?」

「違う。私はあんた達を監視する為にここに来ただけ」

「じゃあもう部室には来ないの?」

「そういうわけじゃないけど……お役目なんだし」

「それなら勇者部に入った方が話がはやいよね」

 

 こう言ってきた友奈と同じく、東郷も「確かに」と入部するよう勧めてくる。

 大赦からの指令では『勇者部に入れ』とまでは書いてなかった。しかし、『入るな』とも言われてはいないし友奈の言うことも一理ある。

 

「それもそうね。その方が監視しやすいだろうし」

「別に監視なんてしなくてもアタシ達はサボったりしないわよ」

 

 風が呆れた顔をしながら私の発言に切り込んでくる。

 

「フン、そんなのわからないわ。たまたま選ばれたあんた達が世界を守る為に真剣に戦う保証なんてどこにもないでしょうが」

「夏凜は心配性ねー」

「そういう意味で言ってるわけじゃないっての」

 

 そんなやり取りをしていると、樹が呼びかけてきた。

 

「夏凜さんの占いの結果がでました! その、吊られた男の逆位置です」

「誰も占ってなんて頼んでないわよ! で、どういう意味なのよ」

 

 聞くと、樹が申し訳なさそうな表情をする。

 

「自分一人では何もできない場面があったり、問題が大変で気が滅入ったりとか……ごめんなさい、あんまり良い意味じゃないです」

「勝手に占われて勝手に悪いの出されても反応に困るんだけど。それで? その結果はなにか解決策でもあるやつなの?」

「えっと、何かを諦めて逃げたりしなければ良い結果がいずれ出てくるはずです!」

「それなら問題ないわ。私は何があっても逃げるなんてするわけが」

 

 そう思ってたのに辛くなって私は──。

 

「あの、夏凜さん?」

「え? な、なに?」

 

 今、私は何を考えてたのだろう……?

 

「なんだか怖い顔してましたけど大丈夫ですか?」

「……問題なんてない。少し考えこんでただけだから」

「そ、そうですか」

 

 私はさっきのよくわからない考えを何処かに追いやるように、声を張り上げる。

 

「とにかくっ! バーテックスとの戦闘は私の監視の元で励むのよ。そしてあんた達には私が正式な勇者として実力を見せてあげるわ」

 

 そこで再び風が口を開く。

 

「あのさ、夏凜」

「なによ。なんか文句ある?」

 

 私の言葉に対して、風はそうじゃないと手を振る。

 

「別にバーテックスとの戦闘に関してはいいわ。事情もわかった。だけど、ここに居る間は上級生の言葉を聞いて貰うわよ。勇者部の部長はアタシな訳だしね」

「いいわよ。残りのバーテックスさえ倒せばそこでお役目は終わりなんだし。それまで付き合ってあげる」

 

 ひとまず話が纏まると、タイミングを見計らっていたのか友奈が提案してきた。

 

「じゃあ話がまとまったところで、皆でうどん食べに行こうよ!」

「私はパス」

「えー、夏凜ちゃんも行こうよー」

「いい。私は先に帰るから」

 

 そうして、私は友奈達のことは構わずに帰宅した後、手早く動きやすい半袖半ズボンに着替え、自転車で浜辺へと向かう。そして今日も二刀流の特訓を行う。身体を動かしながら学校でのことを振り返る。

 

 くだらない。期待していたわけじゃないけど、想像以下ね。

 今までの勉強は両親や大赦が用意した人間、もとい家庭教師から教わってきた。だから学校というものがどういうものなのか知らなかった。でも、それで良かったのだろう。今日一日で学校という存在は大して価値がないと判断した。私は一人でいる方がいい。

 

 そんなことを考えたりしながら一時間半程度したところで特訓を終わらせた。帰り道にはコンビニに寄り、夕食にする弁当と煮干しを購入して帰宅。

 食後に、大赦へとメールで『現勇者達に緊張感がない』という旨を添えて今日の報告を行う。その後はルームランナーでさらに身体を動かす等をして一日を終えた。

 


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