三好夏凜は勇者である   作:シャリ

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最終話:貴方と微笑む

【西暦2317年4月3日:火曜日:イネス】

 

 四国に存在する巨大ショッピングセンター、イネス。人類の技術進歩が止まった西暦2015年よりも前から建てられていたショッピングセンター。何度かの改装や立て直しがされて、今でも人気の存在。

 

 その一階のエントランスを一人で歩く少女がいた。

 

 名前は結城友奈、年齢は12歳。

 格好は薄オレンジ色のワンピースに濃いめの水色のデニムジャケット。

 脚は黒のストッキングを履いており、靴は茶色のショートブーツ。

 

 彼女は3月17日に讃州小学校を卒業したので、4月7日にある讃州中学校の入学式まではお休み期間。ここには暇つぶしをするために遊びに来ていた。

 

 イネスには友奈のように暇を持て余した子供や学生が多く来ており、曜日としては平日であったが人はそれなりには居た。

 友奈は何かを買うこともなく、ファッション関係の店が集まっている所に行き、店内を見てまわる。女の子にとって、ウィンドウショッピングというのは基本的に楽しいことなのに友奈の表情はあまり楽しそうではなかった。

 

(物足りないなぁ)

 

 どこか物足りないという気持ち。それが品揃えに対してなのか、同じクラスだった友達とかと一緒に来たわけではないからなのか友奈には判断できなかった。ただ、どちらでもないように感じてはいた。友奈は、ずっと前から自分には大切な何かが欠けているような気がしていた。

 

 

 適当に見てまわった後は、いくつか並べられたベンチと自販機が置いてあって、ちょっとした広場になっている場所に移る。小休憩として、入れ物が紙コップ故に安価な自販機を選んでオレンジジュースを買い、ベンチに座り込む。

 

 友奈がジュースを飲んでいると、二つ隣のベンチに座っている、友奈と年がそう変わらないと思われる三人の少女たちの会話が耳に入ってきた。

 

「私としては宇治金時の方が好みね」

「私も醤油味はあんまりかな~」

「むむむ……。よぉし、こうなったらアタシの弟が大きくなった時に、食べ比べをさせてみようじゃないか。それで醤油味こそが一番だって証明してみせるっ!」

 

 少女たちの手にはそれぞれ違う味だと思われるジェラートがあった。どうやら、どの味が一番なのかを話していたらしい。

 

(私もジェラート食べようかな)

 

 友奈は、残りのジュースを一息で飲み干して席を立つ。空になった紙コップを自販機の傍に置いてあったゴミ箱に捨てて、ジェラートを売っている店に向かって歩き出す。

 

 お店を見て回っていた間に時間は昼過ぎとなっており、ある程度人が増えていた。故に歩いていると、ある程度近い距離で他人とすれ違う。

 

 

 暇を持て余した学生グループ、金髪の姉妹とその両親、薄い茶髪のツインテールの少女。

 

 

 

 

「待って夏凜ちゃん!」

 

 友奈は振り返り、今しがたすれ違った少女の右腕を左手で掴んでいた。夏凜と呼ばれた少女は友奈の方に顔を向ける。

 

「なに?」

「あの、その……」

 

 手を離さないまま、ハッキリしない答えを行う。友奈にも、なぜ呼び止めたのか分かっていなかった。相手は今までに逢った覚えがなく、初めて逢う人。だというのに、考える前に口から言葉が出て手を動かしていた。

 

 夏凜は訝しげな顔をしながらも、顔だけでなく体ごと友奈の方を向く。その際に友奈が手を離したこともあって、二人は向かい合う立ち位置となる。夏凜が友奈に質問しなおす。

 

「どうして私の名前を知っているの?」

「えっと、なんでだろうね?」

 

 友奈はそう答えた、というより、疑問を返した。夏凜は呆れたのか、ため息を吐いてから言う。

 

「まったく友奈は──」

 

 夏凜は最後まで言いきらずに言葉を切った。そして、友奈の顔をじっと見つめてから呟いた。

 

「結城友奈?」

「うん、友奈だよ。なんで名前が分かったの?」

「なんでって言われても」

 

 答えに困った顔をして、指で頬を掻く。友奈と同じく、夏凜も初めて逢った相手の名前が意図せず脳裏に浮かんだ理由が分からなかった。すると友奈がニカッと笑う。

 

「なんだか初めて逢った気がしないねー。不思議っ!」

「……そうね」

 

 二人とも、ずっと前から相手のことを知っているような感覚が生じていた。それは、違和感のような不快なものではなく、むしろ気持ちが安らぐような懐かしさと言えた。

 

「夏凜ちゃん……で、いいんだよね?」

「それで問題ないわ」

「じゃあ夏凜ちゃん、せっかくだから一緒にイネスを見て回ろうよ」

「えぇっ!?」

 

 あまりにも突然な誘いを受けて、面を食らう夏凜。しかし、すぐに落ち着き、口に手を当てながら考える。夏凜は心のどこかで既に、友奈と話をしていたい、一緒に居たい、知りたい、と思っていた。

 そして、そんな自分の気持ちを確かめてみたくなった。

 

「なにがどうせっかくよ。まぁいいけど」

「やったぁ! なら、改めて──」

 

 夏凜の返答に友奈は喜び、友奈は夏凜に右手をさしのばした。

 

「私は、結城友奈。これから宜しくね」

 

 夏凜がその手をしっかりと握る。

 

「初めまして。私は三好夏凜よ」

 

 人懐っこい笑顔を向ける友奈に、夏凜は頬笑み返していた。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 一人だった少女は彼女と出会い、一人ではなくなりました。少女は誰かと笑い合う幸せを知りました。少女はこのまま彼女と、みんなと、笑顔ですごしていたいと思いました。

 しかし、世界は少女達に優しくはありませんでした。みんなは終わりなき戦いを続けて、やがて少女はまた一人になりました。だから少女は過去に旅立つことを決めました。

 

 その選択で、少女の長い戦いが始まりました。一人ぼっちになっても、少女は戦うことを諦めませんでした。そして少女が一人ぼっちであることを、誰も知りませんでした。

 

 少女は傷ついても傷ついても決して諦めませんでした。自分が諦めてしまったら、それこそ、未来が闇に閉ざされてしまうからです。少女は自分が皆を助けるのだと信じていました。

 

 でも、これ以上戦い続けても意味がない、と思うこともありました。それでも少女は立ち上がりました。諦めない限り、希望は終わることがないからです。

 皆がいるから、愛する人が居るから、自分は負けないのだと。そうして……長い、本当に長い旅路の果てに、少女は魔王を打ち倒しました。

 

 自分と愛する人との日常を取り戻したその少女は──、

 

 

 

 ──三好夏凜は勇者である。

 

 

 終 わ り。

 




 七ヶ月間に渡って書き続けた初めての長編作品がようやく完結を迎えることができました。ご愛読ありがとうございました。
 最後の前書きを完成させた締めの文章は、アニメ最終話で東郷さんが読んでいた劇の台本を元に書きました。
 実際の所、この作品が読者側からどう思われていたのか分からないので、気が向いたら一言でも感想・批評の方を貰えると嬉しいです。
(もしもこの作品で友奈と夏凜のコンビを好きになってくれたり、もっと好きになってくれてたりすると内心が凄い喜びに溢れる)
 日付をきっちり決めていた分、時間経過の方は分かりやすかったんじゃないかとは思います。
 余り長く後書きを書くと邪魔に思われそうなので、長めの後書きは活動報告に書いておきます。(活動報告は作者のページに行くことで見れます)
 次のページは、その後の設定とちょっとしたオマケ話です。
 後日談は何か思いつくなりモチベーションが湧くなりしたら書くかもしれませんが、現段階では未定です。

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