三好夏凜は勇者である   作:シャリ

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22話:告白

 徐々に視界を取り戻す。視線を巡らせると上も下も前も後ろも黒色に塗りつぶされた空間。見渡そうにも、どこまで空間が広がっているのかを認識できない。

 

 立っているのに大地を踏みしめているような感覚はない。かといって浮遊感があるわけでもない。視覚的にも感覚的にも普通ではない場所で私と友奈は向かい合っていた。

 

 誰かに言われるまでもなく理解していた。ここは私が取り込んだ天照の力で生み出された空間だということ。友奈のお陰で取り込みが上手くいったこと。

 そして……神樹様の中で園子に逢ったのと同じ様に、私には友奈が勇者になってからの記憶が、友奈には私の記憶が流れ込んでいるのを。

 

「夏凜ちゃんっ」

 

 友奈の眼から一筋の涙が頬を伝う。

 

「泣いているの?」

「だって、知らなかったから。夏凜ちゃんがずっと頑張ってたのに私は……」

 

 彼女は私がここまで来るまでの経緯を知ってしまった。彼女は優しい娘だから自分のことを気にかけてくれるのだろう。

 

「私が勝手に始めたことなんだから友奈が気にする必要はないっての」

 

 彼女に近寄り、指で涙をぬぐい取ってあげる。

 

「でも夏凜ちゃんがそうしたのって……私のためなんだよね」

 

 事実確認をするかのように彼女が言う。推測ではなく、私の記憶を通して分かったからこその確信を持った言い方。しかし、眼の前にいる相手の記憶は見れても気持ちを見れる訳じゃない。だから一応断言ではなく、確認するかの様な範囲に留まっている。

 

「ええ、その通りよ」

 

 ここまで来て、誤魔化す必要はない。友奈以外のみんなのためでもあるけどね、と一応言うまでもないことを付け加えつつも迷いなく答える。

 

「夏凜ちゃん、ごめ──」

 

 言い切る前に彼女の体を引き寄せて抱擁する。彼女の体がビクリとして固まったが、すぐに彼女も私の背中に手を回す。

 友奈は私がここにいることを確かめるように、背中を掻くように両腕を動かして私に触れたことで一旦落ち着いた。

 

 彼女が私の耳元で囁く。

 

「私も一緒に行きたい……」

 

 友奈は私の手に触れていたことで、多少の力が流れ込んでここに来てしまった。けど、これから先には友奈を連れていくことはできない。

 

「友奈は神樹様の力を持っていないからそれはできない」

 

 私の記憶がある以上、一緒に行けないことは私が説明するまでもなく彼女は分かっている。私が言いたいのは、ここから続く彼女が安心できるような言葉だ。

 

「だから代わりに、私に力を託して送り出して欲しいの。相手が神様だろうと私がその力で絶対に倒してみせるから」

 

 彼女が少しだけ私から体を離して、お互いの顔が見えるようにしてから口を開く。

 

「あげる、全部あげるよ。力だけじゃない。私の想いも過去も未来もなにもかも全部あげる。だから──」

 

 一息置いて、彼女が言う。

 

「また逢えるよね?」

「それは」

 

 難しい、と正直に言いたくはなかった。でも他の言葉が見つからない。

 

 過去に行って天照を倒すことができれば、未来に当たる今の状況は大きく変わって無くなるだろう。天照が存在しない、ということは対抗する勇者も存在しない。

 

 勇者部ができることはなく、私と友奈が出逢うきっかけも消える。

 

 私が答えに詰まっていると彼女が言葉を改める。

 

「やっぱり今のなし。夏凜ちゃんにもわからないもんね」

「ええ、後のことは誰にもわからないわ」

「だったら……私が夏凜ちゃんを見つける! 世界が変わっても私は夏凜ちゃんと出逢ってみせるよ! 離れないようにちゃんと捕まえるからっ」

「友奈にそう言われると本当にそうなりそうね」

 

 彼女と話していると細かい不安はどこかに消えてしまう。こういうところは彼女に敵わない。

 ……さてと、過去に行く前に言いたいことはちゃんと言っておくべきよね。この後にある戦いの結末がどうなろうと、コレが最後なんだし。

 

 彼女の瞳を見据えて話す。

 

「あのさ友奈、聞いてほしいことがあるの」

「うん、なぁに?」

 

 

 

「私さ、友奈のことが好き。友奈のことを愛している」

 

 第一印象は真剣さの欠片も無い奴。それが誕生会をされた後は、共に勇者部の活動をする良き友人、良き仲間ができたという風に思えた。

 

 私が勇者になれた時、私はいままでの私から変われるなんて考えていた。それは違った、勇者になったところで私はなにも変われていなかった。

 私が本当に変わることができたのは彼女に出逢えたから。彼女とみんなのお陰で、誰にも必要とされてないだの兄貴と比べてどうだのと下らないことに囚われることはなくなった。そうして私は他の誰でもない私になれたのだ。

 

 そして彼女と、話をしたり遊んだりじゃれあったりと、一緒に過ごしていくうちにただの好意は少しずつ愛情へと変化していった。要するに彼女のことを知るごとに惹かれていったのだ。

 気がつけば彼女の姿を眼で追っていた。なるべく傍にいたくなった。彼女は誰に対しても笑顔で接していたけど、それは私にだけ向けて欲しいと独占欲を持つこともあった。

 

 間違いなく初恋だった。

 

 

「知ってたよ」

 

 嬉しそうな笑顔で続ける。

 

「だって私も同じ気持ちだから。夏凜ちゃんのことが好きで、愛しているからっ!」

「そう応えて貰えると嬉しいものね」

 

 彼女の表情と言葉につられて私も笑顔になる。

 

「友奈、今までありがとう。友奈と逢えて、一緒に過ごせて幸せだった」

「私も幸せだったし楽しかったよ。私のことを好きになってくれてありがとうね」

 

 そこまで言うと、両目を閉じてジッとする。

 これは……もしかしなくても、そういうことよね。

 彼女が片目を開けて、イタズラっぽい笑みをしつつ尋ねてくる。

 

「私からした方がいいかな?」

「いいっ、私からする」

「うん、わかった」

 

 再び両目を閉じた彼女の両肩に手を置く。

 それっぽく見せるだけだった劇とは違う。本気の行為。

 ゆっくり、というより、おそるおそる顔を近づけて……彼女の薄い唇に万感の想いを込めてそっと唇を重ねた。

 


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