三好夏凜は勇者である   作:シャリ

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終章
21話:百花繚乱


 7月1日の放課後、私たちはカラオケに来ていた。

 

 樹が音楽のテストで歌えるよう練習するためではない。記憶の残留のお陰か、今回の樹は人前でも歌えるようになっていたのでその相談自体が無くなっている。だから今日は、単にみんなで歌って楽しむためにここにいる。みんなが持ち歌を披露して、それを聴きながら考え込む。

 

 今まで何度も思考を重ねたが、やはり平和を手に入れるには天照を倒すしかない。なら倒すにはどうするか。私だけの力では到底不可能で、友奈たちと協力して勇者としての力を増しても地球を傷つけるようなことは不可能。

 

 そして私が使える手札は自分自身の力と、私の魂に備わっている神樹様の一部の力だけ。これだけじゃ足りない。

 

 ……園子の記憶で知ったことの中でまだ全てを試していないことがある。それは神託。

 神樹様に素手で触れて力を受けることによって御告げを貰う行為。これを利用すれば神樹様の力が増して天照と戦える、という考えではない。その考えは既に試してみたけれど、一時的に神樹様との接続が強まって力が少し強化されるだけで天照を葬れる程の力ではなかった。

 

 ならば、神は神でも、敵である天照の力ならどうだろうか。神託を受けるように御霊に触れて、バーテックスが持つ天照の力を奪い自分の物にするという考えは。

 

 もちろん、仮に上手く力を取り込んだとしても、それでも今の天照には敵わないと思う。

 

 だから逆に考えてみる。今の天照を倒せる程に私がどうにかして強くなるのではなく、私が倒せる程に天照が弱ければいいと。

 

 神樹様の力である縁結びの力を、奪った天照の力と紐づけて過去に行けるとしたら、地球と一体化する前の天照と戦うことができる……かもしれない。

 仮定だらけで穴だらけの考え。前提として天照の力という不確定要素がある以上、失敗したら神樹様から得た力をワザと死ぬことで発動させてまたやり直す、ということができるかも怪しい。

 

 

「夏凜ちゃん?」

 

 友奈から声をかけられて思考を止める。

 

「あ、ゴメン。なに?」

「次は私と夏凜ちゃんの出番だよ」

 

 友奈からマイクを受け取り、もはや歌詞を見なくても全パート思い出せる程に歌った○△□を二人で歌いだした。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 カラオケに行った週の休日の昼過ぎ。讃州駅から高松駅まで電車で移動、そこからしばらく歩いて円鶴中央病院に来ていた。

 この病院には乃木園子がいる。私は今まで園子に会おうとはしなかった。園子に会っても、私のことが分からないだろうから話すことはないと判断していたからだ。しかし、友奈たちに記憶の残留が起きていることから、園子にも似たような現象が起きていて私のことを覚えているかもしれないと考えなおした。

 

 だから園子が持つ記憶を見ることでこの病院に居ることを知り、ここまでやってきた。今の時間帯は来客が多いので紛れ込みやすく、大赦の関係者が園子の病室を訪問する次の時刻まで余裕もある。位置情報で私がここに来ていることを大赦に感づかれないようにスマホは置いてきている、抜かりはない。

 

 他の客が病院スタッフの視線を遮る壁になるように動いて中に入る。後は誰かとはち合わせたりしないように気をつけながら移動して目当ての病室まで辿り着く。なるべく音を立てないように扉を開けて中に入る。

 

「実際に見てみるとまた不気味なものね」

 

 室内の赤色の壁には御札が大量に貼られ、中央にあるベッドまで敷かれた赤い絨毯以外は地べたの隙間を埋め尽くすかのように、朱色の人形(ヒトカタ)が大量に置かれている。園子の記憶の中で既に見ている光景だけど、こうして自分の目で見ると余計悪趣味に思えてくる。

 ベッドの傍に行き園子に声をかける。

 

「あー、えっと、初めまして……になるのかしら」

 

 園子と初めて会ったのは神樹様の中。一応、一緒に戦った仲間だけどその時の私は園子を知覚できていないのでこうして現実世界で対面するのはこれが初めてになる。

 

「ん~。そういうことになるかも。よく来たね、みよっしー」

「その呼び名……やっぱり私のこと覚えているんだ」

「全部っていうわけじゃないけどね」

 

 なんでも、私を過去に送る前のやり取りなどはなんとなく覚えているけれど、自分に流れ込んだきた私の記憶や神樹様の中にいて知った昔に起きたこと等に関しては殆どなにも思い出せないらしい。

 

「今の私は半分神様みたいなものだからね。微妙にだけど覚えているのはその影響かもね~」

 

 のんびりとした口調で園子が言う。

 

「それで? みよっしーはどうして私のところに来たのかな」

「ちょっと聞いてみたいことがあるの」

 

 例え全てを覚えてなくても、私より先に神樹様の中に来てそれなりの時間いたのなら色々なことを私よりも知っているはず。

 私は園子にバーテックスから天照の力を奪ったり、それと縁結びを利用して更に過去に行くという案が可能かどうか聞いてみた。園子はしばらく考えた後、判断を下す。

 

「天照の力があれば、もっと過去にはいけるとは思うよ。でも力を奪おうとするのは難しいかな」

「できないってこと?」

「ううん、そうじゃないよ。相手は人類に味方して力を貸してくれている神樹様とは違う。その力に触れることができても逆に相手がみよっしーのことを飲み込もうとしてくるよ。天照からバーテックスとして切り離されているとはいえ、人類の敵なのは同じだからね。上手くいかなかったら心が壊れて廃人になるかもしれないよ」

 

 その言葉を聞いて私はむしろ希望を持てた。

 

「なら、相手に負けなければ問題ないってことよね」

 

 可能性がある、それさえ分かればいい。園子が釘を刺すように話してくる。

 

「相手の力を利用するっていうのは面白い考えだと思うよ~。でもね……地球と一つになる前の天照に勝てるとは限らないし、天照の力を取り込もうとした時点でもうやり直しはきかなくなるんだよ」

「やり直しができなくなる……」

 

 力の取り込みに挑戦できるのは一度きり。そして天照との戦いは勝機があるかどうかも分からない。

 

「それでも私はやるわ」

「そっか。みよっしーは強いね」

「べつに強くなんてない」

 

 本当に強いのなら一度でも逃げることはなかったのだから。

 

「戦いから逃げる選択肢を捨てれるのは、強くないとできないことだよ」

 

 思考を読まれたのかと一瞬思ったが、そうじゃないとすぐに気付く。園子が言ったのは多分、時間を繰り返すことで友奈たちを救わずとも一緒に楽しく過ごせる選択肢を捨てるということ。

 

「……ねぇ園子、一つ聞いてもいい?」

「なんでも聞いていいよ~」

「どうして自分が過去に行こうとは思わなかったの?」

 

 園子が「あぁ、それね」と私に話す。

 

「私たちの時代の勇者システムは弱くて、戻ったところでなにもできない。いくら自分が助けたいと強く願ってもそれが叶うことは決してないんだよ。だから私は全てを諦めて、ここでずっと夢を見続けるの」

 

 どこか遠い目をする園子に、私は気のきいたことは言えなかった。記憶を見た限りでは園子は私よりも頭が良い。きっと色々考えて、悩んで行き着いたのがきっと今の答えだと思う。

 

 夢に関しては園子の記憶で知っている。園子は『枕がえし』という精霊の力を自分に使用することで自らが望んだ夢を見れる。偽りに塗れた平和な夢世界で過ごす。それが園子の現状。

 その後は園子から鷲尾須美、もとい東郷はどう過ごしているのかとか普段はどんな様子なのかとか等を聞かれた。それに答えるなどして二人で喋り、担当医や大赦の人が病室を訪れる前に病院から抜け出した。きっと園子は明日もそれ以降も夢を見続けるのだろう……。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 どうせバーテックから天照の力を得るのならば、後に行う天照との戦いのことを考えてなるべく強いバーテックスから得た方が良いに違いない。そうなると狙いは合体能力を持つ獅子座のバーテックス。

 合体した獅子座の力を奪えば、合体元のバーテックスの力も纏めて得ることができるはず。

 

 しかし今まで何度も繰り返してきたが獅子座が四体以上のバーテックスと合体するところは見たことがない。でも、今までの経験からすると獅子座は味方がある程度やられると残った味方と合体する傾向があり、その性質を利用すれば私が見たことのない合体をするように誘導できる。

 

 11月3日ならば獅子座を含めて全てのバーテックスが一度に襲ってくるが……四体以上の合体をさせる以前に私たちが全滅してしまう。そこで少し考えおして星屑を利用することにした。

 全てのバーテックスが星屑からできているのなら、獅子座に大量の星屑と合体させれば複数のバーテックスの力を得るかもしれない。それに11月3日にバーテックスを合体させにかかるよりも全滅のリスクは低い。

 

 そうなると獅子座と数体のバーテックスが襲来する7月7日か9月26日の二択となる。少し悩んで、9月26日に行動を起こすことに決めた。事情を知らない友奈たちからすると、私が行うことは訳が分からないと思う。それなら月日が経って信頼関係が深くなっている方でやる方が良い筈……よね?

 

 7月7日の戦いでは私たち全員が満開を一回ずつ使用することでバーテックスたちを倒すことができた。もはや、私を除いた四人の満開では足りなくなっていたのだ。

 

 9月2日には再出現した双子座を倒した。

 

 9月26日の昼。私は一人で壁の上に来ていた。

 バーテックスが襲来するまで少し時間はあるが、もう獅子座たちは星屑によって作り終えているだろう。後は獅子座に合体させる分の星屑を用意する必要がある。星屑は結界を越えることはできない。

 だから……私が壁を壊して侵入口を作る。私は小刀を次々と出しては壁に投擲して破壊にかかった。

 

 私が壊したことで星屑が結界内に入り込み始める。すると星屑が市民を襲い始める前に樹海化が始まった。友奈たちが来るまで、自分に襲いかかってくる星屑だけを処理しつつ破壊行為を続けて穴を広げていった。

 

 やがて四人がやってきて私の後ろから声をかける。

 

「夏凜っ! アンタなんてことしてんのよ」

「夏凜ちゃん……」

「それ以上、壁を壊させるわけにはいかないわ」

 

 友奈たちが来た時点で充分の大きさの穴を開け切っていることもあり、手を止めて振り返る。

 

「必要なことだからやっただけよ」

「必要なことってなによ。とりあえずアタシたちに分かるようにわけを話しなさい」

「それは……」

 

 話してところで信じてもらえる訳がない。それに一から全てを説明する時間もない。私が言い淀んでいると樹が風の服を引っ張り、空を指差した。

 

「どうしたの、ってあいつらは」

 

 樹が指した先には結界を通り抜けてやってきた獅子座、乙女座、蠍座、射手座、蟹座、魚座がいた。私たちがいる壁からはそれなりに距離もあり、まだ動き出してはいない。

 訳をしらない風たちからすれば九月二日に戦った双子座はともかくとして、倒した筈のバーテックスがこうして今、もう一度出現したのは予想外の事態だろう。獅子座以外のバーテックスを倒すよう、どう言うべきか迷っていると東郷が私に話しかけた。

 

「夏凜ちゃんは知っていたの? この敵軍が襲来することを」

 

 バーテックスを見ても落ち着いた様子の私を見てか、東郷がそんなことを聞いてきた。私が答える。

 

「そうよ、知っていたわ。そして知っているのは今日だけじゃない。明日やその先にあることも全部」

 

 信じられないでしょうけど、と最後に付け加えるように小さく呟く。東郷は顎に手を当てて少し考え込んだ後、発言する。

 

「……壁を壊したのは必要なことって言ったわよね」

「ええ、言ったわ」

「そう。なら、私も手伝うわ」

 

 東吾が私に微笑みかける。その言葉はつまるところ……私を信じるという意味。前々から東郷はバーテックスのことや大赦に対してみんなよりも懐疑的だった面があった。だからこうも簡単に私を信じてくれたと考えられる。

 風は私と東郷のやり取りをみて困惑する。

 

「えっと、どういうこと?」

「風はちょっと待ってなさい」

 

 風が「なんなのよー」と言うのを横目に、黙ったままの友奈に話しかける。

 

「あのさ、友奈。私はアンタを助けたいのよ」

「私を?」

「友奈からすると意味がわからないでしょうけど、それは嘘じゃない。とにかく、その……私を信じて協力して欲しい」

 

 自分の説得力のなさが嫌になる。説得が失敗してもまだ力の取り込みにかかる前なので、死んでやり直せるが、できることなら今回で全てを終わらせたい。後、何回この日を迎えれるか分からないのだから。

 

「私は信じるよ。それにね、私は最初から夏凜ちゃんのことを信じているから」

「ど、どうして?」

 

 迷いのない答えに私の方が驚いて聞き返してしまう。

 

「ずっと傍にいたから分かるんだよ。夏凜ちゃんは悪い嘘をつかないし、私やみんなのことが大好きだってことが。だから私は信じる。信じられる」

「友奈……」

 

 私と友奈の会話が終えたと判断した風が口を挟む。

 

「ねぇ夏凜、そろそろいい?」

「ええ、いいわよ」

「なにがなんだか分からないけど、バーテックスも来てるしこんな状況で悠長に話している場合じゃないのは分かるわ。だから簡潔にこれだけは答えてちょうだい。アタシがアンタに協力するとなにがどうなるの?」

「樹が死なずにすむわ」

 

 私の言葉を聞き、真剣な顔つきから私を睨みつける表情へと顔を変える。私の言葉は裏を返せば『協力しないと樹が死ぬ』という意味になるのだから、そうなるのも無理はない。

 

「冗談で言ってるんじゃあないでしょうね……」

 

 低く唸るような声を発しながら問いかける。

 

「もちろんよ」

 

 私の答えを聞いて深いため息をついた後、判断を下す。

 

「それならさっさとアタシ達に協力してほしいことを言いなさい!」

 

 こうして風も協力してくれることになった。風に関しては、こう言えば協力してくれることは予想通り。二回前の世界での11月3日、戦う前に風は樹のことをいつも以上に気にかけていた。それで私は、風は口には出してないだけで記憶の残留が原因で樹が死ぬのを予感するなり夢に見るなり、なにかしらの不安を感じ取っていると考えた。そして風が私に協力することにした時点で樹もこちら側につく。

 説得が成功するまで死んでやり直す必要はないようね。

 

 それからは、友奈たちに協力して貰うことを話した。星屑と獅子座には手を出さず、それ以外のバーテックスを全て倒すこと。それで獅子座が星屑たちを吸収して強化するよう仕向けること。後は合体した獅子座の御霊に私が触れることで全てが終わる、と。触れた後のことは「終わった後に話す」と誤魔化して詳しくは言わなかった。上手くいっても失敗しても二度とみんなと話すことはできない……つまり話す気はもとからない。

 乙女座、蠍座、射手座、蟹座、魚座の内、私が蠍座。友奈は乙女座。東郷は射手座。樹が魚座。風が蟹座を倒すことを決める。

 

 

『満開!』

 

 五人同時の満開。周囲に五色の花弁が吹き荒れることで美しく華やかな光景が生み出された。

 みんなに声をかける。

 

「私たちの百花繚乱をバーテックスに見せつけてやろうじゃない」

 

 みんなが頷いたのを確認して、私が飛行を始めると四人もそれに追従する。まずは固まって飛行をして、接近してから別れて各個撃破に移る流れだ。

 

 私たちを撃墜しようと蟹座の光線、射手座の光の矢、乙女座の爆発物が順に飛来する。光線は東郷が放った砲撃で相殺、続いて光の矢は私が小刀を掃射することで相殺、爆発物は樹がワイヤーで作成したネットを放ることで私たちに当たる前に爆発させた。

 

 速度を落とすことなく、二撃目が来るより先に敵に接近。ここでそれぞれの目標に向かって別れる。

 

 蠍座は尾のリーチを生かして私が斬りつける前に、尾の先端に付いている針を突き刺そうと上から叩きつける形で繰り出す。それを満開右上腕、左上腕の大太刀を交差させてハサミのような形で受け止める。

 そのままギリギリと締めあげて、針を斬るというよりは挟み折るようにして破壊。針が再生するより先に懐に入り込み、合計六本の刀を器用に動かすことで何度も執拗に斬り刻む。

 トドメとして六本全て御霊が仕舞われている箇所に突き刺して、鍵穴に入れた鍵のように捻ることで内部を損傷させる。引きぬいて蠍座が消滅する様子を確認。

 

「みんなも問題ないみたいね」

 

 見ると、友奈たちも担当のバーテックスを倒していた。これで残るは動きのない獅子座と空中泳ぐようにして漂う星屑の群れだけ。蠍座たちが完全に消滅したタイミングで先程まで蠢いていた星屑たちが制止する。

 急に動きが止まったかと思いきや、吸い込まれるように獅子座に取り込まれていく。獅子座の吸収が終わる前に私たちは集合する。

 

「後はアイツの御霊に私が触れてなんとかするから、みんなは私の援護をお願い」

 

 再確認するように私がみんなに言う。

 

「そのなんとかっていうのは、まだ話せないのかしら?」

 

 心配するような感じに東郷から聞かれたが「終わってから話す」とだけ返す。そうこうしている内に獅子座が全ての星屑を吸収し終えて形を変えた。全体的なデザインはそう変わらないが、より巨大な姿。

 後は御霊を削って掘り出すように攻撃すればい……い?

 

「様子がおかしい」

 

 一度姿を変えた獅子座が更に変化を始めた。獅子座の表面が火のように燃えてマグマのようなものに変質。中央から開くように左右に分かれる。その時一瞬だが御霊を視認。別れた外殻が御霊を中心として徐々に丸く収まり、完全な球体ができあがる。見た目は太陽のようで……ちょうど今の地球と同じとも言える。

 

 友奈が困惑気味に疑問を口に出す。

 

「どう攻撃すればいいんだろ……」

 

 その問いに明確に答えれる者はいない。獅子座が私たちではなく神樹様の方へ高速で向かう。

 

「なっ! 直接神樹様を狙う気!?」

 

 こんなのは今までの繰り返しでも見たことはない。予想していなかった動きに判断が遅れた。

 風が声をあげる。

 

「とにかく止めるわよ!」

 

 風の言葉を皮切りに獅子座を全員で追いかける。追い抜いて、四本の巨腕と自分の二本の腕で正面から受け止めにかかる。しかし勢いを殺しきれず、徐々に神樹様に近づいていく。

 

「止まれぇぇぇ!」

 

 コイツを止めないと全部が台無しになる。力の元である神樹様がやられたら一縷の望みすらなくなってしまう。

 風がみんなに渇を入れる。

 

「もっと気合いを入れなさい! 勇者部ぅぅっ!」

『ふぁいとおおおおっ!!』

 

 私たちは力の限りで叫び、体から全ての力を出し尽くす勢いで抑えにかかる。私たちの叫びに呼応するように力が増して、私たち五人を中心に巨大な『忘れな草』が現れた。それが被さった途端に獅子座が制止する。

 

 勇者同士が協力すると勇者一人では出せない力を引き出せることから、私たち五人が一つになって協力したことで止めることができたのだ。

 

 みんなが私の名前を叫ぶ。応えるように、抑えたままの満開装備は外して中に飛び込んだ。目指すはこの中の中心にある御霊。

 

「ぐぅうううっ」

 

 内部を進めば進む程に私の全身を保護している満開状態の勇者服が焼け切れていき、顔や体が焼けついてくる。痛みだけでなく、息苦しさも感じる。

 

「どうせ私はもう戻れない!」

 

 ここまで来たからには引き返したところで助からない。構わずに飛行する。間もなく、御霊を視界に捉える。薄紫色でガラスのように透過性があり、中心に小さな太陽とも言えそうな光弾があるのが見える御霊。

 

「届けェえええええっ!」

 

 左手を伸ばし、刀を出して握る。飛行による勢いのままに御霊の外殻を突いて砕き割った。刀を手放して左手部分を変身解除。素手になり左の手のひらで光弾に触れる。

 手を伝い私の中になにかが流れ込み、強烈な違和感を生み出す。それは頭まで這いあがり、私を呑み込もうとする。

 

 私が私じゃなくなっていく。

 意識と身体、中と外から私は引き裂かれていく。

 段々と思考ができなくなり、意識が保てなくなり、私から私が薄れてくる。

 それじゃダメなのに。

 私はあの娘を助けたいのに。

 

 ……あれ? あの娘って誰だっけ。私はなにをして──。

 

 

 

 

「大丈夫!」

 

 私の左手に誰かが手を重ねる。

 誰なのか私は知っている。

 いつだって前向きで、周りが見えてないようで、本当は誰よりも周りを気にかけている優しい人。

 彼女の嬉しそうな、楽しそうな笑顔を見ると自分まで嬉しくなる。

 

 そうだ、私の手を包むこの温かさは──。

 

「友奈っ!」

 

 消えそうになっていた自分の意識を持ち直して横目で左を見やる。友奈も私の方を見ていた。

 

 友奈が傍にいてくれるなら大丈夫。私はもう呑み込まれたりなんかしない。

 

 手のひらで光弾に触れるのではなく、力強く掴み取る。獅子座が持っていた天照力の全てを自分に取り入れて自分の物にする。

 

 その瞬間、視界が黒色に染まった。

 




 御霊の見た目の特徴はアニメ12話の物そのままです。結局、園子がアニメみたく双子座戦の後に呼び出しをしなかったのはなにもかも諦めきってるからもうなにもする気がないからですね。頭が良いだけに現実の厳しさがわかりきっている故に希望を持つのをやめている感じです。

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