三好夏凜は勇者である   作:シャリ

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15話:双子座の再来

【8月7日】

 

 旅行が終えた翌日の朝、私たちは部室に集合していた。旅行の翌日は疲れがあるだろうから、と今日は部活も休みだったのだけれど予定外の事態が発生したためこうして集合となった。

 

 予定外の事態とは、前日に大赦から風へ一通のメールが届いたことだ。内容はバーテックスの生き残りがいることが判明したこと、今から四十日以内出現する可能性が高いということが書かれていたのだ。

 そして今、私たちの手には昨日まで使用していた代替機ではなく以前に使用していたスマホがある。大赦から返還されたからだ。

 

「アタシたちの戦いは延長戦に入って、それが返ってきた。纏めるとそういうことよ」

 

 風の言葉を聞いてみんなの顔が引き締まる。東郷に目を向けると、元からわかっていたような表情にも見えた。それこそ昨日、本当に終わりなのかという話を私たちはしていたのよね。今回の件は、私と東郷が持っていた不安が当たったと言える。でもそういうことなら、この延長戦さえ終わってしまえば不安になることも何もないってことでもある。

 東郷が私の視線に気づいて私を見る。そしてお互いに軽く頷く。きっと同じようなことを考えたに違いない。

 

「生き残りがどれくらいいるかなんて知らないけど、私たちならあっという間に倒せるはずよ!」

「夏凜ちゃんの言うとおりね。敵の総攻撃を退け殲滅させた私たちならば、残党兵なんて恐れる敵じゃないわ!」

「おぉ、夏凜ちゃんと東郷さんが燃えてる」

『お二人とも頼もしいです』

 

 四人の様子を見てうんうんと感心してから風が話す。

 

「そうね。アタシたちにかかれば今回だって大丈夫よね。あぁそれと、みんな勇者システムを確認してくれない?」

 

 風によると大赦が私たちの端末を預かっている間に精霊追加のアップデートをしたらしい。私たちは言われるままに精霊を早速呼び出したのだが──。

 

「ふむふむ、NARUKOに載っている説明によるとアタシの追加が鎌鼬(かまいたち)。友奈が火車(かしゃ)。東郷が川蛍(かわぼたる)。樹が雲外鏡(うんがいきょう)。そして夏凜は──追加無しと」

 

 そう、私だけ精霊の追加がなかったのだ。それぞれの精霊には何かしらの能力が備わっており、これでパワーアップと言う訳だが私にはなし。考えられる理由はある。

 

「夏凜はまぁアタシたちとシステムが少し違うし、参戦が遅かったからその分のデータ不足とかかしらね」

「……かもね。まぁ追加精霊なんてなくても余裕なところを見せ付けてあげるわよ」

 

 風は適当なことを言ったが、頭ではなんとなく想像しているはず。いや、風だけじゃないみんなだってそうかもしれない。精霊追加したみんなと追加されなかった私の明確な違い。それはやっぱり満開機能使用の有無でしょうね。

 

 システム内の説明によると、勇者は満開することでレベルが上がり強くなる。もしかして、失った身体機能と引き換えに──いや、やめよう。現在の情報だけで憶測を立てるのはよくない。それに大赦がみんなの身体機能の異常はいずれ治るといっているんだから……身体機能の異常とは関係ないと考えるべきなのよ。

 

「そんじゃま、勇者の話はここまでにしましょう。せっかくこうしてみんなが集まってるわけだし劇の話しよっか」

 

 風がそう仕切って鞄から何かを取り出して、それに東郷が反応する。

 

「もしかして台本が出来たのですか?」

「そうよー、細かいところはまだ調整必要だろうけど。とりあえず、今日は役を決めるわよ」

 

 そういった流れで配役の話し合いが始まった、とはいっても殆ど話しあう間もなく決まったけれど。東郷は脚が動かせないので語り部と樹の声役。今の樹は声が出ないので東郷にアテレコをして貰い、村人やメイドの役をするという形式。

 風は最初から「アタシが魔王なのは譲らないわよ!」と言っていたのでそのまま魔王役となった。

 ていうか、誰も魔王の座なんて狙ってないっての。それから残った友奈と私はというと。

 

「わたしがお姫様、ですか」

「で、残った私が勇者ってわけね」

 

 友奈がお姫様で、私がお姫様のために魔王を倒す勇者となった。この配役となった理由は風によると、こう。

 

「勇者といえば勇者の剣を持っているのが常識でしょ? それでね、せっかくだから魔王と勇者の本格的な殺陣(たて)を見せたいじゃない。友奈は武道をやってたことがあるし剣道もそれなりに強いけれど、剣術とは別でしょ。そこで、大赦の訓練を受けていてかつ武器が刃物系だったアタシと夏凜で観客が思わず息を飲むような殺陣をやろうってわけ。あと友奈はみんなの人気者なわけだしお姫様の格好したら受ける筈よ」

 

 常識の下りはともかく、理由というかやりたいことは理解できたので私も友奈も配役に納得した。配役を決め終えたので、今日はそのまま解散。元々今日は部活がない予定だったこともあり、あっさりとした終わりとなった。

 

 それからの日々というと劇の練習もしつつ他の活動も行ったり、みんなで集まって夏休みの宿題をこなしたり(開催地は最後まで毎回私の家だった)、友奈や他のみんなとも遊んだりしているうちにあっという間に夏休みも終わり二学期へ突入した。結局夏休みの間にバーテックスの襲来はなかったけれど、友奈達の身体機能が回復することもなかった。

 

 

 

【9月2日:放課後の部室】

 

 依頼も無くすることもないのでみんなしてテーブルについてダラダラと会話していた。

 

「敵こないね」

 

 友奈の言葉に風が反応する。

 

「もうこのまま来なかったりして」

「大赦から言われていた四十日はまだ経っていませんよ」

 

 東郷の指摘で風がガックシと机にうなだれる。風の擁護というわけではないが、私が東郷に続いて話す。

 

「でも、大赦の予想とは違った襲来をバーテックスがしてきた事実があるからこのまま四十日以内には来ないってのはあるかもしれないわね」

 

 風がガバっと顔を上げる。

 

「そうそう。そういう可能性があるってアタシは言いたかったのよ。一番良いのは、生き残りがいるってのは間違いでしたみたいな感じで──」

 

 風が話している途中、樹海化警報が鳴り響いた。私、友奈、東郷、樹、風、みんなの顔が険しい表情となる。

 

「っ! ついに来たわね」

「これって、噂をすればって言うのかな」

「負けられない戦いがまた起こるわけね」

『頑張ります!』

「言ってるそばから来るなんてね。なんにせよ戦いあるのみよ!」

 

 

 世界が、いつも過ごしている世界から樹海化した世界へと切り変わる。変身をして、NARUKOを確認すると襲来してきたバーテックスは双子座だった。現在、森の中を走っており森を抜けるまでそうかからないといった状況。

 風が顎に手を当てて発言する。

 

「双子座って確か、樹が前に倒したやつよね」

「二体で一組だったのかもしれませんね」

「双子座だから?」

「そんなことはいいからさっさと追いかけて仕留めるわよ!」

 

 東郷に友奈と話が続いたところで私が切り上げさせる。移動して森の中を抜けて荒野に出ると走る双子座が視認できた。四国を守る壁から海、森、荒野が順に神樹様までに存在する。つまりこの荒野が守るべき最終エリア。

 

「それじゃあ行くわよ!」

 

 声を出して、飛び出そうとして止める。先程からみんなが黙っているからだ。見ると、みんなの顔が暗い。一体どうして……ってそうか。みんないざとなって怖くなったんだ。またどこかの身体機能を失うかもしれないんじゃないかって。

 

 満開した人はみんなどこかの身体機能を失っている。もしも原因が満開だとすると、満開に必要な満開ゲージを溜めることになる戦いはリスクを抱える行為となる。だから動く決心がつかない、そういうわけね。なら、ここはどこにも身体機能に異常が出ていない私の出番。

 

 そこまで考えてから、前を向いて一気に飛び出した。風たちの私の名前を呼ぶ声が聞こえたけれど関係ない。双子座までの距離を半分に縮めたところで左後ろに気配を感じたのでチラリと目を向けると──。

 

「夏凜ちゃん!」

 

 友奈が追いかけて来ていた。

 

「ここは私に任せなさいっての!」

「でも」

「って言っても、言うこと聞かないのは分かってるから一緒にやるわよ。タイミング合わせなさい!」

「うん!」

 

 友奈の力強い返事を聞いてから、同時に前方へと大きく跳躍して双子座の上空を取る。

 続いて二人同時に空中一回転して私が左腕の拳、友奈が右腕の拳を揃えて突き出した。すると不思議なことに山桜と皐月躑躅、私と友奈それぞれモチーフとなっている花の花びらが混ざり合いながら私たちの周りを囲み、拳を突き出した方向へ急加速がかかった。

 

 そのまま双子座に私たち二人の同時攻撃が──よけられた。当たる寸前に双子座が横に跳んだことで私たちの拳は地面にぶつかり、クレーターができていた。

 完全に不意をついたと思ったのに避けられるなんて……まるで知っていたかの動きだったわね。それに今の私たちの攻撃もどういうことよ。単に、知覚外と思われる上空から落下して拳を同時に叩きこんで動きを止めるつもりだったのに花吹雪が現れると共に急加速するなんて。

 それに、この威力。武器をもたない格闘型の友奈はともかく、武器型の私には格闘攻撃による威力はここまでは備わっていないはず。もしかすると、勇者同士が協力すると勇者としての力が引き上げられるとか……?

 考えを試す意味と、いずれにせよまだ走り続けている双子座を止めるために友奈に声をかける。

 

「友奈! もういちど攻撃するから合わせて!」

「えっ? あっ、うん!」

 

 私と同じく想定外の攻撃になったことに驚いていたのか、少しボーっとしていた友奈の顔が私の声を聞いて真剣な表情に切り替わる。

 双子座の背を視界に捉えたまま、今度は上にではなく前方に跳ぶように蹴りだし揃って拳を突き出す。すると先程と同様の現象が起こり、加速がかかる。今度は外れることなく双子座の背に直撃、衝撃音と共に双子座が勢いよく地面に転がる。

 

 今のでハッキリした。勇者状態でも満開を使用しなければ空中で機動することは一切できないのに、二人の力を合わせれば空中で一方向に加速可能、という限定的ではあるが空中で機動することができた。

 つまり、一人では不可能なことも他の勇者と協力すれば可能となるかもしれないということ。疑問も解決したし後はコイツを封印するだけ。

 倒れていた双子座が立ちあがろうとしたので攻撃を加えようとした矢先、どこからか飛んできた二本のナイフが双子座の脚に突き刺さりそいつが再び倒れる。

 

「二人ともゴメン、遅くなった」

 

 その言葉と共に現れたのは風と樹だった。

 

「気にしなくていいから。で、東郷は?」

「不測の事態に備えて後方待機させてるわ」

「そう。わかった」

 

 今いる四人で双子座を取り囲み、封印の儀を開始。御霊がさせたけれど。

 

「って、なにこの数ー!?」

 

 友奈の驚いた通り、小さい御霊が波のように出現。樹海にダメージを与えながら広がっていく。風が大剣を構える。

 

「アタシがまとめてやるわ!」

 

 私がそれを止める。

 

「風は動かないで! トドメは私が刺すわ!」

 

 満開ゲージを溜めることは危険な行為かもしれない。だったら既にゲージが溜まりきっている私が処理した方がいい。まとめて爆発させようと両手に小刀を呼び出したその時、友奈の叫び声が上空から耳に届いた。

 

「勇者ァキィィィック!!」

 

 いつの間にかジャンプしていた友奈が、落下の勢いを利用して追加精霊である火車の力により炎を纏った蹴りを御霊にくらわせる。またたく間に炎は広がり、全ての小さな御霊は燃えて消失した。友奈が息を吐く。

 

「ふぅー。うん、なんとかなったね」

「友奈! あんた何やってんのよ!?」

 

 私だけでなく他のみんなも心配から声をかけたが、「ごめんごめん」と軽い調子で謝るくらいには余裕の状態だった。体もおかしくなってたりはしていないらしい。

 ただ……前の状態から満開ゲージが一つ溜まっていた。

 

 

 バーテックスを倒したことで樹海化した世界から学校の屋上へと移り変わる。

 

「あー、これで本当にアタシたちの戦いも終わりかー」

『お疲れ様です』

 

 生き残りである双子座は確かに片付いた。けれど──。

 

「友奈、今日ウチに泊りなさい! そこでお説教をするから」

「えぇ!? なんでー」

「なんでー、じゃないわよ!」

 

 友奈が東郷に助けを求める。

 

「東郷さーん……」

「スコープで友奈ちゃんが他のみんなが止める間もなく一人で行動するのが見えてたわ。反省、ちゃんとしなきゃダメよ?」

「うぅ……はぁい」

 

 助けは無かった、むしろ反省することを促されていた。東郷が風に尋ねる。

 

「本当にあの双子座が最後なのでしょうか? 他にも生き残りがいた、というようなことは……」

「んー、その辺はまた大赦に確認してみるわ。まぁ今日はひとまずお疲れ様ってことで」

「そうですか……わかりました」

 

 これで終わりなのかそうじゃないのか、まだ分からないけれど私たちならきっと大丈夫だろう。今までや今日のように乗り越えることができる。

 

 この時の私たちはそう思っていた。

 


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