1話:プロローグ
どこまで見渡しても何もなく、上も下も前も後ろも全てが白い空間に二人の少女が存在していた。
一人は、長い金髪が特徴的な、穏やかな雰囲気をまとう少女。
もう一人は、茶髪のツインテールを左右に垂れ下げた、強い決意を瞳にたたえた少女。
金髪の少女が問う。
「本当に行くの? みよっしー」
ツインテールの少女が答える。
「もちろんよ。だからお願い」
迷いのない答えを聞いてなお、少女は再度の確認を行う。
「何度繰り返すことになるのかわからないよ? それに繰り返しても今の天照に勝つ方法には辿り着けなくて、終わりのない苦しみを味わうだけかもしれないんだよ。供物を捧げ続けて、私と神樹様に同化した今なら……天照がどうなっているのか分かってるよね?」
その念押しを聞いても、彼女の決意は変わらなかった。
「そんなことは百も承知よ。それでも私はこの現実を変えに行きたい。でも私の力だけじゃ無理だから……力を貸して」
金髪の少女は少しの間、彼女の瞳をじっと見つめた後「うん、わかったよ~」と言って片手を差し出す。
彼女はその手を取って「ありがとう、園子」と礼を言い、金髪の少女の目の前から消失した。
【Flashback(1)】
○○は前回の戦いで左腕を失ってしまった。
「もう▽▽さんの車椅子押せないね……」
と○○が寂しそうに呟く。それに対して○○の傍に居る▽▽は「○○ちゃんが傍にいてくれるだけで私は嬉しいわ」と答え微笑んだ。その答えで○○も笑顔になった。けれど私は、二人の笑顔が痛々しくて見ていられなかった。
6月7日、太陽がまだ登りきらない早朝。そんな時間、観音寺駅からそう離れてない位置にあるマンションに住んでいる少女──三好夏凜──が目覚めようとしていた。
「んー……」
まだ眠気が抜けきれず、ゆるゆると目を開ける。少しの間ぼうっとして、起き上がり台所へ向かう。
なんだか嫌な夢を見たような──。
冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し、中身をグラスに注ぐ。それと一緒に起き抜けに感じた不快感を飲み込む。
彼女は不快感の原因を、「実際に勇者となった事実がストレスとなって悪夢でも見たのだろう」と判断した。
勇者……この世界、もとい四国を守る為の存在。ウイルスを防ぐための壁を作り、この世界を形成している神樹様を、バーテックスという敵が狙っている。
そんな化け物に唯一対抗できるのが神樹様の力を借りて変身する少女、それが勇者。それが私。なんでもこなせる兄貴にもできないこと。私が持つこの力で、私だけの力でやってみせる。
彼女はそういったことを考えながら、冷蔵庫に残っていたハム等で軽めの朝食を取る。
朝食を済ませた後、動きやすい格好に着替えてから木刀を持ち出して外出したのであった。