救いは犠牲を伴って   作:ルコ

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心配とかじゃないけど!?

 

 

 

 

 

A会議室の扉を開けて現れた人物は須郷伸之であった。

その男は相変わらずの銀縁眼鏡と高価そうなスーツを着こなし、俺を見るなり仰け反るほどに驚く。

 

いや、驚きたいのは俺の方なんだが…。

 

 

「な、なぜ貴様が…っ!」

 

「あんたこそ。…海外の地下労働施設に収容されたんじゃないのか?」

 

「違うわ!」

 

アメリカの研究室で雑用やってんですよね。知ってますとももちろん。

なんせ俺がアメリカ留学できるように、馬車馬の如く働いてもらったからね。

 

さて、そんな過去話はどうでもいい…。

 

「…なんでおまえがココにいる?何を企んでるんだ?」

 

「ふん。貴様には関係ない……、わけじゃない…」

 

「…む」

 

ため息を大きく吐き着け、須郷は席へ腰を下ろす。

視線を俺を向けるや、ほんの少しだけ間を空けてから、胸ポケットから何かを取り出した。

 

「…そもそも、私はここへ義輝にこれを渡しに来たのだ」

 

「ちょっと待て。よ、義輝?誰のことだ?」

 

「…?材木座義輝に決まっているだろう」

 

え、この人、材木座のこと義輝って呼んでるの?

そんなに仲良かったっけ…。

 

「続けるぞ。私がわざわざ義輝へこれを渡すために、海外から遥々参上したわけだが」

 

「…?」

 

すっ、と出された紙を受け取り、中身を確認する。

 

ただの手紙…、にしては少しだけ物騒な内容が目に付いた。

 

なんだ?これ。

 

 

「コレ、貴様の事だろう?」

 

「…ふん。なんの茶番だ?コレは」

 

 

 

ーーーー

 

須郷伸之様。

 

貴方の無念を私が晴らしてみせましょう。

 

私は()を許さない。

 

必ず、私が全てを終わらせてみせる

 

ーーーー

 

 

「…アンタの自作自演ってわけじゃないよな?」

 

「私はそれほど暇じゃない。…、それに、コレが世に出れば危ういのは私とて同様だ」

 

ALOでの軟禁事件は世に広がっていない。

広がってしまえば、須郷はもちろん、その事件の隠蔽に関わった俺やレクトだって矢面に立たされる。

それにも関わらず、この文面からはあの事件を匂わせている。

 

下らん。何が許さないだ。

 

……何を、許さないんだ?

 

 

「…相変わらず、SAOの怨念は根が深いな。それにしたって、いったい誰が…」

 

「少なくとも、ALOでの件に辿り着ける程の男なのだろう」

 

「情報が漏れたとしたら、あの件を知っている一部のレクト社員か、俺か、あんた」

 

「私ではない」

 

「俺だって違う」

 

互いに嫌な鎖を結び合って関係上、俺や須郷から情報が漏れる線は皆無だ。

ならばレクト社員?

…いや、知っている社員は全員が上席の人間だ。

わざわざ自らの勤める会社を陥れるような事はしないだろう。

 

 

「ふふ。貴様も難儀だな。ついこの前にもGGOで問題を抱えていたのだろう?」

 

「…問題なんて程の物じゃなかったが」

 

「どうでもいいがな。さて、私は帰るとしよう」

 

「材木座に会わなくていいのか?」

 

「義輝に伝えておけ。用は済んだとな」

 

そう言うと、須郷は腰を上げてカバンを持ち上げる。

 

材木座とどこで知り合ったんだろう…。

まぁ、須郷も少し厨二っぽかったもんな…、

 

 

「貴様も身の振り方を考えておくんだな」

 

「…余計なお世話だ。早く出てけよ。これからこの会議室で打合せがあるんだ」

 

 

と、言いながら須郷が手にかけた扉に目を向けると、プレートに記されたこの場所の名称が。

 

 

ーーB会議室

 

 

「間違えた!!」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー★

 

 

 

 

 

「本日はよろしくお願い致します……。ってあれ?誰も居ない…」

 

小規模な会議室には誰も居ない。

扉のプレートを確認してみるも、やはりそこにはA会議室と記されていた。

 

も、もしかして、打合せをすっ飛ばされた?

 

「ぐぬぬっ…、大企業様なら何だってアリってわけ!?」

 

ガンっ!と会議テーブルの足を軽く蹴っ飛ばす。

 

この迷宮ダンジョンを上っては彷徨って、光の導きに従ってようやくたどり着いたってのに!

 

それにしたって一言くらい謝りがあっても、と思っていた矢先にーーーー

 

ガチャン!

 

「お、遅れました。いやー、すみませんねえ。突拍子も無い珍客が来ておりまして」

 

慌てた様子の1人の男が現れた。

 

寝癖が跳ねまわり、アホ毛がぴょんぴょんと揺れる男は、よれよれな白衣を着こなしている。

 

な、なんだコイツっ!?

 

……む?

 

 

「…あれ?あんた…」

 

 

細身の身体はやはり不健康そうに肉付きが悪い。

 

最後に会ったのはいつ頃だろうか。

 

確か…、高校生の頃…。

 

違う。

 

結衣と雪ノ下さんのお見舞いで病院に行った時に、ついでにと向かった病室で会って以来だ。

 

そうだ。SAO事件後に1度だけ会ったんだ。

 

今よりももっと痩せていて、ふらふらと意識が揺れるように、どこか不安気な表情で曖昧に笑っていたあの日。

 

 

『…はは、雪ノ下達のついでか?ありがとな』

 

 

と、大人びた笑みを私たちに向けたあの日。

 

 

「…ひ、ヒキオ?」

 

「…はぁ。やっぱりおまえだったのか。三浦」

 

 

やはり華奢な姿で呆れるヒキオは、目配せであーしへ座るよう促す。

 

 

「う、ぅぇ?なんでヒキオが…」

 

「…ここに俺が居て、おまえも居る。つまりはそういう事だろ」

 

「あ、あんたが研究主任!?」

 

「で、おまえがパリピー?」

 

 

.

……

 

 

 

SAO事件解決後ーーーー

 

 

とある病室には冷たい空気をまとった男が1人、ベッドに腰掛け窓の外を眺めて居た。

 

結衣と雪ノ下さんは、そろってコイツの様子も見てやってくれと頼んできた。

 

…まぁ、頼まれなくても行くつもりだったけどさ。

一応同じ高校で同じクラスの奴だったし。

 

『ヒキタニくん、久しぶりだね。随分と痩せちゃったみたいだけど』

 

最初に話しかけたのは姫菜だった。

空気を読んだがために、あえて明るく声をかけたのだろう。

 

ようやく、私たちの来訪に気が付いたのか、ヒキオはゆっくりと窓から視線を外し、私たちへそれを移した。

 

『…あぁ、久しぶりだな。悪いなわざわざ』

 

そう言って、高校生の頃には見せなかった優しい笑みを作る。

 

その笑みを知っている。

 

結衣や雪ノ下さんと話しているときに、時折見せる()()()()()だ。

 

『…あはは。その笑い方は直ってないんだね。修学旅行の時と同じだよ』

 

『…相変わらず、察しが良いんだな』

 

その会話には混ざれない。

 

あーしはそれを知らないから。

 

知らないことにしているから。

 

姫菜から修学旅行での一件は聞いていた。

告白の件、あーしらの件、そしてその後の事も…。

 

『まだ、何かを助ける気なの?』

 

『…この身体じゃ何も出来ないよ。黙って寝てることしかな』

 

嘘だ。

 

どうせまた、こいつは無茶をする。

 

無茶をするくせに、絶対に人を頼らない。

 

そんな奴だって事を、あーしはコイツがSAOに囚われてから知ったんだ。

 

 

『…あんた、ちゃんと身体治せし。細っちくて見てらんない』

 

『…辛辣だな』

 

 

ムシャクシャする。

 

あーしの知らない所であーしを助けてくれていた事に。

 

結衣や雪ノ下さん、一色いろはだけが知っているコイツの事。

 

放っておけばまた無茶をする。

でも、あーしにそれを止める事は出来ない。

 

だから、せめて。

 

 

『ほら。これやるから大人しくしとけし…』

 

 

『…はは、雪ノ下達のついでか?ありがとな…』

 

 

 

 

 

 

 


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