救いは犠牲を伴って   作:ルコ

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背中合わせの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

今夜の月は雲に隠れているようだ。

 

窓から見上げる月は小さく、空も狭い。

 

私はゆっくりとコーヒーカップを傾けながら、昼間に訪れた病院での出来事を思い出した。

 

 

 

 

おまえはついでだ!!

 

 

……ついでだ!!

 

 

……でだ!!

 

 

 

 

「……」

 

 

 

その後、放心状態の私が意識を取り戻すのに数分を費やしている内に、先輩が呼んだであろう雪ノ下先輩と結衣先輩もやって来た。

 

 

お久しぶりでした……。

 

 

ふふ、この2人のどっちかと先輩は幸せになるのか?

 

 

…どっちだ?

 

 

私を奈落の底に突き落とした女は……。

 

 

……なんてね。

 

 

へへ。

 

へへへへ。

 

 

「……甘いコーヒーが沁みますね。はぁ、今夜ほどダイブに気が乗らない日もありません」

 

 

 

アミュスフィアを手に取ると、それに反射した私の顔が渋く歪んでいる。

 

ふむ、この顔はお外で見せられませんね。

 

笑顔の練習でもしておきますか。

 

 

「……えへへ」

 

 

……。

 

 

ダメだ、心が凍ってる。

 

 

すると、アミュスフィアとの睨めっこを邪魔するように私のスマホが激しく揺れた。

 

 

【先輩 (既婚者) 】

 

 

「……はい。どちら様で?」

 

『俺だよ。さて、今夜も世界樹までの案内を頼むな。もう数分したらダイブするから』

 

「……いいですか、先輩。何かを得るには同等の…、えぇ〜、何かしらのメリット的な物が私になくてはなりません」

 

『……は?』

 

「……あっちに着いたら話します。では、また後ほど」

 

『ちょ、おまえ何を』

 

 

ピっ。

 

 

スマホから流れる電子音に意思が無くなったことを確認する。

 

いつの間にか温くなっていたコーヒーを机に置き、私はアミュスフィアを装着しベッドに転がった。

 

 

 

「リンクスタート」

 

 

 

…………

……

.

.

 

 

 

 

こっちの世界の月は少々大き過ぎる。

 

初めこそ神秘的に感じていたが、こうも毎日魅せられると飽きてきてしまうというものだ。

 

 

「……大き過ぎるから、私の腕から零れ落ちちゃう。あの月も、先輩も…」

 

 

時刻は24:00を迎えるものの、ALO内のプレイヤー数は増えていく。

 

プレイヤー層に学生が多い証拠だろう。

 

……。

 

 

 

「おう。数時間振りだな」

 

 

のそのそと現れたプレイヤーを改めて見るとその特徴的な目も、揺れるアホ毛も、彼同然じゃないか。

 

 

「一色、さっきの電話は…」

 

「それは歩きながら話します。急いで世界樹に向かいたいんでしょ?」

 

 

リアルネームを呼ばれることに違和感を抱かない。

 

昔から良く聞いていたその呼び名だからだ。

 

よくよく、思い出してみたら、彼が私をアイラと呼んだことがあっただろうか。

 

 

「てゆうか、私を探すついでに世界樹へ行く理由って何なんです?」

 

「…逆だけど。……まぁ、俺も歩きながら話すわ」

 

 

 

サラマンダーの進行により少し遠ざかってしまった世界樹。

 

 

ただ、空白の2年間を埋めるためにもお互い時間が掛かりそうだ。

 

 

そのためにも、ここから世界樹の麓、アルンまでの旅路はちょうどが良いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

飛べればどれだけ楽だろう。

 

ガキの頃からコンクリートに足を踏みつける度に考えていたことだ。

 

隣を歩くこいつはどう思っているのか。

 

飛べるのに飛べないじれったさなんかあるのかねぇ。

 

 

「…先ほどの電話の件ですが」

 

「あ?あぁ、おまえのメリットがどうのこうのってやつ?」

 

 

自らの雑踏しか聞こえない程の静寂が包む中で、半歩後ろを歩く一色が突然に話し出す。

 

振り向けば、普段よりも幾分強張った顔をしている。

 

 

「はい。……先輩達が囚われていた2年間のお話を…、私にも聞かせてください」

 

「あぁ、そうゆうこと」

 

 

そんなにかしこまらなくても良いっての。

 

あの中で、死に掛けた事なら多々あるも、辛かった思い出はさほどないのだから。

 

 

「…あのデスゲームの中で、俺は10000人のプレイヤーを束ねる神プレイヤーとして…」

 

「嘘ですね」

 

「….…。」

 

「言いにくい事があるんですね?大方、自分を犠牲にしてあのお二人を守ったとか、そんなところでしょ?」

 

「んー、犠牲にした覚えはないんだがな…」

 

「…。最近、ALOの中でとある噂が流れてるんですよ」

 

「ほう?」

 

 

……腐眼のプレイヤー。

 

素顔はイケメン!?

 

…とかかな?

 

 

 

「SAOを彷徨った天災の最悪」

 

「……怖っ」

 

「…SAOで最も嫌われた1人のプレイヤー。可愛らしいプレイヤーネームとは裏腹に、残虐無尽の愚行を犯したそうですよ」

 

「…許せんな」

 

「そのプレイヤーの特徴は眼が腐っていたそうです」

 

「うわ、すげぇ親近感」

 

「それって先輩ですよね」

 

「え!俺かよ!?」

 

 

身に覚えが無い…、こともない噂を淡々と聞かされ自己嫌悪を起こす中、一色は少し怒ったように俺の瞳を睨みつける。

 

ゲームの中でも変わらない。

 

その目には小町に似た何かを感じる。

 

 

 

「……無茶ばかり、しないでください」

 

 

 

月明りに照らされた一色の瞳は次第に潤い、そこから一筋の涙が零れ落ちた。

 

 

儚くて悲しい。

 

 

心の奥底に生まれた罪悪感が、どうしようもなく俺を困らせる。

 

 

 

「……泣くならもっとあざとくしてくれ」

 

「先輩!」

 

「…ん。無茶はもうしない。それは雪ノ下や由比ヶ浜とも約束してるよ。……ただ」

 

 

 

……ただ。

 

 

あいつが1人で取り残されてるから。

 

 

……結城を叩き起こさなくちゃ、俺のSAOは終わらないから。

 

 

もう少しだけ……。

 

 

無茶をさせてくれ。

 

 

 

「……世界樹を目指す理由が、先輩を動かしているんですね?」

 

「……」

 

「…。私、案内するつもりなんてありませんよ」

 

「…は?」

 

 

「…私にも手伝わせてください。先輩がまた無茶をしないように、私にも背負わせてください。それが私のお願いです」

 

 

おまえが背負うもんなんてないんだよ…。

 

そう言って一蹴してやることも出来た。

 

それでも、一色は引き下がらないだろう。

 

いつの間にか奉仕部の一員となっていたこいつは、雪ノ下や由比ヶ浜程に頑固で……。

 

 

優しいから…。

 

 

 

 

 

「…まぁ、少しくらいなら手伝わせてやるよ」

 

 

「ふん。素直じゃない先輩ですね。……それで、何のために世界樹へ行くんです?」

 

 

「嫁を起こしに」

 

 

 

「…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 


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