100万Gの男が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執り、借金の返済をします。 作:Z/Xプレイヤー26
そして、明けましておめでとうございます!!
クロウの敗北で幕を閉じた演習。それを見ていた特佐は一つの確信を得ていた。
「艦娘の力は、人類には大きすぎるッスね…」
その呟きは誰にも聞こえてはいなかった。
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~鎮守府内食堂~
食堂では、クロウに勝利した六人を祝う宴会が行われていた。
「ひゃっはー!!酒だ酒だ~!!ほらほら加賀も呑みなよぉ~!!」
隼鷹を筆頭とした酒豪艦娘達によって、主役である筈の六人は完全に絡み酒の相手にされていた。
「はぁ…折角勝利したのに、酔っぱらいの相手なんて…不幸だわ…」
「そうだな…今回は同意する…」
「かぁ~ッ!!山城に菊月はノリが悪いな~!!」
山城と菊月は溜め息を吐いた。しかし、本心から嫌と言う訳では無いので、何とも言えない表情である。
「それにしても、ブラスタは青葉の見立てだと、もっと何かあると思ってたんですがねぇ…」
「簡単に負けたのは意外でしたね」
「まぁ、あれだけ手段を封じられたら…流石は我が鎮守府最強の空母である加賀さん……であると同時に恋する乙女…」
青葉、明石、夕張は今回の演習の内容を振り返っていた。
「今回は加賀さん達の作戦勝ちでしたねー…加賀さんは烈風ガン積みに近かったですしね…あれを受けて空中戦をしようとしないのは普通ですし」
「でも、ブラスタの機動性と装甲なら、多少は無茶でも行けたのでは…?」
「あー、確かに…最後の決め手も、大和さんじゃなければ火力不足でしょうしね」
それを踏まえて、三人は結論を出した。
「「「今回は本当に加賀さんの作戦勝ち!!」」」
クロウはD敗北が確定した。
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~鎮守府正門前~
宴会でまだ艦娘達が騒いでいる中、クロウは特佐とあきつ丸の見送りをしていた。
「いきなり戻るなんてな…何かあったのか?」
「いえいえ!!流石に部外者の私達が宴会に参加するのは気が引けるんで…。それに、これでも忙しい身なんッスよ…中間管理職、更には技術部なんて特別な部署ッスからね」
「早朝出勤からの深夜までの残業なんてザラでありますからなぁ…」
特佐とあきつ丸は遠い目をして話す。
「それは貧乏クジとかよりも、ブラック企業なだけだな…軍なんだよな?」
「はいッス…ブラックな軍ッスね…駄目だこの国何とかしないと…」
「……今は戦時下でありますから…。深海棲艦が居なくなれば、優雅な暮らしが待っているのでありますよ!!」
あきつ丸が特佐を慰める。そんな二人を見て、クロウは疑問が浮かんだ。
「車が壊れたままなんだが…どうやって帰るんだ?」
クロウの一言に、特佐の表情が凍り付く。
「………ヒッチハイク?」
「……この時間ならまだ電車があるでありますよ…自棄にならないで欲しいであります」
あきつ丸の言葉に特佐は泣きながら答える。
「仕方ないじゃないッスか!!車を壊したなんてバレたら、怒られるに決まってるじゃないッスか!!やったんスよ必死に!!やった結果がこれなんスよ!!これ以上どうしろって言うんスか!!」
「………素直に謝るでありますよ。あ、クロウ殿。お世話になったであります!他の艦娘の方々と話せて楽しかったであります!!」
そう言って、あきつ丸は特佐の襟を掴んで引き摺って行った。
「ちょっ、まっ…、ああ!!クロウさん!!お世話になりましたッス!!またご縁があれば何処かで~!!」
「お、おう…気を付けてな!!」
こうして二人は鎮守府から去って行った。
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二人を見送ったクロウは執務室の書類を再確認していた。暫くすると、執務室の扉が開いた。
「…宴会にも来ないで何をしているの?まさか自分の負けを認めたくないのかしら?」
「加賀さん、結構酔ってんな?いつもはそんなこと言わないだろ?」
入ってきたのは加賀だった。酒を呑んだのか、顔が少し赤かった。
「あら、元々私は無愛想で意地悪な女よ?」
「良い女は無愛想で意地悪でも許されるんだよ」
「………女嫌いの癖に、口説くのね?」
加賀の言葉にクロウは笑った。
「フッ…口説いてる訳じゃ無いさ。確かに俺は女嫌いだが、良い女か悪い女かは分かっているつもりさ」
「そう。……前から気になっていたのだけれども、貴方の女嫌いの原因は何なの?」
加賀の質問に、クロウは顔を顰めた。
「どうしても話さなきゃダメか?」
「ええ。敗者は勝者の言う事をききなさい」
「それを言われちまうとな…仕方ねぇ」
クロウは加賀に話す事を決めた。
「前に温泉で話した特殊部隊を覚えてるか?」
「ええ。ファイヤバグだったかしら?」
「そう。その部隊の隊長だった女が俺の女嫌いの原因だ」
「ちょっと待ちなさい」
加賀がクロウの話を中断する。
「何だよ加賀さん?」
「まさか『その女にフラれたのが原因』だなんて言わないわよね?」
加賀の質問に対して、クロウは声を荒らげて答えた。
「断じてそれは無ェ!!加賀さん!!言って良い事と悪い事があるぜ!?俺がアイツを好きに!?やめてくれよマジで!!そんなこと有り得るわけ無いだろう!?」
突然のクロウの豹変に加賀が驚いていると、クロウはハッと我に還った。
「す、済まない加賀さん…取り乱した。驚かせちまったな」
「えっ?あっ…私も悪かったわ…貴方がそこまで取り乱すなんて…相当な物なのね…」
「ああ。そりゃあな…まだ聞くかい?」
クロウの問いかけに対して、加賀は首を縦に振った。
「最早怖いもの聞きたさね…貴方がそこまで言う相手…想像もつかないもの」
「そうか…なら、話を戻すぜ?」
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「と、まぁ…こんなもんか…」
「……何か、御免なさい…悪い事をしたわね…」
クロウの話を聞いて、加賀が謝る。
「気にすんなよ…」
「でも、女嫌いは仕方ないとは思うのだけれど…」
「何だよ?」
加賀は一呼吸置いて、切り出した。
「今まで気になる人は…全く居なかったの?」
「……………」
クロウは即答出来なかった。考えていたからである。
「どう…だろうな?俺自身も分からねぇ…良い奴は居た。マルグリット…エスター………博士?」
(何で私だけ疑問符なんだい?)
「うおおおぉぉぉぉッ!?」
「ど、どうしたの!?」
突然頭の中に声が響いた気がしたクロウは慌てふためく。
「い、いや、なんでもねぇ…よな?」
「私に聞かれても困るのだけれど…」
「そ、そうだな…ま、まぁ、あれだ。即答は出来ねぇな…恋心なんて分からねぇし、ガラじゃねぇし…」
「そう。上手く逃げられた気もするけれど…良いわ。そろそろ夜が明けるわ。少しだけでも寝ておきなさい。明日も執務はあるのだから」
加賀に言われ、クロウが時計を確認すると、午前四時を過ぎた辺りであった。
「……宴会の奴等は?」
「知らないわ。食堂で寝てるかもしれないわね。自己管理位は出来るわよ。駆逐艦は早めに帰したし、問題は無いわ」
「そうか…なら、俺も寝るか。んじゃ、また後でな」
「ええ」
加賀が扉を閉めるのを確認すると、クロウは一人呟いた。
「……女嫌い…返上するかな…」
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加賀は自室に戻ると、布団に潜り込んだ。
「……気になる人の中に…私の名前は無かったわね…言われたら言われたで…恥ずかしいのだけれど…」
その朝、宴会組は殆どが寝坊をし、駆逐艦達に責められると言う、情けない構図となった。
次回は早めに更新したい…