100万Gの男が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執り、借金の返済をします。 作:Z/Xプレイヤー26
「悪いな、結局案内出来たのは駆逐艦の寮だけだったな」
クロウがあきつ丸に謝るが、あきつ丸はどこか楽しそうに首を横に振った。
「気にしないで欲しいのであります。自分も色々な方々とお話が出来て満足しているのであります!」
「いや…視察じゃなかったのか?」
「あっ」
しまったと言わんばかりのあきつ丸を見て、クロウは考える。視察の残り時間は三時間程、その中で視察の体面を保ちつつ、上手く時間を潰す方法を。
色々と考えていると、クロウの内線が鳴った。
「俺だ、何かあったか?」
内線の相手は、ブラスタを解析していた特佐からだった。
《いやー…解析率50%の所でセキュリティに引っ掛かってしまいまして…何とかならないッスか?その手前のセキュリティはどうにかなったんスけど…》
(トライア博士のセキュリティを突破したのかよ!?……やっぱり侮れないな)
「悪いな、俺もそれの解除の仕方は知らねぇんだ。ソイツを作った博士はこの世界には居ないんでな…」
《そうッスか…まあ確かにこの解析率でも、メンテナンスは十分に可能みたいッスね。分かりました!!ブラスタの解析はここまでにするッス!!ブラスタをお返ししますんで、工廠に来てもらっても良いスか?》
「ああ、分かった」
内線を切り、クロウは工廠へ向かった。
~工廠~
「あ、クロウさん。御協力感謝するッス!」
「ああ」
工廠へ到着したクロウは、すぐにブラスタを回収した。
「?そんなに急いで、どうしたんスか?」
「いや、視察の時間がまだあるだろ?その間に、ブラスタの性能を見せてやろうかとな。データだけじゃなく、目で見て確かめるのが一番だろ?」
クロウの思いがけない提案に、特佐は喜んで賛同した。
「は、はい!百聞は一見にしかず!!是非お願いするッス!」
「それは何よりだ。んじゃあ、ちょっと準備して来るか…」
~演習場~
クロウは加賀達に呼び出しを掛け、陸軍に演習を見せる旨を伝えた。すると、『遂に貴方を倒す時が来たのね…流石に気分が高揚します』と、殺る気充分だった。
「さて、メンバーの選出は加賀さんに任せたが…どう来るか」
クロウはブラスタを展開し、演習場で待機していた。暫くすると、加賀、大和、扶桑、山城、長門、菊月がやって来た。
「なんつーか…バランス悪くねぇか?」
「貴方を倒すには、これが最高のメンバーよ」
クロウの指摘に対し、加賀は自信満々に答えた。
「考えた末の判断か…油断大敵…手加減はしねぇぜ!!」
「……始めましょう」
加賀達が動きだし、演習が始まった。最初に動いたのは、やはり空母である加賀であった。
「攻撃隊、発艦します。無理はしないで牽制に徹して下さい」
数機の艦載機がクロウに向かって飛んだ。それはクロウにダメージを与える為ではなく、動きを制限する為の物であった。
(成る程な、火力重視の編成は俺との短期決戦の為か…艦載機で動きを制限して、射線上におびき寄せるつもりだな?さて…やるとするか!!)
クロウは相手の戦術を予想しつつ、行動を開始した。
「今のブラスタの火力じゃあ、大和を倒すのは骨だな…上空から攻めるのも手だが、艦載機の数が潤沢な序盤じゃあな…なら、海面ギリギリを突っ切るとするか。狙うは菊月だな」
クロウは海面を飛ぶ手段を選んだ。しかし…
「恐らく最初にあの男が狙うのは菊月…貴女よ。そして大和を最後に狙う筈…艦載機で制空権を取っているから、海面ギリギリを飛んでくる可能性が高いわ」
「私が最後ですか?それに、ブラスタなら無理矢理空を飛んでくる可能性もありますよ?」
「それは無いわ。あの男は必ず“確実な手段”を取るわ…仲間の命が危険な状況でもない限りは」
加賀は完全にクロウの行動を読んでいた。
「成る程…最善の一手がクロウの取る手段か。つまり、こちらがその“最善の一手”をコントロール出来れば、クロウの行動を読む事が出来る訳だな?」
長門の言葉に加賀は頷く。
「そうよ。だから多少は無茶な編成でも勝てる…そろそろ扶桑達と接触する頃よ…聴こえますか?」
《ええ、聞こえていますよ。加賀さんの予測通り、ブラスタが見えて来ました…》
通信越しに扶桑が答える。
「では、手筈通りに数発だけ砲撃をして、すぐに左右に別れて下さい。その後、長門と菊月を定位置に向かわせます」
《分かりました…山城、行くわよ!!》
《はい!扶桑お姉様!!》
通信が切れ、それと同時に長門と菊月が動いた。
「さて、菊月…私達も行くぞ!!」
「ああ…共にゆこう!!」
加賀達と離れる長門と菊月。それを見て、加賀が大和に指示を出す。
「私達も2分後に予定の位置に向かうわよ」
「はい!」
(凄い…本当にこの作戦が成功すれば、クロウさんは私達に殆んど被害を与える事無く敗北する事になる…でも、本当に凄いのは…)
大和が加賀を見る。その視線を感じて、加賀が大和に尋ねる。
「どうかしたの?」
「あ、いえ…何でもありません」
「そう?」
(本当に凄いなぁ…加賀さんはずっとクロウさんの事を見てるんだろうなぁ…考えが分かっちゃうくらいに。……嫉妬しちゃうな)
「時間ね。行くわよ」
「はい!」
加賀と大和も動きだし、戦況が大きく動き始めた。
「チッ…扶桑と山城が左右に別れたか。恐らく前方から来ている反応は、長門と菊月だな?時間差で連撃をしてくるなら、長門達の更に後方に大和と加賀さんが居るな…」
今までの攻撃を受けて、時間差の連撃だと予測するクロウ。
「だが、艦載機が定期的に飛んでくる所を見ると、長門達との距離もそう離れてはいないな…精々2分か3分で詰めれる距離か?そこから一気に畳み掛けて来る可能性が高いな。なら、やっぱり最初に菊月を倒して、勢いを削ぐとするか。扶桑と山城からはそれなりに離れたみたいだしな」
当初の予定通り、菊月に狙いを絞るクロウ。菊月に向かって速度を上げた。
「お姉様…加賀さんの読み通りですね…」
《ええ、それじゃあ私達もブラスタを追いかけましょうか》
「はい…ここまで掌の上で踊らされてるなんて…あの男も不幸ね。ふふっ」
扶桑と山城がクロウを追跡する。しかし、一定距離を保ちながら。
「扶桑達が追いかけて来てるな…あの二人を同時に相手をしてたら、挟み撃ちにされる…菊月達との距離も近い。ちょっと無茶をするが、上空から様子見とする…ッ!?」
クロウが上空に上がろうとすると、そこには大量の艦載機がいた。
(オイ…これって殆んどの艦載機を使ってないか?まさか上空に上がるタイミングを読まれてたのか?……最初から読まれてたとすれば…ヤベェ!!仕方ねぇ!!ブラスタは水中適正は良くねぇが…)
ブラスタを水中に潜らせようとしたその時、クロウの足下が爆発した。
「魚雷!?菊月の姿は…辛うじて見える距離だぞ!?ピンポイント過ぎるだろ!?水中に潜る事まで読まれてただと…?ゼロが指揮でもしてんのか!?」
(このままじゃ、絶対にマズイ…菊月と長門が近付いて来ている。後方には扶桑と山城…上空と水中も駄目だ…なら…)
「力で突破させて貰うぜ!!」
クロウはブラスタを最大加速させ、菊月に突撃した。
「来たか!長門、頼んだぞ!!」
「任せろ!力比べといこうじゃないか!!」
菊月の前に長門が立ち、ブラスタを受け止めようとする。
「なんてな…よっと!!」
「何!?」
クロウは長門の目の前で停止し、発砲した。
「ぐっ…だが、この長門…この程度では沈まん!!」
「チッ!!堅いな…」
クロウが悪態を吐くが、時間切れとなった。
「大和!!今よ!!」
「はい!……はあっ!!」
加賀と大和が合流したのだ。それだけではなく、扶桑と山城がすぐ後方に居た。
「想像以上に速いな。囲まれたか…」
「残念だったわね…これで終わりよ!!」
クロウに向かって一斉に砲撃が飛ぶ。
「…まだまだ攻撃が甘いな…“隙間”ができてるぜ!!」
クロウは攻撃の“隙間”を見付け、回避する…だが、それは罠だった。
「クロウさん…ごめんなさい!!」
「ぐっ!?錨!?」
大和の錨がクロウに巻き付いた。クロウが隙間に逃げた瞬間を狙って投げたのだ。
「力勝負なら負けません!!」
「動けねぇ!?くそッ!?」
そう。クロウはまさに敵の囲んでいる“中央”に固定されている状態だった。
「敵を中央に固定…」
加賀の言葉にクロウは驚き、声をあげる。
「おいおい…まさか…」
クロウの予想は最悪の物であった。
「そのまま火力を集中…」
動けなくなったクロウに向かって、砲撃が撃ち込まれる。
「まさか…“コイツ”でやられるとはな…」
「最後は…中央突破!!やりなさい!大和!!」
大和の砲撃がクロウに直撃して、勝負は決した。
「“ACPファイズ”確かに有効な戦術ね…」
勝負はクロウの敗北だった。
恋する乙女は相手の事なら何でも見てるよ!!
クロウを勝たせるつもりだったのに、どうしてこうなった…