流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/4 改稿


第九十七話.不穏な学校

 物心ついたときには大勢の子供達と毎日を過ごしていた。朝同じ時間に起きて、お兄さんやお姉さん達とご飯を食べる。庭で兄弟と一緒に遊んで、一緒にお風呂に入って、同じ部屋で寝る。そして、何か嬉しいことがあれば彼らと一緒に、数人のお母さんに甘えるのだ。それが当たり前だった。

 世間の当たり前が、それと違うと気づくのに、それほど時間はかからなかった。お母さんは一人だけ。それが普通だということを、近所の友達から聞いた。お父さんという言葉があることに驚いた。よく見てみれば、皆、お父さんという男の人と、お母さんを一人だけ持っていた。自分のように、お父さんがおらず、複数のお母さんがいる者を探してみた。だが、同じ家に住む兄弟を除いて誰もいなかった。

 当たり前のように、そこらあたりに存在している、当たり前の家族の形。それが自分には一切無いことに気づいたとき。一人のお母さんに尋ねた。ふっくらとした頬を緩めてくれる、優しい笑みを携えたお母さんだ。一番大好きだったお母さんが困った顔をした。少し唸った後、目を反らすことなく、全てを話してくれた。

 その時の事を、少年は忘れない。

 忘れはしない。

 

 

 その日、初めて教室が黒く見えた。普通だ。皆普通に話をしているし、授業も育田が冗談を交えてくれていて、軽快な笑い声が響いている。それが皆で仮面を被っているという事に、気づいていない者はいない。明らかに足りない。いつもの無駄にでかいあいつの声が混じっていない。

 育田の細い目がちらりと窓際の席を捉える。ゴン太が窓の外を眺めていた。肩肘を突き、口をへの字に曲げていた。

 教室の前に取り付けられたモニターをタッチし、育田は授業を進めた。

 昔は黒板という物に、チョークを使って書いていたらしい。今の時代は全てタッチパネルや電光板で行われている。

 次に教える場所まで進めて、もう一度子供達の方を向く。廊下側の席に目を移した。キザマロが無表情に授業を聞いている。目がいつもよりも少し細いが、前の字が見えないわけではないのだろう。

 理由は昨日の出来事だ。

 まだ、教師の自分が出る幕ではないだろう。できれば、自分達の力で解決して欲しい。異常に気づきつつも、「これも勉強」と考え、理科の説明を続けた。

 

 

「さあ、私が生徒会長になるために……ゴン太、何か案を考えてきたかしら?」

「それならチビスケに頼んだらどうだよ。俺と違って頭が良いらしいからな」

「ええ、少なくとも、デカイだけで頭が空っぽの誰かさんよりかはましですよ」

 

 目も合わせようとしない二人に眉を下げるルナを、スバルとツカサは教室の反対側から伺っていた。

 

「今日、ずっとあんな調子だね」

「二人とも、委員長とは話すけど、互いに一言も話そうとしないね」

 

 昨日、ヒカルとジェミニが放った-電波の影響で喧嘩をしたゴン太とキザマロ。あの一件以降、二人は互いの顔すら見ようとしていない。皆は分かっているが、関わらないようにと距離を置いている。

 スバルとツカサも同じだ。だが、無理に関わる理由も無い。この喧嘩は二人の問題なのだから。

 窓の外を見れば、今日も太陽が雲を近づけさせんばかりに輝いている。その陽気を貰っているはずの教室は、寂しくて冷たかった。

 

 

 スバルが学校に来る前から、毎日の昼休みにしていたドッチボールも中止だ。ほとんどメンバーが、どうしてもそんな雰囲気になれなかったからだ。

 少ない人数で遊べるようにと、キュウタが鬼ごっこを提案した。スバルは参加する気になれなかったが、誘われるがままにその輪に入った。

 だが、それもすぐに終わってしまった。廊下を走っているところを、風紀委員のフウキに見つかったからだ。

 

「校則違反よ! いい加減にしてよね!」

「なんだよ、俺ばっかりに文句言いやがって!」

「キュウタ君が悪いんでしょ! 放送室のDVDだって一枚紛失してるし、それもあんたでしょ!」

「言いがかりだっつうの!」

 

 キュウタとフウキが本当の意味で鬼ごっこを始めてしまった。涙目で逃げるキュウタと、ルナほどではないが鬼のようになったフウキ。そんな仲の良い二人を尻目に、流れ解散となった。

 そんな経緯があり、スバルはなんの目的も無く、暇な足どりで裏庭に来たところである。

 

「ヒカルを探す? 本気か?」

「うん。こっちから仕掛けようと思うんだ」

「お前にしちゃあ、珍しいな」

「だって、またあの-電波を使われたら、ゴン太とキザマロみたいな人が増えちゃうから。それに……」

 

 口を一切聞かないゴン太とキザマロが脳裏を過ぎった。そして、ルナの悲しみに満ちた表情。

 怒りで握られたスバルの拳を見て、ウォーロックはトランサーでふんぞり返った。

 

「よし、だったら、俺から取っておきの情報をお前に渡すぜ」

「取っておき? いつの間に情報を集めたの、ロック?」

「ロックじゃねぇ。刑事と呼んでくれ」

 

 また変なドラマを見たらしい。心底飽きれて肩をすくめる。まあ、情報を得て来てくれたのならば、それに越したことないだろう。あまり気にせず、スルーしておいた。

 

「……ところで、どんな情報なの?」

 

 ウォーロックは自慢げに笑うと、手に持っているファイルを見せ付けた。

 

「学校の名簿データを盗んでおいたぜ!」

「何やってるんだよ!!」

 

 今度はスルーするわけにはいかない。ファイルデータには、「コダマ小学校生徒名簿一覧」と書かれていた。紛れも無く、学校の機密情報である。

 

「それ泥棒だよ! 刑事じゃないよ!!」

「なあに、己の正義のためには、悪の道も歩まなきゃならねえのさ」

 

 今度はアニメでも見てしまったのだろうか。スバルは頭を抱えて、辺りを見回した。学校の裏庭だから誰もいない。盗んだことが理事長のおばあちゃんや校長先生にばれたら、ただごとじゃすまない。復学して早々、停学させられるかもしれない。

 

「いつの間に盗んだんだよ?」

「朝礼の時間にちょっとな。育田の話はともかく、校長の話は長い上につまんねえからな。セキュリティぶっ壊してコピーしてきたんだ」

 

 毎回、あくびが耐えない朝礼の時間を思い出し、頷いた。確かに、あの校長の話は長い。どこの校長もそうだろうが、あの人は特別だと思う。

 

「……セキュリティ用ナビは?」

「大丈夫だ! 背後からぶん殴っといたから、顔は見られてないぜ!」

 

 もう何も言わないでおいた。胃に穴を開けそうなほど溜まりまくったストレスを吐き出し、一呼吸置く。

 

「……じゃあ、名前だけ確認して直ぐに消そう。ロック、ヒカルって名前で検索かけて」

「ああ、もうやっといたぜ」

 

 刑事ドラマを見ているだけあって、仕事の手際は良いらしい。ここは素直に賞賛しておこう。

 

「どうだった? ヒカルって何組の生徒?」

 

 千代吉にコンタクトをとり、育田の事情を知っていた上に、この学校にある学習電波を操作していた。これだけ内部の情報を知っているのだ。スバルにはヒカルが校内の生徒であるという確信があった。だから、次の答えを受け入れられなかった。

 

「いねえんだ」

「……え?」

「だから、ヒカルって名前がねえんだ」

「嘘でしょ?」

 

 そんなわけが無い。ヒカルがコダマ小学校の生徒で無いとするならば、なぜあれほどこの学校に詳しいのか。コダマ小学校を卒業した小柄な中学生ならば、育田の事情はある程度知っていたかもしれない。だが、学習電波について知っている理由にしては説得力が乏しい。それ以外の年齢ということはありえないだろう。150cmにも満たない自分の身長と大差が無いのだから。

 

「嘘つくわけねえだろ?」

「……確かに、そうだよね……」

 

 一応、もう一度「ヒカル」という文字で検索をかけてもらった。しかし、検索結果はスバルの僅かな期待に応えず、やっぱり0件。

 念のため、「スバル」で検索すると、自分の名前だけが表示された。どうやら、故障していないらしい。

 同時に、「ヒカル」がこの学校の生徒で無いことの証明になってしまった。

 

「……教師……」

「それは無いよね?」

「……だな……あんなちっこいわけねえよな……」

 

 内心腹を立てた。分かっていて言わないで欲しい。ゴン太じゃないのだから。

 

「ヒカルって、あだ名かな?」

「じゃあ、何で検索する?」

「う~ん……苗字や名前に、『光』って文字がある人とか……」

「よし! ……だめだ、いねえ」

「それじゃあ……」

 

 二人は手当たり次第に検索してみる。しかし、それらしい名前の生徒は一向に見つからない。

 目星も手がかりも掴めぬまま、予鈴が鳴ってしまった。ウォーロックがコピーしてきたデータは、結局そのまま残しておいた。

 スバルにはどうしても考えられなかった。ヒカルが他校の生徒であるということがだ。ヒカルは、コダマ小学校の誰かだ。そこに間違いは無いはずだ。

 

「必ず見つけようね、ロック?」

「ああ……」

 

 教室へと戻って行く生徒一人一人に、鋭く目を細めた。

 

 

 校庭から学校内にまで流れる人の川を見下ろすのを止め、スバルたちが捜し求めている人物は空を仰いだ。澄んだ青はどこまでも美しく、彼を不愉快にさせる。

 

「結局、良い案は浮かばねえな……」

 

 トランサーにいる相棒は数秒の沈黙を保った。

 

「ヒカル、やはり最後の手段を使うぞ」

「おいおい、まだ条件が整っていないだろ?」

「それを整える方法を考えるんだよ」

「だから、簡単じゃねえって」

 

 自分達に残された最後の手段。これを使えばスバルとウォーロックにも対抗できるはずだ。だが、ある条件を満たさなければ、それを使うことができない。今までは、無くても十分だと考えていた二人だが、前日の完敗によってその自信は砕かれている。

 

「だが、他に良い案も浮かばん」

「それは、そうだけどよ……」

 

 昼休みいっぱい使って頭を捻っても、ロックマンに対抗する術が思いつかない。なら、もうこの手を使うしかない。

 

「仕方ねえ、考えては見るか……」

 

 予鈴が鳴り終わり、生徒達の声がよりはっきりと聞こえてくる。大きくため息をつき、ヒカルは教室へと足を向けた。

 

 

 登下校の時間は、スバルにとっては連行の時間だった。ルナ率いるトリオに連れ去られるのが常だったからだ。最近は、そんな時間もちょっと楽しみだったりした。

 今日は違った。あの三人がバラバラに帰宅したからだ。

 今はツカサと肩を並べている。校門をくぐった先の町並みは、別世界のように明るくスバルの瞳に映る。学校の重苦しい雰囲気が、大きい校門から拡散していっているかのようだ。

 深呼吸して顔を見合わせ、二人はようやく安堵の笑みを浮かべた。

 

「ツカサ君!? どうしたの、それ?」

「あ? 見つかっちゃった?」

 

 突如、スバルの笑みは驚きに変わる。それを見ても、ツカサは相変わらず笑ったままだ。

 

「昨日、切っちゃったみたいなんだ」

 

 髪をかき上げ、額を見せた。そこには絆創膏が横に張られている。

 

「どうやって、そんなところを切ったの?」

「それが、切った覚えがないんだ」

「何してたの?」

「普通だよ?」

 

 普通がなんのかは分からないが、とりあえず日常生活以上の危険なことはしていないということだろう。

 

「ツカサ君ってよく怪我するね? この前も、足挫いたし」

「ははは、おかげで劇に出られなかったからね」

 

 それを最後に、話題が無くなってしまった。気まずい空気に取り残された二人を、ウォーロックもつまらなさそうに見ていた。

 あまり踏み入って尋ねて良いのか分からない。ただ、このまま話題が無いよりはましだろうと考え、ツカサが話題を振った。

 

「そういえば、昨日の話なんだけれど……スバル君は、なんで、宇宙飛行士になりたいの?」

 

 昨日の話を覚えてくれていたらしい。ツカサはいつもそうだ。スバルがルナ達といつもいることも、外国語の授業が好きなことも、人参嫌いなことも、実はグリンピースも嫌いなことも全て知っている。

 胸を温かくしてくれるツカサに、スバルは少し考えてから言葉を口にした。

 

「この後、時間あるかな?」

「うん、あるよ」

「なら、ちょっと付き合ってもらっていいかな?」

「いいよ……あ、ちょっと待ってて」

 

 二つ返事をしたツカサはスバルから数歩離れてトランサーを開いた。どうやら、聞かれたくない連絡をするらしい。会話相手と内容が気になるが、彼から更に数歩離れて空を仰ぐ。教室と違って、眩しいほどに明るい青空だった。夏を迎える準備は順調に進んでいるようだ。これなら、ツカサを喜ばせてあげることができるかもしれない。

 気持ちの良い空を見上げても、やっぱりツカサの会話が気になってしまう。神経を集中させてしまった耳が、僅かに聞こえてくるツカサの言葉を拾う。

 

「すいません、ちょっと友達と寄り道します……はい、夕飯までには帰宅します。あ、そうそう! 皆に伝えておいてください! 友達からミソラちゃんのCDを借りたから、楽しみにしておいてって……はい、それでは」

 

 トランサーを閉じ、待ってくれているスバルに笑顔で手を振りながら、駆け足で戻ってきた。

 

「母さんに電話?」

「うん、そんなところだよ。ところで、どこに行くの?」

 

 これから連れいていく場所は、プライベートな場所だ。自分をさらけ出すみたいで、ちょっと恥ずかしかった。

 

 

 色濃い青絨毯と、白くて柔らかいパン切れのような塊が広がっている。それらを照らす、遥か彼方にある太陽。絨毯の下に敷き詰められた物々と、その中でせわしなく動いている人々。見たことの無い雄大な光景に、ツカサは感嘆の息を漏らした。

 

「学校の隣なのに、来たこと無かったよ」

「良い場所でしょ?」

「うん。もっと早く来ていれば良かったな」

「フフフ、僕の憩いの場所なんだ」

 

 ツカサと話しているスバルを見て、ウォーロックは頬を緩めた。今日、ようやくスバルの笑みを見たからだ。ただ、疑問がある。スバルがツカサをここに連れて来た理由が分からないのだ。

 スバル自身もはっきりとは分からなかった。あえて理由をつけるのならば、ツカサが特別だからだ。初めて会ったときから、彼に惹かれていた。どこか不思議な雰囲気を醸し出し、女の子のような甘い笑顔で接してくるツカサ。彼は、学校に来たばかりのスバルにとって、ズタズタになってしまった心の傷口を、優しく包んでくれる存在だった。

 復学する前に彼と出会えたことと、彼が隣の席であったことに、どれほど感謝したことだろう。

 彼と話すようになって過ごした時間はまだ短い。それでも、スバルにとってはミソラやルナと同じく、心許せる存在だった。

 展望台の手すりから上半身を乗り出し、コダマタウンを見下ろしているツカサの隣に、並ぶように立った。町の人達の生活を共に眺める。

 

「なんで、僕が宇宙飛行士になりたいかって話だよね……」

「あ……その話だったね」

 

 ここに来る前に自分で尋ねておいて、忘れてしまっていたらしい。ここからの景色を見てしまったら、忘れてしまうのも無理は無いだろう。

 ツカサのちょっと慌てた様子に、吹き出すように笑ってしまった。だから、次の重大で、口にするのも辛い言葉を、楽に伝えることができたのかもしれない。

 

「僕はね、父さんを探しに行きたいんだ」

「……え? 父さん?」

 

 ツカサには、冗談か何かかという疑問は浮かばなかった。わざわざ、こんな場所にまで連れて来て、冗談を言う人だなどと思っていないからだ。スバルの大きく、少し澱んだ茶色の瞳を見つめ返した。

 スバルも口を一文字に結び、ツカサの琥珀色の目を見つめ返した。

 

「聞いてくれるかな? 僕の話を……」

 

 全てを打ち明けた。

 

 父親は、ブラザーを発明した星河大吾だということ。

 三年前に、キズナクルーの一員として地球の外に飛び出し、帰ってこなかったこと。

 キズナの一部がニホン海に落下し、父の殉職が告げられたこと。

 それを信じていないこと。

 だが、そのショックで他人と関わることが恐くなってしまったこと。

 三年間不登校だった理由はそれであることも話した。

 そして、憧れの父のような宇宙飛行士になり、今も宇宙を旅しているであろう父親を探しに行くこと。

 それが、夢であることを話した。

 

 その間、ツカサはずっと黙して聞いていた。消え入りそうになるスバルの言葉を、一言一句聞き逃さないようにするためだ。話が終わったとき、真っ先にハンカチを差し出してくれた。

 

「話してくれて、ありがとう」

「……こっちこそ、聞いてくれて、ありがとう」

 

 今も、目元を拭っているスバルを見る目には、同情や哀れみを含んだ優しさが満ちていた。

 

「でも、なんでそんな大切な話を僕に?」

「……ツカサ君になら、話しても良いかなって思ったんだ」

 

 誰かに自分のことを話す。ただ、それだけのことで、人は不思議と胸中が穏やかになる。

 

 誰かに自分を認めて欲しい。

 

 誰かに自分を見て欲しい。

 

 人が持つ、誰かを求める本能なのかもしれない。

 

 目元を拭っているスバルに笑い返した。

 素直に嬉しかった。スバルにとって、この出来事は彼を締め付け、苦しめる枷だったはずだ。流した涙が、彼が三年の間にどれだけの苦を背負ってきたのかを物語っていた。それを分かっているからこそ、自分にだけ打ち明けてくれた事実が嬉しかったのだ。自分に心を開いていくれている証拠であり、信用してくれている証だった。

 それはツカサに喜びと苦しみを与えた。役目を終えて返ってきたハンカチをポケットにしまう彼は悩むように眉を下げ、地面を見ていた。

 自分の全てを語ってくれたスバルと、自分を比べてしまう。

 ここで黙っていると、醜いレッテルが自分についてしまう。

 そんな気がした。

 

「スバル君、僕の……僕の話も……いや、ごめん、やっぱり……」

「君が、自分のことを話してくれるなら……僕は聞きたいよ」

 

 スバルの優しい声。地に突き刺さっていた視線は、導かれるように彼の目へと誘われる。

 

「父さんの受け売りだけれどさ。『争いは、相手を知らないからこそ生まれる。逆に、相手を知ったとき、きっとその人とは友達になれるはずだ』。僕はツカサ君と争いたくなんてないし……もっとツカサ君を知りたいよ」

 

 スバルが何を思い出しているのか検討がついた。ゴン太とキザマロだ。喧嘩していたあの二人を見て、スバルは少なからず傷ついている。

 友達とは言えど、他人のことで心を痛める。それは、当たり前のように思えて、簡単にできることではない。誰にでもできることではない。

 スバルの優しさに触れ、胸にあるシコリが消えていたことに気づいた。

 

「スバル君……ついて来てくれるかな?」

 

 迷いを振り切った笑みだった。こんな気持ちになれたのは、初めての経験だ。

 話しても良い。いや、聞いてもらいたい。自分のことを。誰にも打ち明けたことの無い自分を知って欲しい。できれば、受け入れてほしい。大切なこの人に。

 

「良いよ。どこに行くの?」

 

 優しい言葉に安らぎを感じつつ、勇気と共に目的地を口にした。

 

「ドリームアイランドだよ」


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