流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第八十八話.密林の死闘

 まばゆい一筋の閃光が、大地に扇を描いた。大地は斬られたことに今更気付いたかのようにパクリと口を開き、土砂を吐きだした。押しのけられるように地面にたたきつけられるロックマンとハープ・ノート。

 持ち上がる土色の電波粒子はゴルゴンアイの威力を物語り、オヒュカス・クイーンの姿を隠して行く。

 

「クイックサーペント!」

「飛んで! ハープ・ノート!」

 

 反射的にハープ・ノートは跳躍した。弾丸のように回転したオヒュカス・クイーンが土の巨壁を突き破ってきた。二人の背後にあった大木をへし折り、体を擦りつけられた土には、彼女がまき散らした毒が浸透していた。毒々しい紫色に染められ、触れている木の根が変色していく。振り返りざまに手を前に付きだした。

 

「スネークレギオン!」

「ガトリング!」

 

 ウォーロックにカードを渡し、左手を前に突き出す。眼前に迫っていた緑の群れに惜しみなく弾丸を放ち、相殺した。

 

「パルスソング!」

 

 隙を狙ったハープ・ノートが弦を弾こうとする。その手に違和感が走る。二の腕が重く、硬い。見ると、ヘビが腕に巻きつくところだった。

 

「い、いや!」

「上だ!」

 

 木々の枝から雨のごとく飛びかかってくるヘビ達。オヒュカス・クイーンは隙を見てヘビ達を放ち、死角となる頭上から二人を襲わせたのである。

 腕や足にまとわりつき、自由を奪われた彼らにオヒュカスが容赦などするわけがない。

 

「クイックサーペント!」

 

 木々を根こそぎ吹き飛ばす台風だ。同等のエネルギーを身に留めた体当たりは、二人を枯れ葉へと変える。盛大な交通事故により、ロックマンとハープ・ノートは茶の上に敷かれた紫の線を断ち切るように、土を抉って転がって行く。二人に巻き付いたヘビ達も耐えきれなかったのだろう。二人が回転を止めたころに、粒子となって消滅した。

 全身を四散させれらそうな鈍い痛みを誤魔化すように、ロックマンは立ちあがった。オヒュカス・クイーンには全身に炎を押し当てられたような傷跡がいくつもある。だが、彼女の戦闘周波数が濃霧のように立ち上がり、二人を押し潰すようにのしかかってくる。

 

「フフフ、焦っているな」

 

 言葉一つ一つが、二人の首を絞めるようにまとわりついてくる。有効な手段を必死に探しているロックマンとハープ・ノート。何とか活路を見出そうと、腰をかがめた。

 

「交渉だ。ウォーロック」

 

 ピクリと二人の動きが止まった。交渉と言うことは話し合いをしようと言うことだ。俄然有利であるはずのオヒュカス・クイーンからの交渉の持ちかけ。何か裏があるのかと、ロックマンとハープ・ノートは構えを解かずにオヒュカス・クイーンを睨むように見上げた。そんな彼らを嘲笑うように口を開いた。

 

「私と手を組め」

 

 オヒュカス・クイーンが告げた言葉。それを理解するのに、四人は数秒の時間を必要とした。

 

「……え?」

「どういうこと?」

「オヒュカス、あなたもFM星を裏切るつもりなの?」

「ハープ、お前ごときと一緒にするな」

 

 ミソラとスバルが言葉の意味を模索する中、ハープが問いかけた。ハープを見下し、優雅に頬に手を当てた。

 

「私はこのままFM星王の言いなりになるつもりはない。そして、地球人ごときと慣れ合うつもりもない。アンドロメダの鍵を使い、地球とFM星を支配するのだよ!」

 

 唖然とする四人。当然だろう。地球側についたウォーロックとハープ。FM星王のために戦っているジェミニ達。二つの組織のうち、どちらにもつかぬと彼女は宣言したのだから。彼らを前に、オヒュカスは熱弁を続けた。

 

「ウォーロック、ハープ、お前達も知っている通り、アレ(・・)はアンドロメダの鍵だけでは起動しない。FM星王が持っているコントロール装置が必要だ。それは私が星王を欺いて手に入れてやる」

 

 最後に、両手を広げるように頭上に掲げた。うっとりとした目の奥で、隠しきれない黒い笑みが浮かんでいた。

 

「そして、私はアレ(・・)を手に入れ、二つの星を治める女王として君臨するのだよ! さあ、ウォーロック! 鍵を渡せ! 共に星の頂点に立つのだ!!」

 

 ウォーロックに手を伸ばすオヒュカス。それを汚そうな目でウォーロックは見ていた。

 

「さあ、ウォーロック! 答えを聞こうか!」

 

 ウォーロックはスバルを見上げた。それで十分だ。頷いたスバルは左手をスッと持ち上げ、前に突き出した。

 

「俺はFM星の支配に興味なんてねぇんだよ。俺が考えてるのは、どうやっててめえらに復讐するのか。ただそれだけだ!」

「これが答えだよ!」

 

 ウォーロックの口に緑色の光が集まり、凝縮された。

 

「チャージショット!」

 

 ひと際強い光を放つ光弾。ロックマンの胴体ほどの直径を、オヒュカスは腕に巻き付いたヘビを鞭のようにしならせ、叩き落した。

 

「フン! 生き延びるチャンスを失ったな」

「そんなことないよ!」

 

 ヘビの鞭を横になぎ払った。今度は両手でだ。ショックノートを放って来たハープ・ノートに右手を突き出し、ヘビ達を投げ飛ばした。

 

「私たちは絶対にあきらめない!」

「降参なんてするわけないでしょ、ポロロン!」

「フン! ならば力づくで奪うまでよ!」

「やれるもんなら、やってみやがれ!」

 

 スイゲツザンになったウォーロックが怒鳴り、それをスバルが力の限りに振り下ろした。両手で三匹のヘビを掴み、横に引っ張って頭上に掲げ、ロックマンの剣を防いだ。ヘビのエネルギーを操り、体を硬質化させることもできるらしい。擬似的なスティックと言ったところだろう。ロックマンの軽い体重をかけた剣が通ることは無く、空へと弾かれた。着地した隣にいるハープ・ノートは隙をつかせぬまいとコンポから音符を放った。

 

「スネークレギオン!」

 

 放たれたのは、十は下らぬヘビ達だ。翼を得た様に空を滑空してくる。互いに飛びのくように避けた二人。ロックマンは脇を掠めていくヘビを無視して走り出し、手に持ったパワーボムを投げつけた。それに気を取られ、ハープ・ノートが放ったハート模ったリング光線に気付けなかった。

 オヒュカス・クイーンの体に痺れが走り、動きが止まった。ならば、破壊力のある一撃を放つのがセオリーだ。

 

「ポイズンナックル!」

 

 データを浸食する毒を、拳として叩き込んだ。オヒュカス・クイーンのヘビの体が大きく曲がり、顔が下へと下がる。

 

「小癪な!」

 

 追撃の拳を握っていたロックマンは自分を責めた。見上げると、オヒュカス・クイーンがこちらを睨んでいた。その目に光を溢れさせながらだ。ウォーロックのシールドなど、ガラスの様に破壊するゴルゴンアイが放たれた。それは地や大樹を撫でた。弦を引っ張ったハープ・ノートの手の動きに合わせるように、進路を変えさせられた二本の光の筋。数瞬遅れて、地が持ち上がり、木々が豪炎と共に横たわる。オヒュカス・クイーンの上半身をマシンガンストリングで拘束したハープ・ノートは焦りと共に息を吐いた。

 お礼を言いながらも、前を見据えて斧を構えるロックマンを、オヒュカスは目を見開き、歯を食いしばっていた。

 

「う、動け!」

 

 体が動かない。縛り付けられている上半身がでは無い。ヘビの体となっている下半身もだ。ハープ・ノートが得意とする、体の自由を奪う麻痺だけではない。オヒュカスの動きを縛るのは別の者だ。精神世界の中で、オヒュカスは手に持ったガラスの様な心を睨みつけていた。

 

「小娘が……」

 

 ルナの魂だ。狂いそうな悲鳴を上げている。

 

「嫌! 縛られたくない! 私は自由よ!!」

 

 砕いたはずの心は、皮肉にも憎しみと悲しみで再び元に戻りつつある様子だった。この体の本来の持ち主であるルナの心。オヒュカスにとっては、体の支配権を邪魔する障害物でしかない。無理やり抑え込んだ。

 

「ビッグアックス!」

 

 ウルフ・フォレストとウェーブロードを同時に砕いた巨大な刃が、オヒュカス・クイーンの体を横一文字に切り裂いた。思考を白く染め上げる激痛は、声にならぬ悲鳴をあげさせ、オヒュカス・クイーンに宙を仰がせる。

 振るうには大きすぎる斧はロックマンの体を引っ張った。自由が利かない時間は数秒だっただろう。それで充分だった。オヒュカスはヘビの鞭でロックマンの頭を大きくなぎ払った。

 木に背中を打ち付けている間に、オヒュカスは身を翻した。通った土草に、マキビシのように毒を撒き散らし、木々の間をすり抜けていく。背後から迫りくるギター音と弾は木が天然の盾となり防いでくれている。ギター音がある程度小さくなった時、後ろの様子をうかがった。毒に汚染された土を避けるようにロックマンとハープ・ノートが追って来ていた。

 

「スネークレギオン!」

 

 今度は壁だ。彼女が一度に召喚できる全力の数なのだろう。無数のヘビ達が二人の前に立ちふさがる。

 

「パルスソング!」

「テイルバーナー!」

 

 広範囲を攻撃できるパルスソングがヘビ達の動きを止め、火炎放射で焼き払った。だが、すでにオヒュカス・クイーンの姿は見えない。

 

「ハープ! あいつはどこに行った!?」

「待って! 今探すから!!」

 

 周波数感知に優れたハープが、ハープ・ノートと共にオヒュカスの周波数を探る。あれだけの戦闘周波数を持つ彼女だ。直ぐに見つかるはずだ。二人の体が宙を舞う。足はロックマンの悲鳴を喜ぶように、無邪気に身を捻じる。ヘビの体を利用し、地中から奇襲を仕掛けたオヒュカスが狂喜を上げる。

 

「どこを探していた!?」

「……っ!」

 

 足を挫いたロックマンは側にある木を支えにして立ち上がる。ハープ・ノートは直撃は免れたのだろう。しかし、大きなダメージを受けたことには変わりないようで、体を起こそうと土を掴んでいる。オヒュカスの焦りが積もる。先ほど、ポイズンナックルで受けた毒のせいだろう。蝕まれるような痛みが体の内側に走る。こちらの体力も限界に近い。先ほどの攻撃で決めてしまいたかった。

 両者の体力が尽きそうになる中、冷静に作戦を考えていたウォーロックが口を開いた。

 

「ハープ・ノート、また、あいつをマシンガンストリングで縛れるか?」

「え? できると思うけど?」

「動けなくするだけなら、他の攻撃でもいいんじゃないの?」

 

 ミソラが答え、ハープが尋ね返した。ウォーロックは首を横に振る。

 

「さっき、お前らの弦で縛られた時、オヒュカスの動きが鈍った。理由は分からねえが、それがいちばん効果があるはずだ。後は……」

「僕達が?」

「ああ、頼むぜ」

 

 四人が頷き合った直後、スバルとウォーロックは攻撃に移った。

 

「グランドウェーブ!」

 

 土煙りを上げて走り抜けていくエネルギー。猟犬のように追いかけて来るそれに気を取られていたが、殺気を感じて身を捻じった。弦群が頭上を通り過ぎる。代わりにグランドウェーブは避け切れなかった。ヘビの尾の部分から滲む痛み。それに構わずに手にヘビの鞭を召喚し、硬質化させた。ロックマンのライメイザンが防がれる。みぞおちを殴りつけて弾き飛ばしたところに、再び襲ってくるハープ・ノートが放ったマシンガンストリング。身を屈めてかわし、大地を蹴飛ばした。

 

「クイックサーペント!」

 

 避けれる。距離がある。ハープ・ノートは冷静だ。飛びのこうとした足が動かない。まさかと見下ろすと、予想通りだった。地中から生えてきたヘビ達が、蔓のように捲きついている。おそらく、オヒュカス・クイーンが地中に潜ったときに放っていたのだろう。牙を突き立てるヘビ達もろとも、オヒュカス・クイーンはハープ・ノートを弾き倒した。

 宙を舞うハープ・ノート。木の枝と緑が視界を騒がしく駆け抜けていく。それらの前に、不敵な笑みが立ちふさがる。体にまとわりつく感触。追いついたオヒュカス・クイーンが、長くしなやかな体で巻き付いた。

 

「う、あ、あああああああ!!」

「ミソラ!」

 

 締め上げられるハープ・ノート。悲鳴が上がり、ハープが思う限りに叫んだ。

 

「ミソラちゃん!」

 

 全速力だ。ハープ・ノートと開いてしまった距離を一瞬でも早く縮めるためにも、ロックマンは力を解き放った。

 

「スターブレイク! アイスペガサス!」

 

 両翼で空気抵抗を切り裂き、青い疾風となったロックマンはオヒュカス・クイーンの前に飛びだした。牽制するように振られたオヒュカス・クイーンのヘビの剣を、ブレイブソードで打ち砕いた。上半身を捻じるように、オヒュカスの顔を切りつけた。一瞬緩む締め付け。一瞬のチャンスを見逃さなかった。

 

「パルスソング!」

 

 体に巻きつくと言うことは、密着すると言うことだ。ゼロ距離で放った攻撃に悶える間に、ハープ・ノートはすばやく脱出した。ハープ・ノートを休ませるために、二人は極力距離をとる。

 

「スネークレギオン!」

 

 怒りが沸点に達し、今出せるだけのヘビ達を解き放った。大地を滑るように這うもの達と放たれた勢いで踊るように迫りくるもの達。視界を塞いでしまう大軍だ。

 ハープ・ノートの前に立ち、両手を上げ、切り札を使った。

 

「スターフォースビックバン! マジシャンズフリーズ!」

 

 氷塊が生成された。魔法陣から生えるように現れたそれは、ヘビ達を内包し、ロックマン達とオヒュカス・クイーンを分かつ巨大な壁と化した。分厚い氷は光の通過すら許さず、二人の視界を完全に奪った。

 相手の様子が見えないこの状況を、チャンスととらえたのはオヒュカス・クイーンだ。

 

「クイックサーペント!」

 

 竜巻と化した、触れる物全てを破壊してしまう無慈悲な体で壁を砕いた。向こうにいるロックマンとハープ・ノートを巻き込み、一気に勝負を決めてしまう腹だ。だが、それは叶わなかった。何の手ごたえもない。目まぐるしく騒いでいる世界に目を凝らすとその中で、ロックマンとハープ・ノートが同様に回っていた。氷塊の端っこに手をかけ、こちらに得物を向けている。

 

「マシンガンストリング!」

「な! ぐああ!!」

 

 四肢の自由を奪う無情な攻撃がオヒュカス・クイーンを捕らえた。再び、うめき声を上げるルナの精神。悶え苦しむオヒュカス・クイーンを逃がすまいと、指と弦が上げる悲鳴に耳を貸さず、ひたすら手をかきまわした。

 

「ごめんなさい、委員長」

「けど委員長、安心して。必ず助けるから!」

 

 バトルカードで生みだした、筒状の左手を前に突き出した。紫色のそれの中には、ファンが取り付けられている。それが回り出すと、周りに変化が現れた。オヒュカス・クイーンによって汚染された大地が、元の健康的な土色へと戻って行く。換わりに、彼らを蝕んでいた力を取り込んでいくのがロックマンの左手だ。

 

「ポイズンバースト!」

 

 力を打ち出した。反動で吹き飛ばされながらも、放出された紫の光球。緑の世界を毒々しい色で染め上げる太陽は、オヒュカス・クイーンを飲み込んだ。

 世界に緑が戻ったと同時に、オヒュカス・クイーンの手が地についた。既に限界が来ているのだろう。体の一部からは電子データが粒子となって世界に散って行っている。

 

「スバル君」

「うん、止めだよ。オヒュカス」

 

 リュウエンザンを装備したロックマンが歩み始めると、ギターを抱えたままハープ・ノートが後に続く。

 一歩一歩近づいてくる最後の時。オヒュカスは目をつぶった。

 

「止めてくれ!」

 

 割り込んできた悲鳴。二人の手を止めようと、感情をむき出しにした単純な言葉。脇の茂みから飛び出してきた二人の人間を見て、絶句した。

 

「ルナを、私たちの娘を……これ以上傷つけないでくれ」




 ご覧のとおり、ぐだりまくった戦闘となりました。色々と詰め込みすぎたのか、プロットの作りが甘かったのかな? 台詞を多くしすぎたのが一番の失敗だったかなと思います。
 巨体で直線的な攻撃が多いオックス・ファイアとオヒュカス・クイーン。遠距離攻撃が主体のハープ・ノートにクラウン・サンダーは、バトルが書きにくくて辛いです。

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