流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/4 改稿


 お気に入り登録件数が60件に達しました。応援とご愛読ありがとうございます! 最近、私事情であまり執筆できていませんが、これからもがんばります!


第八十六話.飛び交う悲鳴

「委員長!!」

 

 スバルの叫び声は紫の光に飲み込まれた。輝きが小さくなるにつれ、スバルとミソラは目を大きく開いた。

 見上げる巨体はヘビだ。関節の無い胴体の腹は紫色で、周りは薄水色。ルナの縦ロールがそのまま反映されたのだろう、紫色の大きな突起が頭に付いており、角の様になっている。薄紫色の透けたスカーフの下で彼女の口が開き、その上にある目を見開いた。

 

「オヒュカス・クイーン。新しい私……」

 

 漲る力が腕の下で脈打ち、足の代わりに胴体に波を打たせる。

 

「い、委員長!」

「止めないで!」

 

 駆け寄ろうとするスバルを、ルナは静止した。

 

「私は、転校なんてしたくないのよ!」

 

 オヒュカス・クイーンの姿がふいに消えた。紫色の一筋の光が街の片隅へと飛んでいく。

 

「あの方向……」

「103デパートの方向だよ!!」

 

 ミソラが叫んだ直後、その光は一つの建物の屋上で姿を消した。見間違いようが無い。

 

「まずいぞ!」

 

 トランサーでウォーロックが叫び、ハープが頭を抱えていた。

 

「まさか、こんな都合の良いことがあるなんて。いえ、オヒュカスは最初から狙っていたのかしら?」

「何を?」

「オヒュカスはへびつかい座のFM星人。ヘビを自在に操れるわ」

 

 悪寒が指先にまで走った。

 

「まさか……」

「急ごう!」

 

 スバルの言葉に三人は頷いた。

 

「電波変換! 星河スバル オン・エア!」

「電波変換! 響ミソラ オン・エア!」

 

 スバルの体を、雄々しいほど青い光が覆いかぶさるように包み込み、ロックマンへと姿を変えた。隣では、音符の群れとピンクラインがミソラをふんわりと包み込み、ハープ・ノートへと変わる。

 異星人との融合を終えた二人は、ウェーブロードへと飛びあがると103デパートの方角へと走り出した。

 103と書かれた看板が徐々に近づいてくるにつれ、デパートの屋上が見えてくる。直後に絶句した。

 

「そんな……」

 

 もう、悲劇は起きていた。子供連れの客で賑わっていた屋上では祭りが行われていた。その主役たちは意気揚々と獲物に襲いかかり、柔肌に牙を突き立てて行く。中には3,4メートルはある大蛇までいる。獲物に巻きつき、悲鳴を上げる女性に向かって大きく口を開いた。

 

「パルスソング!」

 

 脳震盪を起こし、大蛇は棒のように倒れた。状況が飲み込めない若い女性は、彼氏と思われる若い男性に手をひかれ、とぐろの中から這い出した。だが、周りには小さいが強力な毒を持ったヘビ達が手当たり次第に人間達に襲いかかっていた。

 泣き叫ぶ我が子を抱える母親。ぐったりとした孫のそばで助けを求める老人。真っ青な顔で倒れている男性の隣で、彼の子供と思われる少女が泣き叫んでいる。

 

「ど、どうしよう!?」

「オヒュカスよ! あいつを倒しましょう!」

 

 答えたのはハープだった。感知能力の高い彼女は、ヘビ達に注がれる電波に含まれる、僅かばかりの周波数に気付いていた。

 

「チッ! あのモニュメントか?」

「そうか、あそこからヘビ達を操っているんだね!」

 

 オヒュカスはヘビを操る力を持っている。電波変換し、力を増幅させたオヒュカス・クイーンは地球の科学の力を使い、更にその能力を強化させたらしい。

 

「委員長を止めよう!」

「でも、この人達はどうするの!?」

 

 今も増え続ける犠牲者たちを前に、ハープ・ノートが渋る。彼女の気持ちも分かるが、この無数のマムシ達一匹一匹を相手にしているとキリがない。

 

「ワシらに任せえ!」

 

 歯を食いしばっていたロックマンは、閃光が降り注ぐのを見た。マムシ達を貫き、感電した数匹がバタリと倒れて一時的に動きを止めた。

 

「今のって……」

「ワシだ!」

 

 驚く二人の横に、一つの影が着地した。緑色のマントと、国王を思わせる煌びやかな冠。

 

「クローヌさん! クラウンさん!」

「カカカ、ハープ・ノートちゃんファンクラブ総統! クラウン・サンダー、ここに見参!」

 

 ハープ・ノートに向かって、考えられる限りのカッコイイポーズを決めた。だが、顔を横に向け、片手を斜めに伸ばし、もう片方の手を胸元で指だけ伸ばしているこのポーズは、愛嬌があるとは言えるが、カッコイイとは言い難い。

 苦笑いを浮かべる二人の視界の隅で、マムシ達が空を舞った。見ると、階段の入口を塞いでいた連中を空へと放り投げる緑の影があった。

 

「尾上さん!?」

「今日のところは主役を譲ってやらあ! さっさと行きやがれ、ボウズども!!」

 

 ウルフ・フォレストの言葉に、笑みを浮かべる二人。彼らの肩に、クラウン・サンダーは軽く手を置いた。

 

「さあ、お前さんたちはオヒュカスを!」

「ハイ!」

「ありがとう!」

 

 壁をすり抜け、展示室の中へと飛びこんでいく二人の背中を、穴が穿たれた目で見送った。彼と背中を合わせるようにウルフ・フォレストが着地する。

 

「お前さんが雑魚退治とは、意外じゃのう」

「なあに、俺は尾上の気持ちをくんでやっただけさ」

 

 クラウンの言葉に、ウルフは鼻を鳴らして乱暴に答えた。頭上で行われる二人のやり取りに、尾上が説明を付け加えた。

 

「ボウズの奴には悪いことしちまったからな。今日は特別だ」

「カカカ、奇遇だのう。ワシも似たようなものだ!」

「おいおい、あんたはミソラファンなだけだろう?」

 

 尾上は呆れたように、クローヌに顔だけ振り返った。さっきの、クラウン・サンダーの宣言を聞いていたからだろう。ならば当然の反応だ。

 

「さあてと、こいつらを片づけるか」

「言うておくが、一匹たりとも殺めるでないぞ」

「あ!? なんでだよ?」

 

 今度は首だけではなく、全身で振り返った。とてもではないが、どこかマの抜けたように笑っているこの髑髏は、博愛者にも動物愛護者にも見えない。

 

「ヘビ達は操られとるだけだ。あやつらに罪は無いわい。それに、そんなことしたらミソラちゃんが悲しむ」

「結局そこかよ! っつうか、ヘビのためなら人はどうでも良いっつうのか!?」

「愚か者! そんなことあるわけ無かろう! それこそ、ミソラちゃんが悲しむわい!」

 

 ウルフ・フォレストに指を一本ずつ、計二本立てながら、クラウン・サンダーは自分達がやるべきことを伝えた。

 

「ヘビに手加減しつつ、人を全力で守るのだ!」

「難しいだろそれ! っつうか、できるか!!」

 

 矛盾する二つの事柄を突きつけられれば、誰だってウルフ・フォレストの様に怒鳴る。だが、クラウン・サンダーは静かに首を振った。

 

「確かに、極限に難しい戦よ。じゃからこそだ……」

「ッツ!?」

 

 誤解していたと、尾上はようやく気づいた。クローヌという男は、ただミソラの前で目を輝かせる色ボケの爺さんでは無い。

 

「燃えるじゃろう!! さあ、行くぞ!!!」

 

 クラウン・サンダーは両手を広げるように空にかざすと、その手に三色の光が灯った。

 

「イカクボウガン! トツゲキランス! ハジョウハンマ―!」

 

 紫、オレンジ、緑のオーラを纏った髑髏が両手の間から生まれ出た。それぞれが、パチンコ、ドリル、ハンマーを身につけている。

 

「話は聞いていたな? さあ、かかれい! 戦の始まりじゃ!!」

 

 飛び出して行く三人の部下に続くように、クラウン・サンダーは広場へと飛び出して行った。

 

「ヤレヤレ、元気な爺さんだぜ」

「お前と気が合いそうだな?」

「だな……よっしゃ!」

 

 尾上はウルフの言葉に同意すると、口を大きく広げた。

 

「ハウリングウルフ!」

 

 オオカミの遠吠えを上げる。すると、ウルフ・フォレストの前に、植物と土を思わせる色合いをした三体の狼が召喚された。

 

「やれ!」

 

 掛け声に合わせ、三体の狼は大地を蹴とばした。マムシ達に襲いかかり、咥えては動けなくなる程度に痛めつけ始める。

 

「ウォーロックとの時は使わなかった奴だな?」

「ああ、これで少しは楽になるだろうよ」

 

 前方に目を向けると、クラウン・サンダーがはしゃぐように戦っているのが見えた。

 

「よし、行くか!!」

 

 

 ヘビのジャングルに飛び込んだ二人は、木々をすり抜けて走っていく。まだ中にも取り残された人達が多数見かけられた。残念だが、彼らを助けている時間は無い。ウルフ・フォレストとクラウン・サンダーが広場のヘビ達をかたづけ、こちらにも来てくれることを信じるしかない。彼らに謝罪しながら最奥へと進んでいく。

 

「キャアアアア!」

「ぐ、グアアア!」

 

 男性と女性の大きな悲鳴が聞こえた。声からするに大人のものだろう。最悪の場面を想像し、二人はモニュメントがある広場へと足を踏み入れた。広がる光景を前にして、二人は息をのんだ。

 

「や、止めて!」

「放、せ!」

 

 男性と女性が大蛇に絞めつけられていた。その二人は、紛れもなくルナの両親、ナルオとユリコだった。

 

「もっと、もっとよ!」

 

 二匹の大蛇を操り、狂い叫んでいるオヒュカス・クイーンが大蛇のモニュメントの天辺に立っていた。彼女は、苦しむ両親を前にして目を細めながら高らかに手を上げた。

 

「ルナ!? お、お前、ルナなのか!!?」

 

 オヒュカス・クイーンの声に気付いたナルオがヘビから這出ようともがきながら叫んだ。

 

「そうよ! 私よ……」

 

 ナルオに続き、ユリコも自分達を見下ろすヘビ女を見上げた。

 

「なんで! なんであなたが……」

「……『なんで』……ですって?」

 

 ギュッとレースの下で唇を噛み締めた。

 

「今になっても、まだ分からないの!?」

 

 唇と同じくらい、拳を強く握りしめた。途端に、ナルオとユリコを絞めつけるヘビの力も強くなり、二人のうめき声があがった。

 

「私は、エリートになんてなりたくない! アナタ達の言いなりになるなんて、もう沢山! 心を絞めつけられるのは、体を締め付けられることよりも苦しいのよ!!」

 

 髪から装甲へと変わった二つの縦ロールを振り乱し、ルナはまくしたてるように叫んだ。

 

「私はただ、朝起きたら、『おはよう』って言って。学校に行く時に、『行ってらっしゃい』って言ってもらいたい。家に帰ったら、『お帰り』って言ってもらいたい。ママの手料理を食べて、学校の話とかしたい! 夜はお休みって言ってくれる。そんな暮らしがしたいだけよ!」

 

 拳がギリギリと悲鳴を上げると、二人のうめき声が更に上がる。それぞの大蛇の頭を、緑の光とハートの塊が撃ち抜いた。寝転ぶ二匹から解放されるように、ナルオとユリコは床に転がった。

 

「なに!?」

「止めるんだ、委員長!!」

 

 ロックマンとハープ・ノートはオヒュカス・クイーンの前に駆けつける。ハープ・ノートはナルオとユリコの側に駆け寄り、二人が無事であることを確認した。

 

「ロックマン様!? な、なんで……?」

 

 ふと、下に目を落とした。二匹の大蛇も無事であることを確認しているハープ・ノートに目が止まった。

 

「そんな、ロックマン様まで……」

 

 それは、今日見てきた光景と重なった。冷静な思考のできない彼女はオヒュカスの言われるがままだ。

 

「うああああ! 全部、全部壊れてしまえばいいのよ!!」

 

 狂ったように頭を振り回し、モニュメントの電脳内へと消えていった。おそらく、ヘビ達の動きを活発化させるためだろう。

 

「ロックマン!」

「うん、行こう!」

 

 二人も後を追いかけるため、青とピンクの光へと変わり、モニュメントへと飛びこんで行った。

 ロックマンとハープ・ノートがその場から消え、悲鳴が反響してくる世界で、ナルオとユリコはピクリともせずに横たわっていた。大蛇の横で、なんの動きも見せない二人。ナルオの指が、ひっそりと消え始めた。否、よく見ると、指から粒子が舞い上がっている。ユリコも同じだ。それは徐々に腕、体と続いて行く。数秒後、誰にも知られぬまま、二人は姿を消した。


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