流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/4 改稿


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第八十四話.サプライズ

 扉が開き、屋上へと歩み出ると、そこは子供達の遊び場だった。パンダやキリンを模したグラグラと揺れるだけの乗り物や、人気アニメキャラクター『モワイモン』の銅像が立っており、子供達の童心をくすぐってくれる。

 

「あ! あったよ! スバル君!」

 

 その光景の奥に設けられた四角い展示室が、お目当てのヘビのジャングルだ。壁は主に森林の緑色で塗られ、青色のカエルや赤色のヘビの絵が大きく描かれており、熱帯雨林を連想させてくれる。

 

「ヘビがたくさんいる亜熱帯か……面白いのかな?」

「人が多いから、きっと面白いよ! 行こっ!」

 

 スバルとミソラは何気ない会話をしながら進んでいく。そんな彼らの背後にある階段から、ドドドと機関車のように全速力で駆けあがって来たルナがいた。

 

「ねえ、ヘビ見る前に、モワイアイス食べようよ!」

「また食べるの? お腹壊さない?」

「え、ダメかな? ここのアイス美味しいらしいから、スバル君と食べたかったんだけれど……」

「じゃあ、食べようか?」

「うん!」

 

 アイス売場へと引っ張っられながら、スバルはちょっと背伸びをした。

 

「僕が奢るよ」

「え、そんなの悪いよ」

「これぐらい僕に任してよ」

「そう? じゃあ……」

 

 まだ、お金はたっぷりとある。それに、この後にあれを渡すつもりだ。ちょっと見栄を張っておいた。数分後に後悔した。十段重ねのアイスを幸せそうに抱えるミソラと、泣く泣く一段重ねのアイスを舐めるスバルの絵があった。

 ミソラが食べ終わってから数分遅れて、食べ終わったスバルがコーンの包み紙をゴミ箱に捨てた。その手を、満足げな笑みをしたミソラが引っ張っていく。

 

「さ、行こ行こ!」

「慌てないでよ」

 

 スバルも嬉しそうにミソラの手を握り返し、二人は並んでイベント会場の入り口をくぐる。中に一歩踏み入れると、ムワッとした空気が二人を覆った。

 

「あっつう……」

「何これ~。蒸しあつ~い……」

「あ、ミソラちゃん、この看板見て。ヘビが住む環境に合わせてるって」

「ジャングルだからかな?」

「そうだろうね」

 

 所狭しと辺りに立ち並ぶ樹木を見上げると、チロチロと舌を出している赤色のヘビが木の葉の影から出てくるのが見えた。

 

「あれがマムシなのね……」

「ここにいるヘビは、毒を持ってるやつばかりみたいだよ」

 

 スバルが案内看板の文字を指で追いながらミソラに説明した。

 

「本当!? 恐いな~。スバル君、噛まれたら毒吸い出してね?」

「え!? 僕が!!?」

「もちろんだよ」

 

 噛まれたミソラの毒を吸い出す。想像してすぐに顔を横に振った。

 

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ?」

「……そう? それにしても、ほんと暑いね?」

「確かに、上着乾かした意味無いな」

 

 呟きながら、スバルは上着を腰に巻きつけた。

 

「あはは、でも、そっちも似あってるよ?」

「ほんと?」

 

 ミソラに振り返ったスバルの動きが止まった。ミソラが上着を脱いだところだった。首筋が空気にさらされ、汗がミソラの白い肌を魅惑的に照らしていた。首元を伝う汗を見てゴクリとつばを飲み込んだ。

 

「どうしたの?」

「いや! なんでもないです!!」

 

 首を傾げながらも、ミソラはノースリーブの上着をポーチの中にしまった。それを横目でチラリと見ながら、スバルはちょっとだけ自己嫌悪した。

 

「僕って、エッチなのかな?」

 

 そんなことを考えながらも、ミソラの首元や太ももへと視線を泳がせてしまう。

 

「さ、ボディーガードしてね?」

「あ、うん……」

 

 手を握ると、先ほどまでと違い、汗でびっしょりと濡れていた。ミソラは七部袖をまくっているため白い腕が露出している。その分、汗の香りがスバルの理性を揺さぶってくる。

 

「えっと……素数素数! 1、2、3……5……」

 

 ちなみに、1は素数では無い。最初から間違えている。互いに動揺を抑えられぬまま、スバルとミソラはマムシ達を見て回る。色とりどりのマムシ達は、青や黄色に紫、黒い体に白い斑点模様などをくねらせ、二人の目を楽しませてくれる。

 嫌悪されることの多いマムシだが、これだけ色や種類がそろうと展示品として立派な役目を果たしてくれていた。

 

「へぇ、このヘビ達、チップで制御されてるんだ」

「どういうこと?」

 

 スバルに比べれば、機械や電気に関する知識の乏しいミソラが尋ねた。

 

「ヘビの体内に制御用チップを埋め込んでるんだよ。電波で制御しているから、人を襲わないし、会場からも出ていかないんだって」

「ほほう! スバル君はそんなことまで分かっちゃうんだね?」

「ま、まあね! これぐらい任せてよ!」

「頼りにしてるよ?」

「うん、任せてよ! 男だもん!!」

「フフッ」

 

 ドンと胸を叩き、ミソラの笑みを受けたスバルは、照れくさそうに展示品に目を移した。

 飛びこんできたのは青白い影。半透明なそれを見て、スバルの世界が止まった。時間にすると長針が一歩進んだ程度だろう。だが、この間にスバルの世界は大きく時間を飛び越えた。目の前にいるそれは、全力で否定してきた存在だった。

 

「バァ!」

「ぎぃぃぃやゃぁぁぁあああああああああああっ!!!!!」

 

 制御されているはずのヘビ達が慌てふためき、木陰へと飛びこんだ。その中央で、ミソラは真っ赤で困った顔をしていた。なぜならば、スバルの両手が交差し、その中に自分がいるからだ。だが、ミソラがスバルに抱き締められているのではない。

 

「こら、そこは逆であろうが!?」

「なんとも、情けない男じゃのう」

 

 スバルがミソラに抱きついているのである。ガチガチと歯を鳴らせ、全身を恐怖で震わせているスバルを見て、青白い半透明の影とその隣の白い塊は冷たい目をしていた。

 その二人を見て、ミソラはあっと口を開いた。

 

「クローヌさん、クラウンさん?」

「ボンジュール! ミソラちゃん!」

「ミソラちゃん! お久しぶりじゃ!!」

 

 パァッと白と黄色の花を咲き乱らせるおじいちゃん二人に、ミソラは懸命に作り笑いを浮かべた。ファンの存在は心から感謝しているが、この二人のテンションを前にするのはやっぱり辛い。

 

「ポロロン、相変わらずお熱ね。体に触るわよ」

「なんの! こちとら生涯現役のミソラちゃんファンじゃ!」

 

 ハープとクラウンのやり取りを見ながら、呆れた顔でウォーロックも話に参加した。

 

「まったく、聞いたぜじいさん。ファンクラブの話。いい年こいて、なにやってんだよ」

「良いじゃろうが! 年齢なんぞに、ワシらのミソラちゃんLOVEを止められてたまるか!!」

「いや、年齢は考えようぜ?」

 

 異星人同士の会話の横で、ミソラは今も子猫の様に怯えているスバルにクローヌを紹介した。

 

「わ、悪い幽霊じゃないんだよね!? 霊界に引きずり込んだりとかしないよね!?」

「大丈夫だよ、スバル君。私達の味方だから」

「本当に!? そうやって騙して……僕の魂を……」

「ぶれいもの! ワシが興味あるのは、戦とミソラちゃんだけであるぞ!」

 

 どれだけ幽霊に対して恐怖を持っているのだろうと、ミソラとクローヌはめんどくさそうに誤解を解こうとする。

 最初からついて来ていたルナは、現在イライラと目を吊り上げていた。ちょうど、ルナの位置からは木が邪魔になってしまい、クローヌ達の姿が見えない。スバルがミソラに抱きついているようにしか見えないのである。

 

「あいつ! 人が見てないからって……明日、覚えときなさいよ……」

 

 白くて細い指から、ボキリと暴力的な鈍い音がした。

 一方、ようやく誤解を解いたスバルは恐る恐ると、ミソラの背中から出てきた。クローヌの前に立ち、もう一度全身をくまなく観察する。ずっと、泣いたように怯えているのは言うまでもない。

 クローヌはやれやれと頭に片方の手を当てながらため息交じりに話しだした。

 

「この前、ワシらはミソラちゃん達に申し訳ないことをしてしまった。お詫びに、『キャッ』なイベントをと思ったのだが、失敗であったな」

「あ、そんなの気にしないでください」

 

 笑顔で答えるミソラが逆に痛い。苦笑いしたり、冷たい目でも向けてくれた方がよっぽど楽だ。

 

「それでは、デートのお邪魔をしてはいかぬから……ワシらはこれで」

「ミソラちゃん、幸せにの?」

「もう! そんなんじゃないですってば!」

 

 クローヌとクラウンに手を振り返すミソラの言葉が辛い。さっきの自分の言葉を思い出すと、目頭が熱くなってきた。

 見送ったミソラは、そんなスバルの肩にポンと手を置いた。

 

「誰にでも、苦手な物ってあるよね。私もムカデとか苦手なの」

「あ、ああいうのダメなんだ」

「うん、足が多い虫はダメなんだ。爪先から背筋がゾッとしちゃうの」

「ああ、分かる。僕もゴ……」

「ダー! 言わないで!」

 

 スバルの言葉は、ミソラの悲鳴と手で塞がれた。

 

「あ、これもダメ?」

「ダメ! それは女の子前じゃタブーだよ!」

「ご、ごめん」

「良いよ。気をつけてね?」

 

 元気にウィンクしてくれるミソラに笑い返し、スバルはミソラとふたたび歩き始めた。


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