流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/4 改稿


第八十三話.103デパート

 気まずい時間が終わり、二人は談笑に戻っていた。ミソラが音楽の通信教育を受けたことにより、独学では学べなかったことを話題にした。次に、スバルが学校での生活を話す。

 

「ドッチボールでね、僕ってエースなんだよ!」

「エースなんだ! 流石ヒーロー!!」

「ま、まあね!」

 

 後頭部をポリポリとかきながら、澄まして見せる。多分、クールに振舞ってるつもりなのだろう。

 スバルの些細な仕草に、ルナは持っていた紙コップをぐしゃりと握りつぶした。その隣には、サンドイッチを包んでいた包装紙が丸められている。アイスティーのおかわりを買いに行きたいが、行列に並んでいる間に、この二人を見失うのはしゃくだ。

 

「もう一人のエースがゴン太なんだけれど、毎日宿題忘れてくるんだよ」

「そして、委員長が鬼みたいに怒るんだね」

 

 あのモヤシは自分のことを鬼と言ってミソラに教えているらしい。自覚しているし、自分のそんな部分は長所だと思っている。直すつもりも一切無いが、無性に腹が立った。一体いつからスバルはミソラと関係をもったのだろうか? 二人の笑い声が、ルナの嫉妬の炎を燃やす薪になり、その姿を更に大きくさせる。

 そもそも、この二人はいつまでここに居座っているつもりなのだろう? かれこれ一時間はたっており、空いていたはずの広場のベンチは人がごった返している。食事を終えているはずの二人は、呑気に談笑中だ。こう言う時は、これから昼食を食べたい人のために席を譲るべきだろう。普段の真面目で礼儀正しい二人なら、すぐに席を立っていたはずだ。だが、今は互いの話しに夢中になっており、周りが見えていない様子だった。無論、一人で二人掛けのテーブルを占領しているルナも同じなのだが。

 ちなみに、ウォーロックとハープは疲れが出てきたのだろう。それぞれのパートナーのトランサーで休んでいる。そのため、ルナの存在には気づいていなかった。

 

「劇じゃあ、主役やったんだよね?」

「そうそう、ロックマン役だよ」

「どんな台詞言ったの?」

「どんな? う~んと……」

 

 思考を巡らせる。思い浮かんだのはあの台詞だ。姿勢をただし、じっとミソラを見つめる。

 男らしいその瞳に、ちょっとドキッとしながらミソラも姿勢をただした。

 

「君は僕が守るよ」

 

 役に入りきっているのだろう。台詞を決めながら、手をミソラに差し伸べるように向ける。

 

「か……かっこいい……!」

「そ、そうかな!? アハハハハ」

 

 うっとりとした目で感想を言うミソラに、スバルはドキリと胸を躍らせた。抑えきれない照れが背中を駆け抜け、スバルは必死に首の根元を抑えた。しかし、表情というのは正直だ。鼻の下が情けなく伸びてしまっている。

 

「なによ、私の時とずいぶん違うじゃない!」

 

 自分だって、劇が終わった後に同じ言葉をスバルに投げかけたのである。にも関わらず、この反応の違いである。ルナの顔の周りには黒い影が隠れて表情は見えない。替わりに、双眼が野生の獣の様に白く光り、ギザギザの牙がギラリと瞬いた。

 

 

 スバルの服が渇き、二人はようやく本来の目的地にたどり着いた。103と大きく数字が描かれたビルに、二人は人混みに紛れて中へと入って行った。

 

「この服かっこよくないかな?」

「いや、僕に言われても」

 

 ミソラが指差しているのは女性用のスカートだ。今日、ミソラが穿いているひらりとしたミニスカートと違い、キュッと引きしまったタイプのものだ。マネキンに着せられた服の組み合わせは大人の女性という雰囲気が醸し出されている。

 

「良いな~。私もいつかこんな大人っぽい服、着てみたいな~」

「充分大人っぽいオシャレをしていると思うよ」

「全然。まだまだだよ。スバル君はお世辞がうまいね~?」

「本心なんだけどな」

「ウフフ、照れちゃうな~」

 

 スバルとミソラはクスクスと笑いあう。途端に、103デパートの中まで追いかけてきた衛星が、口の下にびっしりと並んだ牙の間からフーッと白い息を吐いた。

 

「ところで、今日は何を買いに来たの?」

「決めてないよ。適当に見たかったの。もちろん、欲しいものが合ったら絶対に手に入れるけれどね!」

「そうなんだ」

 

 その言葉を聞き、スバルはふとあることを思いついた。

 

「ごめん、ちょっと化粧室」

「うん、行ってらっしゃい。ここで待ってるね?」

 

 ミソラに手を振り、スバルはその場を離れた。見守っていたウォーロックとハープも、互いに別れてそれぞれのパートナーの元へと駆け寄る。

 

「ちょっとトラブルもあったけれど、順調ね」

「うん、ただ……買い物終わった後も、スバル君付き合ってくれるかな?」

「大丈夫よ。それに、きっと脈有りよ?」

「や、止めてよ、ハープ!」

 

 口元に両手拳をあてて小さく首を横に振る。それをスバルの前で見せればイチコロだと、ハープは呆れて笑った。

 そして、そんなミソラをじっと見ているのがルナである。

 

「スバル君は戻ってくるはずよね? 見逃さないわよ……」

 

 

 一方、スバルは個室に入るとトランサーを開いた。ピュンと戻って来たウォーロックがディスプレイ内で姿をあらわにする。

 

「ロック、電波変換お願い!」

「なんか企んでるな?」

「まあね。お願い、ちょっとだけ!」

「しょうがねーな。行くぜ?」

「うん! 電波変換、星河スバル、オン・エア!」

 

 青い光が個室から天井を突き抜け、ウェーブロードに沿って走って行った。そんな小さな光は誰の目にも止まることはなかった。

 

 

「尾上さん!」

「あ、どうしたボウズ?」

 

 目の前に現れたスバルを見て、遅めの昼食を食べていた尾上が、カウンターから立ちあがった。手に持っているのは、彼には全く似合わない花柄のお弁当箱だ。どうやら、ヒメカお嬢様の手作り弁当らしい。一時前に昼食をとっている理由は、接客で忙しかったからだろう。そんな尾上に大した返事もせず、スバルは一つの棚に駆け寄った。

 

「あれ? ミソラは一緒じゃないのか?」

「ミソラちゃんには待っててもらってるんだ。すぐに行かなきゃ! って、どこだっけ?」

 

 棚を間違えてしまったらしい。別の棚に駆け寄る。

 

「欲しいもんがあるなら、さっき買ったら良かったじゃねえか?」

「女の前じゃ買えないものだってあるんだよ。プレゼントとかな」

 

 ウルフの疑問に、尾上が答えた。

 

「ボウズもそんなところだろ?」

「うん、やっぱり、『欲しい物があったら、ちゃんと手に入れておかないと!』って思ってね?」

「そうだな。買いそびれると後悔するしな」

「もちろん、買う物もそうだけれど……」

「あ、あったぜ、スバル!」

 

 尾上の言葉に頷きながら棚に目を凝らしていたスバルは、ウォーロックの言葉で言いかけていた言葉を飲み込んだ。駆け寄ると、お目当ての物があった。どうやら、最初の棚で合っていたらしい。

 

「これください!」

「あいよ!」

 

 尾上が手早くレジを通し、オシャレな包装紙に包んでスバルに手渡した。慣れないと言いながら、しっかりと勤めを果たしているらしい。

 

「頑張れよ!」

「はい、ありがとうございます!」

 

 その場でスバルは電波変換し、ミソラの元へと急いだ。

 

 

「お待たせ!」

「別に待ってないよ」

 

 電波変換を使ったため、スバルがミソラを待たした時間はほんの五分ほどだ。この力の便利さに改めて感心しながら、スバルはミソラと次のお店へと歩き出した。もちろん、衛星はしっかりと二人の周りで回っている。

 二人は服を見たり、店の端っこに置いてあるバトルカードトレーダーで遊んでみたりと、有意義に時間を過ごしている。バトルカードを数枚入れたスバルは、引き換えに出てきた一枚のカードを見てがっくり肩を落とした。大したカードじゃなかったらしい。

 

「元気出そうよ。次は良いことあるよ」

「……だよね?」

 

 ミソラに励まされて笑みに戻した。ミソラに励ましてもらえるのなら、この結果も意味あるものだと思えた。

 

「よし、もう一度……」

「そろそろ、別のお店行きたいな」

「あ、ごめん。行こうか」

 

 ミソラは小さく笑いながらスバルの手を引いた。デパートの中も、人がたくさん行き交っているからだ。

 

「いちいち手を繋ぐんじゃないわよ!」

 

 手を繋ぐ二人を見て、衛星が炎を滾らせた時だった。軽快なチャイムと共に、アナウンスが流れた。

 

――本日は、ご来店ありがとうございます――

――当デパートでは、現在、お客様への催しとして、屋上でイベントを行っております――

――今回のイベントは、世界中のヘビを集めた亜熱帯ジャングルの体験コーナーです――

――ぜひ、お立ち寄りください――

 

 

「聞いた? 面白そうじゃない?」

「ヘビのジャングルか。変わってて面白そうだね?」

 

 ミソラの言葉に、スバルも乗り気だ。早々に二人はエレベータへと向かっていく。一方、今回のルナはすぐに追いかけようとはしなかった。

 

「このイベントって……確か、パパとママが手掛けてたはず……」

 

 イベント会場に行ったら、両親と鉢合わせするかもしれない。もし、そうなったらと考えると、足がためらった。

 もう一度二人を見ると、エレベーターに乗り込むところだった。手を繋ぎ、楽しそうに笑っている二人を見て、ルナの決心は固まった。

 

「行ってやろうじゃないの……!!」

 

 白金ルナ。一度暴走すると、留まるところを知らない女の子である。


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