流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第八十一話.いらっしゃい

 びしょ濡れになってしまった服を乾かすにも、五月の太陽の力では不十分だ。やむを得ず腰に巻いておいた。

 

「ごめんね、スバル君。私のせいで……」

「気にしないでよ。ミソラちゃんが濡れなくて良かったよ」

「ウフフ、私が濡れなくて良かったんだ?」

「え?」

 

 意味ありげに笑うミソラを見つめながら、言葉の意味を探して行く。意味を察し、赤くなった顔を必死に横に振る。

 

「ちょ! 僕、そんな趣味無いから!」

「キャハッ! 冗談だよ、冗談」

 

 意地悪く笑って見せるミソラに肩をすくめるように笑って見せる。だが、ミソラに聞こえないように、小さく舌打ちもした。

 

「あ、このお店可愛い! ねぇ、入ろうよ?」

 

 ミソラが目に止めたお店には、花やウサギといった絵が描かれた、可愛らしい看板が掲げられている。窓から見える品々を見るとアクセサリー類を扱っているお店のようだ。

 

「かわいいお店だね。僕も見てみたいな」

「じゃあ行こっ!」

 

 スバルの手を掴み、ミソラは無邪気にお店に飛び込んだ。入ると、そのすぐ左隣にカウンターがある。そこに座っていた店員が気づき、二人に頭を下げた。

 

「いらっしゃいませ」

「こんにち……は……」

「あれ?」

 

 スバルとミソラの微妙な対応に店員は違和感を覚え、頭を上げた。

 

「あ……」

 

 三人の表情が固まる。その店員は、スバルとミソラも知っている人物だったからだ。

 

「尾上さん!?」

「あ、ああ……ボウズとミソラか……」

 

 そう、店員の正体は先日、ウルフ・フォレストとしてスバルと激闘を繰り広げた尾上であった。

 

「って言うか……」

 

 今の尾上を見て、スバルとミソラは顔をひきつらせた。今の尾上は先日の職人の作業衣では無かった。お店の雰囲気に合わせ、ピンク色のフリル付きエプロンを身につけており、水色の斑点柄のリボンで髪をまとめている。

 二人はスッと足を一歩引いた。

 

「引くなよっ! せめて笑ってくれ!!」

 

 今の尾上に、一昨日のワイルドさは微塵もなく、小学生二人に泣きつく哀れな青年だった。

 

「っていうかよ、なんでお前ら店番なんてしてんだ? ぐ、グギャハハハハハ!!」

「ウォーロック! てめえは笑うなっ!!」

「今、尾上が笑えっつたろうが! ギャハハハハ!!」

 

 抑えきれずに大爆笑しているウォーロックに、ウルフが掴みかかる。そんな二人を、ハープは汚いものを見るような目で見ていた。

 

「……あ、あの……どうしてこんなところに?」

 

 ミソラが状況打開のために尋ねると、尾上がメソメソと泣きながら答えた。

 

「俺の雇い主のヒメカお嬢様がよ。『友人が一日店を留守にするから、代わりに店番やってください』って頼んで来たんだよ。で、このありさまだ」

「明らかに人選ミスだろ」

 

 ウォーロックがもう一度尾上を見て、プククと笑いだした。ウルフも肩をすくめる。

 

「俺もそう思う」

「他にいなかったの?」

「だから、尾上に回って来たんだろうよ」

「だからって、似合わなさすぎだろ! ギャハハハハ!!」

 

 異星人三人の会話を聞き、尾上はスッと立ちあがって店の奥にすっ込んだ。どうやら心に傷をつけてしまったらしい。

 

「ミソラちゃん、何も見なかったことにしようか?」

「うん、そうしてあげよ」

 

 おぞましい尾上を脳内から消し、ミソラは店内を見渡す。

 

「かわいいものがいっぱいあるね? 見てみようよ?」

「うん、そうしよう」

 

 店内には様々なアクセサリーが並んでいる。腕に巻くチェーンや、ベルトにつける物もある。ミソラがふと目にとめたのはペンダントだ。二つで一つになる、カップルが身につける物だ。こっそりと隣を窺うと、スバルは別の商品を手にとって見ている様子だった。

 「これ欲しいな」というだけで、スバルならこのペンダントを買ってくれるだろう。だが、言いだすのも、二人で身につけるのも恥ずかしい。そんな事をスバルに強いるのも悪い気がする。それに、スバルはすでに流れ星のペンダントを首から下げている。ならば、買ってもらうとしたら、このようなカップルが身につける物ではなく、普通のオシャレなペンダントがベストだろう。結局、このペンダントは元に戻しておいた。

 スバルはあるペンダントを手に取っていた。ハート型のペンダントだ。ハープ・ノートの胸にあるシンボルマークはハート型だ。ミソラへのプレゼントとしてちょうど良いと考えたのである。しかし、やっぱりプレゼントなんて恥ずかしい。結局、棚に戻しておいた。

 その時、ちょうどミソラのお腹がクゥッと可愛らしく鳴った。唇をギュッと結び、赤くなった顔を隠しているミソラを見て、クスリと笑って提案した。

 

「ちょっと早いけれど、食事に行こうか?」

「うん、お腹減っちゃった!」

 

 ミソラもはにかみ、頷きあった二人は店を後にしようとする。

 

「あ、ちょっと待ってくれ」

 

 店の奥から尾上が出て来た。あの格好は止めており、青いエプロンをつけている。リボンはもちろん無い。

 

「お嬢と、この店を経営しているお嬢の友達が、ミソラの大ファンなんだ。サイン貰えねえか? 後、このお店、『響ミソラが立ちよった店』って宣伝して良いか?」

 

 意外と周りに気がきくらしい。ミソラは快く了承し、二枚の色紙にサインを施した。そして、お店に飾るために、ちょっと大きい色紙を用意してもらい、サインを書いておいた。

 

 

 休日のお昼時は人がアリのようにレストランに群がって行く。並ぶのが嫌なので、外でも良いからお昼を軽く済ませる人達もいる。そんな人達が集まるのが、屋台が立ち並ぶ広場である。おにぎりやホットドックと行った軽いものから、本格的なお弁当を売っているところもある。スバルとミソラが訪れた広場では、真ん中でグルグルとドでかいモワイ象が回っていた。なんでも、ここもヤシブタウンのスポットらしいが、恐くて近づけない。離れた場所にあるベンチに座り、二人は買って来たハンバーガーを広げる。

 

「いただきます!」

「いただきます」

 

 丁寧に両手を合わせて食べ始めるミソラに釣られ、スバルも両手を合わせた。小さい口でハンバーガーに齧り付き、ミソラは幸せそうな笑みを浮かべた。

 

「おいしいね、スバル君?」

「うん、このハンバーガーもおいしいよ!」

 

 スバルも笑って返すが、美味しい以外にもう一つ理由がある。頬にケチャップをつけたミソラがかわいいからだ。笑って頬を指差すと、ミソラも気づいて拭った。一連のちょっと慌てた仕草に、スバルは可愛いと小さく呟いた。ちなみに、隣の席で二人を見ていた20代前半くらいのカップルがそれを見ていた。

 

「カワイイ、あの二人」

「お似合いって奴だね?」

 

 それを聞いていたハープがガッツポーズをとっていたのは言うまでもない。だが、ハープは同時に不安に胸を詰まらせていた。ミソラが一足早く食べ終えたのである。すさまじい胃袋を持つミソラがこの程度の量で満足するわけがない。朝食をたくさん食べてきたが、このままお昼ご飯をおかわりしてしまうのではないかとはらはらしながら見ていた。だが、ミソラだって分かっている。ここで更に食べるのはタブーだ。だが、グーッと、健康的な空腹音が大きくなった。

 

「あはは、ミソラちゃん物足りないの?」

「あ……うん、ちょっとね」

「買い物はこの後でしょ? ちゃんと食べとかないと大変だよ。」

「でも……」

 

 不安げに面を上げると、優しいスバルの笑みに射抜かれた。

 

「もう少ししたら、ここも混み始めちゃうよ? 待ってるから買っといでよ」

 

 これがトドメだった。ミソラは嬉しそうに立ち上がり、ある屋台へと歩き出した。ミソラが来るまで待とうと、スバルはゆっくりとハンバーガーを口に運び、味わうようにパンと肉を噛み砕く。

 食べ終わったころに、ミソラが帰って来た。

 

「お待たせ!」

「…………」

 

 お帰りの返事が無い。当然だ、ミソラはこれから宴会でも開くつもりなのかというほど大量の食料を抱えて来たのだから。

 

「……な、何買って来たの?」

「えっと、サンドイッチとホットドック三種類に、おにぎりも五種類くらい。お弁当はカツ丼に焼きそば。あ、カレーライスもあるよ。スバル君好きだよね。食べる?」

「……いや、僕はもういいや」

「そう? じゃあ、ちょっと待っててね?」

 

 そう言いながら、カツ丼の蓋を開けて中身を頬張った。スバルは目の前から立ちあがる匂いの大軍に胸を掴んだ。ちなみに、隣で見ていた若いカップルはアングリと口を開いていた。だが、スバルと同じく胸やけしたのだろう。早々に立ち去って行った。




 尾上さんで遊び過ぎたw けど、後悔してません!

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