流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第八十話.噴水のイタズラ

 おもちゃ屋さんから飛びだした二人はフゥと大きく息を吐いた。

 

「な、なかなか逞しい女の子だったね?」

「うん、ちょっと意外だったよね……ママと一緒だったからかな?」

「……ミソラちゃん……」

 

 遠く、この世界に無い物を見る目をしているミソラを覗き見る。ミソラも気がつき、慌てて話題を振った。

 

「そういえば、スバル君のお母さんってどんな人なの? メールでしか知らないんだけれど……」

「あ、写真あるよ? 見る?」

 

 ウォーロックが慌てて「止めろ!」と、止めようとしたが、遅かった。スバルは満悦の笑みと共にトランサーを開いた。ミソラに見せるように、写真フォルダを開く。そこには、「母さんの写真」と書かれたフォルダがある。それを更に開くと、バァッと画面いっぱいに細かい写真が並んでいく。

 

「これが、母さんだよ。近所で美人って評判なんだ!」

「う、うん、すごい美人だね?」

「だよね!? ゴン太やキザマロなんか、顔赤くしてるんだよ!! で、こっちが、僕を生んでくれてすぐの母さん。若いでしょ!?」

「……うん……若いね……」

 

 興奮してしゃべるスバルに、ミソラは顔をピクピクと引きつらせた。流石の元アイドルでも、この動揺を隠せないらしい。自分も、母親に強く依存していると自覚している。しかし、スバルほどではないと断言できる。

 ウェーブロードの上で、ハープは冷たい眼差しをスバルに向けていた。

 

「スバル君って、マザコンだったのね?」

「それも、重度のな……」

 

 二人の重いため息が漏れた。

 どうしようとミソラは考えていた。隣では、スバルが今も母親自慢をしているが、いちいち相手にはしていられない。何か話題を逸らせるものが無いかと顔をスバルに向けながら目を辺りにチラつかせる。ちょうどいい物に目がとまった。

 

「あ、噴水だよ! 行こう!」

「え? あの、この母さんの……」

「行こっ!!?」

 

 母のドレス姿を自慢しようとするスバルを無視して、強引にスバルのトランサーを閉じ、手を引っ張った。階段を駆け上り、広場の中心で水を吹いている石の彫刻の側に立つ。

 

「う~ん、涼しい!」

「うん、爽やか~!」

 

 飛び散る水しぶきの、くすぐったい冷たさに手をかざして、片方の目を瞑る。隣を窺うと、体を縦に伸ばし、水の道に描きだされる太陽に微笑むミソラがいた。不規則に舞い散る細かい水の粒達はガラス玉のように煌き、ミソラの体を優しく撫でる。日の光に祝福されるように微笑む姿に、スバルはごくりと唾を飲んだ。

 

「……妖精……」

「うん? 何?」

「え!? あ、何でもないよ!?」

 

 日と水の妖精に振り向かれ、スバルは目を反らしてごまかした。「見惚れてました」なんて言えない。

 二人を冷やかすように、噴水が水の勢いを増した。時々起こるサプライズだ。近くで遊んでいた子供達が慌てて逃げ、いち早く気付いた30前後のカップルが噴水から脇目もふらずに駆けだした。しかし、噴水の目の前で、互いに余所見をしていたスバルとミソラは気付くのが遅れてしまった。ミソラがハッと前を見ると、一本の水のラインが自分に向かって手を伸ばしていた。

 

「キャア!」

 

 とっさに身をかがめ、手を前に突き出す。しかし、形の無い物を止められるわけが無い。次の瞬間に飛びかかってくる冷たさに身をこわばらせた。

 

「え?」

 

 冷たいより早く、温かいがミソラの体を包んだ。頬には、がっしりとした逞しさが押しつけられる。バシャリと音が鳴るが、ミソラにかかった水はほんのわずかだった。

 

「大丈夫、ミソラちゃん?」

 

 屈んだ体を戻さずに見上げると、スバルの顔がそこにあった。

 

「あ、ありがとう」

 

 庇ってくれたスバルの胸に両手を添えていた。細いと思っていたが、スバルは男の子だ。育ちかけの体は自分と違って、がっしりとしている。

 スバルは動揺していた。庇うためとは言えど、ミソラを抱き締めてしまったのである。おまけに、その体はふんわりとして柔らかく、髪からは甘くて良い香りがする。女の子とこれだけ接近したのは多分初めてだ。

 二人の体についた水滴が、ジューっと白い帯を上げて蒸発していった。

 それを見て、爆笑しているやつが一人。

 

「ギャハハハハ! スバルとミソラのやつ! オックスみてえに赤くなってやがるぜ!」

「ちょっと! スバル君はともかく、ミソラをあの下品な牛と一緒にするんじゃないわよ!」

 

 オックスがあまりにもかわいそうである。今頃、頭に金のワッカをつけたオックスが「ブルル」と泣いていることだろう。

 

「大体、アナタは根本的に下品なのよ! オックスと同レベルだわ!」

「なんだと! 俺をあんな単細胞と一緒にするんじゃねえよ!」

「充分単細胞よ! 単細胞で牛細胞!」

 

 二人とも、一度オックスに謝罪すべきである。そんな二人の横を二つの影が通りかかった。

 

「やれやれ、人間界の子供カップルもお熱いけれど、こっちの二人もお熱いね?」

「あら? 私達が一番熱いわよ!?」

「そうだね、ハニー」

 

 二つの影のうち、一人はデンパ君。もう一人は赤いラインを施され、スカートを履いた電波ちゃんだ。最近デンパ君の対となる存在として普及し始めた女の子である。

 デンパ君が何気無く、正面から右斜め下に視線を映すと、とんでもない物が目に入った。

 

「……ちなみに、あっちもアツイよ?」

「どれどれ……ええ、恐いくらいだわ……」

 

 その先では、怒りのボルテージが限界寸前なのだろう。体から業火を立ちあげている少女が、噴水とは逆方向に向かって歩いていた。

 

「ス~バ~ル~く~ん~!! どこに消えたって言うのよ!!!」




 流ロク3で、スバルが母親の写真を持ち歩いているときはびっくりしました。ちなみに、OSSでは熱斗君も母親の写真持ち歩いて、お互いに見せ合いをしていました。

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