流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第七十九話.迷子

 適当な場所で電波変換を解いた二人は街中を歩いていた、103デパートに行く前に、適当にぶらついてお店に入るつもりだ。ウェーブロードの上では、ハープが見守っている。ウォーロックは様々な物を見て興味を示してあちらこちらへとせわしなく動いている。その度に、ハープがウォーロックを無理やり連れ戻している。

 

「あれ?」

 

 ミソラの目が会話をしていたスバルから前方へと固定された。

 

「どうしたの?」

「女の子!」

 

 駆けだすミソラに首を捻りながら追いかける。すると、道路の端にあるベンチに座って、シクシクと泣いている4,5歳くらいの女の子がいた。

 

「どうしたの? 大丈夫?」

 

 レースのハンカチを取り出し、顔を上げた女の子の涙を拭ってあげる。

 

「ありがとう、お姉ちゃん」

「どうして泣いてたの?」

 

 ふわりと笑って尋ねると、少しずつしゃべりだした。

 

「あのね、パパとママと、お買い物に来てたの」

「迷子になっちゃったんだね?」

「うん」

「そう、一人で頑張ってたんだ。偉いね」

 

 女の子をあやしながら、よしよしと小さい手を握ってあげる。「優しいな」と思いながら、スバルもしゃがんで女の子の頭を撫でてあげる。

 

「どうしよう? ミソラちゃん?」

「決まってるよ! この子のパパとママを探してあげよう!」

 

 ここで、「買い物は良いの?」と尋ねるのは野暮というものだろう。ミソラが買い物よりもこの女の子を優先する子だと言うことを、スバルも分かっている。

 

「お姉ちゃん達も探してくれるの!?」

 

 パァッと顔を明るくさせる女の子に、ミソラとスバルはにっこりと笑って見せた。

 

「うん、だいじょうぶだよ。私達が探してあげるから!」

「パパとママは、どんな格好してるの?」

 

 スバルは女の子から両親の特徴を聞き出すと、それをトランサーにメモした。

 

「じゃあ、探しに行こうか?」

「うん、行こっか?」

 

 女の子は、手を出してくれた二人に嬉しそうに飛び付いた。スバルは左手を、ミソラは右手を掴み、少女と並ぶように歩きだす。

 

「あ、どうしよう?」

 

 ミソラは二人に聞こえないほど小さい声で呟いた。女の子の両親を探すにしても、どこから探せばいいのだろう? 闇雲に探しても、この大都会から探し出すのは難しい。

 悩んでいるミソラの隣で、スバルが質問を口にした。

 

「最後に、パパとママと入ったお店はどこ?」

「えっとね……おもちゃがあるお店」

「じゃあ、そこに行ってみようか?」

 

 女の子の答えを聞き、スバルが自然と最初の目的地を決めた。

 

「ありがとう、スバル君。頼りになるよ」

「そうでもないよ。一番頼りになるのはあの二人だよ」

 

 あの二人でミソラは察した。ハープとウォーロックのことだ。

 

「先におもちゃ屋さんに行って、探してもらってるよ」

 

 胸ポケットにあるビジライザーをかけながら空を見上げると、スバルがメモしたデータを片手に、ウェーブロードを駆けていくウォーロックとハープが見えた。おそらく、最も効率の良い方法だ。

 

「やっぱり、頼りになるよ」

「そう?」

「そう! ウフフ」

 

 間に挟まれた女の子は軽く笑いあう二人を交互に見て、ニコッと表情を緩めた。

 

「どうしたの?」

「ううん、なんだかね……」

 

 少し、勿体ぶった女の子が笑って言った。

 

「パパとママに挟まれてるみたい」

「パパと……」

「ママ?」

 

 二人が顔を見合わせる。途端に恥ずかしくなり、二人はバッと前を向いた。

 

「あれ? お兄ちゃん、お姉ちゃん、オテテが熱いよ?」

 

 その言葉に、二人は更に手を熱くした。ちなみに、その三人の姿を見ていた影が上空にあった。

 

「か、可愛い……」

「子供の夫婦……」

「破壊力抜群です……」

 

 最新式にバージョンアップされたデンパ君達はプスンとショートし、次々に倒れて行った。その近くで、メールを送れずに首を傾げている女性の姿があった。

 そんな彼らの横に設けられている四車線の道路を、大きなコンテナを担いだトラックが走って行く。その反対側では鬼が髪を振り乱していた。

 

「あの二人……どこに行ったって言うのよ!?」

 

 シルクのような金色の髪束が逆立ち、持ち上がる様を、触らぬ神に祟り無しと、通行人たちが避けて行った。

 対し、スバル達は平和だった。途中で女の子にソフトクリームを買ってあげ、ミソラが手を繋いで歩いて行く。

 

「おいしい?」

「うん、お兄ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 振り返って丁寧にお礼を言う女の子に、笑って手を振りながら、スバルは二人を後ろから眺めるように歩いて行く。それから幾つか角を曲がれば、おもちゃ屋さんの黄色い看板が見えて来た。そこで、スバルの左手が騒がしくなった。

 

「どうだった?」

「いたぜ。それっぽい若い夫婦だ」

「ありがとう。ナイスだよ、ロック、ハープ」

「どういたしまして。ポロロン」

 

 ミソラとアイコンタクトをとり、ソフトクリームを食べ終えた女の子の手を優しく掴んだ。

 大手おもちゃ販売店に入り、迷子センターに足を運ぶ。すると、すぐに店員に案内された若い夫婦が駆けよって来た。女の子を見つけると、その子の名前を大きく叫んだ。

 

「パパ! ママ!」

 

 女の子も駆け寄る。スバルとミソラと一緒にいる間も、やっぱり寂しかったのだろう。その目から涙が零れ始めた。母親が女の子を抱きしめ、父親が頭を撫でてあげる。

 その様子を、ミソラはにこやかに、しかし、少々の憂いを込めて眺めていた。ふと、手が温かくなる。スバルが手を握ってくれていた。

 

「ありがとう、スバル君」

「お安い御用だよ」

 

 笑ってみせる二人に、女の子の父親がゆっくりと歩み寄って来た。

 

「ありがとうございます」

「いえ」

「気にしないでください」

 

 子供相手に丁寧に頭を下げるお父さんだ。あの女の子の丁寧な部分は、父親から譲り受けたものなのだろう。そんな事を考えながら、二人は軽く頭を下げた。

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃんありがとう」

 

 母親の手を引っ張るように女の子が駆け寄って来た。

 

「パパとママに会えて良かったね?」

「うん!」

 

 元気いっぱいに笑って頷く姿に、スバルとミソラも、女の子のお父さんとお母さんも釣られて笑った。誰も気づかなかったが、異星人二人も釣られている。

 

「それじゃあ、私達はこれで」

「あ、はい。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 父親に続いて母親が頭を下げた。続いて、女の子が余計な一言と共に頭を下げた。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、デートの邪魔してごめんなさい」

 

 意外とませていた。もしかしたら、ちょっと大人の背伸びをしているのかもしれない。顔から火を噴いた二人は、慌てて店を後にした。


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