流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第七話.初戦闘

 どこか愛嬌も感じさせるそいつは鳴き声のような物を上げ、ヒョコッと一歩足を踏み出した。

 

「うひっ!」

 

 スバルは一歩引く。それを見て、寄り添いたいがように再び詰め寄ってくる。

 

「ひっ!」

 

 さっきと逆側の足を引く。またしても黄色いウィルスが近づいてくる。

 

「ひぃっ!!」

 

 一歩一歩踏み出すそれに合わせるようにスバルは足を下げていく。

 

「おい! メットリオ程度でビビるな!」

「そ、そんなこと言ったって、怖いよ……」

 

 一見かわいいとも言えるそれを指さし、怖いと言うスバルの姿はかなり滑稽だ。子犬を見て、怖いと泣きさけぶ幼い子供のそれと重ねてしまう。

 だが、彼はさっきのつるはし攻撃を忘れたわけではない。あれをいきなりされたらかわいいと感じる方が難しいかもしれない。

 そんなやり取りをウォーロックと交わしているうちに、そのメットリオがスピードを上げた。ピョンピョンと両足でジャンプし、距離を詰めてくる。左手に意識を向けていたスバルは反応が遅れる。慌てて視線を戻すと、大きく飛びあがったそいつは眼前でつるはしを振り上げていた。

 

「う、うわーーー!」

「むごっ!」

 

 後ろに下げている片手と、前に出しているもう片方の手。とっさに手を出すとしたら、どっちの手だろう? 一瞬が運命を左右するこの状況で二択を迫られたら……大半の者は前に出している方の手と応えるだろう。だからスバルも同じだった。前に出していて、なおかつ胸元に構えるようになっていたその手を出した。

 良い具合にそのパンチはメットリオに炸裂した。同時に、ウォーロックが声を上げる。そう、スバルが出したのはボクシングで言うと左ストレート。ウォーロックは顔面をいきなりたたきつけられた感じになる。綺麗なウォーロックパンチを食らい、吹き飛んだメットリオは地面にたたきつけられ、体は粒子へと分解されて跡形もなく消滅していった。おそらく、データが破壊され、バラバラになって電波の海に溶けて行ったのだろう。

 

「てめえ! いきなり何するんだ!」

「ご、ごめん!」

「ち……まあ、良い」

 

 今のは油断していた自分が悪い。力を貸すと言った以上、これぐらいは仕方ない。さっきの敵が消滅した場所に目をやると、釣られて見たスバルはあっと驚いた。

 

「や、やった! 倒した!」

「まだだ!」

「え?」

 

 ウォーロックが見ていた場所は違った。その少し隣だ。その場所で地面が盛り上がる。中からピョコンと、さっきと同じ奴が出てきた。それに続くように、周りから……もう二か所。やはり地の下からメットリオが顔をのぞかせた。

 

「ま、また出たよ? どうしよう?」

「落ち着け! いちいち慌てるな! 俺を前に出すんだ!」

「ま、前? 何?」

「あ~……まったく、こうするんだよ!」

 

 あたふたするスバルにうっとうしさを感じる。言葉より行動する方が早いと判断を下した。スバルの左手がウォーロックの意志で持ちあがる。まっすぐにのばされた手の先には新しいメットリオ達の内、一番前にいる一体がいる。

 

「食らえ!」

 

 ウォーロックの口に緑色の光が集まる。それをスバルが確認した途端、それは放たれた。光の弾丸だ。標的のメットリオを吹き飛ばし、バラバラの粒子へと変えた。

 

「す、すごい! 何これ!?」

「俺達が電波変換した時の力だ。まあ、言うなら『ロックバスター』ってところか? それより、今ので使い方は分かっただろう? やっちまえ!」

 

 説明もほどほどにして、スバルに促した。これならいける! スバルはウォーロックが付いた左手を構え、標準を合わせる。

 

「い、いっけえ!」

 

 連続して放たれたそれは残りのメットリオ達に降り注ぐ。彼らをデリートするには威力が充分すぎた。またたく間に電波の海の一部と化していった。

 

「こ、今度こそ……やったよね!?」

 

 もう戦うのはうんざり。その気持ちを表情と口調であらわにする。

 

「……いや、もうちょっと踏ん張ってもらうことになりそうだ。周りを見てみろ」

 

 左手にとりついた彼の言葉を聞き、慌てて辺りを見渡す。気配に気づいて振り返ると、真後ろから一体のメットリオが近づいてきていた。いや、一体じゃない。加えてまだ数体以上いる。とっさに左手を構えようとすると、右からボコっと音がした。こちらからもメットリオだ。しかも、まだ穴がいくつか穴を穿とうとしているのが確認できた。そして、反対側からも。数が半端ではない。20は超えようという目に囲まれる。いくら一つの個体は弱くても、これだけ数が増えると怖い。

 一体がつるはしを地面にたたきつけた。そこから生まれた衝撃が、地面を伝って波を描き、スバルに襲いかかってきた。予想外の遠距離攻撃にとっさに体が動かない。避けなきゃ! そう頭が判断したときには、もうそれに吹き飛ばされていた。

 

「うわああああ!!!」

 

 地面に背中から叩きつけられた。苦しい。背中から受けた衝撃は胸をも突き抜けた。息を吸うだけで体の中が痛い。

 

「立て! 来るぞ!」

「え、ええ!?」

 

 見ると、数体のメットリオがさっきと同じようにつるはしを振りおろそうとしていた。

 

「うわ! うわああ!!」

 

 安全圏と思っていた場所からロックバスターを撃つ。それだけで終わる予定だった。だが、今いる場所は安全では無くなった。攻撃にさらされる。またさっきの痛みが来る。しかも、今度はその数倍だ。頭を抱え、体を丸めこんだ。

それでも、相手は無慈悲に攻撃を開始した。いや、もともと感情すらないのだろう。無機質に行われたそれは数本の筋となり、スバルとウォーロックに襲いかかってくる。

 

「くそ!」

 

 今度も動いたのはウォーロックだった。自分の顔を無理やり前に出した。迫りくる波の束を前に、自分の体の緑の光を大きく広げ、硬質化した。それは六角形の盾となり、スバルとウォーロックの前に構築された。メットリオ達の攻撃はそれに遮られる。

 激しい衝撃に地面がえぐられ、轟音が響く。粉状になった地面の破片が二人を覆った。だが、二人を隠していたそれはすぐに薄れ、徐々に晴れていく。そこには無傷のスバルがうずくまっていた。

 

「……あれ? 僕は……って、なにっ!?」

「俺が盾になったんだ。有効に使えよ?」

「あ、ありがとう。けど、こんなに便利なものがあるなら、最初に言ってくれたって…」

「防げる攻撃には限界があるんだよ。それに、お前ならむやみに使って、俺を危険にさらしそうだったんでな」

 

 確かにと自覚してしまう。

 

「それより、あいつらをどうするかだな」

 

 改めて見るとやる気を削がれる数だ。

 

「ねぇ、逃げようよ……」

 

 さっきはウォーロックがシールドを張ってくれたおかげで助かった。しかし、次はどうか分からない。今更だが、命がけなのだと認識した。

 このときに初めて死の文字が浮かんだ。指が、足が、がくがくと小刻みに揺れ始めた。力が入らない。

 

「何言ってやがる、戦うんだろう?」

「嫌だよ! 怖いよ! 死にたくないよ! な、なんで僕がこんなことしなきゃ……ブアッ!」

 

 言いきる前に、自分の左手が飛んできた。顔が横に跳ぶ。今は顔しかないウォーロックが、スバルの体を使って殴ったのだ。頭に星が飛ぶ。

 

「お前の親父は、星河大吾はそんな感じじゃなかったぜ」

「……父さん?」

 

 やっぱり、この宇宙人は父さんのことを知っている。

 

「少なくとも、お前みたいに泣き言は口にしなかった。おふくろさんを助けるんじゃなかったのか?」

 

 痛い。殴られた左頬がじゃない。ウォーロックの言葉が痛かった。あの時に託された父の言葉と今日の母とのやり取りを思い出し、かみしめた。

 

「か、勝ったら……教えてよ? 父さんのこと」

 

 雰囲気が変わった。それをウォーロックは感じ取った。ゆっくりとスバルは立ち上がる。ちょっと腫れた頬が放つ熱にも、歯を食いしばった。

 

「へぇ、やればできるじゃないか。まあ、親父さんのことに関しては、考えといてやるぜ」

「約束だよ?」

 

 まだ涙は残っているけれど、距離を詰めてくる大群をしっかりと見据えた。


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