流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第七十一話.デートのお誘い!?

 高級マンションを離れ、二人は町中を歩いている。一見、男の子と女の子が仲良く歩いているように見えるだろうが、実際はそうではない。無言だ。お互い、未だに頬を赤らめながら下を向いて歩いている。何とかしなければと思いながらも、スバルもミソラも何も言えない。

 

「「あの!」」

 

 二人の声が重なってしまう。勇気を出した一言が、相手の言葉で勢いを無くしてしまう。再び、二人の顔が地面とにらめっこだ。

 

「だあああ!! まどろっこしいんだよ、お前ら!」

 

 空気に耐え切れなかったガサツ星人がトランサーから飛び出してくる。途端に、もう一人の異星人がそれを塞ごうと飛び出してきた。

 

「マシンガンストリング!」

 

 頭の弦を伸ばし、ウォーロックをがんじがらめにして見せる。ウォーロックの抵抗するうめき声を足蹴に、ハープは爽やかな笑みを浮かべる。

 

「ポロロン、ごめんなさいね」

 

 ズルズルとやかましい御荷物を引きずり、ギターへと戻って行った。その光景を唖然と見ていた二人。数秒後に、プッと同時に笑いがこぼれた。

 

「きゃはは! ウォーロック君って、ハープのお尻に敷かれてるね」

「ハハハ! ロックださいよ?」

 

 クスクスと、スバルとミソラは顔を合わせて笑っていた。

 

「ミソラちゃん、今日は本当にありがとう」

「だから、気にしないでって。水臭いよ。私達はブラザーなんだから」

「うん、ブラザー……だよね?」

 

 不思議だった。聞きたくもないほど嫌だった言葉が、今は胸を温めてくれる。この温もりを教えてくれた少女の笑顔を見て、ふわりと穏やかな笑みを浮かべた。

 

「それにしても、すごいタイミングで来てくれたね? びっくりしたよ。もちろん、嬉しかったよ」

 

 嬉しいの一言に頬を少し赤くしながら、ミソラは視線を上に逃がしながら答えた。

 

「あ、えっと……ちょっと用事があったから。偶々だったんだ」

「用事? なんの?」

「え、えっと……」

 

 自分の手をもじもじと触り始めたミソラを見て、ハープはギターの中から応援するように両手を構えていた。「頑張って! 頑張って!」と必死に祈りを送る。

 

「なにをだ?」

「アナタは黙ってなさい!」

 

 ギター中からウォーロックの悲鳴が小さく上がる。だが、スバルには小さすぎて聞きとれず、ミソラにはその程度の些細な事を聞きとる余裕などなかった。

 

「スバル君に、お願いしたいことがあったから……その……」

 

 ギュッと唇を噛み締め、目を手元からスバルへと向けた。手も後ろで組んで、もてあそぶことを止めた。

 

「あ、明後日の日曜日、スバル君暇かな?」

「え、特に用事は無いけど」

 

 チャンスというカタカナ四文字が浮かびあがる。それが勇気という二文字に変わり、ミソラの背中を押した。

 

「じゃあ!!」

 

 先ほどまでの消えてしまいそうなものとは正反対の大声だった。それはミソラの勇気の大きさだ。びくりと肩を浮かせたスバルの目を見据え、ミソラは怯える唇を動かした。

 

「い、一緒に……買い物……い、行か……ない?」

 

 だが、段々と声のトーンが下がり、逆に両肩が上がる。合わせるように首は少しずつ項垂れるように下がっていく。それでも、スバルの目を見ることは止めない。よって、目だけが上へと上がる形なる。

 

「え!? か、買い物!?」

 

 いわゆる、上目遣いと言うものにドキリとしながら、スバルは心臓と同じぐらい飛びあがった。

 

「い、嫌……だった?」

 

 悲しそうに、隠れてしまいそうなミソラの言葉に、スバルは今までに無い、最も速いスピードで首を横に振った。あまりにの早さに顔が分身しているように見える。首を痛めないか心配になりそうだ。

 

「そそそそ、そんなわけないじゃないか!」

 

 スバルの全力否定に、今度はミソラがドキリとしてしまう。

 

「ほ、本当?」

「本当だよ! 誘ってくれて、すごく嬉しいよ! た、ただ……その……、僕、お、お……女の子とでで出かけるなんて! 初めて……で!」

「わ、私だって! 男の子と、ふふ二人で……出掛けるなんて……は……初めて……なんだから……」

 

 スバルは動揺から視線をどこに動かせばいいか分からず混乱し、ミソラも必死に自分の緊張を伝える。しかし、最後の初めてという部分だけは恥ずかしさのあまりに萎んでいく。

 二人の必至すぎるやり取りを、ハープはポロロンと笑いながら見ていた。ミソラの勇気を祝福し、両手でタンバリンを叩いている。

 

「なんなんだ、こいつら? モジモジしやがって。言いたいことがあるなら、ハッキリ言えばいいじゃねえか」

 

 恋愛に疎いウォーロックですら分かってしまった。この二人は明らかに両思いだ。どちらかがハッキリと思いを口にするだけで、二人の気持ちは叶うのである。

 非効率すぎるやり方を見て呆れているウォーロックに対し、ハープは首を振った。とは言っても、ハープの体は竪琴である。首を振ると言うよりは、体を振ると言った方が良いかもしれない。

 

「鈍感なアナタには分からないでしょうけれど、これが地球人の青春なのよ」

「ふ~ん、青春ね~」

 

 弦に巻かれながら、興味無いと言った顔で返事をしている間に、スバルとミソラの会話が終わった。二人は未だに顔が赤い。

 

「じゃあ、ヤシブタウンのバチ公象で待ち合わせね!?」

「うん。日曜日だね? 分かったよ」

「じゃあ、明後日ね!?」

 

 バス停の方角、つまりはスバルの家の反対方向にミソラは歩き出す。数歩歩いて、見送るスバルに振り返った。でも、すぐにスバルの目から視線を反らしてしまう。地面を向きながら、それでも必死に気持ちを口にしようとする。

 

「き、来てくれなかったら……」

 

 このまま相手を見ずに言い捨てるなんて失礼だ。そんな失礼な振る舞いを、スバル相手にするわけにはいかない。だから、最後はありったけの勇気を振り絞り、おどおどと目だけをスバルに送った。

 

「嫌……なんだから、ね?」

 

 

 それが限界だった。逃げるようにその場から駆けだした。

 

「ま、待ってるからね!!」

「う、うん!」

 

 走り去るミソラに、呆けていたスバルは慌てて返事をした。ミソラはすぐに角を曲がり、スバルの視線から逃げ出した。本当は、スバルには自分だけを見てほしい。けれど、今は恥ずかしさのあまりに、スバルの視界から逃げたかった。

 

「やっちゃった。あたし、やっちゃった!」

「いいえ、あなたはやり遂げたのよ。ミソラ!」

「そ、そうだよね? 私、やったんだよね!?」

 

 ハープの言葉に頷き、ミソラの感情が沸々と温かくなっていく。

 

「やったんだ! 私、やったんだ! ヤッター!!」

 

 ようやく笑みを浮かべたミソラは、無邪気に笑いながらも足を止めることは無かった。このまま、空を走り回りたい気分だ。ハープに頼み、電波変換したミソラはウェーブロードに足をつけた。自分を祝福してくれているような夕焼け空に笑い返し、喜びのままに走り出した。

 一方、スバルは未だに呆けていた。ようやく解放されたウォーロックが話しかけても、彼はボーっと町並みを見ている。傍から見れば夕焼けに染まる町を見て呆けている、ちょっと変わった少年だ。しかし、今のスバルには何も見えていなかった。

 

「買い物……二人で……ミソラちゃんと?」

 

 スバルが言葉を発したのは、ミソラが見えなくなってしまってからゆうに六十秒は経過した時だった。

 

「こ、これって! まさか!?」

 

 導き出された言葉に手がフルフルと震えてくる。これだけキーワードが揃っているのだ。他になんと言う?

 

「で、で……でデデ! デッ!」

「スバルも隅に置けないわね~」

「ぎゃあ!!」

 

 背後から奇襲してきた声にスバルの心臓が大きくジャンプした。スバルはそれに持ち上げられながら、声の主に振り返った。

 

「か、か……母さん!?」

 

 住宅の壁からこっそりと覗いていた顔は、スバルの母であるあかねであった。いつもの心優しい母親のものではなく、目が意地悪そうに笑っている。事実、口に当てた手の脇では口角が上がっている。

 息子に見つかった母親はニヤニヤとした笑みを絶やさずに息子に近づいてくる。悔しそうに歯を噛み締めながら視線を反らしていたスバルは、ふと母親の荷物に目が行く。

 左手には小さいがおしゃれな茶色の手提げ鞄。あかねの落ち着きのある大人の雰囲気を引き出してくれている。いつもパートに行く時に使っている安物だが、あかねの美貌を引き出すには効果が十分すぎる。

 右手にはスーパーとプリントされたビニル袋を提げている。どうやら、パートの帰りに買い物をして来たらしい。その袋から数本のニンジンが元気に顔を覗かせている。おまけに、大特価価格と書かれた値札で自らを着飾っていた。これは主婦の皆様にモテモテだったことだろう。無論、スバルがスーパーの店長を逆恨みしたのは言うまでもない。

 

「なんでここにいるの?」

「主婦がパート帰りに買い物して、家に帰宅しちゃダメな理由でもあるのかしら?」

 

 「ありません」と苦い顔をするスバルに、あかねは腰に手を当てて見下ろしてくる。ニヤリと白い歯が光った。

 

「ところで、あの子、アイドルだった響ミソラちゃんでしょ?」

 

 「やっぱり来た」と逃げるようにスバルは背中を少し反らした。

 

「まさか、スバルがあんなかわいい子を射とめるなんてね~。いつの間に青春しちゃってたのね?」

「ち、違うよ!」

 

 『射とめる』と言う言葉にスバルのまだまだ幼い精神は耐えられない。そんな、まっ赤になっている息子をからかうことを止めないのが母親という生き物である。

 

「ち、違うってば! ちょっと二人で買い物に行くだけだよ!」

「それは認めてるってことになるわよ?」

「だから、違うって! デートなんかじゃないよ!」

「あら、お母さんデートなんて言ってないわよ?」

 

 見事すぎる綺麗なカウンターである。しまったと言葉を詰まらせる息子に、あかねは勝ち誇った笑みを意地悪そうに見せた。

 

「帰るっ!」

 

 バッとスバルはあかねに背中を見せ、吐き捨てるような言葉を残して逃げ出した。白い煙を立ち上げて駆けだす息子が面白く、あかねは指摘しなかった。家は逆方向だと言うことをだ。全力で消えていく赤い背中を見送り、終始笑顔だったあかねの表情が変わった。からかいが無くなったそれは息子を見守る母親のものだった。

 

「学校帰りの息子と偶然会う……か……フフフ」

 

 

 幾つか角を曲がり、スバルは足を止めた。

 

「ハァ、ハァ……もう、母さんってば……」

 

 一連の流れの間、ずっと小刻みに震えているトランサーを不機嫌そうに開いた。

 

「ロック、うるさいよ」

「ククク、わりぃわりぃ」

「悪いと思ってないよね?」

「おう!」

「『おう』じゃないよ」

 

 壁に背中からもたれかかり、空を仰いだ。オレンジ色の絨毯の上を転がって行く雲達に目を細めた。

 

「デート……か」

 

 ホゥと熱っぽく、湿った息が吐き出された。

 

「ミソラちゃんと、二人で……」

 

 自然と、口元が緩んだ。


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