流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第六十一話.戦う芸術家

 舞い上がる爆炎は、昼過ぎを告げる陽の光を受けてさんざんと輝き、花弁のように散っていく。その向こうに広がる光景は予想と違わぬ光景だった。

 

「なんだ、やはり小娘か」

 

 結局は同じだった。どれだけ高い志を掲げても、力の差を覆す要因にはならなかった。フォールサンダーを受けたハープ・ノートはだらりと右腕を垂らしながら、かろうじて立っている。飛んできたパチンコ玉を倒れるように避け、左足で体を支える。休む間もなく、右足で地を蹴ろうとする。寸分遅く、背中を掠めながらオレンジの髑髏が通り過ぎた。焼けるような痛みが彼女の悲鳴を誘う。しかし、それを懸命に飲み込み、油断していたクラウン・サンダーにパルスソングを命中させた。身動きの自由を奪い、新たに攻撃を仕掛けようと身構えたハープ・ノートの体は大きく宙を舞った。邪魔してきた緑の髑髏にパルスソングを放つ。簡単に避けられ、疲労だけが積み重なっていく。

 

「さあ、いい加減にウォーロックの居場所を教えよ! そうすれば見逃してやるぞ?」

 

 息を切らせ、立ち止まってしまったハープ・ノートに、痺れが取れたクラウン・サンダーが降伏を促す。ドリルを構えた髑髏が少し距離を詰める。手の得物が持ち主のオレンジ色のオーラをギラリと反射し、残虐さを際立たせる。

 この状況で自分が助かる可能性を提示させられれば、誰もがここで口を開いてしまうだろう。だが、ハープ・ノートは絶対に口を開かない。

 

「まだ……負けてないわ……」

 

 頑固にもほどがある。これでは、諦めが悪いのではなく、状況を分析できない愚か者だ。そして、クラウン・サンダーは寛大な人間では無い。むしろ逆、己の欲望に忠実な人間だ。手をさっと上にあげると、オレンジの髑髏は銀色の三角錐を前にかざし、距離を詰めて来た。このままハープ・ノートの柔肌を傷付ける気だ。だが、その動きは直線で簡易だ。横に飛べば相手は空を滑空しているだけだ。しかし、退路に向かって飛んだハープ・ノートを狙い撃つのが緑の役目だ。避け切れず、木槌に弾かれた。

 ハープ・ノートは非力だ。だから、手数で勝負する他方法がない。放った音の力で相手の動きを封じ、そこを起点にたたみかける様に攻撃の荒らしを見舞うのだ。

 しかし、クラウン・サンダーの動きを制限しても、自由に動ける髑髏達が邪魔をしてくる。先に邪魔な髑髏達を処理しようにも、奴らは小さく、すばしっこいため、撃ち落とすのは困難だ。一度落としても、しばらくすれば復活してくる。じり貧な戦いを強いられていた。クラウン・サンダーはハープ・ノートにとって、相性の悪い相手だと言える。

 ハープ・ノートが勝つためには、クラウン・サンダーと髑髏達の両方を無力化する必要がある。だが、それが簡単にできるほど、相手は甘い相手では無い。

 武器が欲しい。音を放つ力だけでなく、別の武器が……戦う術が欲しい。肩に食い込む玉に負けず、迫ってくるオレンジの髑髏にショックノートを撃ち放つ。しかし、その動作の間は足の動きがどうしても鈍る。攻撃を避けられたと悔しさに表情を歪ませた直後、足を射抜かれた。疲労でおぼつかなくなっていたハープ・ノートは絶好の的だった。膝を折り、ウェーブロードに片手をついた。緑の髑髏が止めを刺そうと近づいてくる。黙ってやられるつもりなんて無い。パルスソングを放った。

 

「……あ……」

 

 空を駆けていく音符を見て、ハープが唐突に何かを思いついたようだった。激闘の中に溶けてしまいそうな小さい呟きを、ミソラは聞き逃さなかった。足に力を込め、隣のウェーブロードへと飛び移って距離を取る。

 

「どうしたの?」

「ミソラ……あのね?」

 

 思いつきだ。自信なんて無い。しかし、このまま敗北が見えた戦いを続けるのも馬鹿らしい。だから、ハープはミソラに提案した。

 女の子の内緒話なぞ、戦場に生きるクローヌにとっては、うっとうしいことこの上なかった。

 

「ええい! 往生際が悪いぞ! やってしまえ!」

 

 いらつく主人の顔色をうかがいながら、三体の髑髏はそれぞれの得物を持って、ハープ・ノートのいるウェーブロードへと飛び移ってくる。

 

「うん、やってみよう!」

「でも、上手く行くかは……」

「このまま負けるくらいなら、試してみよう?」

「……ええ!」

 

 その間に、ハープの提案を聞いたミソラは明るい笑みを見せていた。ハープも笑って返し、きっと前方を見据える。

 頭上から襲い掛かるハジョウハンマ―は巨像の足を思わせる。退路を塞ぐようにイカクボウガンとトツゲキランスが左右から挟み撃ちにしてくる。だが、それでも退路はちゃんとある。後ろだ。ハープ・ノートはウェーブロードから飛び降りた。

 それがクラウン・サンダーの狙いだった。

 

「これで止めじゃ! 小娘!!」

 

 彼は頭上に手をかざし、落雷を生成した。翼の無いハープ・ノートは空中で動くことができない。フォールサンダーがハープ・ノートを飲み込もうと襲い掛かる。

 だが、ハープ・ノートだって地から両足を離すことのデメリットすら理解している。こんな危険な行為に出た理由は、空で動く術をハープから提案されていたからだ。

 

「サウンドボード!」

 

 足元に向かって、左手で音量を調整しながら右手で弦を強く弾いた。召喚されたのは音符だ。しかし、いつもの丸い塊では無く、板状になっている。それにゆっくりと足を乗せた。コトリと反力の音が鳴る。それは音がミソラを受け入れた証。

 

「いっけえ!」

 

 ハープ・ノートの思いに応えるように、板は空気を裂いた。彼女の言霊がそのまま力になったかのように、世界を駆けた。見当違いの場所を黄色の帯群が落下していく。

 これは、ハープが今日見かけたスカイボードから発想した技だ。音の上に乗り、それを自在に操れれば、ハープ・ノートは自らが放つ音と同様の速度で飛べるはずだと考えたのである。実際はそこまで速くない。しかし、ウェーブロードから離れ、自在に空を動けるこの技は、ハープ・ノートの新たな力の方向性を示していた。

 サウンドボードでクラウン・サンダーの攻撃を軽くいなしたハープ・ノートは、ビルに見下ろされた空間を自由自在に舞ってみせた。頬を撫でる風が心地よい。太陽の光を受けて笑みを振りまくその姿は、背中に羽があれば立派な戦場の天使だ。

 

「小癪な! 戦場で遊ぶとは何事か!?」

 

 だが、クラウン・サンダーはそんなもの望んでいない。天使をはたき落そうと、次々とフォールサンダーを放つ。紫の髑髏にはイカクボウガンを放たせ、援護を促した。

 ハープ・ノートはボードを自在に操作し二人の攻撃を寄せ付けない。まっすぐに進んでいたと思えば、鋭いターンを描いて見せる。描く軌跡はUの字になることもあれば、LやZのようになることもある。彼女が進む方向は上下左右と軌道を読ませない。クラウン・サンダーが攻撃を当てるのは至難の業だった。

 攻撃に集中していたため、クラウン・サンダーは足がお留守になってしまっていた。だからとっさに動けなかった。ハープ・ノートがパルスソングを放った事に気付いてもだ。まともに顔に受けてしまう。

 それがさらに焦りを誘う。一撃当てるだけだ。一撃当てるだけでハープ・ノートは撃ち落とせる。落としたところで、待機させている残る二体に、ハジョウハンマ―とトツゲキランスを命じればそこで終わりだ。流石に今度は彼女も耐えられないだろう。だが、その一撃が一向に当たらない。

 対し、ハープ・ノートはクラウン・サンダーの怒りを避けつつ、ウィンクと共に音弾を返してあげる。

 攻撃を外し、反撃を受けてしまう。その度にクローヌの苛立ちが募っていく。

 

「イカクボウガン! もっと放たぬか!」

 

 次の音符をかろうじて避けながら、クラウン・サンダーが怒鳴る。喝を入れられた紫の髑髏は疲労を表情に浮かべる。憐れんで見ていた残り二体。しかし、彼らも同じ運命をたどる。

 

「お前達も行くのだ! 仕留めろ!」

 

 とばっちりを受け、身をこわばらせた二体はそれぞれハンマーとドリルを持って空に飛びだした。ハープ・ノートとの追いかけっこが始まり、歌の天使が幽霊二体と戯れる奇怪な絵が出来上がる。

 オレンジ味のキャンディー色の道が頭上を過ぎていく。このまま進めば、足とボードが次のロードに引っかかってしまう。ボードを吸いつかせるように足を曲げて回避すると、今度は真正面に道がある。大きく方向転換し、斜め上へと上昇する。ハープ・ノートを狙っていたオレンジ色のオーラを纏った髑髏は、勢い余って顔しかない体をウェーブロードに衝突させた。少し遅れてやって来ていた緑の方は、慌てて急ブレーキをかけて、彼の代わりに追いかけ始める。しかし、一度止まってしまった彼と違い、ほとんど減速せずに、常に移動している彼女との距離は大きく開いてしまった。

 四人がかりで一人を追い込むが状況は好転しなかった。理由は簡単だ。緑とオレンジの髑髏の働きは無駄なのだから。彼らは飛んでくるフォールサンダーとイカクボウガンを気にしながらハープ・ノートを追いかけなければならない。加えて、紫の髑髏も味方に当たらぬように配慮しなければならない。お構いなしに攻撃するのは、怒りで視野が狭くなっているクラウン・サンダーだけだ。

 ならば、ハープ・ノートは雷にだけ注意を払えばいい。その分、反撃のチャンスも増える。クラウン・サンダーの頭上でループを描くように反転し、更に一発音弾をお見舞いしてやった。戦況はハープ・ノートに傾きつつある。追い詰められているのはクラウン・サンダーの方だ。笑みをこぼすハープ・ノートと顔を黒く染めるクラウン・サンダーがその証拠だ。

 豊富な戦闘経験を持つはずのクラウン・サンダーは冷静を欠いてしまい、この状況に気付かない。遂には、紫の髑髏を蹴飛ばして空中サーファーを追わせるしまつだ。紫の髑髏からすれば、落雷と障害物を避けながら標的を追いかけ、狙いを定める。彼一人が背負う労力が更に増え効率が悪い。ときおり、ウェーブロードが標的との間に入ってくるため、なおさら攻撃のチャンスが無い。司令官の判断ミスが連なり、髑髏トリオの働きが空回りしている。ハープ・ノートへの攻撃は乏しくなり、彼女の反撃は益々激しくなっていく。

 

「ショックノート!」

 

 軽快な動きに翻弄されるクラウン・サンダーの死角にコンポを召喚し、自分がいる場所とはまるで違う方角からの攻撃を行う。

 その隙をついたパチンコ玉が飛んでくる。攻撃をする際、どうやっても隙はできてしまうため、そこを狙ったのである。先ほどもこの隙をつかれ、足を射抜かれた。

 例外に漏れず、ハープ・ノートはボードの操作をある程度怠ってしまう。しかし、空を滑っているボードが減速するわけではない。軌道は単純になるが、それを狙い撃つのは決して簡単では無く、紫の髑髏が放った弾はかすりもしなかった。よって、クラウン・サンダーの悶絶だけが木霊する。

 降り注いでくる音符の雨にたまらず、クラウン・サンダーはビルの中へと飛び込んだ。その部屋は会社のオフィスだった。所狭しと机と人がつまった事務所だ。人には見えず、触れられない周波数に変えているため、クラウン・サンダーの姿は見えていない。社員達はいつも通りに仕事をしている。

 それらをすり抜け、部屋の中央で一息つく。直後、後頭部を突き飛ばされ、机の中に埋もれた。もちろん、すり抜けている。攻撃してきたのは言わずもながらハープ・ノートだ。同じ場所に留まるのは標的になるだけの危険な行為。すぐに廊下へと飛び出した。その場所にはすでにハープ・ノートがギターを構えていた。側面からの攻撃に倒れながら、ハープ・ノートの姿を確認しようとする。行儀の悪いことに、彼女はビル内で未だにサーフィンをしていた。

 クラウン・サンダーはすぐに気付いた。ここは、彼女にとって有利な地形だ。電波体である彼女も壁や人をすり抜けられる。ビルの壁など、お互いに合って無いようなものだ。互いの視覚を遮るものでしかない。この状況下では、相手の視覚の内に現れて攻撃し、すぐさま視覚の外へと逃げる戦いが基本となる。ならば、高速で動き回れるハープ・ノートの方が有利だ。しかも、クラウン・サンダーは横にしか動けないため、壁に隠れることしかできない。対し、ハープ・ノートは縦横無尽に動けるため、天井も隠れ蓑として使うことができる。

 ここまでの内容を理解するのに、一秒もかからなかった。この辺りは、彼の戦闘経験の豊富さがうかがえる。次にするべき行動を選択したと同時に、頭上からの攻撃に身を悶えた。全身に音のエネルギーが走り、体が痺れる。体を引きずるように、ビルの外へと走り出す。

 

「あら? 小娘相手に逃げるの?」

「ええい! 戦略的撤退と言え! わざわざ不利な状況で戦う必要はないのだからな!」

 

 悔しさを隠しきれない背中にまた攻撃が加えられる。熱いし悔しい。しかし、勝つための最善の方法はこの状況からの離脱だ。勝ちに執着する戦人であるクローヌは判断を誤らなかった。ビルの窓をすり抜け、ウェーブロードに立って振り返る。クラウン・サンダーが出て来た場所から見て、斜め下からハープ・ノートがボードに乗って飛び出してくる。

 

「かかれ!」

 

 (あるじ)と逸れていた髑髏三人衆が合流し、攻撃を仕掛ける。まず、攻撃範囲の広いハジョウハンマーが攻撃に出るが、軽くかわされてしまう。そこを、イカクボウガンが狙い撃ちにする。ハープ・ノートは先ほどのビルの角に弦を伸ばし、そこを中心とするように弧を描いて、華麗に方向転換をして見せる。さらに、待機していたトツゲキランスが飛びかかる。ハープ・ノートは弦もボードも切り捨て、宙でバク転しつつ、コンポを進行方向上に召喚する。その側面を足首だけで軽く蹴る。それだけで、身軽な体は再び空へと舞い上がる。その様は、蝶が散歩しているようだ。

 髑髏三兄弟の攻撃をかわしきり、ウェーブロードからクラウン・サンダー達を見下ろした。

 

「お疲れ様です!」

 

 アイドルの時に培った明るさたっぷりの作り笑いだ。小娘ごときにおちょくられている事実が、クラウン・サンダーの手をわなわなと震えさせる。怒りのままにフォールサンダーを落とすが、ハープ・ノートのサーフィンにかわされるだけだ。

 

「ええい! 三方から囲め!」

 

 途端に髑髏トリオが息の合った動きを見せ、あっという間にハープ・ノートを取り囲む。右前にはドリルを持ったオレンジが、左前にはハンマーを振り上げた緑が、真後ろにはパチンコを構えた紫がいる。

 

「一斉攻撃!」

 

 緑とオレンジが距離を詰め、紫は弾を放った。ここはウェーブロードでは無く空だ。足に翼を得たハープ・ノートはそれを捨て、重力に身を任す。頭上では、二人の髑髏が顔面をぶつけ、さらに弾を撃ち込まれると言う悲惨な始末だ。すかさず、クラウン・サンダーはフォールサンダーを放った。容赦のない雷が衝突していた二人の髑髏を巻き込んでハープ・ノートに牙を向ける。だが、かんじんの標的は再びサウンドボードを展開し、雷の滝の周りで踊って見せた。

 絶好のチャンス故に二体の髑髏を犠牲にした。にも拘わらず戦果は無い。クラウン・サンダーは苦虫を噛んだように歯を食いしばる。髑髏達は消えていなくなることは無いが、再び召喚できるようになるまでは時間がかかる。これでは彼のある致命的な弱点をカバーできない。焦りが更に積もる。その弱点がばれない間に、相手が気付く暇も与えないようにと更に落雷を激しくする。

 しかし、ハープ・ノートはビルの後ろに回り込んで視界から消えてしまった。敵を見失うのは敗北の大きな要素だ。それは、先ほどビル内で戦った時に嫌と言うほど味わった。焦りが次の焦りを生み、クラウン・サンダーの思考を惑わせる。

 

「こんにちは!」

 

 ピッと元気よく手を上げたハープ・ノートが目の前に舞い降りた。元気いっぱいの笑みだ。たじろぐクラウン・サンダーに向かって零距離でパルスソングを撃ち込んだ。度重なる攻撃でぼろぼろになっている相手に追撃を仕掛ける。しかし、言葉でだ。

 

「あなたの戦い方を観察させて貰ってたけれど、あなたも遠距離タイプよね?」

 

 ギクリと身がこわばった。もうとっくに気付かれていた。

 

「なにが『同じ土俵で戦ってやる』よ。あなただって接近戦が苦手なんじゃない」

 

 アングリと口を開き、冷や汗を流しているクラウン・サンダーに、ミソラはにっこりと意地悪く笑って見せた。一方、ハープは一騎打ちのことを思い出し、暴言を浴びせておいた。

 クラウン・サンダーが自ら行う攻撃はフォールサンダーだけだ。普段も部下の髑髏達に攻撃させ、自らは後方に下がっている。どう考えても、接近戦が得意な奴の戦い方では無い。

 攻撃が当たらないことにいらだっていた時も、遠距離戦にこだわっていた。先ほど彼が言った通り、戦いにおいて、追い詰められた者がわざわざ不利な状況下で戦うなんてことはしない。歴戦の戦士ならばなおさらそんなミスは犯さない。そして、今目の前にいるハープ・ノートに攻撃してこないのが良い証拠だ。一騎打ちの時の台詞も、自分に有利な状況下で戦うために、言葉巧みにしかけた作戦だったのである。

 ハープの悪態に言い返せず、悔しさが口から漏れて来る。抑えることを止め、暴言と共に吐きだした。

 

「う、うるさいわい! 有利な状況を作るのは戦の常、勝利の秘訣よ! イカクボウガン!」

 

 遠く離れていた紫の髑髏がようやく駆けつけた。パチンコを構え、自慢の射撃の腕をみせる。ハープ・ノートは落ち着いてマシンガンストリングでクラウン・サンダーをがんじがらめにした。

 

「んな!? 馬鹿者! よさぬか!?」

 

 弦で巻き寿司にされたクラウン・サンダーの後ろに回れば、立派な盾の完成だ。ぺろりと舌を出すハープ・ノートの前方で悲鳴が上がる。どうやらしっかりと役目を果たしてくれたらしい。

 盾に隠れながら、その両隣にショックノートの砲台を置く。主に攻撃してしまい、動揺していた最後の髑髏を、安全な場所からなんなく撃墜した。

 

「さて、あなたはこの距離で……しかもこんな状態で使える攻撃手段はあるのかしら?」

 

 ダルマになって立ち尽くしているクラウン・サンダーに向き直る。真っ白だったはずの髑髏は、あちこちが黒く染まっている。今や黒色のほうが面積が広い。きらびやかな緑のマントもところどころ破れてしまっている。見るも無残な格好だった。

 

「ば、馬鹿な! 戦上手で知られた、このクローヌ家の14代当主であるワシが……なぜ?」

 

 どこまでも勝利にこだわる姿勢は逆に清々しかった。だから、ミソラも今は情けを捨てた。

 

「これで終わりよ、ミソラ!」

「ええ! パルスソング! ショックノート!」

 

 自身の攻撃に巻き込まれぬように、素早く距離を取る。ハープ・ノートの全力が無数の音符となり、敗北と言う現実を見ようとしない頑固者に襲い掛かる。

 

「こんな小娘に……なぜじゃあああぁ!?」

「小娘じゃないわ。私は、戦う芸術家(アーティスト)!」

「その名前は!?」

 

 ハープがミソラの乗りに乗って聞き返し、二人は高らかに叫んだ。

 

「「ハープ・ノート!」」

 

 爆炎が悲鳴を飲み込み、立ち上る。二人の勝利を祝福するように。




 ハープ・ノートが原作で一度しか使わないボードを戦闘で応用してみたのですが、色々と失敗だったかなと思うところです。
 もっと、スピード感のある文章や、迫力のある雰囲気を出せなかったのかと心残りです。

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