流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第五話.ウォーロック

 体の感覚が戻っていることを確認した。手は動く、足も動く、首も動く。そっと目を開け、声がした方に動かした。

 

「う、うわあああああ!!」

 

 ドリル委員長のわがままを目の当たりにして、確かにスバルは大声を出した。その日一番の叫びだと自覚した。しかし、その宣言は撤回しなければならない。今はそれをはるかに超える声を上げて飛び上がった。

 目の前に何かいる。青と緑を基本とした謎の生物が居た。青い顔は角ばっており、犬や狼を思わせる。首から下は緑色だ。青い部分が硬そうなアーマーを連想させるのに対し、緑色の部分は静かに光り輝いており、不安定な光の塊という感じだ。

 胸は顔と同じで青く、腹の部分からは幽霊のような緑色の体になっている。幽霊と思わせた理由は、足が無く、宙に浮いているからだ。

 

「……俺が見えるのか? おかしいな、この星の人間には俺の電波の体は目に見えないはず……」

「お、オバケ!? ……ワ、ワ、なんだ!? 空に道が!?」

 

 手すりにもたれるように後ずさっていたスバルは、空に何か浮かんでいることに気づいた。オレンジ色の道だ。空に幾筋もの道が見えた。天の川ではない。もっと低いところにそれは敷かれている。傷や亀裂一つ無いその道は、何者かの手によって整備されたようにも見える。

 

「こ、これは……夢?」

 

 オバケに空に現れた道。こんな非現実的な物がこの世にあるわけがない。ビジライザーを外して、瞼を擦ってみる。すると、そこには元の世界。青い幽霊も、オレンジ色の道も、跡形も無く消えていた。

 

「き、きえた……?」

 

 ここで、少年の賢い頭はある仮説を立ててしまった。夢ではなく、ビジライザーが原因ではないか? そう思ってしまうと、試さずにはいられないのがスバルの性質だ。恐る恐るもう一度かけて見る。

 こちらをのぞきこんでいる幽霊が居た。鋭い爪のような、緑色の指を顎の下にあて、スバルをじっと観察していた。

 

「ウワッ! また出た!!」

 

 もちろん、空に敷かれた道も復活していた。さっきから、それよりも前からずっとその場にあったかのように、当たり前に存在していた。

 

「なるほどな、そのメガネは電波を見ることができるのか。俺が見えるのもそのせいか」

「そ、そんな……さっきまで、何も見えなかったのに」

「俺との接触で本来の機能を取り戻したんだろうよ」

 

 確かに、そう考えたら納得がいく。一つ問題が解けたためか、スバルも少々落ち着いてきた。

 

「き、君は誰なの?」

「俺か? 俺はウォーロックだ。『ロック』と呼んでくれ。FM星から来た宇宙人だ。まあ、俺から見ればお前らが宇宙人なわけだが」

「う、宇宙人?」

 

 確かに、地球の生物とは思えない姿だ。胡散臭いが、幽霊よりかはマシかと頭を横に振った。

 

「あのさ……どうなってるの? 電波がどうこうって……」

「俺の体は電波でできているんだ。本来なら、お前ら地球人には見えないはずなんだがな」

 

 ウォーロックっと名乗った青い宇宙人は、スバルがかけているビジライザーを指さした。

 

「その緑色のメガネのおかげだろうな。多分、それをかけると電波世界を見ることができるんだろうな。あれはウェーブロード。電波でできた道だ。あれが束になって出来上がった世界が電波世界だ」

 

 続いて、先ほどのオレンジ色を指さした。良く見ると、道はもっとたくさんあった。それは自分たちの頭上だけでなく、ここ展望台全体に張り巡らされていた。ここから、すぐそばにあるコダマ小学校や、コダマタウン全体。そして、遠くに見える天地研究所にまで伸びている。

 

「これが、今の世界を支えている、電波の世界?」

 

 今の情報社会の基盤を構成する世界が目の前にある。科学に強い興味を持つスバルにとっては、神秘的で貴重な体験だった。

 

「理解できたか、星河スバル?」

 

 落ち着いてきた気持ちがまた大きく撥ねた。

 

「なんで僕の名前を知ってるの!?」

「聞いたんだよ。宇宙で出会った地球人にな。周波数があいつとそっくりだ」

 

 あっけらかんと答えられた。

 

 グルグル。グルグルとスバルの思考が回る。

 

 自分の名前を知っている、宇宙にいる地球人。

 そんなの、一人しか思いつかなかった。

 

「もしかして、父さん!」

 

 たまらず、グイッとウォーロックに顔を近づけた。

 

「父さんは……今どこにいるの!?」

 

 彼の質問はさえぎられた。聞いたこともない大きな音にだ。

 たまらず耳をふさいだ。

 

「ちっ! もう来やがったか!」

 

 恐る恐る目を開き、ウォーロックの視線の先をみた。

 

「……えぇ!?」


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