流星のロックマン Arrange The Original 作:悲傷
体の感覚が戻っていることを確認した。手は動く、足も動く、首も動く。そっと目を開け、声がした方に動かした。
「う、うわあああああ!!」
ドリル委員長のわがままを目の当たりにして、確かにスバルは大声を出した。その日一番の叫びだと自覚した。しかし、その宣言は撤回しなければならない。今はそれをはるかに超える声を上げて飛び上がった。
目の前に何かいる。青と緑を基本とした謎の生物が居た。青い顔は角ばっており、犬や狼を思わせる。首から下は緑色だ。青い部分が硬そうなアーマーを連想させるのに対し、緑色の部分は静かに光り輝いており、不安定な光の塊という感じだ。
胸は顔と同じで青く、腹の部分からは幽霊のような緑色の体になっている。幽霊と思わせた理由は、足が無く、宙に浮いているからだ。
「……俺が見えるのか? おかしいな、この星の人間には俺の電波の体は目に見えないはず……」
「お、オバケ!? ……ワ、ワ、なんだ!? 空に道が!?」
手すりにもたれるように後ずさっていたスバルは、空に何か浮かんでいることに気づいた。オレンジ色の道だ。空に幾筋もの道が見えた。天の川ではない。もっと低いところにそれは敷かれている。傷や亀裂一つ無いその道は、何者かの手によって整備されたようにも見える。
「こ、これは……夢?」
オバケに空に現れた道。こんな非現実的な物がこの世にあるわけがない。ビジライザーを外して、瞼を擦ってみる。すると、そこには元の世界。青い幽霊も、オレンジ色の道も、跡形も無く消えていた。
「き、きえた……?」
ここで、少年の賢い頭はある仮説を立ててしまった。夢ではなく、ビジライザーが原因ではないか? そう思ってしまうと、試さずにはいられないのがスバルの性質だ。恐る恐るもう一度かけて見る。
こちらをのぞきこんでいる幽霊が居た。鋭い爪のような、緑色の指を顎の下にあて、スバルをじっと観察していた。
「ウワッ! また出た!!」
もちろん、空に敷かれた道も復活していた。さっきから、それよりも前からずっとその場にあったかのように、当たり前に存在していた。
「なるほどな、そのメガネは電波を見ることができるのか。俺が見えるのもそのせいか」
「そ、そんな……さっきまで、何も見えなかったのに」
「俺との接触で本来の機能を取り戻したんだろうよ」
確かに、そう考えたら納得がいく。一つ問題が解けたためか、スバルも少々落ち着いてきた。
「き、君は誰なの?」
「俺か? 俺はウォーロックだ。『ロック』と呼んでくれ。FM星から来た宇宙人だ。まあ、俺から見ればお前らが宇宙人なわけだが」
「う、宇宙人?」
確かに、地球の生物とは思えない姿だ。胡散臭いが、幽霊よりかはマシかと頭を横に振った。
「あのさ……どうなってるの? 電波がどうこうって……」
「俺の体は電波でできているんだ。本来なら、お前ら地球人には見えないはずなんだがな」
ウォーロックっと名乗った青い宇宙人は、スバルがかけているビジライザーを指さした。
「その緑色のメガネのおかげだろうな。多分、それをかけると電波世界を見ることができるんだろうな。あれはウェーブロード。電波でできた道だ。あれが束になって出来上がった世界が電波世界だ」
続いて、先ほどのオレンジ色を指さした。良く見ると、道はもっとたくさんあった。それは自分たちの頭上だけでなく、ここ展望台全体に張り巡らされていた。ここから、すぐそばにあるコダマ小学校や、コダマタウン全体。そして、遠くに見える天地研究所にまで伸びている。
「これが、今の世界を支えている、電波の世界?」
今の情報社会の基盤を構成する世界が目の前にある。科学に強い興味を持つスバルにとっては、神秘的で貴重な体験だった。
「理解できたか、星河スバル?」
落ち着いてきた気持ちがまた大きく撥ねた。
「なんで僕の名前を知ってるの!?」
「聞いたんだよ。宇宙で出会った地球人にな。周波数があいつとそっくりだ」
あっけらかんと答えられた。
グルグル。グルグルとスバルの思考が回る。
自分の名前を知っている、宇宙にいる地球人。
そんなの、一人しか思いつかなかった。
「もしかして、父さん!」
たまらず、グイッとウォーロックに顔を近づけた。
「父さんは……今どこにいるの!?」
彼の質問はさえぎられた。聞いたこともない大きな音にだ。
たまらず耳をふさいだ。
「ちっ! もう来やがったか!」
恐る恐る目を開き、ウォーロックの視線の先をみた。
「……えぇ!?」