流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第五十八話.髑髏襲撃

 ベイサイドシティは高層ビルが建ち並ぶ大都市だ。そびえ建つビルの数と大きさは、人口の集中を表すグラフの様だ。

 そして、人が集まれば娯楽も充実してくる。今、この都市で流行りつつあるのがスカイボードだ。海ではなく、空でサーフィンするスポーツだ。今、一人の若者が抑えられない快楽を吐きだしながら、空を滑って行く。ビルの屋上にある手すりにボードの腹を滑らせて、再び空へと戻って行く。

 体をすり抜けていったボードを見送りながら、空に架けられたウェーブロードにいたその電波体はため息をついた。

 

「大丈夫って分かっていても、びっくりしちゃうわ~」

「分かります。恐いですよね、スカイボード」

 

 水色の電波体の言葉に、喋っていたデンパ君は頷いた。

 ニホン国の電波技術のレベルが高くなってきたため、デンパ君達の滑舌も良くなってきている。しかし、全てのデンパ君のバージョンアップを一度に行うことなどできない。そのため、それは都会にいるデンパ君達を主に行われている。コダマタウンの様な田舎のデンパ君達に順番が回ってくるのは当分先だろう。

 

「で、どこか楽しいところってあるかしら?」

「はい。そうですね……『アキンドシティ』なんか賑やかですし、食べ物もおいしいですよ? タコ焼きとか」

「う~ん、あまり興味無いわね」

 

 今、ハープは旅行会社で働いているデンパ君と話をしている。次の行き先を決めるためだ。ミソラと別れることを決めた今、この街に留まるのは気が引ける。さっさと立ち去るために、行き先を決めているところだ。

 

「う~ん、海外なんて如何でしょうか?」

「良いかもしれないわね」

 

 このニホン国から出れば、ミソラと遭遇する可能性は格段に低くなるし、彼女の元に戻りたいと言う願望も起きにくくなるだろう。ちょうどいいと考えた。

 

「世界屈指の大国家『アメロッパ』、雪景色がきれな『シャーロ』、自然豊かな『アッフリク』。穴場で言うと……『クリームランド』がお洒落で女の子に人気ですよ?」

 

 このデンパ君は仕事熱心らしく、次々に国の名前を挙げていく。だが、肝心の相手が上の空であることに気付いた。視線をたどると、電光板があった。今の時間が九時半ごろだと伝えている。

 

「ミソラ……今はもう学校かしら?」

 

 ぼそぼそと呟いているハープの声を、デンパ君はほとんど聞き取れなかった。だが、ある単語だけはしっかりと聞いていた。

 

「ミソラ? もしかして、引退しちゃった、あのミソラちゃんでしょうか?」

「え? ……ええ、そうよ」

「おお! あなたもファンでしたか!?」

 

 ハープは「ん?」と顔をしかめた。

 

「『も』? 『も』ってことはあなた以外にもいるの?」

 

 人間のミソラファンならいたるところにいる。だが、デンパ君がファンだとは思いもしていなかった。

 

「やれやれ、僕達『ミソラちゃんファンクラブD』もなめられましたね」

「『D』?」

 

 ますます分からないとハープは体を少し斜めに傾ける。

 

「『D』は『電波』の略。つまり、『ミソラちゃんファンクラブ電波』! 電波世界における、ミソラちゃんのファンクラブなんです! あなたも入りませんか!? 女の子も大歓迎です! あなたみたいな美人なら特に!!」

 

 さっきの仕事熱心な態度はどこへやら。電子データできた会員カードを見せながら、ミソラを熱弁している。そんな熱いデンパ君にちょっとだけ引きながら、ハープはさっさと行き先を決めてしまうことにした。

 

 

 グングンと景色が後ろに飛んでいく。背広に身を固めた中年男性の脇を走り抜ける。だが、勢い余って飛びだした場所は道路だった。白い乗用車が慌てて足を止めた。操作していたナビも、乗っていた人と同じく悲鳴を上げていただろう。

 

「馬鹿野郎! 気をつけろ!」

「す、すいません!」

 

 頭を下げて、逃げるようにその場から走り去った。だが、その足はすぐに止まる。もう体力が限界だ。口元に垂れて来た汗がしょっぱい。膝から下は感覚が無い。ヘタリと近くの壁にもたれかかった。

 

「ハープ、どこ行っちゃったのよ?」

 

 朝起きて、ハープがいないことに気付いたミソラは街へと飛び出していた。これで二日連続で学校を休んでしまうことになるが、どうでも良い。

 ハープを探しているのだが、その作業は困難ではなく無謀だった。普段は目に見えない電波体であるハープを大都市の中から見つけるなどできるわけがない。もしかしたら、この街から出て行ってしまった可能性だってある。ただの女の子である彼女には探す術がなかった。

 電波変換ができるスバルに相談しようとも考えたが、止めた。今、スバルは学校に行くと言う自分の壁を越えようと戦っているところだ。そんなスバルの挑戦を自分の都合で邪魔したくなかった。昨日も学校を休んだ事と、テスト勉強まで教えてもらった事が更なる負い目になる。とても相談する気にはなれなかった。

 

「ハープ……なんで……? なんで私に黙って出て行っちゃったの?」

 

 ただ途方に暮れるしかなった。

 

 

 仕事とミソラにご熱心なデンパ君と別れ、ハープはウェーブロードから街を見下ろしていた。もう、これでこの街を見ることは無くなるだろう。そう考えると、深呼吸の様にため息をついた。

 

「さてと、行きますか」

「どこに行くのじゃ?」

「え?」

 

 しわがれた男性の声が、頭上のウェーブロードから掛けられた。キョトンとしていた表情は、すぐに引き締められた。ゼット波を感知したからだ。FM星人達が持つ特有の周波数だ。

 

「この距離でゼット波に気付かなかったのか? この星に来て腑抜けてしもうたのか? お前さんの感知能力の高さは買っておったんだがのう」

 

 飛び降り、ハープの前にスタリと着地した。緑色のマントが翻り、ふんだんに取り付けられている装飾を煌かせる。何より目をつくのがその顔だ。骸骨そのものだ。この白骨が被っている王冠を見て、ハープは相手が誰なのか察した。

 

「クラウンね? 今は電波変換してるのよね?」

「そのとおり。今のワシの名はクラウン・サンダーじゃ」

 

 クラウン・サンダーの隣に王冠を被った白い雲のような塊が現れ、名乗った。ハープもよく知る歴戦のFM星人だった。

 

「あなたみたいな老戦士までよこすなんてね?」

「うむ。まさか老骨が駆り出されるとは思わんなんだわ」

 

 疲れたように眉を垂らすクラウン。彼の隣でずっと黙って立っていたクラウン・サンダーが口を開いた。

 

「世間話はこれまでにせい。あまりワシを待たせるでないぞ」

「おお、そうじゃったの」

 

 ずいぶんと偉そうな人間である。ごほんと一息ついて、クラウンが話を切り出した。

 

「ハープ、貴様はウォーロックと戦ったらしいのう?」

 

 まずいと直感が悟った。おそらく、この二人の狙いはアンドロメダの鍵だ。

 

「さあ、知らないわよ?」

「嘘を言うな。貴様が事件を起こしたことも、それがすぐに収束したことも知っとるわい。大方、ウォーロックに邪魔されたんじゃろう?」

 

 戦いも人生経験も豊かなクラウンを騙しきるのは難しいらしい。次にクラウン・サンダーがマントの下から手を出し、闘志を込めた拳を見せつける。

 

「ワシらは、今からそのウォーロックと戦いに行くのである」

「そして、アンドロメダの鍵も手に入れる」

 

 クラウン・サンダーに続けて言ったクラウンの言葉を聞き、予想が的中してしまった事を嘆いた。

 

「さあ、場所を教えるのじゃ!」

 

 電波体の時とは比較にならない周波数がクラウン・サンダーから立ち上る。どうやら、クラウンと電波変換しているこの人間も相当な実力者らしい。電波体のままのハープの微弱な周波数と比較すると、大人と子供ほどの力の差がありそうだ。

 

「い、嫌だわ……」

 

 それでも、ハープは首を振った。

 

「なぜじゃ、ハープ? 仇を取ってやるぞ?」

「な、なんでもよ! 仇だって取ってくれなくていいわよ」

 

 言うわけにはいかない。言えば、スバルが危険な目に合う。そうなってしまうと、スバルに淡い気持ちを抱いているミソラが悲しむことは目に見えている。ミソラのためにも言うわけにはいかなかった。

 

「そう言うな。こっちにも都合が……」

「もうよいぞ」

 

 二人のFM星人のやり取りを見ていたクラウン・サンダーが割り込んだ。

 

「どうしても首を縦に振りたくないと言うのならば、それでよいぞ」

 

 ハープは安心した。どうやら、話しの分かる相手らしい。

 

「じゃが、本当にそれでよいのならばな?」

「……え?」

 

 体がウェーブロードの僅か上空を駆けた。ハープの全身に閃光が走っている。クラウン・サンダーが仕掛けて来た攻撃は、クラウンお得意の雷だとすぐに察した。そして、先ほどの認識を改めた。

 

「さあ、尋問の始まりであるぞ」

 

 話の分かる相手では無い。

 

 

 階段の手前に、『関係者以外立ち入り禁止』の文字が掲げられている。それを少しの時間睨んだ後、見なかったことにして、入ってはいけない領域へと踏み込んだ。階段を駆け上がり、その先にある扉に手をかける。扉はギィと音を立てて開いてくれた。このビルのセキュリティの低さに感謝しながら屋上へと出る。地上にいるときには絶対に感じられないすっきりとした解放感と、フードをはぎ取ろうとしてくる強風を感じながら、屋上の端へと歩んで行く。その一歩一歩を刻む度に、緊張とは別の意味で手が震えてくる。

 本当は、歌う意味を見つけるまでは弾きたくなかった。それがスバルと別れて、しばらく考えて決めた自分なりの贖罪だった。だが、そうも言っていられない。

 

「ハープを見つけるためだもん……今回は特別……特別だよ?」

 

 自分に言い聞かせるようにピックを握りしめた。まだハープがこの街にいるとすれば、ここからなら聞こえるはず。大きく息を吸い込んだ。




原作を知らない方への用語説明をば


クリームランド:
 EXEで登場する架空上の国。EXE2と5で登場したプリンセス・プライドが治める小国。この作品では200年前から存在していることになる。

アキンドシティ:
 EXEで名前のみ登場する都市。モデルは大阪と思われる。EXE3で活躍したトラキチの故郷。

アメロッパ、シャーロ、アッフリク:
 それぞれ、アメリカ、ロシア、アフリカがモデルの国。EXEで登場。アメロッパは流ロク2でも登場しており、残る二つは流ロク3で名前のみ登場。……アッフリクは、流星では登場しなかったかもしれません。

ミソラファンクラブD:
 流ロク3で登場する公式設定。お熱な方々が集まっている。

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