流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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 今章は原作に無かったオリジナルストーリーです。アニメ要素、3の要素がちょいちょいと入ってきます。


断章.二人の戦い
第五十五話.ミソラの贖罪


「さっき、ニュース見たよ!? またコダマタウンで事件があったの!?」

「うん。そうなんだ。でも、大丈夫だよ? ちゃんと解決したから。学校も明日から普段通りにあるし」

「スバル君は大丈夫なの?」

「大丈夫! 怪我一つないよ?」

「なら良かった」

 

 その言葉を聞いて、やっとミソラは安心した。どうやら、スバルとウォーロックは無事らしい。画面に映っているスバルは元気そうだった。以前に比べると表情も明るくなった気がする。

 ニュースを見たミソラは慌ててスバルに電話を掛けたのである。直前までは生きた心地がしなかったが、それも安堵の一息と共に出て行った。

 直後に女性の声が画面向こうから聞こえて来た。口調と話の内容から、スバルの母が夕食ができたことを伝えているらしい。

 

「ごめん、ミソラちゃん。今から晩御飯」

「ううん、気にしないで。私も途中だったから。それじゃね?」

「うん。じゃあね?」

 

 電話を切って、壁にギターを立てかける。

 

「ごめんね。スバル君」

 

 トランサーの通信は切ってある。だからスバルに聞こえることはない。だが、ミソラは一度ぺこりとギターに頭を下げた。

 

「今日、スバル君は敵と戦ったばっかり。おまけに明日も学校に行くんだよね? だけど、私は学校をさぼります。けどね、友達に会いに行くからなの。だから、許してね?」

 

 話の流れから、さぼるなんて言い出せなかった。少々罪悪感が残る。そんなミソラにフワフワと近づいてくる水色の影が一つ。

 

「ミソラ、もうお風呂に入っちゃったら? 明日は早めに起きるんでしょ?」

「そうだね、入ってくる!」

 

 先日、ミソラのパートナーとなったFM星人のハープである。地球人の生活習慣にだいぶ慣れてきているようで、ミソラがとっくに食べ終えた食器を片づけている。普段の彼女は家事を手伝ったり、ミソラのスケジュール管理などをしている。歌手を引退して、普通の小学五年生に戻ったミソラには以前の様な多忙さは無い。だが、彼女の身の周りの世話をしているあたり、良きお姉さんになりつつあるようだ。

 準備をしているミソラをよそに、ハープは汚れたお皿を両手に、壁に立てかけてあるギターを見る。その目はどこか遠い物を見るようなものだ。

 

「ねぇ、ミソラ」

「何?」

「本当に、歌わないの?」

「……うん」

 

 ハープはもうこのギターの音色を何日も聞いていない。ミソラはラストライブの日以来、一度も歌っていないし、このギターを弾いてもいない。スバルには、音楽の通信教育を受けていると言ったが、あれは見栄だ。その予定を立てているだけだ。スバルをテーマにした曲を作るのも保留している。本来の役目を果たせない黄色い楽器は物悲しそうに佇んでいた。

 

「ハープ。私、歌が大好きだよ。でも、決めたの。『何のために歌うのか』それを見つけるまでは、歌わないって。それが、お母さんとの歌の絆で、人を傷付けちゃった私の贖罪。そうしないと、私、前に進めない気がするの」

 

 確証なんて無い。だが、あれだけの騒ぎを起こして、人を傷付けて、無かったことにするなど、彼女にはできなかった。何らかの形で罪を背負いたい。そんな少女の真面目で心優しい部分がそうさせる。こんなことは自己満足に過ぎない。あの事件の被害者たちが報われるわけではない。だが、それでも良い。過去を反省しないよりかはよっぽどいい。

 お風呂場へと入って行くミソラの背中は折れてしまいそうに細くて、ハープは何も言えなかった。

 

 

 翌日、少し早起きしたミソラはおめかしを始めた。学校に行く時の格好とは違い、変装をする。髪をおさげにして、伊達眼鏡をかける。服装はお出かけ用のちょっとおしゃれなものを選んだ。後は、ハープが入っているギターを担いでブーツを履くだけだ。ガチャリとドアを開けると、春の温かい空気が家へと入ってくる。すぐに戸を閉めて鍵をかけ、街を見渡した。

 ミソラが住んでいる街の名はベイサイドシティ。規模は大都会に分類されるほど、活気のある街だ。だが、ミソラが住んでいるのは都心部からちょっと離れた場所。辺りにあるのは人々の私生活が行われる家々だ。スバルが住んでいるコダマタウンと同じく住宅街である。違う点があるとすれば、街が殺風景なことだろう。

 子供達の憩いの場となる公園は無く、代わりに所狭しと2,3階建のアパートが窮屈そうに敷き詰められている。ちょっと大きい茶色いマンションもちらほらと目に入ってくる。その分、緑は皆無だ。川も流れていなければ、もちろん魚もいない。目につくのは人工物ばかりだ。

 ちょっと寂しい風景を彩るように、スーツ姿の大人たちが歩いて行く。今日は平日なので、皆出勤するのだろう。だるそうに学校に行く、中高生の姿も見える。

 元気に学校に走って行くはずの小学生は、周り者達と比較すると幾分かは賑やかだ。だが、コダマタウンの子供達に比べると、どこかかしこまった雰囲気を纏っている。行儀は良いだろうが、無邪気さと元気の良さでは一歩及ばない。

 道行く人達は、すれ違う人という人にまるで興味が無いようで、無言で歩いて行く。当然と言えば当然かもしれない。皆他人なのだから。ただ静かに、時計が刻む針に従って足を運んで行く。

 そんな風景の中をミソラは歩いて行く。コダマタウンを訪ねてからこの街を見ると、ここが如何に冷たい場所なのかを理解させられる。母と過ごした街が好きではなくなっていく。それが少し悲しくて、その場を離れるように足を速めた。向かう先は都心部だ。

 

 

 バスから降りて待ち合わせ場所へと向かう。目指すは最近できたカフェだ。まだ知名度は低く、隠れスポットとなっている。ハープがトランサーのGPSと探索機能でルートを調べてくれた。ハープの指示を音声案内代わりにして、ようやくその場所を見つけられた。ちょっと目立たないところにあるため見つけにくかったが、入ってみればしゃれた店構えだ。店員が来店を歓迎するお決まりのご挨拶にも歓迎の思いが込められている。チェーン店のアルバイト店員ではまずできない。そんな丁寧な店員に軽く頭を下げて、きょろきょろとこの店を見つけてくれた友人を探す。

 その子は窓際の席にいた。すこしウェーブのかかった茶色の長い髪を右側で一本にまとめている。重くて首が傾かないのかと心配してしまいそうだが、その子にはとても似合っていた。ずっと、ブツブツと本を読んでいるその友人にスタスタと近づき、声をかけた。

 

「久しぶり、スズカ」

「あ、ミソラ。久しぶり」

 

 パタンと本を閉じてミソラの友人は顔を上げた。その目はミソラのぱっちりとしたものと違い、クリっとしていて可愛らしい。ミソラは向かいの席の椅子を引いて腰を下ろす。

 平日の午前中から小学生二人が街中で遊んでいる。あまり褒められた行為ではないが、このミソラとスズカの場合は仕方ない。

 

「台本読んでたの?」

「うん。今度のドラマのね?」

 

 ミソラはスズカが持っていた本を見ながら言う。そう、このスズカと言う少女は俳優だ。俳優を目指している卵ではなく、実際にテレビに出ている一人前だ。ミソラが現役だったころに知り合い。あっという間に仲良くなれた大切な同期で親友。それがこのスズカという少女だ。

 

「まあ、出れるのはほんの数分なんだけれどね?」

 

 だが、スズカはプロではあるが、駆け出しだ。残念ながら、スズカの事を知っている人はまるでいない。そんなスズカを励ましてあげるミソラに、ハープは呆れたようにため息をついた。ミソラはこんな風に誰にでも優しくできる子だ。無論、ミソラが引退した直後に親権を放棄した、あのマネージャーのような(やから)は別だが。

 

「でも、この番組ってあれでしょ? 二百年前から続いている、超長寿番組、『危ない暴れん坊ウルトラ将軍様』でしょ!?」

「そうだよ。あの有名大河(・・)』ドラマなんだよ!」

「将軍様が、『この紋所(もんどころ)が目に入らぬか!』って言いながら、『もんどころニウムレーザー』で宇宙から侵略してきたエイリアン達を、ズバババーン! ってなぎ払うやつでしょ? 出れるだけでも凄いよ!」

「そ、そうかな? それのちょっとした子役で出るんだよ? まあ、その一話限りに数分だけ登場する役なんだけれどね? 台詞も少ないし」

「それでもすごいよ!」

 

 しばらくは、その大河ドラマと呼べるのか怪しい番組の話しで盛り上がる。こうして、スズカが出る番組を褒めることで、スズカに自信を持ってもらいたいというミソラなりの計らいだった。内容や人気もそうだが、主演キャストの話になったり、彼らの演技の上手さについて熱く語ったりと話が続く。

 そんな二人の様子を、ハープはじっと見守っていた。

 

 

 少し早い昼食をその店で済ませ、今はアクセサリー店で品々を見て回る。品物を手に取りながら、キャッキャと話に花を咲かせてる。

 だが、ふとスズカの表情が曇る。

 

「どうしたの?」

「うん……ミソラは強いなって……」

 

 引退こそしたものの、ミソラはニホン国では知らぬ者はいない存在だ。そんなミソラと違って、自分は息を吹きかけられるだけで飛んでいきそうなほどちっぽけだ。なにより、ミソラは強い。両親を亡くしても明るくふるまっていられるほど、前向きに生きている。ミソラは自分に無いものを全てを持っている。ミソラはスズカにとって親友であり、目標であり、憧れだった。

 

「そうだね。私は強いよ」

 

 目を閉じて静かな口調で言う。だが、謙遜は一切しなかった。自信たっぷりに言うミソラに、スズカは力無く笑って見せる。嫌な気分を隠すためじゃない。こんな強いミソラが好きだから、自然と笑ったのである。

 

「でもね。正確に言うと、私は強くなれたんだよ?」

「……強くなれた?」

 

 キョトンと髪の重力がかかる方向とは反対方向に首を傾げて訊いてくる。

 

「……私ね、ブラザーができたの」

「え? 本当!?」

「うん。はじめてのブラザーなの!」

 

 ちなみに、ミソラとスズカはブラザーでは無い。ブラザーバンドを結ぶと、ある程度の個人情報を見ることができるようになるため、スズカ側の芸能事務所が禁止しているのである。スズカの芸能事務所に限らず、未だにこの体勢を取っている事務所は多数存在している。だが、それも時代の流れによって、徐々に緩和されつつある。芸能人が気軽にブラザーバンドを結べる日も近いだろう。残念なことではあるが、ミソラとスズカがブラザーを結ぶのは、その時までお預けだ。

 スズカは自分が初めてのブラザーになれなかったのをちょっと残念に思いながらもミソラを祝福した。

 

「おめでとう! 羨ましいなぁ、その子……。で、良い子なの?」

 

 さっきの話とどこに繋がりがあるのだろうと思いながら尋ねた。

 

「私と同じでね……お父さんがいない子なの」

 

 ミソラのソプラノトーンが下がる。おそらく、そのブラザーを哀れんでいるのだろう。

 

「お母さんを亡くした私の気持ち、分かるよ! って言って、必死に励まそうとしてくれたの。とても優しい人だよ」

 

 必死になってくれている彼を傷付けてしまった事を思い出し、さらに表情を暗くする。心配そうに、スズカはミソラの横顔を様子見る。

 次にミソラが思い出したのはブラザーを申し込まれた時のことだ。顔は情けなかったが、彼女にとってはヒーローの表情だった。トラウマを呼び起こしながらも、勇気を振り絞ってくれた。全て、自分のためにだ。それが嬉しくて、フフっと笑みをこぼした。

 ミソラの感情が急に逆転したため、スズカは対応に困ってしまう。心配すればいいのか、明るく接すればいいのか。

 

「私、その子とブラザーになれたから、一人じゃないんだ! って思えるようになったの、強く生きようって考えれるようになれたんだよ」

 

 スズカに振り向いたその表情は明るく笑っていた。どうやら、こちらも明るく対応すればいいらしい。

 

「そうなんだ。すごいんだね、ブラザーって?」

「うん。それに、相手がスバル君だから、私は強くなれたんだ」

 

 自分と同じく、親を亡くした不幸を知っているからこそ、ミソラにとってスバルは力をくれる存在だ。

 ミソラの表情を見て、スズカはピンと来た。

 

「そのブラザーって男の子なんだよね?」

「あれ? 私男の子って言った?」

「さっき、『スバル()』って言ったよ?」

 

 そうだったかなと口に人差し指を当てた。

 

「スバル君のこと好きなの?」

 

 飛びあがった。質問がストレート過ぎる。直球の中の直球だ。

 

「な、なんで!?」

「う~ん、女の勘かな~? で、どうなの?」

「い、いや……どうって……そんな……」

「ん? ん? ミソラ、怪しいぞ~?」

 

 テレビ出演経験があれど、二人はどこまで行っても十一歳の女の子だ。友達の恋愛話に花を咲かせるその姿はどこにでもいる女の子そのものだった。ギターの中の電脳空間で、ハープは二人をクスクスと笑いながら見ていた。

 耳が(つんざ)かれた。ガラスが砕け、高温と共に一挙に推し出される音。それが止むと、身を(かが)めていた二人は立ち上がった。

 

「な……何……?」

「スズカ、外に出よう!」

 

 辺りに異変が起これば、それが何かを確認しようとするのが人の本能だ。店の外の大通りに出ると、人と言う人が皆同じ方角を見て指差していた。その先に見えたのはビルだ。そのビルは、二人がさっきまでいた店のすぐ近くに建っている、大手電気店が所有している街の目印となっている店だ。その側面についている大型ディスプレイが黒い煙を吐いていた。ヤジウマがぞろぞろとビルの前に集まる。つまり、ミソラ達の周りにも集まってくる。人間が鮨詰め状態だ。

 それを見計らったように、再び爆発が起きた。目の前の半壊していたディスプレイがだ。舞い散る螺子に、ガラスや金属の破片。春の陽気な日の光を美しく照らし、凶器となって人々に降り注ぐ。

 一斉に走り出す人々。その動きに統制は無く、バラバラに動きだす。そのため、ぶつかり、躓き、身動きが取れなくなる人が続出する。法則性の無い人の波。小学生の女の子であるミソラとスズカが逆らえるわけが無い。

 

「スズカ!」

「み、ミソラ!」

 

 あっという間にスズカが波の向こうに消える。茶色い髪の端すら見えない。完全にはぐれてしまった。だが、ハープにとっては逆に好都合だった。

 

「ミソラ、電波変換よ!」

「え?」

「急いで!」

 

 見上げると、凶器達が間近に迫っていた。周りの目は気にしていられない。周りもこちらを見ている余裕など無いはずだ。ミソラとはぐれてしまい、今頃涙を浮かべているであろうスズカには悪いが、確かにちょうど良い。

 ギターに手を添えて叫んだ。

 

「電波変換 響ミソラ オン・エア!」

 

 一瞬生まれて消えたピンクの光。人込みの中だったため、見えている人はいただろう。だが、そんな光に気を止めるほど、周りの者たちは暇では無かった。

 ハープ・ノートに電波変換したミソラは電波の体だ。よって、誰にも見えないし、人の体をすり抜けられる。人の波に邪魔されることもなく、空に向かってギターを構え、両脇にコンポを召喚した。

 

「パルスソング! ショックノート!」

 

 ギターを力強く弾き、極力大きな音符を作り出す。二つのコンポからは小さい音符を一度に大量に放出した。パルスソングはディスプレイのフレームだった鉄塊を大きく弾き飛ばし、無数の細かい音弾は空から降ってくるガラスと金属の大群を迎え撃つ。無数の花火があがる。パパパと鳴り響く空が人々の足を止め、何が起こったのかを確かめようと、皆が空を見上げた。だが、その直後に悲鳴も上がる。

 ハープ・ノートは降り注ぐ惨事から皆を守ろうとした。しかし、守り切れなかった。こちらの音符ショットガンに当たらなかった物や、当たりはしたが充分な大きさと威力を保った物が人々を襲った。だが、この結果は功を制したと言って良いだろう。ほとんどを撃ち落とすことができたため、怪我をした人の数は指折り数えるほどだ。ハープ・ノートのとっさの行動が無ければ、被害者の数はこの程度では済まなかった。後は、その中にスズカが含まれていないことを祈るだけだ。

 

「ミソラ。多分、ウィルスの仕業よ!」

「電波ウィルスが!?」

「ええ……」

 

 ハープが出方を窺うようにミソラの表情を見る。そこには予想通り、ディスプレイを睨むミソラの目があった。

 

「どうする……って、聞くまでもないわね?」

 

 ハープがミソラのパートナーとなってから今までの間、このような事件と二人のやり取りは度々あった。だからこそ、ハープは次の返事を簡単に予想できたし、外れなかった。

 

「ええ、行くわよ。ハープ!」




 ミソラの友人キャラを出したかったため、3のキャラであるスズカに登場してもらいました。いつ頃から仲が良かったのかは分かりませんが、この小説ではこのころから大親友という設定です。ブラザーバンドを結んでいない理由はこじ付けです。

 ちなみに、ミソラとスズカの会話で登場した『危ない暴れん坊ウルトラ将軍様』という番組は「ロックマンエグゼOSS」のユーモアセンスっぽい会話で登場する公式設定です。もんどころニウムレーザーでエイリアンを一掃する大河ドラマ、ちょっと見てみたい気もします……よね!?(ねぇよ)

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