流星のロックマン Arrange The Original 作:悲傷
後少しだ。長い旅だった。どれぐらい駆けていただろうか。やつらはどこまで来ている?
そんな考えが頭に浮かんでくる。それは、自分に余裕が出てきたということだろう。
目的地となる惑星の、人工衛星のそばを通る。ペガサスの形をしたオブジェを取り付けたそれに軽く目をやり、すぐに目的地を見直した。安堵の息が漏れる。
だが、すぐに後ろを振り返る。大丈夫だ。まだ誰も来ていない。
……行こう、休んでいる場合ではない。
自分の体内に隠したそれの存在を確認し、牙をかみしめ、再び宙を駆けはじめる。青の光になったそれは、惑星の一点へと吸い込まれていった。
□
階段を上がりきると、ちょっとした広場に出た。きれいに並べられた花壇には黄を主とした花々が咲いている。その隣には、年代物の機関車が一台、途中で切れたレールの上に乗っかっている。
これは一切使用されていない。この町では空中を少し浮いて走るバスが主流だ。そのため、展示品として置かれている。
「……追いかけてきてないよな」
奇妙な三人組をまき、ほっと一息ついた。
「行きたくないよ。学校なんて……」
学校に行ったら……
そう考えた時に、ピリリと左腕の青い機械がアラームを鳴らす。ディスプレイが、メールが来ていることを知らせていた。開いてみる。
「ゲッ!」
送り主の覧に書かれているこの名前は……自分が先ほどのでかいやつ、『牛島ゴン太』程度の知能でなければ、自分の記憶は正しいことになる。言うまでもなく自分はその程度ではないことを確信し、中身を開いた。音声メールから高い声が発せられる。
「今日学校で”ブラザーバンド”について教わったわ。宿題も出ているの。明日までにやってきなさい。私がこの音声メールで自動で説明をし……」
すぐにキャンセルキーを押して、再生されている音声を消した。冗談じゃない。あの傲慢委員長の音を聞きながら宿題なんてやっていられない。メールをすぐにゴミ箱に移動させた。無駄に容量がでかい。予想以上にかかる時間にいらだちすら感じた。
何よりも……
「それぐらい知ってるよ。誰が”ブラザーバンド”を作ったと思ってるんだよ」
”ブラザー”。それはこの世界で親友の中の親友を意味する言葉だ。そして、これに類似する言葉が”ブラザーバンド”だ。信頼できる相手の呼称が”ブラザー”なら。その者と結ぶ絆が”ブラザーバンド”だ。
これは『本当に相手を信じられる』。そういう絆を感じた者同士で結ぶものだ。一人一台持っている、互いの携帯端末、トランサーを通じてそれは結ばれる。結んだ相手はトランサーのリストに載せられ、相手の
そうして、互いの絆を視覚化することにより、信頼をより強固なものとするのが目的だ。今は世界中で使用されている。
これを作ったのは、スバルの父、星河大吾だ。彼は、電波ネットワーク理論を作った光熱斗博士のもう一つの理論をもとに、これを完成させた。だからスバルは人一倍このシステムについて詳しかった。
しかし、彼個人にとっては無用のものだ。
「……ブラザーなんて……」
一人が良い。あんな思いをするのなら……
□
完全に辺りは夜になった。予想通りだ。月も雲もない。気温と気圧も最高と言って良いだろう。澄んだ星空のおかげで、肉眼でも遠い星を見ることができた。
「父さん。今日はカシオペア座が綺麗に見えるよ」
今もこのどこかに父がいる。彼はそう信じていた。彼が愚かなのではない。どうしても、彼にはそう思えないのだ。
「今日は、天地さんって人が来たよ。ビジライザーっていうメガネを、お土産にくれたんだ」
空に向かって、一人で会話をするスバル。声のトーンとその表情はずっと暗いままだ。
「何に使うのか分からないって言っていたけど、何に使うものなの? これをかけたら……父さんを見つけることができるかな?」
額にかけたビジライザーをゆっくりとかける。耳の上にかかる圧迫感がちょっと嫌だった。眼前に広がるのは……ビジライザーのレンズ色が加わった夜の世界だ。
「……そんなわけないか」
分かり切っていた結果に落胆する。
「ねぇ、父さん……今どこにいるの? 僕も……母さんも……会いたいよ、父さん。……って、またメール?」
トランサーが鳴り響いていた。気乗りはしないが、嫌々と開いてみる。同時に、暗かった表情が大きく変化した。
「……え? 父さんのアクセスシグナル!?」
目を疑ったが、間違いなかった。トランサーに表示されていたのは、父のトランサーが発する信号だった。
「まさか、父さん? って、なんか強くなってる!?」
アラーム音がどんどん大きくなり、それに合わせて小刻みになる。最早アラームではなく警報だ。同時に表示される数値が上がって行く。あり得ない現象に頭が追いつかない。ビジライザーを取ることすら忘れ、情報を集めようとする本能が目と首をあちこちに向ける。
「な、なんなの!?」
肝心の場所には注意が行かなかった。気づいていなかった。頭上に近づいてくる青い光に。それはまっすぐにスバルに向かってくる。気配に気づき、彼が上を仰いだときは遅かった。青が眼前を支配していた。
「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
声を上げるより早く、それはスバルの正面から激突した。体中に青い筋がバチバチと走る。周りが見えない。手足の感覚もない。白だ。何もない純白の空間に放り出される。頭がそれを整理する前に、体は地面にたたきつけられていた。触覚が戻っていることを確かめるより早く、聴覚が反応した。
「ここが……地球か……」
父の声じゃない。それは聞いたことの無い、低い声だった。