流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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 今回は、原作には無いオリジナル設定が出ます。内容は公式でも全く触れていない部分です。

2013/5/3 改稿


第四十六話.縮まる距離

「なんで逃げるんだ?」

 

 屋上に来ると誰もいないことを確認したウォーロックが話しかけて来た。

 

「嫌なんだよ……」

 

 スバルは今まで極力他人とのかかわりを避けて来た。押し込まれたように人が行き交う学校という環境は、彼にとって居心地が良いとは言えなかった。それに加えてクラスメイト達が自分に関わろうとしてくる。体験が乏しければ耐性も無い。ずかずかと自分の領域に踏み込まれるのが嫌だった。

 クラスメイト達に悪意は無い。むしろ親切だろう。しかし、スバルには辛いことでしかない。彼らの好意は刺々しい塊であり、スバルの風船の様に繊細な心を傷付ける。

 

「ダメだな、僕は……何しに学校に来てるんだよ……」

 

 

――友人ができれば――

 

 

 母の言葉が痛い。今朝、母親に言ったことが軽率だったと自身を咎めた。

 

「やあ」

 

 それでも、すんなりと心に入ってくる者がいる。双葉ツカサの笑みは不思議と刺を感じさせず、スバルの領域へと入ってくる。

 

「怖いの?」

「……え?」

 

 図星だ。心を見抜かれていた。

 

「うん……皆とどう距離を取ればいいのか、分からなくてね」

「皆そうだよ? 少しずつお互いの距離を測って行くんだ。僕はできれば君とは近い距離に居たいよ」

「そ、そう……」

 

 相変わらずちょっと恥ずかしい台詞を平然と吐くツカサに動揺する。しかし、彼とは距離を取ろうとは思えなかった。どこか惹かれるものを彼に感じる。

 

「君は、委員長達とは仲が良いんだね?」

「え? 別に……仲良くは……」

「委員長達、いつも教室の隅で騒いでいたよ? 『星河スバルを何としても登校させる!』って。友達なのかと思っていたんだけれど?」

 

 どうやらあの三人は普段からあのテンションらしい。今日の午前中も賑やかを通り越して騒がしかった。あの賑わいと共にスバルの名前が飛び交っていたのかと思うと、恥ずかしいと感じてしまった。

 

「よっぽど、生徒会長になりたいんだね?」

「そうなの? 僕はまた委員長のお人好しが出てるなって思ったんだけれど?」

 

 耳を疑った。確かに根は優しい少女だろうがお人好しとは思えなかった。アマケンの所長さんとは雲泥の差があるように感じる。

 

「ゴン太君とキザマロ君の仲が良いのは知ってるよね?」

 

 唐突に話題を変えられて戸惑うが、素直に首を縦に振った。

 

「ゴン太君は体が大きくて暴れん坊でね? 皆から距離を置かれていたんだ。キザマロ君は逆。本の虫ってやつで……いつも図書室で、一人で座っている人だったんだ」

 

 想像してみる。二人のイメージにピッタリだ。比較的容易な作業だった。

 

「ゴン太君はキザマロ君をいじめていたんだよ」

 

 今度は無理だった。ミソラのコンサートのために命綱無しの綱渡りを共にしたあの二人がそんな関係だったとは想像できなかった。

 

「毎日それを繰り返すゴン太君を見てね、委員長がこう言ったんだ」

 

 

――ゴン太! キザマロと友達になりたいのならそう言えばいいじゃない!!――

 

 

「ってね?」

 

 訳が分からないと表情を返すと、ツカサはクスリと笑いながら解説してくれた。

 

「つまりね? ゴン太君は、自分と同じく友達がいないキザマロ君と仲良くなりたかったんだよ。ただ、どうすればいいか分からなくて、構ってほしいからちょっかい出していたんだよ」

「あ……そういうもの……なんだ?」

 

 結局スバルには理解しがたい内容だった。

 

「それからなんだ。あの三人が一緒に行動するようになったのって。委員長はああ見えて世話焼きで、誰かを大切に思える人なんだよ? だから、スバル君を学校に誘ったのは、君に学校の楽しさを伝えたかったからじゃないかな?」

 

 否定できなかった。確かにそうかもしれない。

 

「人なんてそんなものだよ? ゴン太君とキザマロ君の今の距離感だって、長い時間をかけて作ってきたんだ。スバル君も、皆との距離感は少しずつ掴んで行ったらいい。だからさ……」

 

 ツカサの言葉が途切れた。エレベータが屋上への到着を伝えたからだ。

 

「なんだ、こんなところに居たのかよ?」

「探しましたよ~」

 

 話題に上がっていたゴン太とキザマロだ。本当に元いじめっ子と元いじめられっ子なのだろうかと疑いたくなる。お互いが隣に立っていることが当たり前のように振舞っている。

 

「スバル、ドッジボールやろうぜ!」

「楽しいですよ? ツカサ君もやりましょう?」

 

 返答に困るスバルをおいて、ツカサは二人に歩み寄りながら振り返る。

 

「行こうか?」

 

 怖い。

 皆とどう距離を取ればいいのか分からない。

 ただ、今は……

 

「……うん」

 

 一歩、足を前に踏み出した。 

 

 

 放課後は学芸会に向けた劇の練習だ。今はメインシーン、ロックマンが牛男と対峙する場面だ。ルナ、ツカサ、ゴン太の三人が舞台の上で向き合っている。

 

「ロックマンの役は、ツカサなんだな?」

「そうみたいだね? ……それにしても本格的だな」

「そうなのか?」

 

 舞台の成り行きを見守る生徒達の輪から離れ、スバルはウォーロックと会話をしていた。余分な照明の明りは消され、うす暗くなった舞台にいる三人にスポットライトが当てられる。ライトをあてるタイミングが遅いとルナは操作していたキザマロに注意を促す。

 

「スバル君は何の役なの?」

 

 男の子が近づいて話しかけてくる。名前が思い出せない事を隠し、心中で謝罪しながらまだ知らないと答えた。

 その成り行きを見ていた女の子が気を利かせてルナの名を呼び、スバルの役を尋ねてくれた。

 

 

「やっぱり、ぴったりだわ!」

 

 自分が行った配役の芸術的な美しさに、ルナは自画自賛した。

 スバルは真逆の表情を返す。他のクラスの面々が送ってくれる同情の視線が痛かった。両手に持った木の枝を模した段ボールを放り出したくなる気に狩られる。

 スバルの役は背景の木だ。いわゆる、『席が足らないので用意した役』だ。先日のルナの『大事な役』という言葉を思い出し、騙されたのだと気付く。

 縦ロールの隙間から小さく見えるゴン太とキザマロと目が合う。謝罪のかけらも無い、明るい笑みは『ま、許せ』と返事をしていた。クラスメイト達の端っこの方に視線を反らすと、ツカサが目に入った。『これのどこが友達思いだ?』と目で訴えると、苦笑いを返してくる。口元に当てた手の下でクスクスと笑みがこぼれているのをスバルは見逃さなかった。

 でも、左手でガタガタと爆笑している異星人が一番むかついた。

 

 

 劇の練習が終わり、棒になりかけた両腕をぶらぶらと揺らして血流を促進させる。

 

「お疲れ様だな」

「ロックが言うと嫌味に聞こえるんだけど?」

 

 ゲラゲラと笑っているトランサーの中にいる住人に皮肉った答えを返す。エレベータで一階に下り、ちょうど職員室の前を歩いている。前方の壁に埋まっていた引き戸ががらりと開くと、モジャモジャとした塊が顔をのぞかせた。

 

「育田先生」

「お、星河。今帰りか?」

 

 担任の育田だ。教員達も帰り始める時間だと言うのに鞄一つ身につけていない。どうやらまだ仕事が残っているらしい。労働者の忙しさが垣間見える。

 

「学校はどうだ?」

 

 目を細めてスバルを見ている。元々糸のように細いため、大した変化は見れない。だが、育田が心底自分を心配してくれているというのはスバルでも分かった。先日の育田の言葉に嘘偽りは無いようだ。

 

「まだ分かりません。けど……家では絶対にできない体験だったと思います」

 

 細い目が垂れさがり、合わせてどっしりとした胸も下がった。逆に釣り上がったのは口の両端だ。大人の包容力をたっぷりと含んだ笑みだ。

 

「どうだ? 勇気を出してみて良かったか?」

 

 育田に初めて会った時のことを思い出す。相談してほしいと言ったスバルに彼はこう言ってくれた。『ちょっとの勇気で良い。ちょっとの勇気で一歩前に進むんだ』と。

 今日の自分を振り返ると、自然と答えが出た。

 

 

「じゃあ、学校は楽しかったんだ?」

 

「育田先生の授業はね? 後は得られるものはあったけれど、『楽しい?』って訊かれたら返事に困るな。劇の役なんて最悪だったよ」

 

「あはは。木の役は災難だったね?」

 

 夜はいつもどおり、ミソラとメールをしていた。返信のために文字を打ち込んで行く。

 

「君との繋がりがあったから学校に行けたよ? ツカサ君っていう人とも友達になれそうだし」

 

「ほんと? 良かった。委員長さん達やツカサ君とブラザーになれたら良いね?」

 

「ブラザーは考えていなかったな。頑張ってみるよ」

 

 しばらくしてメールのやり取りは終わった。すぐに机に向かい、ティーチャーマンがチェックしてくれていた宿題を受け取る。どうやら間違いは無かったらしい。明日の時間割を確認し、体操着がいらないことを確かめる。

 ドラマを見ていたウォーロックはその様子を尻目に、微かに口元を緩めた。




 ゴン太とキザマロの関係は私の想像です。「三人の出会いってこんな感じかな?」と想像していたので、この小説に取り入れてみました。

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