流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第四十二話.父の秘密

 展望台でスバルとウォーロックは三つの巨大な影と向き合っていた。三人の電波体に疑問を投げかける。

 

「なんで僕達のことを知ってるの? 夢に出て来たのもあなた達なの?」

 

 聞かなければならないことはまだまだたくさんある。三賢者と呼ばれた彼らに一番の疑問を投げかけた。

 

「あなた達はこのペンダントと何の関係があるの? 父さんのことをどれだけ知ってるの!? それに……なんで僕達の前に現れたの!?」

 

 父の形見のペンダントが光り、この三賢者が現れた。天地が言っていた通信機能が彼らを呼び寄せたとしか考えられない。そして、スバルとウォーロックの夢に出て話しかけて来た。

 最初から二人を知っていたかのようにだ。

 

「先に二つ目の質問に答えておこう。あれは夢ではなく、意識だ」

「お前達の意識に話しかけたのだ。今のように、我々の意識だけをお前達の意識へと飛ばしてな」

 

 レオ・キングダムとドラゴン・スカイが答えた。どうやら、目の前の三人はこの場所にいるのではなく、それぞれのサテライトから意識だけをこの場所へと飛ばしているらしい。

 

「次に……我々と星河大吾との関係について話さねばならぬな」

 

 ペガサス・マジックの答えに、スバルが一歩足を前に踏み出した。その目は相手を睨むかのようだ。

 

「我々は、星河大吾と共にブラザーバンドを作った者だ」

「……え? 父さんと!?」

 

 父が発明したブラザーバンド。その開発の手助けをしたと彼らは言う。

 

「星河大吾、誰よりも絆を大切にする男だった」

「我々は持てる知識と力を、彼の理想に役立てることにした」

「そのビジライザーとペンダントは、大吾が我々と連絡を取る時に使っていたものだ」

 

 ペガサス・マジック、レオ・キングダム、ドラゴン・スカイは思いだすように言葉を紡ぎ出した。

 スバルはビジライザーとペンダントにそっと触れた。ようやく、天地ですら分からないと言っていた、それぞれの本来の用途が判明した。

 これで、三つ目と四つ目のスバルの疑問が晴れた。同時に、一つ目の質問の一部が分かった。

 

「父さんから僕のことを聞いていたんだね?」

 

 スバルが一番初めにした質問、『なぜ自分達を知っているのか』。

 察したスバルに三賢者は頷いた。

 

「それに、時たまにではあるがお前の様子は観察させてもらっていた」

「ウォーロックよ。お前がペガサスのサテライトに近づいたときから、お前をも観察させてもらった」

「星河スバルと出会い、行動を共にするようになるまでも、それ以降もな」

 

 ウォーロックは地球に来た時を思い出した。確かに、ペガサスのオブジェが付いた人工衛星の側を通過した。

 これで、完全に一つ目の疑問が解決した。残るは、五つ目の質問のみだ。

 

「もう一度聞くよ? なんで、僕達の前に現れたの?」

「お前達の意識に現れた時に話さなかったか?」

 

 ペガサス・マジックの答えに、二人は記憶をたどって行く。

 

「この星に脅威が迫っている?」

「絆の力がこの星を救う……だったか?」

 

 覚えてくれていた二人に、ペガサス・マジックは頷いた。

 

「我々は、戦いの準備をしに来た。もうじき訪れるであろう、決戦の時に向けてな」

 

 ドラゴン・スカイの言葉に、なんで今更という疑問が湧いた。準備をするならば、早く始めるに越したことは無いからだ。

 スバルが疑問を口にすると、レオ・キングダムが答えた。

 

「星河スバル、お前が大吾の意志を継ぎ、絆の大切さを知ったからだ。そのペンダントが我々に知らせてくれたのだ」

「絆の大切さ……ブラザーバンドのこと?」

 

 スバルはミソラとブラザーバンドを結び、絆の温かさを知った。彼女を助けるつもりでブラザーになったが、同時に自分に自信が付いた。星を見て寝るだけだった夜の時間に、メールという新たな楽しみも貰った。全て、ミソラと繋いだ絆がもたらしてくれたものだ。

 

「我々は待っていたのだ。お前にブラザーができるのを」

「人は守るものができた時、初めて本当の強さを手にすることができる」

「お前が、守りたいと思える大切な存在ができるのを、我々はずっと待っていたのだ」

 

 大切な存在と言われ、自分に向けてくれたミソラの笑顔が脳裏をよぎった。慌てて振り払い、顔の熱も下げる。

 

「大いなる脅威、FM星人達の魔の手が迫っている」

「それが舞い降りた時、お前の大切な人々は失われる」

「育んできた絆も、生まれたばかりの絆も、ことごとく切り裂かれるであろう」

 

 言われて想像してみる。母親やミソラがいなくなった世界。

 

「い、嫌だよ! そんなの!!」

 

 スバルに受け入れられるわけが無かった。

 

「お前たちは、その脅威に立ち向かわなければならない」

「……なんで僕とロックが!?」

 

 ドラゴン・スカイの言葉に動揺するスバルに、レオ・キングダムが代わりに答えた。

 

「これも星の運命だ。お前が星河大吾の息子として生まれた時から、すでに決まっていたのかもしれぬ」

 

 レオ・キングダムの言うとおりかもしれない。三賢者と協力し、ブラザーバンドを作り出した偉大な男の息子として生まれ、彼が愛用していたビジライザーとペンダントを受け継ぎ、異星人であるウォーロックと出会い、彼と共に戦う力を手に入れた。これはスバルの運命であり、彼が成し遂げなければならない役目だ。

 

「情けない話ではあるが、我々ではこの脅威に打ち勝つことは出来ぬ。お前達が融合した力、すなわちロックマンの力が必要だ」

「そして、お前達が脅威に立ち向かう術として、我々は力を授けに来た。ようやく、お前たちにこれを受け入れる準備ができたからだ」

「受け入れるには絆の大切さ……すなわち、ブラザーの精神を知る必要があったのだ」

 

 体が冷たくなるのを感じた。スバルの目の前にいる三つの電波体。ウォーロックや今まで会って来たFM星人達なぞ軽く捻り潰してしまいそうな存在だ。言葉を間違えて捕らえていなければ、彼らの体から溢れんばかりに滲み出てくる力を分けてくれると言うことらしい。

 

「ブラザーの精神を持った電波人間なら、もう一人、ハープ・ノートって奴がいるぜ? そいつにもお前らの力ってやつを与えりゃあ、戦力になるんじゃねえのか?」

 

 ウォーロックに言われて初めてスバルは気づいた。ミソラとハープも共に闘うと言ってくれている。伝えた方が良いかもしれない。

 しかし、二人の期待に対し、三賢者は首を横に振った。

 

「あのハープというFM星人では、我々の力を受け入れることは出来ぬ」

 

 ペガサス・マジックの返答に、スバルは肩を落とした。

 

「我々と周波数が違いすぎるのだ。その点、ウォーロック、お前の周波数ならば受け入れられる」

「ウォーロックよ、我々の力を受け入れるのだ。その力は、ロックマンとなった時、星河スバルの心が引きだす」

 

 ペガサス・マジックとドラゴン・スカイの言葉を聞き、スバルはウォーロックを見た。相変わらず人相が悪くて、今の表情が読みとれない。乱暴者で好戦的な彼ならば、大きな力を手に入れられると聞けば、喜んで受け入れるだろう。彼はFM星王に復讐をしたいとも言っていた。二つ返事をするとスバルは読んでいた。しかし、その読みは外れる。

 

「お前らAM星人は、故郷を奪ったFM星人が憎いはずだぜ? なぜ仇であるはずの俺に力を貸すと言うんだ?」

 

 ウォーロックにはそこが疑問だったらしい。FM星を裏切ったと言えど、仇であることには変わりないからだ。

 

「ならば逆に訊こう」

「お前はなぜ、FM星を裏切った?」

 

 レオ・キングダムとドラゴン・スカイが逆に質問してきた。

 返答に困っているウォーロックを見て、スバルにも疑問が浮かんだ。この二人の電波体の言うとおりだ。ウォーロックはFM星の王を憎んでいる、復讐すると言っていた。しかし、その理由を口にした事は無い。彼の行動理由の根幹を、スバルはまだ知らなかった。

 ウォーロックの答えに耳を傾けるが、それが述べられることは無かった。

 

「ケッ! そんなの俺の勝手だろう?」

「ならば、我々も好きにさせてもらうぞ?」

「……チッ! 好きにしやがれ!」

 

 結局、ウォーロックが理由を話すことはなかった。

 

「今こそ、お前たちに我々の力……『スターフォース』を授けよう」

 

 三賢者の体が光る。ペガサス・マジックからは青、レオ・キングダムからは赤、ドラゴン・スカイからは緑の光が八方に放たれる。それらは徐々に彼らの眼前へと収束し塊となる。スバルの手に収まるのではないかともうほど小さい。しかし、スバルの顔に当てられる三つの光は、目を覆いたくなるほど眩い。秘められている力の大きさを物語っている。

 

「受け取るがいい」

 

 ペガサス・マジックの言葉が合図だった。彼らの力、スターフォースは光に見とれていたウォーロックの体にふわふわと近づき、胸からゆっくりと浸透していく。

 

「……って、おい? なんともねえぞ?」

 

 胸をさすり、自分の体の具合を確かめていたウォーロックが拍子ぬけたように三賢者に疑問を投げかけた。スバルも同じだ。ウォーロックが力を得て歓喜するのかと思っていたからだ。全く違う反応を示す相棒を見て、ウォーロックと同じ目を彼らに向ける。

 

「言ったはずだ。力を引き出すのは思いだ」

「星河スバル、お前が誰かを守りたいと思った時、スターフォースは発動する」

「ウォーロックに力は宿った。その力をものにできるのかは、お前達しだいだ」

 

 気を取り直してウォーロックを見ると、鋭い爪が付いた両手に目を落としていた。三賢者の言葉を疑っているようで、閉じたり開いたりして力を確認している様子だった。

 

「では、我々はこれで失礼する」

「再びお前達の成長を見守らせてもらおう」

「星河スバル、ウォーロック、健闘を祈る」

 

 言い終わるが早いか、辺りが一瞬で白に染められた。しかし、その白もすぐに消滅した。三つの電波体と共にだ。

 

「消えた?」

 

 辺りを見回し、頭上へと視線を移す。視界に映ったのは寂れた展望台、どこまでも続く星空だけだ。夢を見ていた気分だった。全く知らなかった父の秘密は、スバルのまだ幼さの残る心には唐突過ぎた。ぐったりとした疲労も突然襲ってくる。

 ウォーロックも同じようなものだった。AM星で最も名のある電波体が生き残っており、地球に来ていたという事実にだ。そして、彼らは自分の正体を知っていた。体に収まった三つの力を探してみるが、どこにも見当たらない。騙されたような気分でトランサーに戻ると、慌ててスバルに重要事項を伝えた。

 ウォーロックに言われるがままに、スバルはトランサーを開いた。表示される数字を見て、一瞬で顔が真っ青になる。さっと踵を返し、転げ落ちるように階段を駆け下りた。家に帰れば、般若と化した母が待っていることは必至だった。


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