流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第四十一話.三賢者

 ツカサと別れ、ずっと体育館で待たせていた委員長に怒鳴られ、ようやく学校を後にしたスバルはアマケン行きのバスに乗り込んだ。

 

 天地が調査した結果、父の形見だったペンダントは通信機能を持っていることが分かった。突然その機能が起動した原因はブラザーバンドだ。ペンダントのすぐ近くでブラザーバンドを結んだ時、つまり持ち主が誰かとブラザーを結んだ時、通信機能が起動するようにプログラムされていたらしい。よって、スバルがミソラとブラザーを結んだ日の夜にペンダントは光ったのである。しかし、劣化しているためか通信機能が思うように電波を受信してくれていない。

 以上が天地の調査結果だった。それ以上の細かい内容はNAXAに引けを取らない優秀な科学者である彼でも分からなかった。

 

 

 コダマタウンに戻ったスバルが訪れた場所はまたしても展望台だ。今は広場へ続く階段を一段一段昇っている。電波の通り道であるウェーブロードは地上よりも空に多く展開している。高い場所でペンダントを掲げれば、通信状態が改善されると考えたのだ。

 

「試してみるんだな?」

「うん」

 

 うす暗く、脇に並んだ木々のトンネルを潜り抜ける。わずかな光に照らされ、なされるがままに上下に揺れるペンダント手に取る。

 

「父さんは、これを僕に残して行ってくれた。きっと、僕がブラザーを結ぶって信じてくれていたんだ。そして、その時に何かを伝えようとしてくれた。そんな気がするんだ」

 

 広場を通り過ぎ、ウォーロックやミソラと会った見晴らし台へと階段を踏みつけた。胸元の違和感がスバルの足を止めた。服越しに擦れていた感触が無い。本来ならば頭上から降り注ぐはずの光が視界の下から来る。俯くと、ペンダントはうっすらと光を放ち宙に浮いていた。通信機能が作動している証拠だ。スバルの考えが正しかった事を物語っていた。

 グンと膝に反動をつけて、飛び上がるように踏み場を飛び越えた。二段ずつ上へと上がって行くスバルと相成り、放たれる輝きは濃さを増し、手中にあるペンダントは浮力を上げて行く。

 

「おい、みょうだぞ!」

「何が!?」

 

 ウォーロックの説明が返ってくる前に気付いた。

 

 揺れる。

 大気がだ。

 

 風ではない、空気だけが地震を起こしているかのように徐々に大きくなって行く。深い緑の葉が耐えきれずにパラパラと落ちてくる。

 

「電波だ! 何かとんでもねぇもんが近づいてきやがる! スバル、そいつを壊して引き返せ!」

 

 怯えていた。あのウォーロックがだ。ジェミニと対峙した時は警戒していたが、今度は違う。完全に気圧されていた。乱暴でガサツではあるがどんな危険にも自ら喜んで飛びこみ、敵を前にすれば勇み突き進むあのウォーロックがだ。目に見えぬ相手に逃げることを選択した。

 

「嫌だ!」

「何!?」

 

 いつも消極的なスバルが相棒の意見を強く拒絶した。

 

「お前、この状況が分からねぇのか!?」

「これは、父さんの形見なんだ! 唯一の手がかりなんだ!!」

「馬鹿野郎! そんなこと言っている場合か!」

「それでも嫌だ!」

 

 ミソラの事でからかい、スバルが不機嫌になって文句を言ってきたことはある。しかし、今回は違う。スバルは、ウォーロックの発言や態度、全てを否定した。

 短気なウォーロックが掴みかかろうと、トランサーから出ようとする。

 

「父さんの事何も教えてくれないくせに、口を挟まないでよ!」

「っ!」

 

 ウォーロックに今までにない怒鳴り声を浴びせ、足を大きく踏み出した。昇る度に振動は大きくなり、スバルの細い体に重圧をかける。転げ落とそうとする力に対し、鉄でできた階段に足を食い込ませるように踏みつける。歯が悲鳴をあげるほど顎を噛み締め、ポツポツと星が浮かぶ世界を見上げる。たった十数段先にあるはずなのに、恐ろしく遠くにあるようにすら感じる。茶色に灰色の雲が映った瞳には相棒と違って怖れは無かった。一段一段足を踏み出して行く。無情にも、スバルの行動に比例して光は強くなり、拒絶するかのような力も増して行く。それでも意志と歩みは変わらない。対抗するように父を求める思いも強くなる。少年の背中を押していく。

 

「父さん、僕は……」

 

 最期の一歩を踏み出し、ペンダントを首から外す。

 

「ここにいるよ!」

 

 力の限りに握った右手を太陽の見えない空へと突き上げた。

 少年の強い思いに応えるように拳から漏れる光は己の存在を強くし、寂れた世界を眩いばかりに照らしつけた。

 

 空気の地震は止み、握ったペンダントが光を閉じた。眩しくて閉じていた目をそっと開くと、限界まで見開いた。目が捕らえたのは三つの巨大な光だ。赤、青、緑と順番に並んでいる。

 

「こいつら……電波体か! お前らがさっきの原因か!?」

 

 光ではないとウォーロックが丁寧に説明してくれた。ビジライザーをかけていないのに見えているため、相棒の説明があるまで気付けなかった。

 大きすぎる彼らを見上げてみる。青は天馬、赤は獅子、緑は竜を思わせる姿だ。そこでようやく二人は気付いた。

 夢に出て来た奴らだ。

 

「やっと、会うことができたな。星河スバル、ウォーロック」

 

 中央の青い天馬が、三人を代表するように話しかけて来た。

 

「我々は、三つのサテライトを管理する者だ。私はサテライトペガサスの管理者、ペガサス・マジック」

「サテライトレオの管理者、レオ・キングダムだ」

「同じく、サテライトドラゴンの管理者、ドラゴン・スカイ」

 

 青い電波体に続き、赤と緑が続いて自分の名を告げる。

 相手の名乗りを聞いてスバルはますます混乱していた。

 ペガサス、レオ、ドラゴンという三つのサテライトは、トランサーの通信網の要となっている三つの人工衛星のことである。彼らはそれらの管理者だと言う。

 なぜ、ウォーロックと同じ電波体である彼らがそんな事をしているのか。そもそも、なぜ自分達の名を知っているのか。ただ、先ほどのペガサス・マジックの口ぶりからすると、かなり前からスバルとウォーロックの事を知っている様子だった。

 

「まさかお前ら、AM三賢者か!?」

 

 思い出したように言うウォーロックの言葉に、三賢者と呼ばれた三人の電波体はこくりと頷き肯定した。

 スバルはAMと言う言葉に聞き覚えがあった。展望台で実験をしていた宇田海に会う直前に、この場所でウォーロックが説明してくれた内容を思い出した。

 AM星だ。

 ウォーロックが来たというFM星の兄弟星で、同じく電波生命体が住んでいた惑星だ。しかし、FM星からの攻撃を受けて今は生命の存在しない星になっていると言う。

 

「AM星の人達?」

「ああ、こいつらは豊富な知識と強大な力でFM星にまで名をとどろかせていた存在だ。まさか……生きていたとはな……」

 

 電波生命体の中でもとりわけ有名な存在らしい。それに納得した。三賢者と名乗った彼らから発せられるオーラはウォーロックが持つ物とは比べ物にならなかった。

 

「FM星とAM星が戦争になる前に、行方を晦ましたと聞いていたが、まさか、地球に来ていたとはな……」

「そうだ……あのおそるべき兵器が投下される前にな……」

「恐るべき兵器?」

 

 レオ・キングダムの言葉にスバルは首をかしげた。答えたのは、ウォーロックだ。

 

「アンドロメダ……だ……」

「え?」

 

 出てきた言葉は、ウォーロックが持っているというカギの名前。スバルは目を見開いた。

 

「アンドロメダ……って……」

「そうだ、俺が持っているカギだ。これは、あいつらの最終兵器、アンドロメダを起動させるカギだ」

「そ、そんなモノを……」

 

 スバルは首をぎこちなく横に振る。今までの話の内容からすると、AM星はアンドロメダという兵器によって、死の星に変えられたと言うことになる。星一つ潰す力を奴らが持っていると、ウォーロックは以前言っていた。そういうことだったのかと、ようやく理解した。これは、何があっても守りきらなくてはならない。

 

「さて、本題に入ろうか。星河大吾の息子よ」

 

 彼らがその場に立っている。それだけでスバルの足はすくみそうになっている。それでも、彼らに向き合う。父に関する情報かもしれないからだ。

 

「僕達だけじゃなく、父さんの事も知ってるんだね?」

 

 やはり、父のことを知っている様子だった。しかし、現実はスバルの予想を超えていた。

 

「知っているとも。おそらく、お前以上にな」


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