流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第四十話.黒雷との辛闘

 キャンサー・バブルを刺したものとは別の、同じ形をした剣を右手に構えて相手はスバルに名乗った。

 

「俺はヒカル。今の名前は……そうだな、ジェミニ・ブラックとでも名乗っておこうか」

 

 腰を落として臨戦態勢を整えるロックマンと対称的に、ジェミニ・ブラックは剣を下ろして悠然と立っている。

 

「ロック、ジェミニって?」

「落ちついて聞けよ?」

 

 ウォーロックの忠告。取り乱さぬよう、緊張を飲み込むように生唾を喉に流し込んだ。

 

「雷神の異名をとった、FM星王の右腕だ」

「ら、雷神……?」

「気を抜くな! それだけの実力があるってことだ!!」

 

 それだけと言われてもFM星の実力者達の上限が分からないため検討が付かない。しかし、今まで戦って来た強敵達以上の実力者であり、その分気を引き締めなければならないことは確かだ。動きを見定めるため、どちらの足を前に出すのかすら見逃さぬよう、目を凝らした。

 

「自己紹介は終わりで良いよな? なら、行くぜ?」

 

 視界が黒い。

 目を閉じたからではない。瞬き一つせぬように神経を研ぎ澄ませていた。視界が塞がれると言うことは無い。この黒は真っ暗ではない。光もある。

 ハッと左手を振り上げた。

 ガキリと剣に食い込む圧力、陽気に跳ねる黄色い閃光。押されるがままに体勢を崩されて片膝をつき、右手を添えて押し返す。

 目の前に迫っていたジェミニ・ブラックが右腕を振りおろしていた。相手は右手一本で、スバルの両腕と均衡している。ライメイザンを展開していなかったら、こちらの腕が持ってかれていた。

 

「そ、そんな……」

 

 見えなかった。

 スバルの神経の隙間を潜り抜けて来たかのように、最初からその場にいたかのように、気づけば目の前にいた。

 

「おいおい、オックス達はこの程度の奴にやられたのかよ?」

 

 左手と体重を加えれば押しきれるにもかかわらず、もて遊ぶように剣を振りあげ、再び右手を振り下ろす。体を踏み潰すかの様な圧力が、二度、三度と繰り返される。受け流すこともできず、剣で受け止めて耐え続けることしかできない。

 大きく剣を振り上げた時に相手の片足を蹴飛ばした。ジェミニ・ブラックがバランスを崩した一瞬の隙を突き、後方へと素早く退く。

 新たなバトルカードを取り出し、楽しそうな笑みを浮かべる黒い相手を睨みつける。

 ロックマンが次にどんな攻撃をしてくるのか気になるのだろう。追撃もせずに剣をしまい、もう片方の手を腰に当てて観察していた。

 

「プラスキャノン!」

 

 キャンサー・バブルの大津波を打ち破ったファイアバズーカに引けを取らない威力を持った大砲を放った。

 

「そんなもんかよ!」

 

 装甲に纏われた右手にバチバチとエネルギーが滞留する。掌へと収束し、塊となった雷をはりてのように突き出す。

 

「ジェミニサンダー!」

 

 生み出された雷の柱はまさにレーザー。放った弾丸をかき消し、スバルを巻き込み、勢いのままに押し流した。

 続けざまに、身軽な左腕をロックマンがバスターを放つ時と同じように構える。

 

「ロケットナックル!」

 

 銃口のない腕から解き放たれた弾丸は自分の手だ。手首から切り離され、自由になったそれは意識を持っているかのように飛びまわる。5本の指を折りたたみ、拳へと姿を変えた手が迫りくる。

 

「バトルカード ジャンクキューブ」

 

 無機質な立方体を前方に召喚し、拳の弾丸を防ぐ。

 一息ついた直後に違和感を感じる。このジャンクキューブという物体はただの立方体の塊ではない。センサを内蔵しており、前方にいる相手に向かって飛んでいくトラップのような役割も兼ね備えている。なのにその場から動かない。

 死角となっていたキューブの向こうからジェミニ・ブラックが飛び出してきた。右手に雷の剣を生成している。彼がいたのは前方ではなく、前方の斜め上。キューブが召喚された直後に、センサの感知範囲外に跳躍していた。

 

「ブレイブソード!」

 

 切断と破壊の両方を兼ね備えた重剣で、相手のエレキソードに対抗する。力では押し返せないため、剣を斜めに立てて打ち払う。そのまま切り上げるように脇下を狙う。

 ジェミニ・ブラックの右手がロックマンの左手首をつかんで攻撃を止め、左足を振り上げる。狙うはロックマンの顔面だ。

 素早くしゃがんでかわし、その下を潜り抜ける。次の攻撃へと考えた時に背中に激痛が走った。ジェミニ・ブラックのかかとがロックマンの背中にめり込んでいた。ハイキックからかかと落としへと器用に変化させたらしい。一瞬ひるむが、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。地を蹴って相手の懐に潜り込み、体当たりをかます。

 流石に片足を上げている状態ではジェミニ・ブラックも体制を保つことはできない。ロックマンの体当たりに合わせて右足を振り上げてバク転し、勢いと衝撃を和らげる。綺麗に両足を地面につけ、着地ざまに右手のエレキソードを振り払う。

 スバルの左手が、彼の意識とは無関係に動いた。ブレイブソードの姿を保ったウォーロックがエレキソードを受け止める。なぎ払うような攻撃に流され、よろめく。続けざまに飛んでくる剣が肩をかすめた。それを無視して剣を突き出す。

 さっと後ろに飛びのいた。空を突き刺したロックマンの剣をかち上げ、左手を高く上げるロックマンの脇腹を蹴飛ばした。

 肋骨が嫌な音を立てた。折れてしまっているのならば、せめて一本であってほしいと願いながらジェミニ・ブラックからは目を離さない。自分を蹴飛ばした足に剣を切り払う。

 足を狙ってくるのは計算通りだった。素早く引いてロックマンとの距離を詰める。目の前にいるロックマンは背中を向けていた。

 空を切った剣の重量に任せて、スピードを加速させるように体を回転させる。勢いと威力を増した剣をジェミニ・ブラックに叩きつけるように払う。左手が激痛を伝えて来た。ジェミニ・ブラックの手刀がロックマンの手首から肘までの間、剣と化していない無防備な部分を捕らえていた。痛みにもだえるように脇を絞める。

 左足を軸にして右足を遠心力に任せて振る。ズシリという重い感触を確かめて思いきり蹴飛ばした。ウェーブロードを転がるロックマンに向かって大きく跳躍し、エレキソードを展開する。

 頭上から迫ってくるジェミニ・ブラックを見据え、ズキズキとする背中を無理やり伸ばして構える。体重、重力、全身のバネを利用した一撃を掻い潜る。背後では破壊音が爆ぜ、黒い煙がウェーブロードを走る。立ち上る煙の中に剣を振り下ろす。不意を突いたつもりだが、奴の雷の剣はびくともしない。体重を前にかけて必死に押し返すが、相手は涼しい表情を返すだけだ。

 

「これが限界かよ?」

「く……そ!」

 

 押しつけられていた剣が少し引いた。相手はまだロックマンの足掻きを見たいらしい。怒りを煽る笑みは今も絶えていない。

 ジェミニ・ブラックが油断している今が好機。胴をめがけて横になぎ払う。体の中心、故に最も避けにくく、攻撃を当てるには最適の場所だ。かするぐらいはすると踏んでいた。そんなスバルの期待を裏切り、剣と化したウォーロックが伝えて来た感触は空だ。渾身の一撃は空を切る空しい一薙ぎと化した。

 いない。

 射程内にいたはずのジェミニ・ブラックがいない。

 探そうとする前に頭が上へと跳ねあげられた。同時に顎を砕くような鈍い音と激痛。背中は自分がウェーブロードの上に倒れたと伝えてくる。唇からにじみ出てくる鉄の味を噛み締めながら、ぐらぐらと歪む視界を上げる。今も変わらずにある相手を見下したような笑みを携え、ジェミニ・ブラックが悠然と立っていた。違う点があるとすれば、殴りつけたくなる笑みが2,3個あるように見えることぐらいだろう。その分、スバルの痛恨の念を増長させる。

 今のジェミニ・ブラックの行動はトリックでも何でもない。スバルが剣を振るより早くしゃがんで避け、そのまま懐に潜り込んで顎をかち上げた。ただそれだけの作業だ。ボクサーが試合で見せるアッパーカットと同じだ。

 

「バルカンシード!」

 

 スバルはウォーロックにカードを渡し、バルカンシードを放つ。定まらない標準と、目にもとまらぬ速さで連射される無数の弾丸。前者は軌道を予測させぬ上に攻撃領域を広げ、後者は身の危険を察知すると言う作業を起こさせない。この二つが合わさり、相手に避けるという選択肢を許さない。しかも、相手の雷属性に有利な木属性だ。ジェミニ・ブラックにとっては厄介な攻撃だ。

 しかし、ジェミニ・ブラックの涼しい顔を歪ますことはできなかった。彼はロックマンから大きく距離を取る。バルカンシードは射撃武器でありながら、接近戦でこそ威力を発揮するカードだ。敵との距離が近ければ雨となった銃弾が相手をハチの巣にする。しかし、距離を取られれば、ばらまくように放たれた弾丸達のほとんどは標的がいる方向とはまるで違う方向へと飛んでいってしまう。ジェミニ・ブラックはそれを熟知していた。実際に彼のもとへと届けられた攻撃は数発だ。それでも、人の目では追えない速度を誇る弾を右手で受け止める。ロックマンが弾切れとなった銃を下ろすと、ジェミニ・ブラックが肩をすくめながら右拳を開いた。運よく飛びこんだ黒い塊達がウェーブロードへとパラパラと落ちて行く。

 驚愕するウォーロックに対し、スバルは冷静だった。攻撃は防がれたが、距離を取ることはできた。ならば遠距離で真価を発揮する武器を使えば良い。

 

「バトルカード グランドウェーブ!」

 

 スバルが初めて戦った電波ウィルス、メットリオ達が使って来た技だ。地表を走る衝撃波は追尾性を持っており、まっすぐにジェミニ・ブラックへと向かっていく。だが、逆に言えばこれは空を飛ぶものへの攻撃には向いていない。キグナス・ウィングと違い、翼の無いジェミニ・ブラックは空を飛ぶことはできない。しかし、跳ぶことはできる。別のウェーブロードへと跳躍する。

 それがロックマンの真の狙いだった。

 

「バトルカード マジクリスタル!」

 

 宙に浮いた彼に自由は無い。進行方向上にマジクリスタルを召喚する。ジェミニ・ブラックの前に突然現れた水晶は絶えることなく炎の塊を浴びせていく。

 ジェミニ・ブラックが取った行動は体をひねることだ。わずかしか変えることのできない姿勢を絶妙に操り、炎の群れを避けて行く。まるで空で踊っているかのようだ。炎を掻い潜り、赤い水晶に手をかけ、新たな足場として軽々と飛び越えた。これでは、相手に足場を与えてしまったも同然だった。

 

「ご苦労だったな」

 

 文字通り、ロックマンを見下す。スバルもウォーロックと同じく、歯ぎしりと共にヒカルとその隣に出て来たジェミニを睨みつけた。

 

「ヒカル、そろそろお遊びはおしまいにしてやれ」

「ククク……そうだな、これ以上遊んでやっても楽しめそうにないしな」

 

 遊んでやっている。控え目なスバルですら煮えくりかえるような怒りを感じた。ウォーロックに至っては完全に頭に血が上ってしまっている。スバルが渡した新たなバトルカードを乱暴に飲み込んだ。

 

「ガトリング!」

 

 バルカンシードと同じく連射性能を持つ銃だ。連射性能は低くなってしまうが、銃弾が描く軌道はまっすぐだ。狙った通りの場所へと攻撃を行うことができるため、これでジェミニ・ブラックに攻撃できるはずだ。

 しかし、それはロックマンが狙うことができればの話だ。狙えなかった。より正確に言えばロックマンの反射神経が、ジェミニ・ブラックについて行くことができなかったと言う方が正しい。飛びかかってくる弾丸を、右に左にと飛んで避けつつ、少しずつ距離を詰めてくる。ロックマンがその動きに泳がされているようなものだ。

 

「タイボクザン!」

「エレキソード!」

 

 当てることができないことと接近される事を確信し、素早くタイボクザンのカードを使う。ロックマンの草属性の剣が、ジェミニ・ブラックの雷属性の剣を迎え撃つ。属性の有利は単純な筋力差を埋めてはくれないらしい。深緑の剣は押し切られそうになり、右手を添えてグッとつま先に力を入れる。

 

「よそ見してて良いのか?」

 

 ジェミニ・ブラックが御留守になっている自分の左手を持ち上げて見せる。

 手が無い。

 ロックマンがしまったと思った時には遅かった。雷に打たれたかのような衝撃が走る。背中に食い込んだジェミニ・ブラックの左拳は電気を纏っていた。

 そのままロックマンの足をつかみ、力の限りに連れ回す。ウェーブロードに、時には校舎に、痺れて指一つ動かせない体を好き放題に打ち付ける。視界が目まぐるしく変わっていく。グランドのサッカーゴール、校庭の隅に沿って植えられた樹木、入り乱れるウェーブロード、教室の窓と、その向こうの机と椅子達、校舎のシンボルとも言える大時計、敷地外にある家々、体に激痛が走る度に、それらが右へ左へと移動して行く。

 目に映る光景は、ジェミニ・ブラックの爆笑のように渦巻く。

 おもちゃだ。子供に振り回されて遊ばれているお人形だ。玩具と化したロックマンは止めに自らが召喚したジャンクキューブに頭から叩きつけられる。

 

「はい、ゲームオーバー」

 

 切り離されたままの左手がぐったりとしたスバルの首を掴み上げる。

 右手にチャージされるエネルギー。

 ウォーロックもダメージを受けているのだろう。処刑を宣告する様を目で捕らえても、スバルと同じく動く気配を見せない。

 

「ジェミニサンダー!」

 

 バリバリと大気すら破壊するエネルギーは、横に降り注ぐ雷となる。迫りくる雷撃を、ロックマンは力のない目でただ茫然と見つめていた。

 凝縮していたエネルギーが分散して行く様子を見送り、敵がいた場所に目を落とした。そこには何もなかった。ロックマンの姿も”アンドロメダの鍵”もない。戻って来た左手がバシリと手に戻ると、不機嫌そうに舌打ちした。

 

「電波変換が解けやがったか」

 

 ウェーブロードのすぐ下にスバルの姿があった。赤い服を着ている生身の状態だ。

 力尽き、強制的に解除された電波変換によって、電波でできているジェミニ・ブラックの左手とウェーブロードをすり抜けたのである。

 戦っている間に、いつの間にか屋上へと移動していたらしい。屋上に設けられた花壇に生えている草木の上にぐったりと横たわっている。様子を観察していたヒカルの横に、ジェミニが姿を現す。

 

「興ざめだな。まあ良い、屑を始末するぞ?」

「ああ」

 

 電波の道から飛び降りようと立ち上がる。

 頭を押さえた。ダメージなど一切食らっていないのに、苦悶の表情だ。

 

「時間切れか?」

「ああ……くそ! 肝心な時に……」

「仕方ない。あいつ程度ならいつでも倒せる。今回は引くぞ?」

 

 ジェミニに頷くと、ヒカルは歯ぎしりと共にその場を後にした。

 

 

 背中がむずむずと痒い。チクリとする痛みもある。真っ暗な世界に声が差し込んでくる。導かれるように、目を開いた。

 今朝見た時よりも青く、校門をくぐった時よりも近くなった世界に、淡い緑色が線となって波打っている。

 声は真上からではなく、少し右から聞こえてくる。ガサガサと首筋を擦れる感触に構わず、そちらに目を向ける。琥珀色の瞳が覗き込んでいた。紫色の髪飾りと、同じような色をした服装。

 

「スバル君、大丈夫?」

「う、うん」

 

 女の子と見間違えそうな端正な顔立ちだ。しかし、声と掴んでくれた手には発展途上ではあるが、まぎれもない男特有の逞しさがあった。スバルは屋上に設けられた花壇から這い出てお礼を言う。

 

「ありがとう」

「今日はいい天気だね?」

「……え?」

「こんな綺麗で……美しい天気が毎日のように訪れれば、皆が幸せになれる。そうは思わないかい?」

 

 何の前触れもなく天気の話題を振られた。戸惑いながらも、彼につられて確かめるように見上げてみる。彼の言うとおり良い天気だ。今朝とは大違いだ。確かにこんな天気が毎日続けば心は明るくなるだろう。

 

「あ、あれ? さっき僕の名前……」

「うん。生徒名簿で君の写真を何度か見たからね。すぐに分かったよ。僕は双葉(ふたば)ツカサ。君と同じ5-A組だよ。よろしくね?」

「そ、そうなんだ……よろしく、双葉君」

「ツカサで良いよ」

「え、でも失礼じゃ……」

 

 初対面の人を呼び捨てする。そんななれなれしい態度をとるなど、人付き合いに積極的でないスバルには難しい話だ。

 遠慮する人見知りなスバルに、愛らしい笑みを向ける。

 

「呼び方は大事だよ? 呼び方次第で相手と親密になれたりすることもある。だから……」

 

 ツカサは目でスバルに要求を促してくる。

 

「……ツ、ツカサ…………君……」

「フフフ……」

 

 そっと目を細める。たったこれだけの行為で、大抵の女の子はツカサに胸を高鳴らせてしまうだろう。

 

「僕達の担任の育田先生はね、出席を取る時に君の名前を必ず呼ぶんだ」

 

 さっきゴン太から聞いた言葉だ。どうやら、本当らしい。スバルが5年生に進級してから約一月の間、育田は欠かさずに『星河スバル』と呼んでくれていたようだ。

 

「もちろん、返事は返ってこない。その度に僕は想像したんだ。スバル君ってどんな子なんだろうって? 良かった。思っていた通り、良い人そうだ」

「そ、そんなことないよ」

 

 初めて言われた言葉だ。しかも会ったばかりの人にだ。ミソラと会った時とは別の意味で照れてしまう。

 

「フフフ、君はさっきから控え目だね? でも、僕はそんな君が嫌いじゃないよ?」

 

 人の心に染み込んでくるような声と話し方にスバルは動揺してしまう。おまけに彼の女の子の様な顔つきは、甘い空気を醸し出す。

 

「これは予感だけど、君が学校に来てくれれば、もっと学校が楽しいものになりそうな気がする。僕らは気の合う友達になれるかもしれない」

「友……達……?」

 

 思ってもみなかった単語だ。ずっと拒絶し、無視してきた言葉だ。

 目の前に現れた双葉ツカサは平然と困惑するスバルに宣言する。

 

「じゃあね、君とはまた会いたいな。スバル君」

 

 出会いが突然なら別れも突然。ツカサは屋上のエレベーターに乗り込んだ。

 狭くなって行く紫色の背中をぽかんとした表情で見送っていた。

 

「……ツカサ君……不思議な子だな……」

「スバル、なんなんだあいつ?」

 

 トランサーを開くとロックも疑問を含んだ表情をしていた。この星に来てわずかな時間しか過ごしていない彼にとっても、ツカサと言う存在は疑問に思う存在らしい。

 

「あ、ヒカルとジェミニは!?」

「大丈夫だ。もう気配は無い」

 

 ビジライザーでウェーブロードを見上げるスバルを、ウォーロックは落ちつかせた。

 

「次は……勝てるかな?」

「……さあな……」

 

 晴れ渡る空と違い、スバルの心には今朝の様な暗雲が立ち込めていた。


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