流星のロックマン Arrange The Original 作:悲傷
2013/5/3 改稿
第三十七話.三つの影
箸で裂き分けた一部分を摘まんで口に放り込むと、肉の旨味がいっぱいに広がる。母が作ってくれたハンバーグは素晴らしい。シェフも頭を下げて教えを請いたくなるレベルだと少年は素直な感想を漏らした。しかし、その隣にあるオレンジ色の塊は別だ。彼は一切手をつけない。自慢である母から注意を受け、憎き存在を睨みつけた後、嫌々と手を伸ばす。細い箸先から逃げるように転がる。食べてやると言うのにこの態度。いらっとするが、何とか捕らえて無理やり放り込んだ。
それを見て、ようやく母も口角を上げた。
「今日、学校に行ってきたの。担任の
ぴたりと顎の動作が止まる。
「優しそうな先生だったわ……ちょっと変わっていたけれどね?」
付け足した一文より、口内に染み込んでくる苦味とわざわざ学校に行った理由が気になった。
「一度、会ってみない?」
歪めていた顔をさらに歪める。やはり、母は学校に行って欲しいらしい。
「スバルが良ければだけれど?」
だが、息子の気持ちは分かってくれている。流石は一児の母親だ。
そんな母親の鏡ともいえるあかねに、返事を返せなかった。ニンジンの醜い主張を噛み締めた。
◇
真っ白な天井を見上げ、背もたれに体を預けた。大きな体を支え切ろうと椅子のうめき声が上がる。聞きなれたその音から減量を改めて決意しつつ、天地は当時を振り返っていた。
天地が思い出していたのはNAXA時代の出来事だ。当時NAXAが手掛けていた大プロジェクトに、末端ではあるが天地も参加していた。大吾が行方不明になる直前に入った通信の内容を思い出す。
「FM星人か……」
大吾達は相手側の惑星との通信に成功した事と、彼らがFM星人だと名乗ったと報告してきた。しかし、その直後に宇宙ステーション『キズナ』は行方不明となってしまった。世間にFM星人という呼称を発表する雰囲気も暇も無く、この名前は当時にプロジェクトに関わっていた者達のみが知る内容となってしまった。そのため、天地と同じ元NAXA職員とは言えど、当時は新人社員でプロジェクトに関わっていなかった宇田海はこの言葉を知らない。知っていれば、キグナスに取りつかれることも無かったかもしれないが……
背もたれの反動を利用して身を起こし、机の書類に目を通す。椅子がほっとしたような鈍い音を立てた。
「ゼット波……ねぇ……」
自分達の分析結果では、このゼット波という電波は地球のものではないと判断した。つまりは、宇宙から来たものだと判断できる。
FM星人もゼット波も地球外のものだ。
「……まさかね?」
根拠が無いよなと仮説を否定した。それよりもと仕事を一旦横に置き、気分転換がてらに少年から預かった物を手に取った。約束通り、早めにこれを詳しく調べなければならない。
ゼット波は専用の検査機器を用いなければ検出することはできない。天地が気付かなかったのは仕方の無いことだと言える。このペンダントから大量のゼット波が放出されていることに。
◇
ごろりとベッドに身を投げ出す。
戸棚の上に並べられた日用品と共に並べられている、普段から身につけているアクセサリーへと目を移す。
宇宙人が居候している携帯端末の青いトランサー。
天地から譲り受けた父の形見のビジライザー。
今日はこの二つだけだ。いつもはその隣にもう一つある。同じく父の形見である流れ星を象ったペンダント。今日はそれが無い。
ミソラとブラザーバンドを結んだ日、ペンダントは謎の光を放った。自分で調べてみても分からなかったため、天地に預けて調べてもらっている。
「それにしても、あのペンダントの正体が気になるぜ……」
「もうじき天地さんから連絡がくるよ。電波変換にも影響は無いし、気にしなくて良いと思うよ?」
ウォーロックと融合したとき、ペンダントは胸の模様と化している。天地に預けた後に、試しに電波変換を行ってみたが胸に模様は残ったままだった。ウォーロック曰く、電波体である彼の体内に残っていた残留データと言うものの影響らしい。
「とりあえず寝ちまうか?」
「待って」
トランサーを手に取ってみると、メールが一件入っていた。お風呂に入っている間に来たらしい。開くとミソラの顔と文章が映し出される。
「ミソラちゃんとメールしてから」
言い切るが早いか送られてきたメールへの返信を書き始める。
ウォーロックの目から見ても分かる。ミソラからメールが送られてくると、スバルは毎回嬉しそうに返事を書くのだ。呆れた異星人がボソリと感想を口にした。
「ったく、お前ら毎晩メールしてるよな。恋人かよ?」
少年の怒号と、異星人の悲鳴と謝罪が部屋から漏れた。スバルの顔が真っ赤だったのは想像するに容易い。
◇
夜の無い街、ヤシブタウン。
天に向かって立ち並ぶビル群には会社や商店が詰められており、町の活気を賑すのに一役買っている。
それよりはるか上空に奴らはいた。
「ハープは暴れた後に行方不明か……」
「アイツはバランス以前の問題ダ」
紫色の女性に茶色い天秤が返答を返す。
二人のやり取りに興味を示すこともなく、黄色い影は町を見下ろしていた。
「また屑が追加されるらしいが、手下も増やすか」
黄色い影は二人を置き去りにするようにウェーブロード向こうへと消えていった。
二人がふぅと息を吐く。
「……あいつといると息が詰まる」
「FM星王様の右腕……我々ですら歯がにかけぬカ」
「早く傀儡を見つけねば……」
女性のFM星人、オヒュカスが長い髪を揺らす。焦っている様が丸わかりだ。
「相性の会う人間が見つからんカ?」
「いや、何人か候補はいるのだが……孤独が足りぬのだ。今度はここで探してみようと思っていたところだ。ではな」
大都会へと飛び出し、ネオンの光の中に溶け込んで行く紫の光を見送った。
「さて、私も動くカ」
◇
一面真っ白だ。ミソラと出会う直前に見た、大吾と会った夢と同じだ。
「って、また夢!?」
上下左右が分からない空間を漂いながらスバルは叫んでいた。
「おいおい、ここが夢の中だって言うのか?」
「そうだよ……って、あれ?」
「ん?」
隣を見ると、ビジライザーをかけていないのにウォーロックが見えた。周波数を変えて肉眼でも見えるようにしているのかと思ったが違う。自分を見ているスバルに彼自身が驚いているからだ。
「夢……だよね?」
「俺に聞くな! だが、そうなんだろうな?」
夢でなければ説明できない世界だ。
だが、説明できないこともある。
「なんでウォーロックが一緒にいるの?」
「だから、俺に聞くな!」
二人同時に一つの夢を見るなどあり得ない。
「我々が呼んだのだ」
白い世界の奥から響いてくる声が二人を包む。
いつでも電波変換を行えるよう、互いに身を寄せ合う。
「警戒することは無い」
さっきとは別の声だ。
どうやら相手は複数いるらしい。
「姿も見せよう」
三つ目の声と共に、三つの影がスバルとウォーロックの前に姿を現した。
自分達よりはるかに大きいそれを見上げる。黒い影がかかっており、はっきりとその姿を見ることはできない。しかし、ある程度の輪郭を確認することはできた。一人一人、輪郭のように纏っているオーラの色が違う。
一人は青い天馬のような姿。
一人は赤い獅子の様な姿。
一人は緑色をした竜の様な姿。
声色に違わぬ、威風堂々としたその姿にスバルはたじろいだ。
「な、なんなの?」
「我々の正体はまたの機会に話すとしよう」
左に立っている赤い影が言う。
「それよりも、我々は、お前たちに伝えなければならぬことがある」
右側の緑の影が言う。
「スバル、ウォーロック、今この星には脅威が迫っている。知っているな?」
中央の青い影の言葉に二人は頷いた。ウォーロックが言っていたことだ。脅威とは地球に攻め込もうとしているFM星人達の事だ。
「それを救えるのはお前達。道を切り開くのは絆の力」
「運命に選ばれた戦士よ。絆を恐れるな。絆を信じよ」
「自らの手で未来を選ぶのだ」
先ほどと同じ順で言葉を伝えてくる。
「絆? 父さんと同じことを……」
「おい、お前ら……」
そのとき、世界が弾けた。
◇
ガバリと身を起こした。手に伝わるのはベッドが押し返してくる反力。足から伝わる温もりは布団から与えれらたもの。
見渡す。
日用品が並べられた戸棚。ビジライザーとトランサーもある。白い世界はどこにもない。
トランサーを飛びつくように開く。
「ロック!?」
「お前も見たのか!?」
「うん、じゃあ?」
「ああ、夢じゃない!」
二人は三つの影が言った言葉を思い出す。
「運命に選ばれた戦士?」
「絆の力を信じろ……か……」
窓の向こうは、灰色の雲で敷き詰められていた。
今章から、オリジナル展開が多くなります。原作とは違う点が多数あるので、楽しみにしてください。
アニメ要素も取り込む予定です。