流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

28 / 144
2013/5/3 改稿


第二十七話.巡り逢う運命

 ビジライザーをかけ、町の中を見渡してみたもののお目当ての宇宙人は見つからない。ふと思いついたのはコダマタウンで最も高い場所、さびれた展望台だ。町全体を見下ろせるあの場所からならば見つけられるかもしれない。

 思いつくと、スバルの行動は早かった。足早に目的地へ向かう。

 

 

 

 この思いつきは……偶然なのか、運命なのか……

 

 

 

 

 土曜日の朝。もともと人がほとんど来ないような場所だ。こんな時間に展望台に人陰など無い。

 一応ビジライザーをかけてみるが、やはり見つからない。顔をしかめていると、鼓膜に違和感が訴えかけられる。誰もいないはず。にもかかわらず、聞こえてくる。

 

「音楽?」

 

 音楽に興味のないスバルでも、それには心惹かれるものがあった。一歩一歩、展望台の階段を上っていく。いつも登っているこれはいつもと違う雰囲気を醸し出しており、毎日のように見慣れた石の塊を慎重に踏んでいく。耳に届けられる音楽は段々と大きく、鮮明になっていく。音源に近づいていることを確かめながら階段を登りきった。

 そこにその少女はいた。

 ピンク色のパーカーに、黄緑色の短いズボン。被ったフードの頭には二つのお団子の様なアクセント。その下からはみ出して風に揺れる赤紫色の髪。そっと目を閉じ、黄色いギターをピックで奏でている。

 発せれた音達は束となり、群れとなり、一つの曲として生み出されていく。ただそれだけのことなのに、周りには光が散りばめられている。その一つ一つが輝きを放ち、暖い空気をまとう。照らしつける太陽のもと、取り巻く雰囲気が歌の世界を作り出し、彼女の周りだけが幻想的な世界へと変わっているようだ。

 幾つもの星を観察した。幾種類の空を見上げた。そのどれよりも美しく、光り輝いている。

 ただ、その様に見入っていた。

 閉じられた瞼が静かに開かれ、目が合った。

 

 エメラルドグリーン。

 

 宝石のように透き通る碧。星を秘めた煌き。コンタクトとは違う、彼女自身の瞳の色。吸い込まれる。

 

「そんなところにいないで、こっちにおいでよ?」

 

 高く、澄み渡ったかわいらしい声だった。どんな強風や轟音が紛れてきても物ともせずに響き渡りそうな声。耳だけではなく、胸にメッセージを送ってくる。

 言われるがままに彼女のそばまで行くと、目で近くのベンチに座るよう促された。彼女自身は立ったままギターを弾いている。

 年齢は自分と同じくらい。背丈は……少しだけ自分が勝っている事を確認し、拳だけでガッツポーズをとった。

 

「いつもこの時間に、ここにいるの?」

「いや……今日は別の用事でね?」

「そうなんだ? びっくりしたよ。この時間だと、ここに人はいないと思ってたから」

「はは、いつも誰もいないよ?」

「そうなんだ? ……ごめんね、もうちょっとで終わるから」

「そんな、気にしないで。この曲、もうちょっと聞いていたいし……」

 

 本心だった。音楽なんてろくに聞かないが、彼女が奏でるこの曲は別だ。さっきの雰囲気に自分も加わっている。胸が高鳴る。

 

「そう!? 良かった! この曲ね、今作っている途中なんだ」

「自分で作っているの!? まるでプロだね?」

 

 少女はちょっと驚いた顔をしたが、すぐにクスクスと笑い出した。

 

「そうだね? 私、プロになれるかな?」

「絶対なれるよ! そしたら、僕、君のファンになるよ?」

「ほんと? ありがと。そのときはよろしくね? フフフ……」

 

 スバルの言葉に、少女は心底面白そうに笑っていた。

 

「……歌が好きなんだね?」

「うん、大好きよ! だって、歌は私とママとの繋がり……絆なんだもん」

「お母さん?」

「そうよ。私の歌はママのためにあるの」

 

 目を閉じ、空を仰いだ。

 

「ママ……気に入ってくれる? フフフ」

 

 楽しそうだった。ただ細くしなやかな指で、自在に世界を操っている少女をボーっと見つめていた。ずっとこうして聞いていたい。全身に届けられる空気の振動は余計な力を吸い取ってくれる。

 人だけではない。感情など持ち合わせていない木々や虫に安らぎを与え、生まれては消えていく風に命を吹き込む。万物を癒し、力を与えてくれる音色に体を預けていた。

 はっと目を見開いた。気付づくと曲が終わっていた。ギターを背負い、こちらに顔を向ける。

 

「お話しできて楽しかったわ。じゃあね?」

 

 最期にとびっきりの笑顔と共に展望台を後にした。

 お別れの言葉を言うことも忘れて背中を見送っていた。ギターの頭までもが、階段の向こうへと消えても動けない。脳が動くと言う信号を忘れてしまったかのように、瞬きすらしなかった。

 しばらくして立ち上がり、彼女から解放された世界を見渡す。いつも見てきた世界だった。いつも通りの寂しい展望台だ。あの神秘的で幻想的で、夢のような世界は跡形も無くなっていた。

 ざわざわとあの世界を求める声がする。名残惜しそうに宙を舞っている花びらに心を重ねてしまう。天界から舞い降りた天使を送り出したような世界でぼそりとつぶやいた。

 

「……あの子、何者だったんだろう?」

 

 顔がカイロを貼られたように熱い。ずっと座っていただけなのに心音が早い。あの世界は本当に夢だったのだろうか?

 違う。甘い香りがかすかに鼻をくすぐっている。あの世界のほんの一部分。

まだ、この空しい世界を漂ってくれている。

 気を落ち着かせるため、夢ではなかったことを記憶に刻むため、深呼吸をつこうと息を大きく吸い込む。

 

「青春ってやつか?」

「わあ!!??」

 

 突然投げかけられた声に飛び上がった。おかげで先ほど以上に心拍数が上がってしまった。

 動揺する手でビジライザーをかけると、探していたウォーロックがいた。ニヤニヤと意地悪そうな目でスバルを見ている。

 

「ロック! い、いつの間に!?」

「お前がこの展望台に入ってきてすぐだ。一部始終見させてもらったぜ?」

「えっ!?」

 

 心臓がびくりと強く鼓動した。

 

「あの女とのやり取り……全部な?」

「ミ、ミテタノ?」

 

 デンパ君のようなしゃべり方になっている。見られて恥ずかしい物ではないはず。スバルの主張に反して、顔がどんどん赤くなっていく。

 

「これが、お前ぐらいの年の地球人がする、青春ってやつなんだろ?」

「ち、違うよ!?」

「誤魔化すなよ、一目惚れしてやがったくせに」

「し、しししっ、してない! そ、そんなことしてないよ!?」

 

 首を激しく左右に振りながら全力否定するスバルを見て、ゲラゲラと笑いたてる。いつになく必至な様が面白いらしい。

 

「かぁ~! スバルが青春デビューか~? ククク……で、あの女はお前の知り合いってわけじゃあ無いんだよな? ……って、おい?」

 

 返ってこない返事に振り返ると、スバルがドスドスと足音を立てて立ち去っていた。

 

「オイ、待てよスバル!?」

 

 慌てて追いかけると、キッと睨みつけられた。

 

「今度あんな冷やかししたら、テレビ見せないからね!?」

「わ、分かったよ……」

 

 いつものスバルじゃない。初めて見た相棒の殺気に気圧され、引き下がった。

 

「それに……」

 

 トランサーに戻るウォーロックを見届け、かけていたそれを額に戻した。

 

「どうせ、もう会うこともないよ……」

 

 ため息を吐きだす。肺の中も、さっきの光景も全て。

 

「なんだ? 恋しいのか?」

「…………」

「あ、いや、からかってるわけじゃない。怒るんじゃないぜ?」

「怒ってないよ……」

「……じゃあ、なんで顔が赤いんだ?」

「う、うるさいよ!?」

「?」

 

 

 

 

 偶然ではなく、運命。それを知るのはそう遠くない話。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。