流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第二十二話.白鳥舞

 投影装置の電脳に広がる空間。外の展示品である惑星を模した、大小の丸い物体が浮いている。その中の一つの上に、そいつはいた。

 キグナス・ウィング。天地に裏切られた宇田海が、FM星人のキグナスと電波変換した姿だ。空に写されたモニター、そこには酸素を求めて苦しんでいる天地が映し出されている。

 ルナと、案内役をしていたスタッフが心配そうに覗きこんでいるが、気休めでしかない。二人に、天地を助けることなどできないのだから。酸素を分けようにも、シタッパー達が酸素ボンベの本来の役割を阻害している。

 なにより、自分たちとて、いつ彼のようになるのか分からない。どうにもならない。

 彼を救う方法は外で救出活動をしてくれているであろう、アマケンスタッフに善戦を期待するか、ここにいる一組が行動するかだ。

 

「宇田海さん!」

「誰です?」

 

 悲痛を含めたスバルに宇田海が振り返る。スバルだとは気づいていないようだ。バイザーが付いたヘルメットを被っているからだろう。なにより、自分以外に電波変換ができる人物がこの場にいるなど、まず考えない。宇田海の隣にキグナスが姿を現す。

 

「ウォーロック、君かい?」

「ああ、こっちから来てやったぜ!?」

「フフフ、僕も運が向いてきたな。君を倒せば……”アンドロメダの鍵”が手に入る! 一番手柄だ!!」

 

 昨日までの事が嘘のようだ。これなら、自分を屑呼ばわりした『あいつ』の鼻を明かすこともできる。堪え切れない笑いを、静かに漏らす。

 

「宇田海、あいつは邪魔ものだ! 排除するよ!?」

「分かりました」

 

 キグナスが体に戻ると、宇田海……キグナス・ウィングが大きな翼を広げ、空に舞う。

 

「スバル、迷うなよ?」

「……う、うん」

 

 唇をかみ締め、全神経を、空中に浮かぶそいつに向けた。今、純白の翼を広げたところだ。

 

「キグナスフェザー!」

 

 翼をこちらに向け、3,4枚の羽を飛ばしてくる。スバルは大きく空に飛びあがり、惑星の一つに飛び乗る形で回避する。さっきまでいた場所からは爆音が響く。見ると、着弾点の床はえぐれ、その威力を物語っていた。

 

「ロックバスター!」

 

 ウォーロックの口から発せられる光弾。キグナスは少し飛ぶ速度を上げて、綺麗に避けた。白鳥が舞うかのように、足場の無い世界を、縦横無尽に駆け巡る。

 

「速い!?」

「まだまだです!」

 

 再び羽が飛んでくる。キグナスから隠れるように、惑星の向こう側へと飛び降りた。

 

「バトルカード ホタルゲリ」

 

 足場にしていた惑星を蹴り飛ばす。羽は球体を粉々に破壊した。崩れ行く星の向こうから複数のミサイルが飛び出してくる。ロックオン機能を持ったレーダーミサイルは、高速で飛ぶキグナス・ウィングを追いかけてくる。

 

「厄介なバトルカードを……」

 

 回避に徹する。だから気付かない。スバルの本当の狙いに。

 

「ぐぅ!」

 

 数発の弾丸が腹と翼に突き刺さった。

 バルカンシード。無数の弾丸を放つ代わりに、射撃精度の低いそれは牽制程度の物だった。しかし、運よく数発が命中した。一瞬の減速がミサイルの追従を許してしまう。

 

「くそ!」

 

 追いつかれる寸前で、翼をミサイル達に向ける。直後に、幾つもの爆発が襲う。

 

「や、やった!?」

「……いや、まだだ!」

 

 爆発から白い翼が飛び出した。思った以上に傷はついていない。

 爆発からは見え無かったが、彼はミサイルに向けた翼から羽を打ち込んだのだ。自分の体に当たる前に爆発したため、受けたダメージは爆風だけだ。白い体のあちこちに少し焼け焦げた跡があるが、大したものではないらしい。

 

「ワタリドリ!」

 

 黒と白のシタッパー数体を放ってきた。三方向から襲いかかってくる。バスターを打ち込み、一体一体を撃ち落とす。しかし、黒だけが弾丸を跳ね返した。

 やむを得ず、左から迫るそれを避けるため、右に体を持っていく。後ろにある模型の影から現れたキグナス・ウィングが笑みを浮かべる。刃のように尖った翼を広げ、風を切るようにスバルに突っ込んだ。重さは無いが、スピードはある。加えて大剣と化した翼が背中に食い込む。

 

「うわああ!」

 

 車にはねられたらこんな感じなのだろう。世界は上下左右を失い、重力を感じさせない。体を止めたのは惑星の模型だ。破壊しながら、地の上に叩きつけられた。

 熱い。そう感じた背中からぬるりという感触が伝わってくる。斬られると、痛いではなく熱い。そう感じるのかと、一生に一度でもしたくない学習だった。

 身を起こすと、相手は再び空から羽を撃って来ていた。

 

「バトルカード クラウドシュート!」

 

 スバルの周りに雷をまとった雲が数個現れる。キグナスに向けて腕を振ると、その方角へと飛んでいく。羽とぶつかり合い、それらは溜めていた雷を放出していく。

 黄色い大量の筋が重なり、まるで壁のようにキグナスの前に立ちふさがる。その眩しさに、本能的に手で視界を塞ごうとしてしまう。

 戦闘においては自殺行為だ。

 

「ゴーストパルス!」

 

 リング状の光線が空に放たれる。

 

「が、ガアアアア!」

 

 脳がひっかきまわされたように痛い。バランスを崩し、翼をもがれたかのようにまっすぐに落ちて行く。

 

「ロングソード!」

 

 ウォーロックが、長剣へと形を変える。地に落ち、起き上がったキグナス・ウィングは長い手で殴りかかる。

 しかし、まだ足元がふらついている。リーチ差を消した剣が腕と腹を切りつける。

 

「くっそ!」

「スバル、もっとだ!」

 

 地面に降りている今が好機。これでもかと左手の剣を叩きこむ。翼を盾代わりにし、拳で反撃する。耳元を過ぎる拳の風切り音に毛押されながらも、手は休めない。

 

 

 苦しむ天地を支えていたルナは、異変に気付いた。先ほどから宇田海が何も言ってこないのだ。天地を侮辱する言葉どころか、あの笑い声すら聞こえない。

 

「あ、あれは……」

 

 モニターに目を向けて、ようやく闘っている者の存在を確認した。

 

「……ロックマン様? 夢じゃなかったの!?」

 

 怪人と化した宇田海と懸命に斬り合っている青い少年の姿があった。少年と感じた理由は体格差だ。背の高い宇田海だが、それと比べても、ロックマンの身長は大人とは言えない。

 

「ロック……マン?」

 

 天地が聞き返す。もう目も開けていられないのだろう。額には汗が湧きあがっている。

 

「宇田、海君と……闘っ、てい……るのか?」

「ええ、そうみたいです。私達を、助けようとしてくれているのかしら?」

 

 天地はかろうじて開いた目から、画面を見る。小さい体で、宇田海に立ち向かっている。

 

「こうして、は……いら、れない……よな……」

「天地さん!?」

「所長!?」

 

 ルナとミトレの手を離れ、天地は体を前に傾けた。まるで漂うように、装置へと向かって行く。

 

「ま、待って……」

 

 追いかけようとして、ルナは違和感に気付いた。

 

「……あら?」

 

 視界が……暗くなって行く……


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