流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第十六話.居場所

 公園に集まった人々の数がさらに増え、報道陣まで駆け付けたころ、事件を起こした張本人はようやくその目を開いた。二人の友人の顔が自分を覗き込んでいた。

 

「うぅ~ん……あれ? ……委員長? キザマロ?」

 

 ぼんやりとした目はすぐに限界に開かれた。夜とは思えないざわめきを感じたからだ。

 

「あれ……あれ!? も、もしかして……」

「ゴン太、アナタ……ゴン太よね?」

「ゴン太君?」

 

 疑問を含んだ二人の目。ぞっと背筋に汗が走る。

 

「委員長、今日……何が壊れた?」

「え? 何って……」

「公園が丸焼けに……」

 

 キザマロの口をルナが慌てて抑える。だが、遅かった。ゴン太の仮説が確信に変わった。

 

「ごめん! 委員長、キザマロ! やっぱり、俺が犯人なんだ!!」

「え?」

 

 頭を抱えて、その場に膝を突くゴン太に、二人は唖然と固まってしまう。

 

「『無差別破壊事件』……あれの犯人は俺だ!」

「……ゴン太?」

「俺……最近、夜になるとなんだか出掛けたくなって……それで、赤い物を見ると、頭の中も真っ赤になって……気づいたら、部屋の布団で寝てて、朝になってるんだ! その横に、赤いレンガとか、ポストの破片とか、落ちているんだ! 俺、怖かったんだ!」

 

 堤を切られたダムが水を吐き出すように、ひっきりなしにしゃべりたてた。驚きながらも、ルナはゴン太の言葉を受け止めていた。

 

「……自分が犯人なのかもしれないって事が……怖かったのね? なんで相談してくれなかったのよ!?」

「俺だって、委員長とキザマロに相談したかった……けれど、そんなことしたら、委員長にブラザーを切られちまうと思って……」

「あ……」

 

 彼が本当に怖かったのはそこだ。委員長にブラザーを切られれば、キザマロも従うだろう。

 一人になる。それが怖かったのだ。委員長のブラザーでいること。それが彼にとってどれだけ大きいことなのか。あの赤い牛の幽霊が言っていた言葉を、今更になって思い知らされた。

 

「でも……本当にごめん。俺には、委員長達のブラザーでいる資格なんてないや……」

「……あ!?」

「え?」

 

 ゴン太がトランサーを操作したと思うと、嫌な音が鳴った。二人が自分の物を開いてみると、ブラザーのリストから、ゴン太の顔が消えていた。

 

「ゴン太!?」

「ゴン太君……?」

「俺……自首してくるよ。犯罪者がブラザーだったら、生徒会長になれないだろ? 委員長、キザマロ、今まで俺なんかのブラザーでいてくれて、ありがとう……」

 

 立ち尽くす二人を置いて、公園へと歩き出した。足に迷いはなく、けど重く、引きずるように。

 

「待ちなさい!」

 

 それをルナの声が止めた。

 

「ゴン太、誰に断って私のブラザー止めてんの!?」

「………………え?」

 

 本気で怒ったルナの顔があった。以前の展望台以上だ。けど、そこには哀愁も含まれている。あの赤いオーラは影も形もない。

 

「だ、だって……」

「だいたい、アナタが自首したところで、誰が信じてくれるというのかしら?『ポストを壊したのは俺です!』とでも言うの? 公園も、色々と物が壊れているけれど、それも『俺の仕業です』と言うの? 断言するわ! 絶対に信じてもらえないわよ? 門前払いされてしまうわ」

「う、う~ん……」

 

 ルナの言うことは最もというものだろう。公園の放火くらいならともかく、あのあり得ない形に壊れた遊具はとても説明できない。

 しかも、11歳の小学生が壊したなど、サテラポリスは信じないだろう。

 

「じゃあ……どうすればいいんだろ?」

「壊した物を直しますか?」

「それこそ、サテラポリスの迷惑よ。重要な捜査資料ですもの」

 

 確かにとキザマロは頭を抱える。もう一度、キッとゴン太を睨みつける。しかし、びくりと俯くゴン太の腕に優しく手を置いた。

 

「ゴン太、今回アナタが起こした事件は、アナタや私たちでは償いきれないわ。年齢的にも法律的にもね。だから、アナタは別の場所で少しずつ罪を償いなさい! 私のブラザーとして、私を生徒会長にするために尽力なさい! そして、コダマ小学校を……ひいてはコダマタウンのために貢献するのよ! そうやって、ちょっとずつ、ちょっとずつで良いわ。時間をかけて償って行きましょう! 私が側にいて、力になってあげるから!! 分かった!?」

 

 多分、半分も分かっていない。けど、これだけは分かった。ルナは、ゴン太にこれまで通り側にいろということだ。無論、ブラザーとして。

 

「委員長……」

「ぼ、僕も!」

 

 キザマロが、思い切ったような声を出す。

 

「僕もご一緒します! 僕だって、これからもゴン太君のブラザーで居たいんですから!」

「キザマロ……」

「さあ! 分かったら、さっさとトランサーを出しなさい!」

「は、はいぃ!!」

 

 電波の光を通じてピピッという音が鳴る。それをもう一度繰り返す。ただの機械音だ。しかし、それが与えてくれるものは温かみだ。ディスプレイに表示される二人の顔を見て、頬が緩む。

 

「それと……これ……」

 

 そっぽを向き、ルナが一枚の紙切れを突きだす。受け取ったそれには、ボウリングと表記されている。

 

「ヤシブタウンにボウリング場ができたの。それの無料券よ」

「すいません、ゴン太君を驚かせようと思って、委員長と内緒にしていたんです」

 

 先日、ゴン太を強く叱った後、キザマロの発案で手に入れたものだ。合流した直後、二人がゴン太を会話に挟ませなかったのはこれを隠すため。

 頭の回転が悪いゴン太だが、そのチケットの裏の地図を眺めてようやく気付いた。この近くには、自分が行きたいと言っていた、『モヤイクレープ』という店がある。それを二人に話したのは、委員長に怒られたあの日だ。怒られているときに、ルナがちらつかせていた雑誌が脳裏によぎる。

 

「ゴン太、分かっているわね? アナタが、私のブラザーを止めていいのは、私が命令した時だけよ!?」

「は、はいいっ!」

「ま、そんなこと、絶対にないでしょうけれどね」

「い、いびんじょう……」

 

 委員長と言おうとしたのだろうが、声になっていない。目からこぼれおちるそれが邪魔してくる。

 

「さ、帰るわよ。明日はボウリングして楽しむんですから!」

「いびんじょう! ぼれ、いっじょうづいでぐよ!」

「僕も、一生付いて行きます! ウワーン!!」

「ちょ、なに抱きついているのよ! 離れなさいよ!!」

 

 泣きだすブラザー二人に怒鳴りながらも、どこか楽しそうだった。

 

 

「心のよりどころ。自分の居場所。自分を認めてくれる場所。それを失いたくない。だが、力を誇示することでしか、自分を認めてもらう方法が分からなかったんだな」

「……そうなんだろうね」

 

 3人の様子を、ウェーブロードから見下ろしていた。

 

「人間は弱いな。誰かがいなけりゃ、何もできねぇ。だが、俺達電波生命体も、人間がいなけりゃ、脆弱な存在にすぎない。自分の居場所を求める気持ちは、変わらねえのかもな」

 

 ゴン太がその最たる存在だ。ウォーロックの目にはそう映った。彼からはもうあの孤独の周波数は感じられない。友人が言っていた言葉を思い出していた。

 

「それじゃあ、ダメだよ」

「……あ?」

 

 冷たい空気が発せられた。

 

「誰かに自分の居場所を求めるからダメなんだよ。その人がいなくなったら、悲しい思いをするんだ。牛島さんみたいにね。……人と交わるから、守らなきゃならないモノが生まれるんだ……そんなモノ、はじめからなかったら苦しまなくてすむのに……」

 

 眼下で、いまだに騒ぐ3人から目を離し、スバルは立ち上がった。

 

「さあ、帰ろう。母さんが心配してるだろうし」

「……そうだな」

 

 

 公園での騒ぎは大分収まったようだ。もそもそとベッドへと入って行く。まだ体のあちこちが痛いが、多分大丈夫だろう。

 

「オイ、スバル」

「なに?」

 

 早く寝たいのにとビジライザーを手に取る。

 

「お前は何のために戦っているんだ?」

「何って……父さんの情報をもらうためだよ。君が話してくれないだけで……」

「俺の質問が悪かったな。お前は、なんで他人のために戦おうとするんだ?」

「……他人?」

 

 スバルが大きく首をかしげる。

 

「オックスと闘っているときだ。お前、一度戦うのを止めようとしただろ?」

 

 角に吹き飛ばされ、ブランコにたたきつけられた時だ。スバルも思い出す。あの時は、ウォーロックの言葉すら耳に入らなかった。しかし、火の海の中にいる二人を見ると、自然と体が動いた。

 

「あれは、二人が危なかったから……」

「そこだ」

 

 ウォーロックの指がピンとさされる

 

「あの時、お前は自分の身をなげうってでも、他人を助けようとした。あいつらのこと、嫌いなんだろ? その後の戦う理由も、ゴン太を助けるためだった。お前を殴ろうとした奴だぞ?」

「……殴ったのは君だけどね?」

 

 皮肉を込めて返してやる。そもそも、騒動の原因はこいつの乱暴さなのだから。

 しかし、すぐに考え込む。ウォーロックの言うとおり、自分は彼らを嫌っていたはずだ。けど、戦うときは彼らを必至でかばっていた。

 

「機関車の時も、おふくろさんを助けるためだったよな? まあ、そっちは分からないこともない。だが、今回はそれとは違う気がしたんだ……」

 

 ウォーロックの言葉にますます頭を抱える。

 

「僕にも分からないや……ほっとけなかったから……かな?」

「……そうか……」

「ふぁあああ……もう寝るね?」

「ああ」

「お休み」

 

 こてりと夢の中へと落ちて行った。

 

「地球人っていうのは、よく分からねえ生き物だな……」

 

 スバルを尻目に、窓の外を眺める。公園の入口ではまだ人がいるが、数えるほどだ。おそらく、サテラポリスという連中だろう。あの刑事のアンテナの光が見えた。ヤジウマは帰ったらしい。時間は待ってくれない。明日に備えて家に戻ったのだろう。

 もう一度公園を見る。オックスと闘った場所だ。奴の言葉を思い出す。もう、何人かの追手が地球に来ている。

 

「俺も次に備えるか……」

 

 彼もまた、トランサーで眠りへと付いた。

 

 

 

第一章.何が為に(完)


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