流星のロックマン Arrange The Original 作:悲傷
ロックマンと分離したウォーロックはそのままFM星王の前に移動した。星王はピクリとも動かない。目を閉じながらも凛とした表情を保っている。王としてのプライドからか、敗者としてすでに命を差し出しているのだろう。ウォーロックは右手の爪をじっと見つめると、クルリと背中を向けた。
「やめだ……」
「な、なにを!? 貴様、AMプラネットを滅亡させた余が憎いのではなかったのか!?」
星王は慌てて身を起こし、スバルの元へと戻ってくるウォーロックに向かって叫んでいた。
そんなウォーロックはスバルと目が合うと、「ヘッ」と笑って見せるのだった。
「スバルの甘さがうつっちまったぜ……」
「……これも絆の力というものなのか?」
「そうだよ」
スバルとウォーロックが横に並ぶ。星王は小さく首を横に振った。
「信じられぬ……余は生まれたときより、王権争いに巻き込まれ、命を狙われていた。余にとって笑顔で近づいてくる者こそ最も信用できぬものだった。
……信じられる訳があるか。いつ裏切られるのかと考えれば、誰も信じられぬ。ならば、最初から誰も信じなければいい……」
スバルは胸の中心が張り裂けるような痛み感じた。
「確か……AM星が惑星間友好条約を提案した直度だったな。AM星を侵略したのは」
「ジェミニがそう報告したのだ。AM星は我等を攻める準備をしているとな……」
「なるほど、ジェミニがか。疑心暗鬼に陥った幼い王を操るなんざ、アイツには簡単なことだったんだろうな」
ウォーロックと星王の話を、スバルは黙って聞いていた。今なら分かる。大吾のトランサーに封じられていたメッセージ。破損して読めなかったあの続きに、何が書いてあったのか。
胸にあるエムブレム……父から貰った流星型のペンダントに触れて目を閉じた。
「さあ、地球人よ。余は敗者だ。好きにするといい」
「できないよ、そんな事」
「な、なんだと!?」
「僕の父さんは、FM星の人たちとブラザーバンドを結ぼうとしたんだ。君に止めを刺すということは、父さんを裏切ることになる。だから、僕は君を許そうと思う」
ウォーロックと頷きあい、後ろを振り返る。AM三賢者たちも頷く。その様子がどこか満足そうに感じたのは錯覚ではないだろう。
「……馬鹿な……こ、こんなこと……」
「その代わり、お願いがあるんだ」
「お願い……だと?」
スバルは指を二本立てて前に突き出した。
「用件は二つ。まず一つ目。僕のことを信じて欲しいんだ。
『争いは、相手を知らないからこそ生まれる。逆に、相手を知ったとき、きっとその人とは友達になれるはずだ』
父さんの言葉だよ。
孤独からは何も生まれないと、僕は君を通じてよく分かった。だから、君も僕を信じることからはじめてほしい」
星王はスバルの言葉をかみ締めるように視線を下に落とした。もう一度スバルとウォーロックを見比べる。
「そうかもしれぬな……して、もう一つの条件とは?」
スバルはすぐには答えなかった。星王にコツコツと歩み寄っていく。今度こそ、星王は復讐されるのだと思ったらしい。顔を強張らせる。
そんな彼にスバルはすっと右手を差し出した。
「僕とブラザーになってほしいんだ」
星王の動きが止まった。これ以上に無いほど目を丸くして、スバルの右手を見つめている。ゆっくりと顔を上げてスバルの顔を凝視した。そして、もう一度自分の前にある右手に視線を戻すと、お腹を抱えて笑い出した。
「ハ、ハハハハハ!!
よ、余にそんな事を言うとはな。ハハハハハハ!!
初めて聞いたぞ、そんな言葉」
「そう、君には信じられる友達が必要なんだよ。僕もそうだった。だから、僕が君の最初の友達……ダメかな?」
星王は笑い声を飲み込むと、目元を拭ってスバルと目を合わせた。
「地球人、お前の名を教えてくれるか?」
「星河スバル。スバルって呼んでよ、王様」
「王様ではない。余はケフェウスという。ケフェウスと呼んでくれ、スバル」
ケフェウスはスバルの手を握った。温かい電磁波を感じながら、スバルは力強く握り返した。
「今から僕たちは友達だよ」
「うむ……」
手を放すとケフェウスはウォーロックを見た。
「ウォーロック……本当に良いのか?」
「おいおい、アンタはスバルのブラザーになったんだろ? ここでアンタを攻撃したら俺が悪者だぜ」
「……そうか……」
ケフェウスは静かに目を閉じた。その口元は笑っていた。
「スバル、ウォーロック。ありがとう。余は約束する。
FMプラネットに戻り、民に伝える。信じる心の大切さを。そしてせめてもの償いだ。AMプラネットの復興を約束する」
そこで動いたのはAM三賢者だった。彼らはケフェウスに歩み寄った。
「ならば、我等も力を貸そう」
「AM星人達は全て死に絶えたわけではない。少数ではあるが我等のように他の星に移り住んでいる者達もいる」
「彼らも呼び寄せて、AM星をかつての星に戻そうではないか」
彼らを見上げ、ケフェウスは改めて誓った。
「三賢者よ……感謝する」
短いが、三賢者たちにとってはそれで信じるに値するものだった。ケフェウスの目を見たかたらだ。
「ウォーロック、お前はどうする?」
「俺はパスだ。スバルが帰れなくなっちまうし、まだまだコイツは頼りねえからな。俺が見てやんねえと、危なっかしくてありゃしねえ」
「よく言うよ」
笑い声がコダマする。そこにはケフェウスのものも混じっていた。
そして、別れのときがやってくる。
「スバル、ウォーロック。ほんとうにありがとう」
「元気でね、ケフェウス」
「スバルもな……」
スバルはもう何も心配していなかった。ケフェウスの目には確かな優しさが生まれていたからだ。
「では、行くぞ」
一瞬光が瞬く。もうそこにケフェウスと三賢者はいなくなっていた。