流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第百四十話.友達

 ロックマンと分離したウォーロックはそのままFM星王の前に移動した。星王はピクリとも動かない。目を閉じながらも凛とした表情を保っている。王としてのプライドからか、敗者としてすでに命を差し出しているのだろう。ウォーロックは右手の爪をじっと見つめると、クルリと背中を向けた。

 

「やめだ……」

「な、なにを!? 貴様、AMプラネットを滅亡させた余が憎いのではなかったのか!?」

 

 星王は慌てて身を起こし、スバルの元へと戻ってくるウォーロックに向かって叫んでいた。

 そんなウォーロックはスバルと目が合うと、「ヘッ」と笑って見せるのだった。

 

「スバルの甘さがうつっちまったぜ……」

「……これも絆の力というものなのか?」

「そうだよ」

 

 スバルとウォーロックが横に並ぶ。星王は小さく首を横に振った。

 

「信じられぬ……余は生まれたときより、王権争いに巻き込まれ、命を狙われていた。余にとって笑顔で近づいてくる者こそ最も信用できぬものだった。

 ……信じられる訳があるか。いつ裏切られるのかと考えれば、誰も信じられぬ。ならば、最初から誰も信じなければいい……」

 

 スバルは胸の中心が張り裂けるような痛み感じた。

 

「確か……AM星が惑星間友好条約を提案した直度だったな。AM星を侵略したのは」

「ジェミニがそう報告したのだ。AM星は我等を攻める準備をしているとな……」

「なるほど、ジェミニがか。疑心暗鬼に陥った幼い王を操るなんざ、アイツには簡単なことだったんだろうな」

 

 ウォーロックと星王の話を、スバルは黙って聞いていた。今なら分かる。大吾のトランサーに封じられていたメッセージ。破損して読めなかったあの続きに、何が書いてあったのか。

 胸にあるエムブレム……父から貰った流星型のペンダントに触れて目を閉じた。

 

「さあ、地球人よ。余は敗者だ。好きにするといい」

「できないよ、そんな事」

「な、なんだと!?」

「僕の父さんは、FM星の人たちとブラザーバンドを結ぼうとしたんだ。君に止めを刺すということは、父さんを裏切ることになる。だから、僕は君を許そうと思う」

 

 ウォーロックと頷きあい、後ろを振り返る。AM三賢者たちも頷く。その様子がどこか満足そうに感じたのは錯覚ではないだろう。

 

「……馬鹿な……こ、こんなこと……」

「その代わり、お願いがあるんだ」

「お願い……だと?」

 

 スバルは指を二本立てて前に突き出した。

 

「用件は二つ。まず一つ目。僕のことを信じて欲しいんだ。

『争いは、相手を知らないからこそ生まれる。逆に、相手を知ったとき、きっとその人とは友達になれるはずだ』

 父さんの言葉だよ。

 孤独からは何も生まれないと、僕は君を通じてよく分かった。だから、君も僕を信じることからはじめてほしい」

 

 星王はスバルの言葉をかみ締めるように視線を下に落とした。もう一度スバルとウォーロックを見比べる。

 

「そうかもしれぬな……して、もう一つの条件とは?」

 

 スバルはすぐには答えなかった。星王にコツコツと歩み寄っていく。今度こそ、星王は復讐されるのだと思ったらしい。顔を強張らせる。

 そんな彼にスバルはすっと右手を差し出した。

 

「僕とブラザーになってほしいんだ」

 

 星王の動きが止まった。これ以上に無いほど目を丸くして、スバルの右手を見つめている。ゆっくりと顔を上げてスバルの顔を凝視した。そして、もう一度自分の前にある右手に視線を戻すと、お腹を抱えて笑い出した。

 

「ハ、ハハハハハ!!

 よ、余にそんな事を言うとはな。ハハハハハハ!!

 初めて聞いたぞ、そんな言葉」

「そう、君には信じられる友達が必要なんだよ。僕もそうだった。だから、僕が君の最初の友達……ダメかな?」

 

 星王は笑い声を飲み込むと、目元を拭ってスバルと目を合わせた。

 

「地球人、お前の名を教えてくれるか?」

「星河スバル。スバルって呼んでよ、王様」

「王様ではない。余はケフェウスという。ケフェウスと呼んでくれ、スバル」

 

 ケフェウスはスバルの手を握った。温かい電磁波を感じながら、スバルは力強く握り返した。

 

「今から僕たちは友達だよ」

「うむ……」

 

 手を放すとケフェウスはウォーロックを見た。

 

「ウォーロック……本当に良いのか?」

「おいおい、アンタはスバルのブラザーになったんだろ? ここでアンタを攻撃したら俺が悪者だぜ」

「……そうか……」

 

 ケフェウスは静かに目を閉じた。その口元は笑っていた。

 

「スバル、ウォーロック。ありがとう。余は約束する。

 FMプラネットに戻り、民に伝える。信じる心の大切さを。そしてせめてもの償いだ。AMプラネットの復興を約束する」

 

 そこで動いたのはAM三賢者だった。彼らはケフェウスに歩み寄った。

 

「ならば、我等も力を貸そう」

「AM星人達は全て死に絶えたわけではない。少数ではあるが我等のように他の星に移り住んでいる者達もいる」

「彼らも呼び寄せて、AM星をかつての星に戻そうではないか」

 

 彼らを見上げ、ケフェウスは改めて誓った。

 

「三賢者よ……感謝する」

 

 短いが、三賢者たちにとってはそれで信じるに値するものだった。ケフェウスの目を見たかたらだ。

 

「ウォーロック、お前はどうする?」

「俺はパスだ。スバルが帰れなくなっちまうし、まだまだコイツは頼りねえからな。俺が見てやんねえと、危なっかしくてありゃしねえ」

「よく言うよ」

 

 笑い声がコダマする。そこにはケフェウスのものも混じっていた。

 そして、別れのときがやってくる。

 

「スバル、ウォーロック。ほんとうにありがとう」

「元気でね、ケフェウス」

「スバルもな……」

 

 スバルはもう何も心配していなかった。ケフェウスの目には確かな優しさが生まれていたからだ。

 

「では、行くぞ」

 

 一瞬光が瞬く。もうそこにケフェウスと三賢者はいなくなっていた。


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