流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第百三十九話.スバルの絆

 戦いではなかった。ただの蹂躙だ。留まることの無いアンドロメダの破壊行為に、星王の笑い声が混じって聞こえてくる。ロックマンは立つ暇すら与えてもらえずに、ただ身を転がされていた。

 永遠に感じれる数分が過ぎたとき、地球の命運を背負ったヒーローはボロボロになって倒れていた。

 

「これで余興も終わりか、思ったより楽しかったぞ、誉めてつかわす」

 

 星王は勝ち誇った笑みを浮かべると、右手を前に出した。アンドロメダも同じ手をロックマンに向ける。ロックマンを吹き飛ばしたネビュラブレイカーだ。

 それを見ても、ロックマンは何も考えていなかった。何かを感じる余裕すらなかった。ただ煙のように消えようとする意識がそちらに向いているだけだ。光線がスバルを白く染めあげた。そこに飛び込んできたのは、三つの電波体だった。突然の来訪者に、スバルとウォーロックは目を見開いた。

 

「三賢者!?」

 

 AM三賢者がそこにいた。それも今まで見てきた黒い影ではなく、本体だ。青い天馬、ペガサス・マジック。赤い獅子、レオ・キングダム。緑の龍、ドラゴン・スカイ。彼らは自分達の前に障壁を生み出し、ロックマンの盾となったのだ。ネビュラブレイカーを阻まれたアンドロメダはすぐに出力を停止した。FM星王も彼らの登場は予想外だったらしい。

 心強い味方が来てくれた。そんなロックマンの期待もすぐになくなった。障壁を閉じると、三賢者達がガクリと体制を崩したのだ。アンドロメダのただの一撃で、彼らの力のほとんどが削られてしまったらしい。これが影の召還すらままならなかった今の彼らの全力だったのだ。

 ロックマンはヨロヨロと立ち上がり、彼らに嘆願した。

 

「お願い、三賢者。スターフォースを全部使っちゃったんだ。もう一度……」

 

 第一形態のアンドロメダにすら通用しなかったのだ。強化された今の相手に通用するとは思えない。それでも、スバルが知っている最強の力はスターフォースだ。それに頼るしか思いつかなかった。

 スバルの足掻くような願いを、三賢者は退けた。

 

「星河スバルよ。確かに我等の力は強大だ。しかし、それではあれは倒せぬ」

「そんなものよりも、遥かに強い力をお前達は持っているはずだ」

「我等は、それをお前達に届けに来ただけだ」

 

 三賢者の体が、それぞれの色で光りだした。スバルの周りを光が包む。スバルは忘れていた。彼らは地球のサテライトの管理者だ。

 

「君なら勝てるよ、スバル君!!」

 

 あの子の声が聞こえた。驚いて後ろを振り返ると、ミソラがそこで笑っていた。

 

「まったく、ロックマン様なんだからしっかりしなさいよ」

 

 その横で、ルナが腰に手を当てて仁王立ちしている。

 

「お前なら勝てるぜ、絶対に!」

 

 ゴン太が太い腕でガッツポーズをしてみせる。

 

「僕は知っていますよ。ロックマンは負けません」

 

 キザマロが大きい眼鏡をクイッとあげてみせる。

 

「スバル君、僕たちは信じているよ」

 

 ツカサが笑っていた。

 

「…………みんな……」

 

 忘れていた。自分の根幹にあるものを。

 スバルはアンドロメダに向き直った。左手を持ち上げる。ミソラたちが後ろから手を掲げた。それだけでスバルの体が熱く燃え上がってくる。それを受け取るのがウォーロックの役目だ。口にエネルギーを収集させていく。それはあっという間に巨大な塊と化し、紫色だった宇宙を白く染め上げた。

 ありえない異常事態に、星王も落ち着いてなどいられないようだった。辺りを見渡し、目に見える事実を否定する。

 

「馬鹿な……あの地球人のどこにあんな力が……」

「まだ分からねえか?」

 

 愚問に答えたのはウォーロックだった。

 

「これが、地球人が一番大切にする、絆の力って奴だ!!」

 

 そしてスバルが続く。

 

「絆は脆いし、簡単に崩れ去ってしまうかもしれない。気づかないまま見落としてしまうかもしれない。

 だからこそ、人はそこに見える絆を大切にしようと思える!

 その思いがあるから、絆がもたらしてくれる力は強いんだ!!」

 

 星王はギリッと歯を食いしばった。そんなもの認めるわけにはいかない。過去が脳裏をよぎる。

 

「認めん! 認めんぞそんなものは!!」

 

 アンドロメダは両手を前に突き出した二つの砲門がロックマンに向けられた。

 そんなもの、もうスバルには怖くなかった。なぜなら、背中に確かに感じるのだ。ミソラたちに加えて、もう一人。

 

「スバル」

 

 それは、大好きなあの手。ぐしゃぐしゃと自分の頭を撫でてくれる、逞しくて優しい、憧れのヒーローの手だ。

 

「あの孤独な命に教えてやれ、お前の力を……」

 

 頷き、スバルはウォーロックと息を合わせた。

 

「ロックバスター!!」

 

 己の全てを込めたエネルギー弾を放った。巨大な流星となって、アンドロメダに向かっていく。

 同時に、FM星王も叫んだ。

 

「ネビュラブレイカー!!」

 

 二本の無慈悲な光線が放たれる。

 二つの力がぶつかり合う。凌ぎ合いはなかった。ロックマンの放った一撃は、ネビュラブレイカーを退け、アンドロメダを飲み込んだ。

 光が晴れる。そこにアンドロメダはいなかった。周波数も感じない。完全に消滅したのだ。

 そして、攻撃の余波に当たったのか、FM星王が床に倒れていた。大きな怪我は無いようだが、仰向けになって動こうとしなかった。

 

「余の負けだ。抵抗はせぬ。さぁ、殺せ」

 

 ウォーロックが飛び出した。手にギリッと力が入り、爪を立てた。


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