流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第十三話.夜の始まり

 ひどいありさまだな。素直な感想と共に、大きく息を吐きだした。頭をかくと、髪の間から生える白いアンテナがぐらぐらと揺れる。一応言っておくと、これはヘッドギアのパーツであり、本当に頭皮から生えているわけではない。

 その男の目の前には今は使われていないポストだったものがある。今はただの鉄クズだ。足は大きく湾曲し、体は半分からひしゃげ、残り半分はごろりと地に転がり落ちている。

 その周りを彼の部下と思わしき者達が右へ左へとそれぞれの作業をしている。

 

「警部、科学捜査班からの報告が来ました」

 

 現場に新しく部下が駆けよってくる。トランサーの電波を使い、データを渡される。それに目を通す。

 

「やはりな」

「何か分かりましたか?」

「このポストだが、素手で壊されておる」

 

 部下は目を見開いた。あり得ないと。しかし、刑事は首を横に振る。

 

「この壊れ方は道具や機械で壊したのとは違う。様々な角度から力を加えられている。跡形も様々だ」

 

 ただの事故なら、力は一方向からしか加わらない。道具を使えば、跡形は統一されるだろう。複数の道具を使っても、似たような跡形がいくつか残るはず。しかし、へこんだ場所に、統一性が一切見当たらなかった。

 

「それに、この断面……力任せだな」

 

 ポストの本体ともいえる、二つになってしまった箱を指差す。断面はギザギザとしており、鉄がひん曲がっている。紙をびりっと引き裂いたような形だ。

 

「無理やり二つに開いたってところだろう」

 

 警部は障子をあけるようなしぐさを両手でやって見せた。

 

「でも、これができるなんて……」

「ああ、よほどの大男だ。それを踏まえて断言できる。人間の力ではない」

「な、何かの間違いでは?」

「サテラポリスの科学捜査班はNAXAにも引けは取らん。事実だ」

「なら、どう捜査するのです? この一連の事件」

 

 トランサー内の写真をいくつか開き、部下に見せた。

 

「もう一週間ほど続いているこの『無差別破壊事件』だが……破壊されたものは全てが赤いものだ。これが唯一の共通点だ。今はこれしか手掛かりがない。これを中心にして調べていくぞ」

 

 敬礼を返す部下に行けと促し、サテラポリスの刑事は再び部下達への指示に回った。

 

 

 夕陽の光を浴びるそれらから目が離せなかった。頭を太い両手で挟み、ぶんぶんと横に振る。スクッと立ち上がり、近くにあった四角い物に近づいた。中身をひっくり返し、代わりにさっきの物々を放り込んだ。そして、中身だったものを上に重ねるように詰めていく。

 散らかっている部屋が片付いたわけではない。しかし、彼はそれだけの作業で一息ついた。続きをやろうとはしない。どの道、作業を続けていても中断していた。

 彼のトランサーが鳴りだしたからだ。音声メールが、「遅刻よ」と文句を言ってくる。

 玄関を出て、重い体を懸命に前に出す。

 

「俺は……委員長の役に立つんだ!」

 

 

 辺りはもう暗い。ちょうど星が綺麗に見える時間だろう。しかし、この宇宙大好き少年は展望台を後にしていた。いつもよりは早い時間だ。けれど、これぐらいが良い。今はちょうど公園の中を歩いているところだ。

 

「ちょっと早いけど、別に良いよね? 母さんが心配しちゃうし……『無差別破壊事件』って物騒な話もあるし」

「俺は物騒大歓迎だぜ!」

「や、止めてよ。ただでさえ、FM星人のせいで、めんどくさいコトになっているのに」

「おい、俺のことか? 別の奴らか?」

「……どうだろうね……」

 

 今日も父のことは教えてはもらえなかった。なので、こっちもスルーしてやった。

 

「ところでよ、この事件なんだが……俺達で解決しないか?」

「い、嫌だよ。僕には関係ないだろ? それに、僕達が何もしなくたって、サテラポリスが解決してくれるよ」

 

 他人と関わりを持たない彼らしい意見だろう。今日も捜査していた、アンテナ刑事を思い出しながら口にした。

 サテラポリスは今の時代の特殊警察だ。エリートのみで構成されている。だから、この事件も彼らがさっさと解決してくれるだろう。

 

「少なくとも、僕みたいな子供が出しゃばる必要はないよ」

「誰が子供ですって?」

「ゲッ!!」

 

 もはやおなじみとなった反応を返した。相手はもちろん、学級委員長のルナだ。今日も綺麗な二本のドリルをぶら下げている。横にキザマロを連れて公園の敷地内に入ってくる。

 

「……なんのよう? 白金さん……最小院さんも……」

 

 不愉快感を前面に出してやる。

 

「別に、アナタに用事は無いわ。私たちが用があるのは、『無差別破壊事件』の犯人よ!」

「……犯人?」

 

 スバルの質問に、待ってましたとキザマロの眼鏡が光る。

 

「ムフフ、僕の発案なんです。委員長がこの事件を見事に解決すれば……」

「次期生徒会長は私のものよ! この私……白金ルナがコダマ小学校の頂点に君臨するのよ!」

「流石、委員長! 次期生徒会長は委員長しかいません!」

「当然よ!」

 

 今更ながら、自分を学校に来させようとしている本当の理由も明らかになった。冷めた目を彼らから反らす……と、もう一人のルナトリオのメンバーが近づいてきていた。

 

「遅刻よ、ゴン太! 今まで何していたのよ?」

 

 不満を漏らす友人達に「すまねぇ」とだけ謝り、憎悪で満たされた目をスバルに向けた。ルナとキザマロは気づいていないようだった。

 

「アナタも来る? 仲間に入れてあげるわよ?」

「遠慮しておくよ」

 

 そっけなくそう答え、ゴン太の前にたつと、頭を下げた。

 

「牛島さん、この前は殴ってごめん」

 

 心からの謝罪を言い残し、家路へと走り出した。

 

「……本当に手ごわいわね。休み明けも彼の家に行かなきゃならないわ」

「そうですね? 休み中はヤシ……」

「ちょっと、キザマロ!」

「あ、すいません!」

 

 二人はゴン太に目をやり、ゴニョゴニョと話を収束させる。もう一人の友人には会話に参加する時間すら与えてくれないらしい。

 

「委員長、キザマロ、何を話して……」

「アナタは知らなくて良いのよ。それより、遅れて来た分しっかりと働きなさい」

 

 ぴしゃりと言い切られ、口もはさませてくれない。キザマロに無言の視線を向けると、プイッと視線を反らされた。

 

「さ、行くわよ!」

「はい!」

 

 二人はスタスタと歩いて行く。けど、それを追いかける気になれなかった。

 

 足が酷く重い。

 

 開いた距離が遠い。空しいくらいに……

 

 

 ウォーロックが口を開いたのは、公園を出てから角を二つほど曲がったところだった。

 

「怪しいな」

「え? 何が?」

「あのゴン太って奴だ」

「牛島さんが、どうかしたの?」

 

 意味が分からない。ますます顔をしかめる。

 

「俺達……電波生命体は地球では本来の力が出せない。それは覚えているか?」

「うん。だから僕と電波変換する必要があるんだよね?」

「そうだ……俺らの場合は違うが、FM星人は人の孤独の周波数につけ込むんだ」

「つけ込む?」

「考えても見ろ。命がけで戦うために、『ただで体を貸してくれ』と言われて、承諾する奴がいるか?」

 

 首を横に振った。自分も父の情報をもらえることを条件にウォーロックのわがままを聞いている。こっちの条件を飲んでくれる様子は見えないが……

 

「そして、体を借りるにしても、相手の意識を奪って自分の傀儡にしてしまった方がやりやすい」

 

 ウィルス人間、ジャミンガーを思い出した。あれの意志は、ほとんどウィルスのものだった。自分達と違い、行動に迷いが見られなかった。確かに、効率が良いと言える。

 

「一番簡単な方法が……孤独や悩みを持つ人間につけ込むのさ。孤独を持った奴、悩みを抱えて誰にも相談できない奴。そういう奴の心は驚くほどにもろい。触れただけでぶっ壊れちまいそうなぐらいにな」

「……その心が壊れたら、どうなるの?」

「暴走する。理性も制御もあったもんじゃねぇ。心を抑えることができなくなった人間は、とりついたFM星人の操り人形だ。言われるがままに破壊して、地球人を傷つけるだろうな」

 

 ごくりと喉を唾が伝った。気付くと背中が濡れていた。

 

「それで、なんで牛島さんが?」

「ああ、あいつから孤独の周波数を感じた。もしかしたら……」

 

 叫び声が聞こえた。夜を引き裂くような、少女の悲鳴だ。背中から受けたそれに振り返る。

 

「……え?」

「公園だ! 嫌な予感が当たっちまったか!?」

「え、えと……!」

「行くぞ!」

 

 ウォーロックが走り出す。トランサーの中に入ったまま。よって、スバルは左手に引っ張られるように走るしかない。

 一つ、二つ、角を曲がると公園が見えてくる。街灯とは違う何かがその場で赤い光を放っている。

 

「ちっ、やっぱりか!」

 

 彼の舌打ちにまさかとスバルは息をのんだ。

 

「ま、待って! こ、心の準備が……」

 

 言い終わる前に入口についてしまった。

 

「あ……ああ……」

 

 光の発信源を見て、スバルは愕然とした。そこには赤が広がっていた。

 炎だ。砂利で満たされているはずの公園に広がり、火の海が出来上がっていた。その一か所、まだ炎が少ない一部分で、やはりルナとキザマロがいた。

 二人の視線の先を見て、さらに驚愕は絶望に変わる。

 

「化け物……」

 

 巨人がいた。三メートルはあろうと言う巨体の両肩には鋼鉄の円盤が取り付けられ、そこからは太い胴体と同じぐらいの幅を持つドラム缶のような腕が生えている。

 なにより目を引くのはその頭だ。闘牛を思わせる鋭い二本の角が君臨していた。

 

「ブルルルオォォォォッ!!」

 

 雄たけびと共に背中と肩付近から噴き出ていた炎が出力を上げる。うねり、のたうちまわる蛇のようにその炎を広げていく。

 地獄絵図。少年の眼前にはそれが築かれていた。

 

「……あれ?」

 

 ゴン太がいない。このあり得ない状況。しかし、すぐに結論が出される。さっきのウォーロックの言葉を聞いた後だから。

 

「……ま、まさか……ロック?」

「ああ……うれしくねぇが、大当たりだったみたいだぜ」

 

 口調から歯を食いしばる様が容易に伝わってきた。そして、彼女がそれを肯定した。

 

「なんで……ゴン太が化け物に……」

「ブルルッ! それをお前が言うのか?」

 

 二人の前に炎とは違う、別の赤が突然現れる。まるで最初からそこにいたかのように。

 

「ヒィ!」

「だ、誰なの!?」

 

 暴走しているゴン太に似ている。大きな角を始め牛のような容姿だ。違う点といえば、幽霊のような足をしていることと、腕があることだ。

 おびえるキザマロをよそに、果敢にその何かにルナは聞き返している。

 

「オレ様はあいつの味方だよ。ブルルルッ!」

 

 

 

「ロック、あれは……」

「ああ、あいつはオックス。牡牛座のFM星人だ!」


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